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心の声が聞こえた
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苦しまなくていいんですよ。
ただ、好きな人の側で笑って……いて。
私はどんなコマにもなる。
「エドワード様、シンシア様がいじめるの!」
「お前はまた、リリア嬢をいじめたのか。私の為にか、辞めなさいと言っているだろう!」
「そ、それは婚約者なのに私を放置なさる、エドワード殿下が悪いのですわ」
(その様な辛そうな顔をしないで。好きな人が抱きついているのに。なぜ、あなたは微笑んでくださらないの?)
まだ、まだ、足らないのですね。
後どれくらい?
あなたの笑顔を見るには、後どれくらいあの子に意地悪すればいい?
教科書は破った、足を引っ掛けた、スカートに水をかけた……もう、何も思いつかない。
あっ、口元にケーキを付ける?
明日の昼食の時にテラスで、それをすればいいんだわ。
それなら彼女も安全。
(彼女に怪我はさせたくない。でも、少しの意地悪でも、あの子は数倍にも大きく言うから楽ね)
彼女の勘違いが加速する。
♢
執務室。
シンシア……また懲りずに、男爵令嬢ーーリリアに可愛い意地悪をする僕の婚約者。僕はリリア嬢が好きではなく、君が好きなんだ。
(なぜ、彼女には伝わらない?)
もしかして、学園の入学祝いの舞踏会で言った。
『君の髪飾りが綺麗だ』
『えっ、私の?』
(誰だ、この子は? 髪飾りなんて付けていないだろう? それに僕は君ではなく、シアに言ったんだ……ん? シンシア?)
あの舞踏会の日、僕の言った言葉がシアではなく、たまたま近くにいたリリア嬢に言ったと思ったからか?
(次の日から僕の側に来ず、シアは可愛い意地悪を、リリア嬢にする様になった)
シアの可愛い意地悪が。彼女ーーリリア嬢の口から数倍になって聞かされる。
まぁ嘘だと知っている。シアに見つからない様に護衛を数名つけているからね。
しかし、彼女はなぜ意地悪をリリア嬢にするんだ? 僕と同じ彼女が苦手なのか?
(……シア)
胸のポケットからペンダントを出して、再生した。
『私、エドワード様が好き、婚約者になれて幸せです』
ふっ、たまらない。
君の声をいつでも聞ける様にと……魔導具に録音した婚約した頃の彼女の声。
自分が変態だと言われてもいい、彼女の。
「「いまのシンシアの生の声で、この言葉を聞きたい」」
ボソッと呟けば。側近が眼鏡を光らせて、書類を僕の机に置いた。
「遠慮せずに聞けばいいのですよ。シアはあなたは婚約者なのですから……ふっ、私は屋敷でいつも聞いていますがね。殿下、書類です」
「ありがとう」
(なんだ、その挑発的な笑顔は! シアの兄で僕の側近のハロルド。妹が大好き星人め、自慢か!)
「聴けるなら僕だって聞きたい。シンシアが側に来ないんだ。いつも来てほしくない、リリア嬢ばかり来やがる」
手に力が入り書類がクシャげた。
「殿下、重要な書籍がクシャクシャになり、破けます。それに殿下の言葉が素に戻っておりますよ」
ぐしゃぐしゃになった書類に手をかざして、元の紙に戻す。ハロルドの魔法はいつ見ても凄いな。
「あーシンシアをこの胸に抱きしめたい、キスしたい」
その言葉に妹大好き星人、ハロルドが眼鏡を光らせて反応する。
彼は眼鏡をすっと人差し指で上げた。
「そんな事をして妹を泣かせたら、いくらあなたでも許しませんからね。エドワード殿下」
彼の氷属性の冷気が漏れした。
執務室の温度が一気に下がる。
火属性の僕には効かないが、ハロルドには言いたいことがある。
「シアと僕は婚約者なんだから別にいいだろ! 僕はシンシアが好きなんだから」
一層のこと彼女の心の声が聞こえればいいのに。
(あるわけないか)
♢
「シンシア嬢、おはよう」
「おはようございます、エドワード殿下」
《エド様と挨拶できたわ。今日も素敵》
エド様?
僕が素敵?
《いまはリリアさんがエド様の側にいないから、キツイ言い方をしなくていいわ》
シアがふんわり微笑んだ。
久しぶりに見る、僕の好きな笑顔だ。
「殿下、今日は良い天気ですね」
「そうだな」
《あーんもう、緊張する。エド様と何を話せばいいの? この前に読んだ本? あれはダメよ、濃い恋愛の本だったし、今日の授業? それじゃ面白くないわ、滅多にないことだから欲張ってしまうわ》
なんだ、この声は?
もしかして、シアの心の声が聞こえているのか?
《悩む姿も素敵》
それもダダ漏れだなのだが?
「シンシア嬢、僕はこの書類をハロルドに届けに行ってくるよ」
「はい。ごきげんよう、エドワード殿下」
《エド様とご一緒できて嬉しかった。さあ~て、今日の作戦を頑張る為に、テラスでお茶してこよう》
作戦? シアはまた何かする気だな……テラスか後で見にいくか。
《エド様のために頑張るぞ!》
僕の為? 何かを密かに企む彼女を見送った。
♢
書類をハロルドに届けた帰りにテラスに行く前、リリア嬢に捕まった。
(彼女は男爵の癖に、王族の僕との距離が近過ぎる。周りの貴族たちの好奇心に満ち溢れた目も気持ち悪い)
僕は君に見つめられても何も感じない。
ただうざい、だけだ。
「そうだ、エドワード様。テラスに新作のケーキを食べに行きましょうよ」
(何がケーキだよ、馴れ馴れしいな……)
黙っていても着いてくる、自分は僕に好かれていると思っているのかな。その自信はどこからくるんだろう。
「待って、一緒にいきましょうよ」
「勝手にすれば」
僕の足がテラスに向いているからか、自分の為に行ってくれると思ったのか、ご機嫌よく話しかけてくる。無視をしても彼女はテラスに着くまで、1人で喋っていた。
(いた、シアだ)
彼女はテーブルで、じっとケーキを見ていた。
《これをどうすれば?》
ケーキをどうするんだ?
「やあ、シンシア嬢もテラスにいたんだね」
声をかければシアは顔を上げた。
《エド様! どうしてここに? あっ、リリアさんとお茶をしに来たのですね》
シアはすっと立ち会釈した。
「ごきげんよう。我らが若き太陽、エドワード殿下」
《王城で他の方が言っていた『我らが、若き太陽』って言っちゃった。このフレーズ一度行ってみたかったんだ。エド様に似合っているわ》
表情には出さないが声が弾んでいるな。ただ、シアは『若き太陽』と言いたかったのか、可愛い。
「学園なんだ、そんなにかしこまらなくていいよ」
《あ、ぽーっとエド様を見ていたわ。いけない、やるわよ》
やると言い、シアは息を吸ってツンとした表情を浮かべた。
「失礼いたしました、エドワード殿下。……でも、殿下はどうして側近も付けず、婚約者の私を誘うのでもなく、リリアさんと2人キリでテラスでお茶なのですか?」
「彼女とは、たまたま書類を出した帰りに会ったのだよ」
正直に言うとリリア嬢がくねくねして、上目遣いをした。
うわぁ、何かの病気か?
《くねくね、エド様が好きなのかな? こう?》
やめてくれ、好きじゃない。
シアの上目遣いは、して欲しい。
「え~わたしが新作のケーキが出たと言ったから、エドワード様が『一緒に行こ』って言ってくだから、一緒に来ただけですよね~」
何が一緒にいこっだ、こいつが勝手に着いてきた癖に、よく言うよ。
《やはり、エド様がお誘いになったのですね……よし、やるわよ。お2人を仲良くさせる大作戦!》
僕とリリア嬢を仲良くするって⁉︎ シア、大きな勘違いだ。それより大作戦だと? 何をするきだ。
シアは扇子を出して、リリア嬢をさした。
「リリアさん、婚約者がいるそれも王族のエドワード殿下を、男爵のあなたが誘うのはおかしいですわ! 身分をわきまえなさい!」
「そんなぁ~ここは学園ですよ。別にいいじゃありませんか」
「学園だから? 何をおっしゃっているのですか? あなたは舞踏会などの社交場でも、エドワード殿下、他の貴族方に馴れ馴れしく擦り寄っていると聞きましたわ!」
「馴れ馴れしくなんてしてません。みんながわたしに優しいだけです~」
《なんなのこの子、全く貴族世界を理解していないの? あなたが言い寄った男性はみんな婚約者がいるのですよ。普通なら男性が言い寄ってきても遠慮するはずです……あ、あぁっ、この子にイライラして、大作戦を忘れる所だったわ》
シアの言う通りだ。婚約者というのは政略結婚もあるが、貴族ーー家同士が書類などを交わして決めた婚約。相手がいるのに近寄る方がおかしい。
「やだぁ~シンシア様はエドワード様を、わたしに取られて悔しいのですね。嫉妬なんてみっともない」
くすくす笑う、リリア嬢にシアは唇を噛んだ。
《嫉妬してはダメなの?》
我慢できなくなったのか、シアは声を上げた。
「みっともないなんてありません。好きな方が他の方と一緒にいるのです。傷付く方がいることがわからないのですか?」
言った後にハッとした顔をして、扇子を広げて隠した。
《あぁ、ムキになっちゃった。大作戦がぁ~エド様の恋を応援したいのに……自分の気持ちが前にでてしまう》
僕の恋? まさかリリア嬢とくっ付けるために、シアはこんな事をしているのか?
やめてくれ!
「だからって、わたしのこといじめるは酷いですよね~エドワード様」
リリア嬢に同意を求める視線を送られて。
僕は、はっきりさせようと、自分の気持ちを言葉にした。
「それは……君が色々な男性に言いよるからではないのかな? シンシアも僕の気持ちが知りたいのなら直接、僕に聞きなさい」
「……っ」
《エ、エド様が、シ、シンシアと私を呼び捨てで呼んだわ! エド様の気持ち? 聞きたいけどいいの?》
「シア、顔が赤いけど?」
《顔⁉︎》
扇子で顔を隠しても、身体中が真っ赤だよ、シア。
うん、可愛い。
♢
「な、なんで?」
僕の言葉を受けてか、リリア嬢は怒りで顔を真っ赤にさせた。
「エドワード様はわたしのことが好きじゃないの? 髪飾りを褒めたり、いじめを庇ってくれたり、学園で側にいたじゃない」
「あの時、僕はシンシアの髪飾りを褒めたんだ。いじめだって君の行いが自ら引き起こした、僕はシアに辞めさせようとしただけだ。それに学園でも君が勝手に側に来たんじゃないか? 僕から誘ったことは1度もない」
リリア嬢は体をプルプルさせて。
「おかしい、わたしは誰からも愛されるヒロインなの、主役なのに……こんなのおかしい! もう、邪魔よどいて!」
「きゃっ」
リリア嬢はシアを押しのけて走り去っていった。彼女は他の婚約者たぶらかしたり、学園の風紀を壊すな。学園から追い出せないかな?
それは後だな。
「シンシア、大丈夫か?」
シアはリリア嬢に押された拍子に、ケーキに激突していた。しかし、シアはそれよりも頭の中は、僕とリリア嬢のことを考えている様だ。
《あ、あれはリリアさんの嘘だったの? エド様が自分を好きだって言うのとか。エスコートしたいって言われちゃったとか、ダンスを1番に踊りたいとか、抱きしめて離してくれないのとか、エド様から側に来るって、言っていたのも全部、彼女の嘘?》
あの女、僕がしたこともない事をシアに言っていたのか……だから、シアは僕の幸せを祈ったのか。
シア、らしいな。
♢
「あっ、あの、エドワード殿下」
「エドだ、そう呼ばないと返事しない」
ケーキまみれになったシアを、僕が学園で使う休憩室に連れてきた。
そして、シアを抱き抱えてソファーに座った。
《この状態で? 心の中でならエド様と呼べるけど、言葉に出すのって勇気がいるわ》
「シア、呼んでくれないと」
《きゃっ、エド様が頬を舐めたわ》
「こうやって顔についた、ケーキ舐めるからな」
「やめてください。エドワード殿下、汚いですからおやめください!」
ぺろ、ぺろとシアのケーキを舐めた。真っ赤な彼女をもっと見たくて、彼女を抱き上げて、ソファーで向き合って座った。
《嘘、エド様ぁ~》
「ほんとうにおやめください」
涙目のシア。うん、可愛いな。
《きゃっ、な、なに? お尻の下に固いものが当たった? これは何?》
あーやっべ。好きな子を触っているんだ、男って、そう、なるよな。
「エドワード殿下」
「エドだよ、シア」
その顔もいい。これはやばいな、癖になりそうだ。
《エド、エドさま……》
「エドって呼んで、シア」
《……ううっ》
「エド様」
呼ばれた瞬間、ぶわっと何かが湧き出た、シアを好きで、愛してる僕しかいなくなった。
「シア、好きだ」
我慢できず彼女の唇を奪った。
シアの瞳がこれほど勝手ほどかってくらい、大きく見開かれて、そして微笑んだ。
《キ、キスした、エド様と……嬉しい》
「私もエド様が好き、大好き」
「はい!! エドワード殿下、シア、これ以上はアウトです!」
「お、お兄様⁉︎」
「ハロルド!」
シアが俺を抱きしめようとした手が離れていく、ハロルド、貴様いつからそこにいたんだよ。
「仲がいいのは良い事ですが、余りにもくっつき過ぎです、私のシアが汚れます」
本音はそっちか!
「汚すか!」
「汚れます! エドワード殿下は既に我慢できないところまで、きていますよね」
「そ、それは……そうだが」
「何処がですか?」
《私が何かしてしまった?》
したにはしたが、これは仕方がない、好きなシアとキスして密着したんだ。
「ここは私に任せて、シアは書庫で待っていなさい。一緒に帰りましょう」
《お兄様と一緒!》
「仕事はいいのですか?」
「えぇ、今日の分は終わっていますからね、エドワード殿下?」
「あぁ、終わっている」
そう告げると嬉しそうに、書庫に行くシアを見送った。
「エドワード殿下、立てますか?」
「触るな、自分で立てるから、はぁ……シア、可愛かった」
僕はハロルドに見送られながら、休憩室のトイレに向かった。
♢
「そうなるか~」
「なりましたね」
リリア嬢はまだ誰にも被害が出ていないと、学園に残ることになった。
「頭痛いな……しかし、あいつは懲りないな」
「そう、ですね」
「ところで、ハロルド。お前もリリア嬢に言い寄られてるんだって?」
眼鏡を上げながら頷く。リリア嬢は手当たり次第、婚約者持ちではなく、独り身の貴族に色目を使うようになったと報告が上がった。
「お前、早く婚約者作れよ。そしたら言い寄られなくなるだろ?」
「嫌です、シアともう少し一緒にいたい」
妹大好き星人が……わからないでもない。
コンコンと執務室の扉が鳴り、ハロルドが扉を開けた。顔を覗かせたのはシア。
「エド様、お兄様、サンドイッチを作ってきたのですが、ご一緒に食べませんか?」
「食べる、庭園に行こう!」
「では、私はお茶の用意をしてきますね。シア、エドワード殿下と先に庭園に行ってなさい」
「はーい」
いまは、シアの心の声はもう聞こえない。どうして聞こえたかって? 僕が送った髪飾りについていた石が願い石と言って、願いを叶える石だっと、城の魔導師に報告を受けた。
僕かシアの願いが叶ったから聞こえなくなったのだろう。もう少しシアの心の声聞きたかった。
あんなに可愛い心の声はないよな。でも今は、表情で僕を好きだと言ってくれて、言葉でも言ってくれから、いいっか。
ただ、好きな人の側で笑って……いて。
私はどんなコマにもなる。
「エドワード様、シンシア様がいじめるの!」
「お前はまた、リリア嬢をいじめたのか。私の為にか、辞めなさいと言っているだろう!」
「そ、それは婚約者なのに私を放置なさる、エドワード殿下が悪いのですわ」
(その様な辛そうな顔をしないで。好きな人が抱きついているのに。なぜ、あなたは微笑んでくださらないの?)
まだ、まだ、足らないのですね。
後どれくらい?
あなたの笑顔を見るには、後どれくらいあの子に意地悪すればいい?
教科書は破った、足を引っ掛けた、スカートに水をかけた……もう、何も思いつかない。
あっ、口元にケーキを付ける?
明日の昼食の時にテラスで、それをすればいいんだわ。
それなら彼女も安全。
(彼女に怪我はさせたくない。でも、少しの意地悪でも、あの子は数倍にも大きく言うから楽ね)
彼女の勘違いが加速する。
♢
執務室。
シンシア……また懲りずに、男爵令嬢ーーリリアに可愛い意地悪をする僕の婚約者。僕はリリア嬢が好きではなく、君が好きなんだ。
(なぜ、彼女には伝わらない?)
もしかして、学園の入学祝いの舞踏会で言った。
『君の髪飾りが綺麗だ』
『えっ、私の?』
(誰だ、この子は? 髪飾りなんて付けていないだろう? それに僕は君ではなく、シアに言ったんだ……ん? シンシア?)
あの舞踏会の日、僕の言った言葉がシアではなく、たまたま近くにいたリリア嬢に言ったと思ったからか?
(次の日から僕の側に来ず、シアは可愛い意地悪を、リリア嬢にする様になった)
シアの可愛い意地悪が。彼女ーーリリア嬢の口から数倍になって聞かされる。
まぁ嘘だと知っている。シアに見つからない様に護衛を数名つけているからね。
しかし、彼女はなぜ意地悪をリリア嬢にするんだ? 僕と同じ彼女が苦手なのか?
(……シア)
胸のポケットからペンダントを出して、再生した。
『私、エドワード様が好き、婚約者になれて幸せです』
ふっ、たまらない。
君の声をいつでも聞ける様にと……魔導具に録音した婚約した頃の彼女の声。
自分が変態だと言われてもいい、彼女の。
「「いまのシンシアの生の声で、この言葉を聞きたい」」
ボソッと呟けば。側近が眼鏡を光らせて、書類を僕の机に置いた。
「遠慮せずに聞けばいいのですよ。シアはあなたは婚約者なのですから……ふっ、私は屋敷でいつも聞いていますがね。殿下、書類です」
「ありがとう」
(なんだ、その挑発的な笑顔は! シアの兄で僕の側近のハロルド。妹が大好き星人め、自慢か!)
「聴けるなら僕だって聞きたい。シンシアが側に来ないんだ。いつも来てほしくない、リリア嬢ばかり来やがる」
手に力が入り書類がクシャげた。
「殿下、重要な書籍がクシャクシャになり、破けます。それに殿下の言葉が素に戻っておりますよ」
ぐしゃぐしゃになった書類に手をかざして、元の紙に戻す。ハロルドの魔法はいつ見ても凄いな。
「あーシンシアをこの胸に抱きしめたい、キスしたい」
その言葉に妹大好き星人、ハロルドが眼鏡を光らせて反応する。
彼は眼鏡をすっと人差し指で上げた。
「そんな事をして妹を泣かせたら、いくらあなたでも許しませんからね。エドワード殿下」
彼の氷属性の冷気が漏れした。
執務室の温度が一気に下がる。
火属性の僕には効かないが、ハロルドには言いたいことがある。
「シアと僕は婚約者なんだから別にいいだろ! 僕はシンシアが好きなんだから」
一層のこと彼女の心の声が聞こえればいいのに。
(あるわけないか)
♢
「シンシア嬢、おはよう」
「おはようございます、エドワード殿下」
《エド様と挨拶できたわ。今日も素敵》
エド様?
僕が素敵?
《いまはリリアさんがエド様の側にいないから、キツイ言い方をしなくていいわ》
シアがふんわり微笑んだ。
久しぶりに見る、僕の好きな笑顔だ。
「殿下、今日は良い天気ですね」
「そうだな」
《あーんもう、緊張する。エド様と何を話せばいいの? この前に読んだ本? あれはダメよ、濃い恋愛の本だったし、今日の授業? それじゃ面白くないわ、滅多にないことだから欲張ってしまうわ》
なんだ、この声は?
もしかして、シアの心の声が聞こえているのか?
《悩む姿も素敵》
それもダダ漏れだなのだが?
「シンシア嬢、僕はこの書類をハロルドに届けに行ってくるよ」
「はい。ごきげんよう、エドワード殿下」
《エド様とご一緒できて嬉しかった。さあ~て、今日の作戦を頑張る為に、テラスでお茶してこよう》
作戦? シアはまた何かする気だな……テラスか後で見にいくか。
《エド様のために頑張るぞ!》
僕の為? 何かを密かに企む彼女を見送った。
♢
書類をハロルドに届けた帰りにテラスに行く前、リリア嬢に捕まった。
(彼女は男爵の癖に、王族の僕との距離が近過ぎる。周りの貴族たちの好奇心に満ち溢れた目も気持ち悪い)
僕は君に見つめられても何も感じない。
ただうざい、だけだ。
「そうだ、エドワード様。テラスに新作のケーキを食べに行きましょうよ」
(何がケーキだよ、馴れ馴れしいな……)
黙っていても着いてくる、自分は僕に好かれていると思っているのかな。その自信はどこからくるんだろう。
「待って、一緒にいきましょうよ」
「勝手にすれば」
僕の足がテラスに向いているからか、自分の為に行ってくれると思ったのか、ご機嫌よく話しかけてくる。無視をしても彼女はテラスに着くまで、1人で喋っていた。
(いた、シアだ)
彼女はテーブルで、じっとケーキを見ていた。
《これをどうすれば?》
ケーキをどうするんだ?
「やあ、シンシア嬢もテラスにいたんだね」
声をかければシアは顔を上げた。
《エド様! どうしてここに? あっ、リリアさんとお茶をしに来たのですね》
シアはすっと立ち会釈した。
「ごきげんよう。我らが若き太陽、エドワード殿下」
《王城で他の方が言っていた『我らが、若き太陽』って言っちゃった。このフレーズ一度行ってみたかったんだ。エド様に似合っているわ》
表情には出さないが声が弾んでいるな。ただ、シアは『若き太陽』と言いたかったのか、可愛い。
「学園なんだ、そんなにかしこまらなくていいよ」
《あ、ぽーっとエド様を見ていたわ。いけない、やるわよ》
やると言い、シアは息を吸ってツンとした表情を浮かべた。
「失礼いたしました、エドワード殿下。……でも、殿下はどうして側近も付けず、婚約者の私を誘うのでもなく、リリアさんと2人キリでテラスでお茶なのですか?」
「彼女とは、たまたま書類を出した帰りに会ったのだよ」
正直に言うとリリア嬢がくねくねして、上目遣いをした。
うわぁ、何かの病気か?
《くねくね、エド様が好きなのかな? こう?》
やめてくれ、好きじゃない。
シアの上目遣いは、して欲しい。
「え~わたしが新作のケーキが出たと言ったから、エドワード様が『一緒に行こ』って言ってくだから、一緒に来ただけですよね~」
何が一緒にいこっだ、こいつが勝手に着いてきた癖に、よく言うよ。
《やはり、エド様がお誘いになったのですね……よし、やるわよ。お2人を仲良くさせる大作戦!》
僕とリリア嬢を仲良くするって⁉︎ シア、大きな勘違いだ。それより大作戦だと? 何をするきだ。
シアは扇子を出して、リリア嬢をさした。
「リリアさん、婚約者がいるそれも王族のエドワード殿下を、男爵のあなたが誘うのはおかしいですわ! 身分をわきまえなさい!」
「そんなぁ~ここは学園ですよ。別にいいじゃありませんか」
「学園だから? 何をおっしゃっているのですか? あなたは舞踏会などの社交場でも、エドワード殿下、他の貴族方に馴れ馴れしく擦り寄っていると聞きましたわ!」
「馴れ馴れしくなんてしてません。みんながわたしに優しいだけです~」
《なんなのこの子、全く貴族世界を理解していないの? あなたが言い寄った男性はみんな婚約者がいるのですよ。普通なら男性が言い寄ってきても遠慮するはずです……あ、あぁっ、この子にイライラして、大作戦を忘れる所だったわ》
シアの言う通りだ。婚約者というのは政略結婚もあるが、貴族ーー家同士が書類などを交わして決めた婚約。相手がいるのに近寄る方がおかしい。
「やだぁ~シンシア様はエドワード様を、わたしに取られて悔しいのですね。嫉妬なんてみっともない」
くすくす笑う、リリア嬢にシアは唇を噛んだ。
《嫉妬してはダメなの?》
我慢できなくなったのか、シアは声を上げた。
「みっともないなんてありません。好きな方が他の方と一緒にいるのです。傷付く方がいることがわからないのですか?」
言った後にハッとした顔をして、扇子を広げて隠した。
《あぁ、ムキになっちゃった。大作戦がぁ~エド様の恋を応援したいのに……自分の気持ちが前にでてしまう》
僕の恋? まさかリリア嬢とくっ付けるために、シアはこんな事をしているのか?
やめてくれ!
「だからって、わたしのこといじめるは酷いですよね~エドワード様」
リリア嬢に同意を求める視線を送られて。
僕は、はっきりさせようと、自分の気持ちを言葉にした。
「それは……君が色々な男性に言いよるからではないのかな? シンシアも僕の気持ちが知りたいのなら直接、僕に聞きなさい」
「……っ」
《エ、エド様が、シ、シンシアと私を呼び捨てで呼んだわ! エド様の気持ち? 聞きたいけどいいの?》
「シア、顔が赤いけど?」
《顔⁉︎》
扇子で顔を隠しても、身体中が真っ赤だよ、シア。
うん、可愛い。
♢
「な、なんで?」
僕の言葉を受けてか、リリア嬢は怒りで顔を真っ赤にさせた。
「エドワード様はわたしのことが好きじゃないの? 髪飾りを褒めたり、いじめを庇ってくれたり、学園で側にいたじゃない」
「あの時、僕はシンシアの髪飾りを褒めたんだ。いじめだって君の行いが自ら引き起こした、僕はシアに辞めさせようとしただけだ。それに学園でも君が勝手に側に来たんじゃないか? 僕から誘ったことは1度もない」
リリア嬢は体をプルプルさせて。
「おかしい、わたしは誰からも愛されるヒロインなの、主役なのに……こんなのおかしい! もう、邪魔よどいて!」
「きゃっ」
リリア嬢はシアを押しのけて走り去っていった。彼女は他の婚約者たぶらかしたり、学園の風紀を壊すな。学園から追い出せないかな?
それは後だな。
「シンシア、大丈夫か?」
シアはリリア嬢に押された拍子に、ケーキに激突していた。しかし、シアはそれよりも頭の中は、僕とリリア嬢のことを考えている様だ。
《あ、あれはリリアさんの嘘だったの? エド様が自分を好きだって言うのとか。エスコートしたいって言われちゃったとか、ダンスを1番に踊りたいとか、抱きしめて離してくれないのとか、エド様から側に来るって、言っていたのも全部、彼女の嘘?》
あの女、僕がしたこともない事をシアに言っていたのか……だから、シアは僕の幸せを祈ったのか。
シア、らしいな。
♢
「あっ、あの、エドワード殿下」
「エドだ、そう呼ばないと返事しない」
ケーキまみれになったシアを、僕が学園で使う休憩室に連れてきた。
そして、シアを抱き抱えてソファーに座った。
《この状態で? 心の中でならエド様と呼べるけど、言葉に出すのって勇気がいるわ》
「シア、呼んでくれないと」
《きゃっ、エド様が頬を舐めたわ》
「こうやって顔についた、ケーキ舐めるからな」
「やめてください。エドワード殿下、汚いですからおやめください!」
ぺろ、ぺろとシアのケーキを舐めた。真っ赤な彼女をもっと見たくて、彼女を抱き上げて、ソファーで向き合って座った。
《嘘、エド様ぁ~》
「ほんとうにおやめください」
涙目のシア。うん、可愛いな。
《きゃっ、な、なに? お尻の下に固いものが当たった? これは何?》
あーやっべ。好きな子を触っているんだ、男って、そう、なるよな。
「エドワード殿下」
「エドだよ、シア」
その顔もいい。これはやばいな、癖になりそうだ。
《エド、エドさま……》
「エドって呼んで、シア」
《……ううっ》
「エド様」
呼ばれた瞬間、ぶわっと何かが湧き出た、シアを好きで、愛してる僕しかいなくなった。
「シア、好きだ」
我慢できず彼女の唇を奪った。
シアの瞳がこれほど勝手ほどかってくらい、大きく見開かれて、そして微笑んだ。
《キ、キスした、エド様と……嬉しい》
「私もエド様が好き、大好き」
「はい!! エドワード殿下、シア、これ以上はアウトです!」
「お、お兄様⁉︎」
「ハロルド!」
シアが俺を抱きしめようとした手が離れていく、ハロルド、貴様いつからそこにいたんだよ。
「仲がいいのは良い事ですが、余りにもくっつき過ぎです、私のシアが汚れます」
本音はそっちか!
「汚すか!」
「汚れます! エドワード殿下は既に我慢できないところまで、きていますよね」
「そ、それは……そうだが」
「何処がですか?」
《私が何かしてしまった?》
したにはしたが、これは仕方がない、好きなシアとキスして密着したんだ。
「ここは私に任せて、シアは書庫で待っていなさい。一緒に帰りましょう」
《お兄様と一緒!》
「仕事はいいのですか?」
「えぇ、今日の分は終わっていますからね、エドワード殿下?」
「あぁ、終わっている」
そう告げると嬉しそうに、書庫に行くシアを見送った。
「エドワード殿下、立てますか?」
「触るな、自分で立てるから、はぁ……シア、可愛かった」
僕はハロルドに見送られながら、休憩室のトイレに向かった。
♢
「そうなるか~」
「なりましたね」
リリア嬢はまだ誰にも被害が出ていないと、学園に残ることになった。
「頭痛いな……しかし、あいつは懲りないな」
「そう、ですね」
「ところで、ハロルド。お前もリリア嬢に言い寄られてるんだって?」
眼鏡を上げながら頷く。リリア嬢は手当たり次第、婚約者持ちではなく、独り身の貴族に色目を使うようになったと報告が上がった。
「お前、早く婚約者作れよ。そしたら言い寄られなくなるだろ?」
「嫌です、シアともう少し一緒にいたい」
妹大好き星人が……わからないでもない。
コンコンと執務室の扉が鳴り、ハロルドが扉を開けた。顔を覗かせたのはシア。
「エド様、お兄様、サンドイッチを作ってきたのですが、ご一緒に食べませんか?」
「食べる、庭園に行こう!」
「では、私はお茶の用意をしてきますね。シア、エドワード殿下と先に庭園に行ってなさい」
「はーい」
いまは、シアの心の声はもう聞こえない。どうして聞こえたかって? 僕が送った髪飾りについていた石が願い石と言って、願いを叶える石だっと、城の魔導師に報告を受けた。
僕かシアの願いが叶ったから聞こえなくなったのだろう。もう少しシアの心の声聞きたかった。
あんなに可愛い心の声はないよな。でも今は、表情で僕を好きだと言ってくれて、言葉でも言ってくれから、いいっか。
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