しずかのうみで

村井なお

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第九章 凪の日

52.お留守番

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 のどかが、不安そうな顔で本殿とニオを交互に見る。

 もうそこに姫神さまの姿はない。

「はい」

 手をぱちんと打ち、のどかにこっちを見させる。

「じゃあ、ニオの魂祓えしてよっか。さっきやったばかりだけど、姫神さまも行っちゃったから念のためね。念のため」

「……そうだね」

 多分こういうときは何かしていないとダメだ。
 何もしていないと余計なことばっかり考えて、自分で自分の不安をふくれあがらせちゃう。

「ニオ、起きられる?」

 横になって眠っているニオに声をかける。

「……」

 ニオは呼びかけに反応しない。

「寝ちゃった?」

 のどかがニオの顔をのぞきこむ。

 と、その瞬間。

 掛ぶとんの下から黒いかすみが漏れだした。

「ニオ!」

 のどかが掛ぶとんを引っぺがす。

 隠れていた幽気がぶわっと湧きあがる。

 血を溶かした墨汁のようなかすみが、拝殿に広がっていく。

「……っ!」

 一瞬、気が遠くなった。

「しずか!」

 投げ寄こされた大幣を受けとる。

「のどか!」

 わたしに言われるまでもなく、のどかはもう幽気に守り刀の刃を立てていた。

 ニオにまとわりつく幽気のひもが御解しされていく。

 わたしはあたりに広がった幽気を、掃除するように御寧めしていく。

「これ、まずい……!」

 少しずつ、だけど確実に、御寧めが遅れていく。

 幽気が湧くのに追いついてない!

 と、いきなり拝殿の戸が開いた。

「みちるさん!」

 振りかえったわたしの目にうつったのは、幽気をまとう黄泉醜女よもつしこめの姿だった。
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