しずかのうみで

村井なお

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第七章 お母さんはあの日

41.死の呪法

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「黄泉醜女は、ニオに何をしていたんですか?」

 と、のどかが聞く。

「あれは、たまひきの術といいます。死の呪法の一種です。生きている人の魂は肉体にむすびついています。現世と縁ができているといってもいいですね」

 みちるさんから教わったことを思いだす。
 『神社のお勤めにはげみ、人や土地とのつながりを強めなさい。現世との縁を深め、魂と肉体とのつながりを強めれば、幽世へ魂を引こうとする幽気にも負けないようになる』

「お二人は、歳神としのかみさまという神さまを知ってるですか?」

 と、姫神さまが聞いてきた。また知らない神さまが出てきた……。

「年の始めにやって来る神さまですよね」

「のどかちゃんは本当によく知ってるですね。そう、歳神さまはお正月にやって来て人に祝福をあたえるです。一年に一回、ひとつずつ現世との縁をむすんでいくです。数え年というのは、毎年のお正月にひとつずつ年を重ねる数え方です。これは、うけた祝福の数を年齢としているです。生まれたとき、人は伊耶那岐命の祝福をうけているので『ひとつ』、一歳になります。そして初めてのお正月で歳神さまの祝福を受け、二歳になるのです」

 数え年ってお父さんから聞いたことはあったけど、そういうしくみだったんだ。
 わたし、数え年だと今何歳なんだろう?

「二人とも七五三のお祝いはもうやったですよね? 『七つまでは神のうち』ということわざがあるのですが、これは、子どものうちは現世との縁がまだうすいことを示してるです。数えで七歳になったら現世の人としてもいいかなみたいな意味です」

 姫神さまの表情が少しだけ暗くなった。ような気がする。

「年を重なれば重ねるほど、現世との縁は強くなるです。現世との縁とは、魂と肉体とのむすびつきです。黄泉醜女がとりおこなっていた魂ひきの術は、そのむすびつきを無理やりひっぺがすです。人がうけた祝福の回数、つまり数え年の年齢をこえる数の幽気がむすばれたとき、魂をひっぱる力は幽気のほうが上まわるです」

「……幽世に、引っぱりこまれる?」

 姫神さまがうなずく。

「年老いて肉体が滅びるのとはわけがちがうです。幽気をむすびつけて、まだ健康な肉体から魂をひっぺがすです。その苦しみは、例えようもないほどだと聞きます」

「……何で、どうしてニオがそんな目にあわないといけないの?」

 悲しみなのか、怒りなのか、よくわからないけれど、胸が痛い。

「幽世から逃げかえる伊耶那岐命に、黄泉津大神は言挙ことあげしたです。『これからわたしは現世の人を一日に千人殺す』と。一日に死ぬ人が千人より少ないとみると、黄泉津大神は黄泉醜女を現世にさしむけるです。そして、」

「そうじゃなくて!」

 思わず叫ぶ。

 それからわれにかえる。姫神さまの言葉をさえぎってしまった。

「……ごめんなさい」

「しずかちゃんが言いたいのは、なぜニオちゃんが選ばれちゃったのか、ですね」

 姫神さまは、うつむくわたしの頭をなでた。

「しずか、のどか」

 黙って聞いていたみちるさんが、ここにきて口を開いた。
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