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第六章 お出かけしよう
37.夕凪
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事件は横断歩道で起きた。
八幡山にのぼるため、新町通りから八幡堀のほうへ戻ろうとしていたときのことだった。
青信号が点滅しだしたので、わたしとのどかは小走りで横断歩道をわたりきったのだが……。
ふと横を見ると、ニオがいない。
あわてて振りかえる。
ニオは、横断歩道の真ん中で立ち止まっていた。
「ニオ、どうしたの? ニオー?」
くりかえし呼びかけても反応がない。
と、そうこうしているうちに、横の信号が青に変わった。
「ニオ!」
とっさに走り出し、ニオの手をとる。
そのまま無理やり引っぱって歩道へ。
すぐそこをトラックが走り抜けていく。
「ニオ! どうしたの?」
肩を揺さぶると、ようやくニオの目に光が戻った。
「あれ? しーちゃん? かーくん?」
と、あたりを見まわすニオ。
「どうしちゃったの? 横断歩道の真ん中で止まってたよ!」
「え? ……ごめん」
「ごめんじゃなくて、危なかったのはニオだよ。何もなかったからいいけど」
「ニオ、つかれた?」
のどかがニオの顔をのぞきこむ。
「え、ううん!」
と、ニオはあわてて手を振った。
「平気平気、全然元気! ごめん、ちょっとぼんやりしちゃって。さ、行こ!」
そう言ってニオはそそくさと歩きだした。
のどかと顔を見合わせる。
無理してないかな?
ちょっと気をつけたほうがいいね。
辺津宮神社の前に戻り、今度はロープウェーで八幡山へのぼった。
上の駅から少し歩くと、八幡山城西の丸阯にたどり着いた。
「わー! すごい眺め!」
百八十度一面に広がる景色は、ぐるりと近江八幡の町並みから、広がる水田、ぽつりと浮いた島みたいな小山、そして琵琶湖まで!
うちの本殿裏からの景色もなかなかだけど、山の上から見わたすのとはやっぱりちがう。
「ね、ニオ。うちの神社ってどのへんかな」
「えっと……あそこだね。ほら、丘の上」
「ああ、本当だ! あの鳥居はそうだね。じゃあ、あれが『ウェーブレット』かな?」
「うん。ここから見ると、うちっておもちゃみたいだね」
こうしているとニオはいつもどおりだ。横断歩道でのあれは何だったんだろう?
西の丸阯には、景色以外にもおもしろいものがあった。
金属でできた大きな『LOVE』のオブジェ。
なぜ城跡にそんなものがあるのかはさっぱりわからなかったけど、写真を撮るならここしかない!
「ほら、ニオ! ケータイ貸して! そこで写真撮ってあげる!」
「しししししーちゃん!? わたしのような町娘がのどかさまと写真なんか撮ったら打ち首で殿様の魂がメール添付で飛んでっちゃうよ!?」
八幡山から下りる頃にはもう四時を過ぎていた。
ロープウェーに乗っているとき、ふと気づいた。
「風、止まったね。上りのときはちょっと揺れたのに」
「夕凪だね」
と、ニオがつぶやく。
「何それ?」
「琵琶湖の周りって、だいたいいつも風が吹いてるんだけどね、朝と夕方には少しだけ風が止まる時間があるんだよ。理科で海風と陸風って習った?」
「陸と海だと比熱がちがうから、昼と夜で風の向きが変わるんだよね」
のどかが答える。
「琵琶湖って大きいから、海と同じで、一日のうちでも風向きが入れ替わるんだよ」
「じゃあ、その入れ替わるタイミングが朝と夕方なのね」
「そういうこと。朝凪と夕凪っていうんだよ」
八幡山にのぼるため、新町通りから八幡堀のほうへ戻ろうとしていたときのことだった。
青信号が点滅しだしたので、わたしとのどかは小走りで横断歩道をわたりきったのだが……。
ふと横を見ると、ニオがいない。
あわてて振りかえる。
ニオは、横断歩道の真ん中で立ち止まっていた。
「ニオ、どうしたの? ニオー?」
くりかえし呼びかけても反応がない。
と、そうこうしているうちに、横の信号が青に変わった。
「ニオ!」
とっさに走り出し、ニオの手をとる。
そのまま無理やり引っぱって歩道へ。
すぐそこをトラックが走り抜けていく。
「ニオ! どうしたの?」
肩を揺さぶると、ようやくニオの目に光が戻った。
「あれ? しーちゃん? かーくん?」
と、あたりを見まわすニオ。
「どうしちゃったの? 横断歩道の真ん中で止まってたよ!」
「え? ……ごめん」
「ごめんじゃなくて、危なかったのはニオだよ。何もなかったからいいけど」
「ニオ、つかれた?」
のどかがニオの顔をのぞきこむ。
「え、ううん!」
と、ニオはあわてて手を振った。
「平気平気、全然元気! ごめん、ちょっとぼんやりしちゃって。さ、行こ!」
そう言ってニオはそそくさと歩きだした。
のどかと顔を見合わせる。
無理してないかな?
ちょっと気をつけたほうがいいね。
辺津宮神社の前に戻り、今度はロープウェーで八幡山へのぼった。
上の駅から少し歩くと、八幡山城西の丸阯にたどり着いた。
「わー! すごい眺め!」
百八十度一面に広がる景色は、ぐるりと近江八幡の町並みから、広がる水田、ぽつりと浮いた島みたいな小山、そして琵琶湖まで!
うちの本殿裏からの景色もなかなかだけど、山の上から見わたすのとはやっぱりちがう。
「ね、ニオ。うちの神社ってどのへんかな」
「えっと……あそこだね。ほら、丘の上」
「ああ、本当だ! あの鳥居はそうだね。じゃあ、あれが『ウェーブレット』かな?」
「うん。ここから見ると、うちっておもちゃみたいだね」
こうしているとニオはいつもどおりだ。横断歩道でのあれは何だったんだろう?
西の丸阯には、景色以外にもおもしろいものがあった。
金属でできた大きな『LOVE』のオブジェ。
なぜ城跡にそんなものがあるのかはさっぱりわからなかったけど、写真を撮るならここしかない!
「ほら、ニオ! ケータイ貸して! そこで写真撮ってあげる!」
「しししししーちゃん!? わたしのような町娘がのどかさまと写真なんか撮ったら打ち首で殿様の魂がメール添付で飛んでっちゃうよ!?」
八幡山から下りる頃にはもう四時を過ぎていた。
ロープウェーに乗っているとき、ふと気づいた。
「風、止まったね。上りのときはちょっと揺れたのに」
「夕凪だね」
と、ニオがつぶやく。
「何それ?」
「琵琶湖の周りって、だいたいいつも風が吹いてるんだけどね、朝と夕方には少しだけ風が止まる時間があるんだよ。理科で海風と陸風って習った?」
「陸と海だと比熱がちがうから、昼と夜で風の向きが変わるんだよね」
のどかが答える。
「琵琶湖って大きいから、海と同じで、一日のうちでも風向きが入れ替わるんだよ」
「じゃあ、その入れ替わるタイミングが朝と夕方なのね」
「そういうこと。朝凪と夕凪っていうんだよ」
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