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間話 レオーン殿下を語る側近の話

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 今日も凛々しく書類に目通すレオーン殿下。
 しかし彼の尻尾は楽しげに揺れている。我々獣人は隠すことができませんね。

 もう直ぐ業務が終わりになります。
 レオーン殿下は愛しの姫のことを、お考えになっているのでしょう。


 申し遅れました、私はレオーン殿下の側近リオンと申します。
 レオーン殿下の側近になり早五年。
 私が二十五、レオーン殿下が十五の時に彼の側近につきました。



 私、獣人と人とのハーフとは違い、原種の血が濃い王族。
 青年期のレオーン殿下に番はなく、婚約者候補として選ばれた令嬢の中にも殿下の番はおられませんでした。
 他に探しても殿下の番は見つからない。

『ぐっはぁ……っ』
『レオーン様!』

 候補者の令嬢の前では、いくら辛くても彼女達の前では見せず。
 殿下は裏で吐き、寝込み、苦しんでおられました。

 それでも番は見つからなかった。

 十八の時に令嬢達の前で倒れてしまい。
 その令嬢達を傷付けたとレオーン殿下は悩み、番を探すことをお辞めになられてしまった。

『リオン、私はこの青年期を抜ける二十一まで待つ事にした』

 その時、悲しげな表情の殿下に私は何も言えず、頭を下げる事しかできなかった。
 国王陛下と王妃でさえ何も殿下に言わなかった。


 二年がたち。後半月で二十一になるレオーン殿下の元には多くの姫や令嬢との婚約の話が来るようになりました。


『相手など誰でもいい……この子にするかな』


 その中に獣人の姫とは違う人の姫、チカリーヌ王女に興味をお待ち。レオーン殿下に彼女の国を調べるように言われました。

 調べてみると彼女の方も相手は誰でもいいとの事。
 実の弟殿下の異様な好意に困り、早く婚約の相手が欲しいと願われておりました。

 弟殿下の危険な行動で王女に危険が及ぶと、殿下が二十一になる前。
 半年ではなく三ヶ月で、国へ呼ぶことが決定いたしました。

 彼女が国へと来る日。
 私は殿下に頼まれて王女を街まで迎えに出向きました。

 王女は私達、獣人とお会いになるのが初めてと聞いており、怖がられる覚悟でお会い致しました。

 ところが王女は私と騎士を見ても怖がらず。
 耳と尻尾を眺めてもふもふと、小声で言い微笑まられた。

 
 ♢


 チカリーヌ王女のご到着を伝えに執務室に向かう途中。
 気分が悪くなり王女を傷付けたくないと、迎えには出ないと言っていた殿下が私の横を走りさる。
 その後を必死に老体の執事と従者が追っかけていた。

『殿下? どうなさったのです?』

 私の声に足を止めて振り向いたレオーン殿下は身体中を真っ赤に染めて、毛を立てて興奮している様子。

『リオン、これは何だ? 初めて香る甘い香りに身体中の毛が立つ感じ、堪らない。この匂いの元に行き噛み付きたい』
 
 殿下は興奮している牙が伸びて王女を求めている。これはいくら獣人が大丈夫な王女でもこれでは怖がらせてしまう。

『レオーン殿下落ち着いてください。チカリーヌ王女が貴方様の番なのかも知れません。しかし王女は人なのです。殿下のその姿では怖がらせてしまう。ここは辛抱なさってください』

『チカリーヌ王女が私の番だと。この体に湧き上がる気持ちは……そうなのか。それが本当か確かめてくる』

 ボサボサな髪、シャツとズボンのまま行こうとする殿下を止めて、髪とジャケットを着せ何とか見える姿に致しました。
 
 そして馬車に足早に向かう殿下の後に続いた。
 しかし馬車からなかなか王女が降りてこない。

 何やら中から話し声が聞こえる。

『どうしましょう! レオーン王子が直々に迎えにこられてしまったわ、メリー髪を早く直して!』

 王女もまた、レオーン様が迎えに来るなんても思ってのいなかった様だ。


 お二人ともに誰でもいいと決めた相手。


 今でも忘れない、チカリーヌ王女を見た殿下の尻尾は悦びに揺れて、彼女の首筋に飛びつく姿を……そのまま彼女を連れ去る姿を。


 それを見送った後。
 出迎えたメイドは悲鳴を上げ、騎士達は声をあげて喜んだ。

『ようやく殿下に春が来ましたね』


 チカリーヌ様が執務室の近くを通れば耳が動き。
 庭園に出れば尻尾が揺れる。

 口元を綻ばせて微笑んでいることに、殿下は気付いているのでしょうか。

 
 ♢
  

 執務室で最後の書類に目を通す最中、殿下の尻尾の揺れが激しくなる。

「リオン、終わった。私は部屋に戻り用意を済ませてチカの部屋に向かう」

「わかりました、後はお任せください。お疲れ様でした」
「お疲れ様!」

 殿下の辛かった時期を知っている者は優しく微笑み。
 足早に城の中を歩くレオーン殿下を優しく見守っている。

   
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