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第八章 このうみにきっと
48.結界の神札
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と、そのとき。
「みちるちゃん、ここにいなくてもいいですよ」
と、本殿から姫神さまが現れた。
のどかがびくっとはねた。
どうやら、神さまがいきなり現れるのにまだ慣れてないみたい。
「いなくていいって。何ですか、いきなり」
みちるさんが不機嫌をかくさずに姫神さまに言った。
「ニオちゃんなら、ここに来てもらえばいいです。さすがの黄泉醜女も、ぼくのいる神社には入れませんです。嵐のほうもだいじょうぶですよ。この分だと、うみが荒れるのは夜遅くになってからです。それまでに帰ってくればオッケーです」
「でも、間に合わなかったら」
「ぼくがいるのでだいじょうぶです」
と、姫神さまは軽く言いきった。
「すごい。姫神さまが超頼もしい」
思わずつぶやいてしまった。
「まるで普段が頼りないみたいな言い方。昨日もちゃんと守ったのにです」
「わーっ! そんなことないです! ただちょっと見た目が不良中学生だったり幼稚園児みたいだったりで、その、えーと、かわいいです!」
あわててとりつくろったらニオみたいになってしまった。
「さっきから誰と話してるんだい?」
お父さんがきょろきょろとあたりを見まわしている。
そうか。神さまの姿は神通力のある神仕えにしか見えない。
「そこに姫神さまがいるんだよ」
「それは大変だ。あいさつしないと。いつも三人がお世話になっています」
と、お父さんはていねいに最敬礼をした。
でも、頭を下げた方向は九十度くらいズレていた。
「はーい。お世話してますです」
と、姫神さまは両手でピースをしてこたえた。
そんなだから頼もしいと思えないのです。
いや、口に出しては言わないけれど。
「お父さん。姫神さまは『自分がいるからだいじょうぶ』だって言ってるよ」
「のどか!」
みちるさんが、余計なこと言うなと顔全体で怒る。
「みちるさん」
頭を上げたお父さんが、みちるさんのほうを向く。
「伊吹の家に行こう。ここは姫神さまにおまかせできるんでしょう?」
「でも」
「会えないならしかたない。でも、会えるのに会わなかったら、いつか絶対に後悔するよ」
「……」
みちるさんが顔を向けると、姫神さまは人さし指を立てて言った。
「みちるちゃん。自分にできることをしなさいですよ」
みちるさんは目を閉じ、大きくため息をついた。
「……わかりました。行ってきます」
一度折れてからのみちるさんは早かった。
「伊吹の本家は伊吹山のふもとにあります。ここから車で一時間くらい。義兄さんも行ったことがありましたよね? わたしは体力を温存したいので運転をお願いします」
お父さんにそう頼んだみちるさんは、白衣から洋服に着替え、常装や祭具をカバンに詰めこんだ。
そして出かけるしたくが整うと、みちるさんはわたしとのどかを並べて言いつけた。
「二人には二人の御役目があります。嵐になるのはきっと夜になってから。それまでは凪が続く。その間、ずっとここでニオちゃんの魂祓えを続けてて。半日程度だから問題はないと思うけど、最近の幽気は少しおかしい。昨日も辺津宮の近くにまで黄泉醜女が来たくらいだし、念には念を入れてね」
それからみちるさんは神札をのどかにわたした。
「ニオちゃんを連れてきたら、これを拝殿の入り口に貼りなさい。結界の神札よ。姫神さまに縁のある者以外は通れなくなる」
そして最後に、みちるさんは姫神さまに最敬礼をした。
「みずうみのこと、ニオちゃんのこと。万が一のときにはお願いいたします」
「おまかせなさいです」
姫神さまは両手の親指を立てて胸を張った。
「みちるちゃん、ここにいなくてもいいですよ」
と、本殿から姫神さまが現れた。
のどかがびくっとはねた。
どうやら、神さまがいきなり現れるのにまだ慣れてないみたい。
「いなくていいって。何ですか、いきなり」
みちるさんが不機嫌をかくさずに姫神さまに言った。
「ニオちゃんなら、ここに来てもらえばいいです。さすがの黄泉醜女も、ぼくのいる神社には入れませんです。嵐のほうもだいじょうぶですよ。この分だと、うみが荒れるのは夜遅くになってからです。それまでに帰ってくればオッケーです」
「でも、間に合わなかったら」
「ぼくがいるのでだいじょうぶです」
と、姫神さまは軽く言いきった。
「すごい。姫神さまが超頼もしい」
思わずつぶやいてしまった。
「まるで普段が頼りないみたいな言い方。昨日もちゃんと守ったのにです」
「わーっ! そんなことないです! ただちょっと見た目が不良中学生だったり幼稚園児みたいだったりで、その、えーと、かわいいです!」
あわててとりつくろったらニオみたいになってしまった。
「さっきから誰と話してるんだい?」
お父さんがきょろきょろとあたりを見まわしている。
そうか。神さまの姿は神通力のある神仕えにしか見えない。
「そこに姫神さまがいるんだよ」
「それは大変だ。あいさつしないと。いつも三人がお世話になっています」
と、お父さんはていねいに最敬礼をした。
でも、頭を下げた方向は九十度くらいズレていた。
「はーい。お世話してますです」
と、姫神さまは両手でピースをしてこたえた。
そんなだから頼もしいと思えないのです。
いや、口に出しては言わないけれど。
「お父さん。姫神さまは『自分がいるからだいじょうぶ』だって言ってるよ」
「のどか!」
みちるさんが、余計なこと言うなと顔全体で怒る。
「みちるさん」
頭を上げたお父さんが、みちるさんのほうを向く。
「伊吹の家に行こう。ここは姫神さまにおまかせできるんでしょう?」
「でも」
「会えないならしかたない。でも、会えるのに会わなかったら、いつか絶対に後悔するよ」
「……」
みちるさんが顔を向けると、姫神さまは人さし指を立てて言った。
「みちるちゃん。自分にできることをしなさいですよ」
みちるさんは目を閉じ、大きくため息をついた。
「……わかりました。行ってきます」
一度折れてからのみちるさんは早かった。
「伊吹の本家は伊吹山のふもとにあります。ここから車で一時間くらい。義兄さんも行ったことがありましたよね? わたしは体力を温存したいので運転をお願いします」
お父さんにそう頼んだみちるさんは、白衣から洋服に着替え、常装や祭具をカバンに詰めこんだ。
そして出かけるしたくが整うと、みちるさんはわたしとのどかを並べて言いつけた。
「二人には二人の御役目があります。嵐になるのはきっと夜になってから。それまでは凪が続く。その間、ずっとここでニオちゃんの魂祓えを続けてて。半日程度だから問題はないと思うけど、最近の幽気は少しおかしい。昨日も辺津宮の近くにまで黄泉醜女が来たくらいだし、念には念を入れてね」
それからみちるさんは神札をのどかにわたした。
「ニオちゃんを連れてきたら、これを拝殿の入り口に貼りなさい。結界の神札よ。姫神さまに縁のある者以外は通れなくなる」
そして最後に、みちるさんは姫神さまに最敬礼をした。
「みずうみのこと、ニオちゃんのこと。万が一のときにはお願いいたします」
「おまかせなさいです」
姫神さまは両手の親指を立てて胸を張った。
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