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(番外編)その後の2人

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 アルベールとリュシエンヌはパーティー会場から連れ出されアルベールの自室に放り込まれた。
 ごく普通の人ならば気まずくなって沈黙が部屋を支配するところだが、この2人は違う。

「なんで……、なんでこんな事に! アルベール様が頼りないからこんな事になってしまったのですよ!」

「な! 人のことを騙しておきながらよくも僕を責められたものだな! まずは謝罪の言葉があってしかるべきだろう!!」

「あんな見え透いた嘘に騙される殿下の方が悪いに決まってるじゃありませんか!」

「ふん、僕は善良で素直なところが長所だからな、騙されてしまうのは仕方ない」

 お互いに『自分は悪くない』と信じる2人の意見が交わる事などない。

「まさかわたくしの話し以外に婚約破棄の切り札が無いとは思いませんでした。長年一緒に居れば婚約破棄するに足る理由があると思いましたのに」

「君が見せてくれた破かれた教科書や切られた制服は準備していた」

「それこそ誰が破いたか分からない物が証拠になる訳ないじゃないですか」

「……もうよい!」

 アルベールはつい先ほど多くの人から反論され一つも言い返せなかったのに、部屋に戻ってからもまた言い返せない。

「僕たちは平民として結婚し、一緒に暮らさなければならないんだ、いがみ合ってても仕方ない」

「わたくしは貧乏な暮らしなどゴメンですので、即座に離婚し大きな商会の跡取り息子でもつかまえて嫁ぎますわ」

「な、なんだと! 自分だけ逃げようとは許さんぞ!!」

「アルベール様も裕福な中産階級の令嬢をつかまえて婿養子に入ればよろしいではありませんか。見た目だけは素晴らしいんですから」

「そ、そうか、そうすれば落ちぶれた惨めな生活を送らなくて済むな、良い案だ。それでいこう!」

「そうですわ、見た目だけは素晴らしい殿下と、若さと美貌と知性を兼ね備えたわたくしが手を結べば明るい未来が待っていますわ!」

 アルベールは何かが引っ掛かったが言ってもまたやり込められるだけだと口をつぐんだ。


 そうして2人は同志として作戦会議という名の甘い夢を見始める。
「まずはドゴール殿に名家の令息令嬢を紹介してもらうとしようか」




 2人は大きな声でやりあっていた為、扉の外で警護していた衛兵にすべての会話が筒抜けだった。
 パーティー会場での一部始終を見ていた衛兵からすると、さすがにドゴールが2人と関わりを持つはずが無いと思うのだが……。



 結局、作戦会議は盛り上がり、王族に復帰できるほど壮大な計画に膨れ上がるのを2人は実現可能な目標だと信じて楽しい時間を過ごしていた。

 扉の外で衛兵は「案外と相性の良い夫婦になりそうだな……」と、そっと呟いた。



■□■□■□■□■□■□■□

すでに完結済みでしたが、感想欄で2人のその後が気になるというお言葉を戴きましたので書いてみました。

どこか憎めない2人に凄惨な「ざまぁ」はしたくなかったので、前向きな形にしましたがいかがだったでしょうか?

フェルナンドについてもご要望をいただいておりますので、前向きに検討します。

初めて書いた作品を多くの方に楽しんでいただき、さらにご要望もいただけるとは非常にありがたい事です。
本編のみのつもりでしたので「完結」にしていましたが、番外編を書くために「連載中」に戻しておきます。
少し時間がかかるかと思いますが、更新した際にはまたよろしくお願いいたします。
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