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二十五

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 ミリア亭が休みの朝、目覚めると九時過ぎていた。

「うわぁ、寝過ぎた……」

 慌ててベッドを抜けだして、キッチンでパンと牛乳だけの朝食を取りお風呂を沸す。今日の休みの日はどうしても朝早く家を出たかった。中央区に行く道の途中、騎士団の宿舎と訓練場のそばを通るから。

 みんなの訓練をする姿を見る、絶好のチャンスなのに朝寝坊をするなんて。さっと、お風呂で汗を流して薄くなってきたアザにナサから貰った傷薬を塗った。
 
(はぁ、ラベンダーのいい香り)
 
 この香りに安らぎ、昨日から用意していた白いシャツとプリーツスカートに着替えて、あれから伸びてきた髪を結い上げた。家を出て早足でめざしたのは中央区の近くにある騎士団の訓練場だ。

(訓練場に着いたけど、誰もいない……もう訓練は終わってしまった?)

 こっそりフェンス越しに覗くと、騎士団達とは別の場所で、ナサとアサトが訓練場に残っていた。

「ナサ、ボーッとするな! 行くぞ」
「ああ、全力で来い、アサト!」

 そこには半獣ではなく、獣人の姿のままの二人がいた。アサトとナサは見合い、盾を構えたナサにアサトが勢い良く体当たりをした。

 ガツッ!! とフェンス越しにぶつかる音が聞こえた。凄い二人の気迫、隠れてみようと思っていたのに勝手に足が動く。

「ナサ、もう一回行くぞ!」
「ああ、いつでも来い!」
 
 二人の真剣な訓練をもっとそばで見たい、もっと、近くて見たい。また見合った、あのぶつかりが見られる。息を呑んだ瞬間に"バッ"と二人はこっちらを向いた。


「「リーヤ⁉︎」」


 声が見事にハモり、フェンス越しのわたしの姿を見て驚く二人の姿。その後、ナサは盾を置き腹を抱えて笑った、アサトは困り顔でポリポリ頭をかいた。

「リーヤ、おはよう」

「シッシシ、珍しくオレたちの訓練を見る女の子がいると思ったらリーヤかよ。おはよう」

「アサトさん、ナサ、おはよう。訓練ご苦労さま」

 両手でガッチリ、掴んでいたフェンスからソッと手を離して微笑んだ。

(……迫力がある、二人の訓練を食い入る様にみちゃってたわ)

 アサトとナサは二人でなにかヒソヒソ話をして、アサトは『また、後で』と言い、わたしを振ると宿舎の中へ入って行き、ナサは盾を持ち近くに来てくれた。

「よっ、何処からかラベンダーの香りがして、まさかと思ったら案の定。フェンスを掴んで食い入る様に見るリーヤがいるんだもんな……シッシシ、その格好は今からどっか行くのか?」

「うん、今から中央区の人気のパン屋に行ってくる」

「中央区? そんな場所に行くのか……オレは着いて行けねぇ」

 北区に住む獣人と亜人達は中央区には入れない、一歩でも入ると違反者となり捕まってしまう。

「人気のパンを買ったらすぐに戻るから、ミリア亭で待っててよ、ナサ」

「そうだな、昼寝でもして待ってるよ。気をつけて行けよ」

「わかってる、また後でね」

 と去ろうとしたとき。

 キャーッ!と騎士団側で女性達の黄色いの声上がる。そちらを見てみると、訓練を終えた騎士達がフェンス近くに集まっていた。その集まった騎士達に彼女達は何か手渡していた。なかにはメイドを連れた令嬢の姿もみえる。

「どこでも騎士は人気ね。……ねえ、ナサ。彼女達は騎士に何を渡しているの?」

「ん、なんだったかな? 自分で刺繍したハンカチとか、お守り、食べ物じゃなかったか?」

「ハンカチとお守り、食べ物か……」

 それなら、わたしでも用意ができるわ。次の休みの日に、みんなに持ってきたら喜んでくれるかな。

「ナサ、朝礼が始まるぞ!」

 宿舎から、ナサを呼ぶアサトの声が聞こえた。

「わかった、いま行く。リーヤ、じゃ、また後でな」

「うん、また後でね」

 宿舎に戻っていく、ナサに手を振った。
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