上 下
24 / 99

二十三

しおりを挟む
 ミリア亭の帰り道でふと思う。わたしを見ていればいいと言ったけど、ナサはわたしを見張るのかな。彼は騎士団との訓練と夜の警備で忙しいから、そんなことしないよね。

 買い物しようと商店街により、八百屋の店先、出店を見ながら"気まぐれ"のメニューを考える。

(ポテトたっぷりグラタン、お肉がジューシーコロッケ、お肉ゴロゴロビーフシチュー、ミートボールスパゲティ、チーズがとろーりホットサンド、カツサンドもいいな……わたしも食べたい)

「さてと、明日の"気まぐれ"のメニューはどうしようかな?」

 ここでの暮らしは毎日が楽しい。


 +

 
 ガレーン国で弟のアトールと会ってから一週間が経ち、ワーウルフと戦った傷も癒えて、そろそろ体を動かしたい。

(だって、三キロも増えちゃったんだもの)

 さすがに三キロはやばい……今日のミリア亭の仕事も終わり、明日は午前中がお休みなので教えてもらった、中央区にある人気のパン屋に行く予定。

(ミリアさんも絶賛だったから楽しみ)

 ミリア亭の帰り近くの商店街に寄り、食料、日用品など買い物をしていたら、行きつけの雑貨屋の前で店主に声をかけられた。

「リーヤ、仕事は終わったの?」
「あ、ミサさん。おつかれさまです」

「おつかれさま、店に寄ってく?」

 店主のミサが『店に寄って行く?』と聞くのは、新商品が入荷した合図。

「寄ります。わたし、可愛いお皿が見たいです」
「フフ、それなら、いいデザインの皿が入ったよ」

 雑貨屋、エルフのミサのお店は、木造作りの可愛いお洒落なお店。

 店主のミサはさらさらな緑色の長い髪で、長身のイケメンさんだから、多くの女性がこの雑貨店に買い物に訪れる。でも、ほとんどのお客はミサを見て"ポーッ"と頬を赤らめているらしい。

 ま、わからなくもないけど。

 そのことを前にミカに言ったら、彼はフフッと意味深に笑い。

『そうかな? でもね、微笑んでいるとお客様は、たくさん商品を買ってくれるんだ』

 と微笑んでいた、ミサは商売上手の店主さんだ。

「リーヤ、どうしたの?」
「う、ううん、ミカさん、お皿はどこ?」

「こっちだよ、リーヤ」

 ミカに案内された棚にはお洒落な皿がたくさん並んでいた。その棚で白い皿の淵に赤い小さな花が散りばめられた、使い勝手の良さそうな可愛い皿を見つけた。

「このお皿、小さな花が可愛い」

 コレに盛る料理はオムライス、それともカツサンド、コロッケ……この皿なら、下手なわたしの料理でも映える。安物の皿しか持ってないから欲しい。

「リーヤ、それ気に入ったの?」
「はい、とても」

 でも、この皿の値段は可愛くない、高い。……明日は美味しいと有名なパン屋に行きたいし、食費をケチっても足らない、次のお給料がでるまでの我慢だな。

「リーヤは、そのお皿、買ってく?」
「欲しいけど……いまは持ち合わせがないから、また今度にします」

「だったら、取り置きしとく?」
「いいんですか?」

「うん、リーヤはお得意様だから特別ね」

(それじゃ、何枚買おうかな? 一枚、二枚? ……パンと主食を盛るのに二枚は欲しい)

「ミサさん、このお皿二枚、取り置きお願いします」
「わかった。この紙に名前、書いておいね」

「はい」

 ミサから渡された予約の紙に名前を書いた。

 ああ、早くお給料日にならないかな。

「ミサさん、よろしくね」
「はい、ご予約受けたわりました」

 ミサに手を振り店を後にして、三軒隣の鋳造屋の暖簾をめくり中を覗いた。

(あ、いた、いた)

 ドワーフのマカじーは奥の作業場ではなく、レジの前に座ってキセルを吹かしていた。

「マカじぃー、こんにちは」
「リーヤか、いらっしゃい。今日はなにがいる?」

「中古の木刀が欲しいの」
「それなら、ここじゃ」

 マカじぃーの店で中古の格安木刀をゲットして、家で持ち手にテーピングを巻いた。次に髪をあげて動きやすい格好に着替えて、買ったばかりの木刀を持って家を出た。

(お腹のお肉を減らすぞ!)

 北口の門を抜けてしばらく王都に続く道を歩き、左に逸れていくと開けた草地と小さな湖が見えてくる。久しぶりに訪れた湖は太陽の光に水がキラキラ光り、草花がいきいき咲いていた。

 ここは空気もよく、お昼寝にも最適なところなんだ。

「さて、(マイナス三キロ)と目標の為に努力しないとね」

「へぇ、なんの努力をするんだ?」

 背後からとつじょした声に振り向いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。 あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。 ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。 「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」 「わかりました……」 「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」 そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。 勘違い、すれ違いな夫婦の恋。 前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。 四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

処理中です...