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3.普通科の生徒と第2王子の証言

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「同級生の皆様は私が話し掛けても席を立たれたり無視されますの。ずっと教室で孤立していて……」

 リュシエンヌは顔を俯けて目もとを拭う。上から見下ろすアルベールには泣いてるようにしか見えないが、横から見てる聴衆は涙を流していない事がよく見て取れた。

「殿下、発言してよろしいでしょうか」

 聴衆をかき分け、おずおずと普通クラスに通う2人の令嬢が進み出る。国王主催のパーティーに参加できる程上位の家格でありながら普通クラスという成績を恥じて隠れるようにしていたが、濡れ衣を着せられては流石に黙っていられない。

「クラス全員、リュシエンヌさんと関わらないようにしてるのは確かな事でございます」
「クラス全員だと!? オルタンス、貴様というやつはそんなにも!」

「いえ、違います、殿下。リュシエンヌさんは、何か話してもすべて曲解し常にご自身を被害者、相手の方を悪者に仕立ててしまうため、もう誰も関わりたくないのです」
「気怠そうにされていたので体調がお悪いようなら保健室に行かれては、と心配された方に『どうせ仮病だと思ってるんですよね』と泣いてみたり、ちょっと肩が触れる程度にぶつかってしまった方を『転ばせようとしましたね』と泣いてみたり……、そうした事が続いて皆さんももう関わらないようにしているのです」

「そ、それは、皆さんが私にイジワルをするから……!」
「殿下、今の話しをイジワルだと思われましたか?」
「む、むぅ……、どうやらクラスにおいては不幸なすれ違いが起きてるようだな……」

 リュシエンヌがオルタンスにいじめられた、という話しを頑なに「真実」と信じるアルベールは強引に結論をずらしてみせる。

「という事は、オルタンスは王宮にてリュシエンヌをいじめたという事になるな」
 最初に弾劾した学園での犯行の数々はもう頭から抜けている。


「兄上、それは無理がありましょう」

 進み出てきたのは第2王子のランベール。
 柔和な雰囲気の優しい顔立ち。「武」はからっきしだが「智」では近隣諸国にも名が轟いている。
 アルベール達の1学年下の特進クラスで、入学以来学年トップを譲らない天才だ。
 弟ではあるが、王太子に推す貴族は多い。

「オルタンス嬢が王宮に居るのは妃教育のためなので問題ありませんが、男爵令嬢はなぜ王宮に居るのでしょう?」
「確かに」とフェルナンドが面白そうにうなずく。

「お、お前は関係ないだろう、引っ込んでいろ」

 勿論ランベールは引っ込むつもりはない。
「さらに言うと、リュシエンヌ嬢は婚約者でもない兄上の自室で2人きりで過ごされていますよね?」

「な! なぁ! なぁー!?」

「なんで知ってるか、ですか? 上手く隠してるつもりだったのかもしれませんが、リュシエンヌ嬢が侍女に向かって高圧的で尊大な態度を取ったからですよ。お茶だけ置いてとっとと出て行きなさいよ、とかね。気に入らない事があると兄上に言ってクビにしてやると脅したとか。侍女は兄上ではなく王家に雇われているのでクビにはできないのですがね……。王子の客人ではあるが目に余る、と苦情が多くあげられていますよ。」

 フェルナンドが呆れた様子で呟く。
「おやおや、婚約者が妃教育を頑張ってるすぐ近くで浮気をしていたとは……、さぞやスリルが有って燃え上がった事でしょうね」

「いや! これは浮気ではなく、いじめられているというリュシエンヌの相談に乗っていただけだ、やましい事は何もないぞ!」

「兄上、例え婚約者であっても婚姻前に二人きりで部屋で過ごすのは王族、貴族の常識ではやましい事とされていますよ。しかも婚約者以外ですから……」

「うるさい! うるさい! 誰が何と言おうとも僕たちは潔白だ! いじめをする方が悪いに決まってるだろ!」

「いじめの相談なら兄上の自室ではなく学園で出来ますし、身分が通用しない学園において兄上は単なる普通クラスの生徒。問題解決の力はありませんから、教職員の方へ相談するべきでしょう」


(王宮で妃教育が終わってからお会いしようとしても会えなかったのは、リュシエンヌ様とご一緒だったからですか………)
 オルタンスは婚約者であるアルベールに少しの時間であっても寄り添おうとしていたが、その機会も得られなかった理由を知った。


「アルベール、もうその位にしておきなさい」
 さすがに見かねたのか王妃が止めに入った。
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