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第六章 お出かけしよう
38.黒づくめの影
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ロープウェーをおりて、駅から出る。
……何だろう。この違和感。
耳鳴りがしそうなほどに音がない。
昼すぎに出かけるときも、山に上るため前を通ったときも、ロープウェーの駅前は人でいっぱいだった。
すぐそばには辺津宮神社もあるし、八幡堀もある。
駅前は観光客はひっきりなしに通る場所なのに。
それなのに、人がいない。
あたりは夕暮れの暗いオレンジに沈んでいる。
そこに人かげがひとつ。
ひとつだけ立っている。
まだ電灯もつかない時間だから、人かげは真っ黒で顔も姿もはっきりしない。
「あれ、何だろ、足に力が」
ニオがうずくまる。
すると、いきなり。
ニオの足もとから、もやもやと赤黒いかすみがわきあがった。
見まちがえるはずもない。
幽気だ!
「ニオ? ニオ!?」
のどかがニオの背中をぱしぱしとたたきだした。
「しずか! この黒いの、これが神気なの!?」
のどかがめずらしくあせった表情を浮かべる。
「ううん、ちがう。これは幽気!」
道の向こうから、人かげがすべるように近づいてくる。
「何だ、あの人。人?」
ぶ厚い黒の着物に、黒い霧のようなヴェール。
さっき八幡堀で見かけた女の人だ。
と、ニオが寝そべった地面から、幽気がぶわあっと一気にあふれだした。
わたしとのどかは幽気につつみこまれて、このにおい、何だっけ、夏の終わりを思い出すような。
「……きんもくせ、い?」
と、つぶやいたのどかが道に倒れこんだ。
今ここでのどかまで倒れたら……。
二人引っぱって逃げるなんて……。
だったら立ち向かうしかない!
まずはニオについた幽気を何とかしないと。
手で払うと、幽気にかくれていたニオの頭が見える。
顔が真っ白で、血の気がなくて。
そして髪の毛が真っ白だった。
背筋に冷たいものが走る。これじゃまるで……。
黒づくめの女がさらに近づく。
きんもくせいのにおいに、果物がくさったようなにおいが混じってきて……。
ダメだ! ここで意識をとばしたら!
自分のほほをつねって目を覚ます。
手もとには守り刀がない。武器になるようなものが、何も!
もう目の前に、黒づくめが、せまってきて……!
しかし黒づくめは、わたしの横を素通りして、そしてニオに手を伸ばして。
「ーーーーーっ!」
舌をかむ。血の味が口中に広がる。
よし! 目がさめた!
駆けより、黒づくめの背中を蹴る!
しかし、まったく反応しない。
黒づくめの女は周囲の幽気をひも状につむぎ、ニオの左手に結び始めた。
「この! はなれて! はなれろ!」
ひっぱる。蹴る。肩から突っこむ。
何もきかない。まったく動かない。
ニオに幽気が結ばれていく。
ひとつ、二つ、三つ……。
わたしには、それを見ていることしかできなくて……。
……何だろう。この違和感。
耳鳴りがしそうなほどに音がない。
昼すぎに出かけるときも、山に上るため前を通ったときも、ロープウェーの駅前は人でいっぱいだった。
すぐそばには辺津宮神社もあるし、八幡堀もある。
駅前は観光客はひっきりなしに通る場所なのに。
それなのに、人がいない。
あたりは夕暮れの暗いオレンジに沈んでいる。
そこに人かげがひとつ。
ひとつだけ立っている。
まだ電灯もつかない時間だから、人かげは真っ黒で顔も姿もはっきりしない。
「あれ、何だろ、足に力が」
ニオがうずくまる。
すると、いきなり。
ニオの足もとから、もやもやと赤黒いかすみがわきあがった。
見まちがえるはずもない。
幽気だ!
「ニオ? ニオ!?」
のどかがニオの背中をぱしぱしとたたきだした。
「しずか! この黒いの、これが神気なの!?」
のどかがめずらしくあせった表情を浮かべる。
「ううん、ちがう。これは幽気!」
道の向こうから、人かげがすべるように近づいてくる。
「何だ、あの人。人?」
ぶ厚い黒の着物に、黒い霧のようなヴェール。
さっき八幡堀で見かけた女の人だ。
と、ニオが寝そべった地面から、幽気がぶわあっと一気にあふれだした。
わたしとのどかは幽気につつみこまれて、このにおい、何だっけ、夏の終わりを思い出すような。
「……きんもくせ、い?」
と、つぶやいたのどかが道に倒れこんだ。
今ここでのどかまで倒れたら……。
二人引っぱって逃げるなんて……。
だったら立ち向かうしかない!
まずはニオについた幽気を何とかしないと。
手で払うと、幽気にかくれていたニオの頭が見える。
顔が真っ白で、血の気がなくて。
そして髪の毛が真っ白だった。
背筋に冷たいものが走る。これじゃまるで……。
黒づくめの女がさらに近づく。
きんもくせいのにおいに、果物がくさったようなにおいが混じってきて……。
ダメだ! ここで意識をとばしたら!
自分のほほをつねって目を覚ます。
手もとには守り刀がない。武器になるようなものが、何も!
もう目の前に、黒づくめが、せまってきて……!
しかし黒づくめは、わたしの横を素通りして、そしてニオに手を伸ばして。
「ーーーーーっ!」
舌をかむ。血の味が口中に広がる。
よし! 目がさめた!
駆けより、黒づくめの背中を蹴る!
しかし、まったく反応しない。
黒づくめの女は周囲の幽気をひも状につむぎ、ニオの左手に結び始めた。
「この! はなれて! はなれろ!」
ひっぱる。蹴る。肩から突っこむ。
何もきかない。まったく動かない。
ニオに幽気が結ばれていく。
ひとつ、二つ、三つ……。
わたしには、それを見ていることしかできなくて……。
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