寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ

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十四

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 声色を変えて。

「わ、私は通りすがりの冒険者で……あ、あなたの名前を知っているのは、仲間の方がそうあなたを呼んでいたから……です」

「ふーん、そうかよ」

 ……ナサに無茶苦茶、怪しまれてる。

「怪我したんだろ? 仲間に回復のヒールをかけれる者がいるからこっちに来い。そして近くでお前の顔をよく見せろ」

 よく顔を見せろ?

「いや無理、それは無理です……」
「なんでだぁ? 顔を見せろって! そこを動くなよ」

「無理です、ほんとうになんともないので」
 
 ナサがガサガサと茂みに入ってくる。わたしはさっと顔を隠して、ナサから逃げようと後ろにズリズリと下がった。二人の距離がちぢまり緊迫するなか、誰が茂みをかき分けて近付き、わたしに深く頭を下げた。

「話し中すみません。帰って終われる前にどうしてもお礼が言いたい。先ほどは助けていただきありがとうございました。あなたの勇気ある行動で……仲間が助かりました。ほんとうにありがとう」

 深く頭を下げながら、捲し立てるようにお礼を言われた。

「ちっ! 」

 ナサは舌打ちをして、さらに不機嫌な顔をした。
 た、助かったけど、誰?

 チラッと見ると"あ、この人"は冒険者の盾役の人だった。……うわ、この人、いい鎧着てる。近くて見た彼の褒美には防御特化の魔法が施されていた。ワーウルフに耐えていたのは、はもちろん彼の能力もあるだろうけど、この付与が付いた鎧のおかげでもある。

 こんなに良い装備を身につけているなんて、彼は騎士団、貴族、相当腕が立つ冒険者ということになる。だって、一般の冒険者には手が出ない代物だ。

「ほんとうに助かりました。あなたがいなかったら、部下に大怪我を負わすところでした」

「いいえ、頭を上げてください。あなたがワーウルフの攻撃に耐えてくれたお陰です、こちらこそ、ありがとうございました」

「そんな?私にありがとうだなんて……嬉しいお言葉です。私は騎士団、第三番隊所属、カヌイ・アウローラと言います。あなたの名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 騎士団、第三番隊所属だと、彼に名乗ってもらって失礼だけど、ナサが近くにいて名前を名乗るなんて出来ない。

「あなたの名前を教えていただきたい」

 こうなったら、このセリフ恥ずかしいけど。

「わ、わたしは名乗るほどの者ではありません。この後、用事がありますのでこれで失礼します」

「そうですか……残念です」

 よかった、引き下がってくれた。彼との話が終わり、ナサと騎士団の人から、遠ざかるように奥の方へと進んだ。進んだ先に大きな木を見つけて体を預けた。

「はぁ、はぁ……いててっ」

 立っていてもキツかった……我ながら耐えていたと、痛みで滲み出る涙をそでで拭いた。しかし、動くだけで脇腹に激痛が走り思うように動けない。ヒール一回くらい使えないかなと、……試しにヒールかけてみることにした。

"ヒール……"と唱えると、わずかながら魔力が残っていたらしくて、緑色の光がわたしの体を包んだ。回復魔法のおかげで脇腹の痛みが若干引いた……これなら家までは帰れる。

「おい!」  
「きゃっ!」

 近くで、誰かに呼ばれた。


「驚かせて、すまん」

 この声はナサだ。……び、びっくりした。彼は草を踏む音も気配と、殺気まで消してわたしの近くまで来ていた。

「な、なんの御用ですか?」
「ようって、お前、怪我してるだろう」


 さっきも言っていたけど、怪我のことを気づかれていたのか……。

「いま、回復魔法を掛けたので、平気です」

「そうか、もし回復魔法でもダメだったら……これを使ってくれ、俺がよく使う塗り薬だ。ほらっ!」

 彼はこちらに来ることはせず、木の反対側から手だけを出した。そのナサの大きな手のひらの上に、小さな入れ物が乗っていた。

「その薬は欲しいけど。それをとった途端に、わたしの手を捕まえたりしない?」

「そんなことはしない。早く、受け取れよ」
「う、うん、ありがとうございます」

「……んっ、気をつけて帰れよ」

 ナサは塗り薬を渡すと、今度は何も言わず元の場所に帰っていった。

 
 ありがとう、サナ。


 振り向かずに帰っていく大きな背中を、彼に貰った傷薬を胸に握りしめて見つめた。その直後に金属の擦れる音が聞こえてきた、どうやらこの場所に騎士団も到着したみたい。

 来るのが遅いけど……ようやく終わった。
 
 後は彼らに任せて家に帰ろう、ミリア特製サンドイッチが待ってるもの。
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