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三十八

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 皇太子の婚約者候補はお断りしたとお兄様は言った。次に……お兄様は言いにくそうにわたしに伝えた。

「リイーヤ、皇太子の婚約者決めの舞踏会の開催前に、交流戦が行われるんだ、それに俺とランドル、騎士数名が参加することになった……そのな。リイーヤ、昨日他の国との顔見せ昼食の後、お断りを書いた封書を国王陛下の執事と、皇太子の側近に渡したんだ……その封書を読んだ皇太子から直ぐに返答があって……」
 

 皇太子から返答の後、お兄様が言葉を濁す。


「返答はどの様な内容だったのですか?」

「んー、皇太子に面と向かって『お前の妹はなぜ断る? 運が良ければ、ゆくゆくはガレーン国の王妃になれるのだぞ?』と言われたんだ。話によれば皇太子は美形で頭脳明晰、剣の腕前も切れ者。……非の打ち所がない自分の婚約者になる令嬢に、文武両道を求めていると聞いていたんだが……そのときの物言いがあまりにも幼稚でな、剣のことをしか考えていない俺でも驚いたよ」

「私も隣で、目が点になりました……」

 皇太子は断られると思っていなくて、断られたことに衝撃を受けて、その様な言い方をしたのかしら。

「皇太子は俺を見て、リイーヤを『どうせ見せれない。野生のゴリラのような容姿なんだろう』と言うからさ……舞踏会にて、妹をご覧になればいい……売り言葉に買い言葉。すまん、リイーヤ。国王祭の舞踏会に出てくれ」

「ええ、ガレーン国の舞踏会に!!!」

 舞踏会にはいい思いがない……ここはガレーン国だから、令嬢たちは扇に隠れて、わたしの離縁の話をされないとは思うけど、リルガルド国から婚約候補として呼ばれた他の令嬢がいるはず。


(ほんと売り言葉に買い言葉……)


「カートラお兄様、皇太子にそう言い切ってしてしまったのよね」

「すまん、リルガルドの舞踏会じゃなくガレーンでの舞踏会だ、お前の離縁の話はでないはずだ、もし出たとしても俺とランドルが守るから、なんならランドルの婚約者として舞踏会に出てくれ」


 目の前で"パン"と手を合わせて頼んだ。


 皇太子に『舞踏会でわたしを見ろと』と行ってしまったのだから、舞踏会に出るのは百歩譲っていいとして、

「カートラお兄様、ランドル様を婚約者とするなんて、いきなり何を言うのですかお兄様。わたしは一度失敗をして離縁をした身、ご結婚前のランドル様に変な噂が立ちます」

「私はいいよ。伯爵家は弟が継いだし、私は一生涯、騎士として魔法の究めるつもりで、結婚する気はないから」

「それでも、いい人に巡り合えるかもしれません。わたしの初恋は実らなかった。だからといって、他の人の幸せを奪うのは嫌なの。カートラお兄様、ランドル様には素敵な伴侶を見つけてほしいわ」

「……リイーヤ」
「リイーヤちゃん」


 お兄様とランドル様は言葉を詰まらせる。それで、ミリア亭の中が静かだと気付く。しまった……周りを見れば、みんなはわたしたちの邪魔をしない様、食事をしていた。厨房ではミリアも言葉を発せず料理していた。

「ミリアさん、すみません。みんなもごめん、ここに食事と、休憩をするのに来ているのに……変な話を聞かせたわ」

「リーヤは気にしなくていい、俺たちも皇太子に手を焼いているから」

 ため息混じりにアサトが言うと、みんなも各々話しだした。

「ええ、たまに騎士団の訓練所に現れては、私たちに挑んできますものね」

 みんなは一斉にコクコクと頷く。

「この前なんて、僕とカヤと戦うって言いだしたよね」
「コテンパンにやると後が厄介だから、手を抜いたんだよね」  

「え、」

 リヤとカヤに手を抜かれる皇太子。

「シッシシ。オレ達にはいつものことなんだ、この国の皇太子にみんな手を焼いてる。リーヤ、気にするな」

「私は皇太子の事はあまり知らないけど、面白い話だと聞いていたよ。他の人と飲むとき、いい酒のつまみになる」

「ミリアさん! みんなもありがとう」

 お兄様とランドル様の話、みんなの話を更に聞いて、皇太子とは関わりたくないと思った。

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