寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ

文字の大きさ
上 下
26 / 99

二十五

しおりを挟む
 ミリア亭が休みの朝、目覚めると九時過ぎていた。

「うわぁ、寝過ぎた……」

 慌ててベッドを抜けだして、キッチンでパンと牛乳だけの朝食を取りお風呂を沸す。今日の休みの日はどうしても朝早く家を出たかった。中央区に行く道の途中、騎士団の宿舎と訓練場のそばを通るから。

 みんなの訓練をする姿を見る、絶好のチャンスなのに朝寝坊をするなんて。さっと、お風呂で汗を流して薄くなってきたアザにナサから貰った傷薬を塗った。
 
(はぁ、ラベンダーのいい香り)
 
 この香りに安らぎ、昨日から用意していた白いシャツとプリーツスカートに着替えて、あれから伸びてきた髪を結い上げた。家を出て早足でめざしたのは中央区の近くにある騎士団の訓練場だ。

(訓練場に着いたけど、誰もいない……もう訓練は終わってしまった?)

 こっそりフェンス越しに覗くと、騎士団達とは別の場所で、ナサとアサトが訓練場に残っていた。

「ナサ、ボーッとするな! 行くぞ」
「ああ、全力で来い、アサト!」

 そこには半獣ではなく、獣人の姿のままの二人がいた。アサトとナサは見合い、盾を構えたナサにアサトが勢い良く体当たりをした。

 ガツッ!! とフェンス越しにぶつかる音が聞こえた。凄い二人の気迫、隠れてみようと思っていたのに勝手に足が動く。

「ナサ、もう一回行くぞ!」
「ああ、いつでも来い!」
 
 二人の真剣な訓練をもっとそばで見たい、もっと、近くて見たい。また見合った、あのぶつかりが見られる。息を呑んだ瞬間に"バッ"と二人はこっちらを向いた。


「「リーヤ⁉︎」」


 声が見事にハモり、フェンス越しのわたしの姿を見て驚く二人の姿。その後、ナサは盾を置き腹を抱えて笑った、アサトは困り顔でポリポリ頭をかいた。

「リーヤ、おはよう」

「シッシシ、珍しくオレたちの訓練を見る女の子がいると思ったらリーヤかよ。おはよう」

「アサトさん、ナサ、おはよう。訓練ご苦労さま」

 両手でガッチリ、掴んでいたフェンスからソッと手を離して微笑んだ。

(……迫力がある、二人の訓練を食い入る様にみちゃってたわ)

 アサトとナサは二人でなにかヒソヒソ話をして、アサトは『また、後で』と言い、わたしを振ると宿舎の中へ入って行き、ナサは盾を持ち近くに来てくれた。

「よっ、何処からかラベンダーの香りがして、まさかと思ったら案の定。フェンスを掴んで食い入る様に見るリーヤがいるんだもんな……シッシシ、その格好は今からどっか行くのか?」

「うん、今から中央区の人気のパン屋に行ってくる」

「中央区? そんな場所に行くのか……オレは着いて行けねぇ」

 北区に住む獣人と亜人達は中央区には入れない、一歩でも入ると違反者となり捕まってしまう。

「人気のパンを買ったらすぐに戻るから、ミリア亭で待っててよ、ナサ」

「そうだな、昼寝でもして待ってるよ。気をつけて行けよ」

「わかってる、また後でね」

 と去ろうとしたとき。

 キャーッ!と騎士団側で女性達の黄色いの声上がる。そちらを見てみると、訓練を終えた騎士達がフェンス近くに集まっていた。その集まった騎士達に彼女達は何か手渡していた。なかにはメイドを連れた令嬢の姿もみえる。

「どこでも騎士は人気ね。……ねえ、ナサ。彼女達は騎士に何を渡しているの?」

「ん、なんだったかな? 自分で刺繍したハンカチとか、お守り、食べ物じゃなかったか?」

「ハンカチとお守り、食べ物か……」

 それなら、わたしでも用意ができるわ。次の休みの日に、みんなに持ってきたら喜んでくれるかな。

「ナサ、朝礼が始まるぞ!」

 宿舎から、ナサを呼ぶアサトの声が聞こえた。

「わかった、いま行く。リーヤ、じゃ、また後でな」

「うん、また後でね」

 宿舎に戻っていく、ナサに手を振った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...