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二十

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 ガルルルルッ……

「この、獣め!」
 
「貴方は血が繋がりながら、自分の姉になにをしているんだ!」

 この声はレオーン様だわ、私を助けにきてくれたんだ。

「うるさい! チカリーヌは僕のなんだ僕達の仲に横入りしてくるな!」

「グルルルルッ、なんて子供じみたことを言うんだい……果たして、チカはその様なことを望んでいたのかな?」

 レオーン様のいつもの声とは違う怒りの声を聞いた。

「当たり前だ! チカリーヌは望んでいるさ。母様が死んでから悲しむ僕の側にいたんだ。これからも僕のそばにいるのは当たり前のことなんだ!」

「君はチカの幸せを望まないのか? この様なことを起こして悲しい顔をさせてもか?」

「チカリーヌは悲しい顔なんてしない。僕がいれば悲しい顔なんてするはずがないんだ!」


 全て私のせいだわ。

 お母様が亡くなり、大切な弟が悲しむからとつい甘やかしてしまった……家族としては愛しているけど、リルベットの愛は間違っていた。
 それを正さず、教えずに私は恐怖から弟から逃げてしまった。

 自分を守る事ばかり考えて。
 私はなんてことをしてしまったの……

「ふっ、うっうう……ごめんなさい」

「謝らないでチカリーヌ。泣かないで僕が側にいるから、ずっと側にいるよ」

 いや触らないで、違うの、これは違うの。

「ごめんね、私が全て招いたことなの……あぁ……っ」

「違う、全てこいつのせいだ! 無条件に甘やかしてくれる、守ってくれると、いつまでも姉に引っ付くこいつが全て悪い」


 レオーン様……手を伸ばすと優しく抱きしめてくれる。
 この優しい腕を知っている、彼の腕だとわかり胸にすり寄った。


「「チカに触るな! どいつもこいつも同じことばかり言いやがって!」」


「それだ! 今回の事も周りの忠告を聞かず、この様な事態を犯したお前を私は許さない。それ相当な罪に問う」

「嫌だ! 僕はチカリーヌと遠くで二人で幸せに暮らすんだ!」

 いくら行っても聞かないリルベットにため息をつく。

「それは出来もせぬ夢だ……いい加減に現実を見なさい。話は終わった、入って来ていいぞ。こいつを牢地下の屋へと連れて行け!」


 外に待っていた騎士がレオーン様の指示で入ってくる、私の名前を呼び泣き叫ぶ弟を捕まえているんだ。

 
「「ウルベット!」」


 咄嗟に呼んでしまった。
 レオーン様に甘やかすなと言われるだろう。私は弟のしたことを許そうと思う。

 大切な家族の一員だもの。

「チカリーヌ、こいつに止めるように言ってよ。僕の方を一番に愛している事を教えてやって!」

「貴方のことはお父様、お兄様と同じくらいに愛している。でも、それは家族としての愛なの」

「嫌だ、家族の愛なんていらない! チカリーヌ、僕とここから逃げよう!」

「連れて行け!」


「「はっ!」」


 多くの足音が部屋の中から去っていく。

 二度と罪を犯した弟とは会えないかもしれない。
 彼は隣国、それも罪人に厳しい獣人の国で、罪を犯してしまったのだから。

 私達の様な小国では何もできない。

 静かになった部屋、私を抱きしめるレオーン様。
 
「チカ……すまない。私が彼を裁く」

 優しく髪を撫でられて強張った体の緊張が解け、レオーン様の体温に次第に体が反応しれくる。

「あ、謝らないでください……レオーン様っ」

「チカ? そうか……この匂いは薬を使ったんだな」

 私の少しの反応に気が付き、ベッドに結ばれていた手首の紐を外し、シーツにしっかり私を包むと抱きかかえた。

「辛いだろう……戻って薬を抜かないとね」

 目隠しを取らずレオーン様に運ばれたのだった。



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