42 / 99
四十一
しおりを挟む
今日のミリア亭は"勝った""負けた"と賑やかだった。その中でわたしはと言うと……
「また、リーヤの負け!」
クッ、また負けた。
「この中で一番弱いな。あの筋トレは全然、役に立ってないんじゃないのか?」
「……うん。ナサの言う通りだから、何もにも言えない」
(けっきょく、誰にも勝てなかった)
と、肩を落とした。
アサトとカートラお兄様が腕ずもうで盛り上がり、その騒ぎで目を覚ましたカヤとリヤに負けて……ミリアさんにも負けた。
「リーヤは弱いね」
「返す言葉がありません」
でも、みんなには負けだけど、良いこともあった。
アサトとナサの肉球はプニプニして気持ちよかったし、ロカさんの手は冷たくて、カヤとリヤの手は小さくて可愛かった、ミリアさんの手は暖かった。
お兄様は傷だらけで剣だこの手で、ランドル様は指が長くて繊細な手……あ、みんなの手に初めて触れたかも。
「リーヤ、なに自分の手を見てニヤニヤしてんだ?」
「べ、別に、ナサには秘密」
「フーン。リーヤの手は、ちっさな手だったな」
「そう? ナサの手が大き過ぎるの、触ってもいい?」
さらりと肉球が触りたくていったのだけど。
ナサは驚いた様子で、
「はぁ? リーヤはオレの手を触りたいのか? ……シッシシ、仕方ねぇなぁ、少しだけだぞ」
困ったように差し出した、ナサの手に触らせてもらった。大きくて肉球はあまり固くなくてプニプニしいてる。肉球を触ると、くすぐったいのかピクッと大きな体を揺らすナサが可愛く見えて、顔が……やばい。
「そんなに、オレの手を触って嬉しいのか? 顔がニヤけてるぞ」
「え、だって可愛いんだもん……あ、」
「シッシシ、そうかよ」
照れたように笑った、ナサから目が離せなかった。
+
ミリア亭には日が入り、お昼寝にいい時間帯だけど、今日は違った。
「ウガァ!! また負けた……クソッ、ランドルと力を合わせても、アサトに勝てねぇ」
「ええ、勝てませんね」
まだテーブルでは負けず嫌いの、お兄様とランドル様が、アサトに勝とうと悪戦苦闘ちゅう。
「もう一回勝負だ、アサト。今度は負けえぇ"ウオォォーッ!!"」
気合だけ十分のお兄様は雄叫びをあげて、一瞬でアサトに負けるそれを何回か繰り返して、テーブルにドカッと座り肩を落とした。
「はぁ、勝てねぇ」
「勝てませんね。悔しいですが、負けだけが増えていく」
「おいおい、そんなに落ち込むなよ、カートラ、ランドル。俺とお前たちでは体の大きさがまず違う。……でもよ、カートラとランドルは人間の中では強い方じゃないのか?」
「はい、私もそう思いますよ」
いつのまにか名前を呼びあい、お兄様とランドル様、アサトとロカは仲良くなっていた。
「アハハハッ、余裕だなアサト、ナサ、ロカもだ。今度あう時までに鍛えてくるから、待っていろよ!」
「おお、いいぜ、待っててやるよ」
「シッシシ、待ってるよ」
「これ以上、強くなられては負けてしまいます。私としては遠慮したいですね」
アサトとお兄様は"ハハハッ!"と互いの背中を叩き大笑い。ナサも私の隣で楽しそうに笑っている。そんな二人を同じテーブルに座り、ロカとランドル様は楽しげに見ていた。
ガヤガヤ騒ぐ近くのテーブルでは、カヤとリヤが仲良くお昼寝中をしている。
お兄様は嬉しそうに笑い、わたしを優しく見つめた。
「リイーヤ、よい人達ばかりだな。この人達ならリイーヤを任せても安心だ。アサト、ナサ、ロカ、チビ二人は寝てるか、ミリアさん、お転婆な妹をこれからも、よろしくお願いします!!」
と、みんなに深く頭を下げた。
「シッシシ、リーヤの事はオレ、オレたちに任せておけ!」
「そうです。変な虫がつかないように、私が守ります」
「ロカ、それはお前だろ……カートラ、俺もしっかりリーヤを守るよ」
ミリアは胸を叩き。
「食事、周りの事は全部、私に任せておきな!」
「ありがとう、よろしく頼む」
「カートラ、いい人達で良かったな」
「ああ、よかった」
お兄様はみんなを見渡して"ウンウン"と頷き、優しい笑みを浮かべた。
「さてと、伝えることも終わった。ランドル、そろそろ宿に戻るか」
「そうですね、明日提出する書類を作らなくてはなりません」
書類と聞き、眉をひそめたお兄様はフウッ吐息を吐き、わたしを見て、
「リイーヤ、三ヶ月後の舞踏会で両親には会うが……当日はバタバタして、ゆっくりと話すことは無理だろうから。一度、コッチに戻って来い。口に出して言わないが父上と母上は、リイーヤの事をひどく心配している」
(ロベルトお父様と、シンシアお母様が)
「はい、三ヶ月後にお父様とお母様にお会いすることを、楽しみにしていることと。来年のリルガルド国の国王祭に、一度そちらに帰るとお伝えください」
「わかった、そう伝えるよ。今日はありがとう、楽しかった!」
「「俺たちもだ!」」
みんなが和んだとき"カランコロン"と少し乱暴にドアベルが鳴り、みんなの視線は出入り口の扉に向く。
そこには、
「ハァハァ、ハァーーよかった。みんな、まだいた」
さっき隣町に新商品を仕入れに行くと言っていた、ミカが汗だくで"ハァハァ"息を切らして、ミリア亭に駆け込んできたのだった。
「また、リーヤの負け!」
クッ、また負けた。
「この中で一番弱いな。あの筋トレは全然、役に立ってないんじゃないのか?」
「……うん。ナサの言う通りだから、何もにも言えない」
(けっきょく、誰にも勝てなかった)
と、肩を落とした。
アサトとカートラお兄様が腕ずもうで盛り上がり、その騒ぎで目を覚ましたカヤとリヤに負けて……ミリアさんにも負けた。
「リーヤは弱いね」
「返す言葉がありません」
でも、みんなには負けだけど、良いこともあった。
アサトとナサの肉球はプニプニして気持ちよかったし、ロカさんの手は冷たくて、カヤとリヤの手は小さくて可愛かった、ミリアさんの手は暖かった。
お兄様は傷だらけで剣だこの手で、ランドル様は指が長くて繊細な手……あ、みんなの手に初めて触れたかも。
「リーヤ、なに自分の手を見てニヤニヤしてんだ?」
「べ、別に、ナサには秘密」
「フーン。リーヤの手は、ちっさな手だったな」
「そう? ナサの手が大き過ぎるの、触ってもいい?」
さらりと肉球が触りたくていったのだけど。
ナサは驚いた様子で、
「はぁ? リーヤはオレの手を触りたいのか? ……シッシシ、仕方ねぇなぁ、少しだけだぞ」
困ったように差し出した、ナサの手に触らせてもらった。大きくて肉球はあまり固くなくてプニプニしいてる。肉球を触ると、くすぐったいのかピクッと大きな体を揺らすナサが可愛く見えて、顔が……やばい。
「そんなに、オレの手を触って嬉しいのか? 顔がニヤけてるぞ」
「え、だって可愛いんだもん……あ、」
「シッシシ、そうかよ」
照れたように笑った、ナサから目が離せなかった。
+
ミリア亭には日が入り、お昼寝にいい時間帯だけど、今日は違った。
「ウガァ!! また負けた……クソッ、ランドルと力を合わせても、アサトに勝てねぇ」
「ええ、勝てませんね」
まだテーブルでは負けず嫌いの、お兄様とランドル様が、アサトに勝とうと悪戦苦闘ちゅう。
「もう一回勝負だ、アサト。今度は負けえぇ"ウオォォーッ!!"」
気合だけ十分のお兄様は雄叫びをあげて、一瞬でアサトに負けるそれを何回か繰り返して、テーブルにドカッと座り肩を落とした。
「はぁ、勝てねぇ」
「勝てませんね。悔しいですが、負けだけが増えていく」
「おいおい、そんなに落ち込むなよ、カートラ、ランドル。俺とお前たちでは体の大きさがまず違う。……でもよ、カートラとランドルは人間の中では強い方じゃないのか?」
「はい、私もそう思いますよ」
いつのまにか名前を呼びあい、お兄様とランドル様、アサトとロカは仲良くなっていた。
「アハハハッ、余裕だなアサト、ナサ、ロカもだ。今度あう時までに鍛えてくるから、待っていろよ!」
「おお、いいぜ、待っててやるよ」
「シッシシ、待ってるよ」
「これ以上、強くなられては負けてしまいます。私としては遠慮したいですね」
アサトとお兄様は"ハハハッ!"と互いの背中を叩き大笑い。ナサも私の隣で楽しそうに笑っている。そんな二人を同じテーブルに座り、ロカとランドル様は楽しげに見ていた。
ガヤガヤ騒ぐ近くのテーブルでは、カヤとリヤが仲良くお昼寝中をしている。
お兄様は嬉しそうに笑い、わたしを優しく見つめた。
「リイーヤ、よい人達ばかりだな。この人達ならリイーヤを任せても安心だ。アサト、ナサ、ロカ、チビ二人は寝てるか、ミリアさん、お転婆な妹をこれからも、よろしくお願いします!!」
と、みんなに深く頭を下げた。
「シッシシ、リーヤの事はオレ、オレたちに任せておけ!」
「そうです。変な虫がつかないように、私が守ります」
「ロカ、それはお前だろ……カートラ、俺もしっかりリーヤを守るよ」
ミリアは胸を叩き。
「食事、周りの事は全部、私に任せておきな!」
「ありがとう、よろしく頼む」
「カートラ、いい人達で良かったな」
「ああ、よかった」
お兄様はみんなを見渡して"ウンウン"と頷き、優しい笑みを浮かべた。
「さてと、伝えることも終わった。ランドル、そろそろ宿に戻るか」
「そうですね、明日提出する書類を作らなくてはなりません」
書類と聞き、眉をひそめたお兄様はフウッ吐息を吐き、わたしを見て、
「リイーヤ、三ヶ月後の舞踏会で両親には会うが……当日はバタバタして、ゆっくりと話すことは無理だろうから。一度、コッチに戻って来い。口に出して言わないが父上と母上は、リイーヤの事をひどく心配している」
(ロベルトお父様と、シンシアお母様が)
「はい、三ヶ月後にお父様とお母様にお会いすることを、楽しみにしていることと。来年のリルガルド国の国王祭に、一度そちらに帰るとお伝えください」
「わかった、そう伝えるよ。今日はありがとう、楽しかった!」
「「俺たちもだ!」」
みんなが和んだとき"カランコロン"と少し乱暴にドアベルが鳴り、みんなの視線は出入り口の扉に向く。
そこには、
「ハァハァ、ハァーーよかった。みんな、まだいた」
さっき隣町に新商品を仕入れに行くと言っていた、ミカが汗だくで"ハァハァ"息を切らして、ミリア亭に駆け込んできたのだった。
76
お気に入りに追加
984
あなたにおすすめの小説
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。
友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。
あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。
ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。
「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」
「わかりました……」
「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」
そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。
勘違い、すれ違いな夫婦の恋。
前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。
四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。
※本編はマリエルの感情がメインだったこともあってマリエル一人称をベースにジュリウス視点を入れていましたが、番外部分は基本三人称でお送りしています。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる