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食事を終えるとみんなはお昼寝を始めた。
静かな店内にみんなの寝息が聞こる。わたしはミリアに呼ばれて倉庫の中で、ミリア亭で使う食材を見せてもらっていた。
『これがウチの食料庫ね』
『はい』
ミリア亭で使用される食材はすべて、国外の亜人の里で作られたもの。毎朝、鬼人の行商人がそれぞれの里から新鮮な野菜、お肉を仕入れて持って来る。届くのは毎日違う食材で、ミリアは届いた物を見てから、日替わりのメニューを考えると教えてくれた。
在庫のチェック中、倉庫の中で茶色の袋に入った白い粒を見つけた。初めてみる食材だ、どうやって食べるのだろう。
『ミリアさん、これはなんですか?』
『なんだ、リーヤはお米を見るのは初めてかい』
『お米? はい、初めてです』
『これは鬼人産のお米と言ってね、水で研ぎ、炊くと……ちょっと待ってて』
と言い、ミリアは厨房に戻っていく。
厨房から戻ってきたミリアの手に、白く三角のものをお皿に乗せて持ってきた。そして"リーヤ食べてみて"と渡された。持ってみるとホカホカに温かくて柔らかい。
『食べてみて、絶対に美味しいから』
『はい』
ミリアから勧められて、一口かじる。
咀嚼するとモチモチしていて、噛めば噛むほど甘い。
『お、美味しい』
『そうだろう。それが鬼人の主食、お米を炊いたご飯。今日の定食――かつ丼にも使っていたよ』
『あの揚げた分厚いお肉を卵でとじた、とろとろのアレですか?』
あの料理はかつ丼って言うんだ、かつは香ばしく、出汁のいい香りがした。みんなが笑顔で丼をかきこむ姿を見てお腹が小さく鳴った。
『お、食べたそうな顔してるね。次に作る時にリーヤの分も作るよ』
『いいんですか? 嬉しい、楽しみです』
"アイツらの他に食いしん坊がまた一人増えたね"と、ミリアは意地悪く笑った。
+
時刻は四時前。みんながもぞもぞ起きだした。体を動かして、置いてあった武器を手に持つ。
『ミリヤ、リーヤ、今日も世話になった』
『ミリヤさん、リーヤさんごちそうさまでした』
『明日もよろしく! ミリヤ、リーヤもな!』
『ごちそうさま!』
『美味しかった!』
『明日も美味い肉を用意しておくからね!』
『気を付けていってらっしゃい』
帰り間際にナサに折りたたんだ紙を手渡された。なにかと、開くとそこには住所らしきものが書いてあった。
『ナサ?』
『オレの知り合いの大工さん。その住所に行って相談すれば、アイツなら安くしてくれると思うよ。なんならオレの名前を出してもいい』
『ありがとう、助かります』
『いいって、これからよろしくなリーヤ』
大きな手でわたしの頭をポンポンと撫でてくれた。それを見ていたロカは"ずるい、ナサ"と騒ぐ背中を"はいはい"と、アサトは押して店を出て行った。
みんなが帰っても、しばらく入り口を見てたら。ミリヤが側に来てニヤッと笑う。
『珍しいこともあるもんだね。あの中で一番、人嫌いのナサがね、リーヤのこと気に入っちゃったのかな?』
『え、違います、ナサは優しいだけですよ。獣人がわたしになんて……そんなこと、ないですよ』
それにわたしはまだ恋が怖い。すぐに浮かれて好きになってしまう。勘違いの恋と、利用されるのも、寂しいのはもう結構だ……結婚して二年経ち、半年以上経っても、初夜の夜を思い出すだけで悲しくなる。
(あんな惨めで、恥ずかしい思いは二度としたくないわ)
ミリアはわたしの表情になにか感づいたのか。
優しく頭を撫でてくれた。
『リーヤに何があったかは聞かないけど。笑ってたら幸せはやってくる。あんたは笑った顔が可愛いんだから笑ってな』
『ありがとうございます』
さてと、後片付けをしようかと厨房に戻って行った。
翌日。午前中が休みの時に住所を探して、そこで知り合ったのがナサの知り合いのワカ親子。奥さんが獣人で五年前に北区で起きた魔物襲来で、大怪我をして亡くなった。今は息子のセアと北区に二人暮らしをしている。
ワカは屋根修理の他にも、点検して水回りを強化してくれた。そして領収書を見ていまの持ち金では足らない……どうしようか悩んだとき、自分の長い髪が目に入る。
(そうだ、この長い白銀の髪を売ろう)
『お金ならいつでもいいよ』
『いいえ、数日待っていてください』
午前中休みの日に中央区に出向き、理髪店で白銀の髪を売った。長い髪は首の所までになり首筋が寒く感じたけど。心が軽くなったような不思議な感覚を感じていた。
(これを渡して、足りない分は待って貰おう)
お金を持ってカワの家を訪れた、彼はわたしを見るなり、驚き、指をさした。
『お前、その髪……売っちまったのか』
わたしは違うと首を振る。
『いいえ、お手入れするのが邪魔になっていたので、切ってしまいました……これ少しだけ足らないですが』
『んあ、まいど』
『それで、足らない分は少し待ってください』
『ああ? あ、いつでもいいよ』
『…………それと』
お礼にならないけど"ミリア亭でわたしが作る気まぐれ定食を食べに来てください!"と、まだできたばかりのメニューなのに誘った。
『気まぐれ定食?』
『料理見習いのわたしが作る定食なんですけど……あの、失敗する方がまだ多いのでお代はコーヒー代だけです。よろしければ来てください』
二百ニルのコーヒー代で食べられる定食。
『なになに失敗もするのか? ははっ、それは面白そうだ。明日、セアと行くよ。私は料理にかんして結構口うるさいから覚悟しろよ!』
次の日。閉店間際に来てくれて"ほんと、まあまあだ!"と笑い"この腕前なら、しごきがいがあるな"とわたしの気まぐれの常連になってくれた。
ミリアとナサ達は短い髪を見て『髪はどうした?』と驚いたいた。みんなにワカと同じ説明をした。みんなはそうかと納得していたけど。ナサは痛いくらい大きな手で頭を撫でた。
静かな店内にみんなの寝息が聞こる。わたしはミリアに呼ばれて倉庫の中で、ミリア亭で使う食材を見せてもらっていた。
『これがウチの食料庫ね』
『はい』
ミリア亭で使用される食材はすべて、国外の亜人の里で作られたもの。毎朝、鬼人の行商人がそれぞれの里から新鮮な野菜、お肉を仕入れて持って来る。届くのは毎日違う食材で、ミリアは届いた物を見てから、日替わりのメニューを考えると教えてくれた。
在庫のチェック中、倉庫の中で茶色の袋に入った白い粒を見つけた。初めてみる食材だ、どうやって食べるのだろう。
『ミリアさん、これはなんですか?』
『なんだ、リーヤはお米を見るのは初めてかい』
『お米? はい、初めてです』
『これは鬼人産のお米と言ってね、水で研ぎ、炊くと……ちょっと待ってて』
と言い、ミリアは厨房に戻っていく。
厨房から戻ってきたミリアの手に、白く三角のものをお皿に乗せて持ってきた。そして"リーヤ食べてみて"と渡された。持ってみるとホカホカに温かくて柔らかい。
『食べてみて、絶対に美味しいから』
『はい』
ミリアから勧められて、一口かじる。
咀嚼するとモチモチしていて、噛めば噛むほど甘い。
『お、美味しい』
『そうだろう。それが鬼人の主食、お米を炊いたご飯。今日の定食――かつ丼にも使っていたよ』
『あの揚げた分厚いお肉を卵でとじた、とろとろのアレですか?』
あの料理はかつ丼って言うんだ、かつは香ばしく、出汁のいい香りがした。みんなが笑顔で丼をかきこむ姿を見てお腹が小さく鳴った。
『お、食べたそうな顔してるね。次に作る時にリーヤの分も作るよ』
『いいんですか? 嬉しい、楽しみです』
"アイツらの他に食いしん坊がまた一人増えたね"と、ミリアは意地悪く笑った。
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時刻は四時前。みんながもぞもぞ起きだした。体を動かして、置いてあった武器を手に持つ。
『ミリヤ、リーヤ、今日も世話になった』
『ミリヤさん、リーヤさんごちそうさまでした』
『明日もよろしく! ミリヤ、リーヤもな!』
『ごちそうさま!』
『美味しかった!』
『明日も美味い肉を用意しておくからね!』
『気を付けていってらっしゃい』
帰り間際にナサに折りたたんだ紙を手渡された。なにかと、開くとそこには住所らしきものが書いてあった。
『ナサ?』
『オレの知り合いの大工さん。その住所に行って相談すれば、アイツなら安くしてくれると思うよ。なんならオレの名前を出してもいい』
『ありがとう、助かります』
『いいって、これからよろしくなリーヤ』
大きな手でわたしの頭をポンポンと撫でてくれた。それを見ていたロカは"ずるい、ナサ"と騒ぐ背中を"はいはい"と、アサトは押して店を出て行った。
みんなが帰っても、しばらく入り口を見てたら。ミリヤが側に来てニヤッと笑う。
『珍しいこともあるもんだね。あの中で一番、人嫌いのナサがね、リーヤのこと気に入っちゃったのかな?』
『え、違います、ナサは優しいだけですよ。獣人がわたしになんて……そんなこと、ないですよ』
それにわたしはまだ恋が怖い。すぐに浮かれて好きになってしまう。勘違いの恋と、利用されるのも、寂しいのはもう結構だ……結婚して二年経ち、半年以上経っても、初夜の夜を思い出すだけで悲しくなる。
(あんな惨めで、恥ずかしい思いは二度としたくないわ)
ミリアはわたしの表情になにか感づいたのか。
優しく頭を撫でてくれた。
『リーヤに何があったかは聞かないけど。笑ってたら幸せはやってくる。あんたは笑った顔が可愛いんだから笑ってな』
『ありがとうございます』
さてと、後片付けをしようかと厨房に戻って行った。
翌日。午前中が休みの時に住所を探して、そこで知り合ったのがナサの知り合いのワカ親子。奥さんが獣人で五年前に北区で起きた魔物襲来で、大怪我をして亡くなった。今は息子のセアと北区に二人暮らしをしている。
ワカは屋根修理の他にも、点検して水回りを強化してくれた。そして領収書を見ていまの持ち金では足らない……どうしようか悩んだとき、自分の長い髪が目に入る。
(そうだ、この長い白銀の髪を売ろう)
『お金ならいつでもいいよ』
『いいえ、数日待っていてください』
午前中休みの日に中央区に出向き、理髪店で白銀の髪を売った。長い髪は首の所までになり首筋が寒く感じたけど。心が軽くなったような不思議な感覚を感じていた。
(これを渡して、足りない分は待って貰おう)
お金を持ってカワの家を訪れた、彼はわたしを見るなり、驚き、指をさした。
『お前、その髪……売っちまったのか』
わたしは違うと首を振る。
『いいえ、お手入れするのが邪魔になっていたので、切ってしまいました……これ少しだけ足らないですが』
『んあ、まいど』
『それで、足らない分は少し待ってください』
『ああ? あ、いつでもいいよ』
『…………それと』
お礼にならないけど"ミリア亭でわたしが作る気まぐれ定食を食べに来てください!"と、まだできたばかりのメニューなのに誘った。
『気まぐれ定食?』
『料理見習いのわたしが作る定食なんですけど……あの、失敗する方がまだ多いのでお代はコーヒー代だけです。よろしければ来てください』
二百ニルのコーヒー代で食べられる定食。
『なになに失敗もするのか? ははっ、それは面白そうだ。明日、セアと行くよ。私は料理にかんして結構口うるさいから覚悟しろよ!』
次の日。閉店間際に来てくれて"ほんと、まあまあだ!"と笑い"この腕前なら、しごきがいがあるな"とわたしの気まぐれの常連になってくれた。
ミリアとナサ達は短い髪を見て『髪はどうした?』と驚いたいた。みんなにワカと同じ説明をした。みんなはそうかと納得していたけど。ナサは痛いくらい大きな手で頭を撫でた。
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