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第八章 このうみにきっと
45.ふたりはあの日
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授与所はおばあさんにまかせて、わたしは本殿周りの掃除に向かった。竹ぼうきを持って本殿の裏に行く。
「こら、サボり」
のどかが振り向く。
「そう言うしずかだって」
「……まあね」
わたしものどかも竹ぼうきは持っているけれど、持っているだけだ。
のどかの隣に立つ。
立ち並ぶクスノキのすき間から、今日も大きな琵琶湖を見おろす。
見上げれば、遠く対岸には青味をおびた山並みがそびえている。
ここからあそこまでの間。
手の届きそうなこの景色の中、みずうみのどこかにお母さんは今もいる。
きっと今、のどかはそんなことを考えている。
「……わたしたち、小学校にあがる前までさ」
と、のどかに話しかける。
「ずっといっしょだったよね。おたがい何考えてるか言わなくてもわかったし」
「今でもたまにわかるけどね」
「うん。でも、わかんないことのほうが多いよ。ずっと多い」
「そうだね」
と、のどかがうなずく。
「ねえ。のどかは何であの日、お母さんのあの日、留守番してたの?」
あの頃わたしたちはずっといっしょだった。
だからこそわからないことがある。
何でお母さんのそばにいたのがわたしだけだったのか、何でのどかがいなかったのか。
それがどうしてもわからない。
「覚えてないんだね」
ため息をつくのどか。
「あんまり話したくないな」
「嫌な話なら聞かないけど」
「……」
「じゃあ、恥ずかしい話?」
「……」
「絶対笑わないから」
わたしがそう言って拝むと、のどかは「んー」とうなって頭をかいた。
「……しずかがさ、食べちゃったんだよ」
「へ? 何を?」
「僕のチーズケーキ」
「……へえ」
「覚えてないんでしょ」
「レア? ベークド?」
のどかはため息まじりに「レアだったよ」と答えた。
「で、僕が怒ったら、母さんが『ケンカしちゃダメよ』って。そのときの僕は『母さんがしずかの味方をした』っていじけて……」
「それで家にいたんだ!」
言われてみればそんなケンカをしたことがあった気がする。
本当気がするだけで、全然思い出せではいないんだけど。
「……なんか、ごめん」
「楽しみにとっておいたんだよ」
「しょうがないわね。今度ケーキひと切れあげるから」
わざとらしく天をあおいで見せる。
「しょうがないな。それで許してあげるよ」
のどかもしぶい顔をして見せる。
「えへ」
「はは」
おたがい肩をすくめて小さな笑顔を交換する。
「こら、サボり」
のどかが振り向く。
「そう言うしずかだって」
「……まあね」
わたしものどかも竹ぼうきは持っているけれど、持っているだけだ。
のどかの隣に立つ。
立ち並ぶクスノキのすき間から、今日も大きな琵琶湖を見おろす。
見上げれば、遠く対岸には青味をおびた山並みがそびえている。
ここからあそこまでの間。
手の届きそうなこの景色の中、みずうみのどこかにお母さんは今もいる。
きっと今、のどかはそんなことを考えている。
「……わたしたち、小学校にあがる前までさ」
と、のどかに話しかける。
「ずっといっしょだったよね。おたがい何考えてるか言わなくてもわかったし」
「今でもたまにわかるけどね」
「うん。でも、わかんないことのほうが多いよ。ずっと多い」
「そうだね」
と、のどかがうなずく。
「ねえ。のどかは何であの日、お母さんのあの日、留守番してたの?」
あの頃わたしたちはずっといっしょだった。
だからこそわからないことがある。
何でお母さんのそばにいたのがわたしだけだったのか、何でのどかがいなかったのか。
それがどうしてもわからない。
「覚えてないんだね」
ため息をつくのどか。
「あんまり話したくないな」
「嫌な話なら聞かないけど」
「……」
「じゃあ、恥ずかしい話?」
「……」
「絶対笑わないから」
わたしがそう言って拝むと、のどかは「んー」とうなって頭をかいた。
「……しずかがさ、食べちゃったんだよ」
「へ? 何を?」
「僕のチーズケーキ」
「……へえ」
「覚えてないんでしょ」
「レア? ベークド?」
のどかはため息まじりに「レアだったよ」と答えた。
「で、僕が怒ったら、母さんが『ケンカしちゃダメよ』って。そのときの僕は『母さんがしずかの味方をした』っていじけて……」
「それで家にいたんだ!」
言われてみればそんなケンカをしたことがあった気がする。
本当気がするだけで、全然思い出せではいないんだけど。
「……なんか、ごめん」
「楽しみにとっておいたんだよ」
「しょうがないわね。今度ケーキひと切れあげるから」
わざとらしく天をあおいで見せる。
「しょうがないな。それで許してあげるよ」
のどかもしぶい顔をして見せる。
「えへ」
「はは」
おたがい肩をすくめて小さな笑顔を交換する。
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