しずかのうみで

村井なお

文字の大きさ
上 下
28 / 59
第五章 自分にできること

28.お出かけの約束

しおりを挟む
 嵐の後、わたしたちはみんなで掃除にとりかかった。
 境内は折れた小枝と落ち葉でいっぱいになっていて、掃き浄めるのに夕方までかかった。

 そして夜になると、お父さんがまた神社に来てくれた。
 前回頼んだ荷物を届けるためだ。

 わたしとのどかは、居間で荷物を広げながら、どんな修行やお勤めをしているのかをお父さんに話した。

「二人とも、がんばってるんだなあ」

「ねえ、お父さん。どこか遊び行きたいな」

 せっかくだからお父さんにねだってみる。
 お父さんが言いだせば、みちるさんも許してくれるかもしれない。

 お父さんは「うーん」と少し考えてから言った。

「この近くだと、近江八幡おうみはちまんの町並みを見るのが楽しくていいかもしれないなあ」

「それって近江商人の町だよね?」

 お父さんの発言に、のどかが食いつく。

「近江商人? 何それ?」

 のどかが「知らないの?」とわたしのほうを見る。

「安土桃山時代から近代にいたるまで活躍した近江出身の商人たちだよ。織田信長が安土城の城下町で楽市・楽座令を出したのは学校でやったでしょ? それで商人が集まってきたのが始まりだっていわれてるんだ」

「現代の大企業も、近江商人が開いたお店が元になっていたりするんだよ」

「へ、へえ」

 お父さんは名古屋の高校で歴史の先生をしていて、のどかはその影響を受けている。二人とも、こういう話をしだすと長いし暑苦しい。

「義兄さん。お待たせしました。ちょっと電話をしていて」

 みちるさんがお茶を持って居間に入ってきた。

「何の話をしていたんですか?」

 と、みちるさんがお茶を配りながら聞く。

「たまには外に遊びに行くのもいいかなって話だよ。近江八幡の町並み保存地区なんか、楽しそうだよね」

「ああ、ではみんなで行きましょうか」

「どうしたのみちるさん! そんな簡単にお出かけを許すなんて! 鬼のかくらん!? 明日はまた嵐を呼ぶの!?」

「しずか、ちょっとおいで」

「あ、はい」

 みちるさんは廊下にわたしを連れ出して頭がい骨を握りしめた。

「近いうちに、辺津宮へつのみやに行かなくちゃと思っていたんです」

 辺津宮というのは、近江八幡の街中にある辺津宮神社のことだそうだ。
 ここも代々息長おきなが家が宮司を務めているらしい。
 おまつりしているのは多岐都比売命たぎつひめのみことさま。
 姫神神社の祭神、市寸島比売命いちきしまひめのみことさまの別の姿だと、みちるさんは説明した。

 神さまはいくつもの神社でおまつりされているし、名前や姿もいろいろ持っている。
 それぞれの神社にときおり顔を出して、氏子のことを見まわっているんだとか。

 大昔には、近江八幡の辺津宮神社、ここ淡海町あわみちょうの姫神神社、そして沖島の奥津宮おくつみや神社の三社は、合わせて姫神大社と呼ばれていたらしい。

「神社としても縁が深いし、今の宮司はわたしのおじさんなの。二人ともこっちに住むからには、あいさつしておかないとね。さっき辺津宮から別件で電話があったので、ついでにしずかとのどかの話をしたんです。明々後日うかがうことになりました」

「やった! おでかけだ!」

「う。明々後日か」

 と、お父さんが苦笑いを浮かべる。

「もしかして、お仕事?」

 のどかが顔をくもらせる。

「だなあ」

「えー」

 せっかくお父さんとお出かけするチャンスなのに。

「文句言わない。お父さんにはまた今度遊びに連れていってもらいなさい。代わりといったらなんだけど、ニオちゃんを誘ったら?」

「いいの? じゃあ、明日にでも誘ってみる!」

「楽しみね」

 みちるさんは、にっこりと笑みを浮かべた。

「明日と明後日は、目いっぱい修行ができるわよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

アルダブラ君、逃げ出す

んが
児童書・童話
動物たちがのびのびとおさんぽできる小さな動物園。 あるひ、誰かが動物園の入り口の扉を閉め忘れて、アルダブラゾウガメのアルダブラ君が逃げ出してしまいます。 逃げ出したゾウガメのあとをそっとついていくライオンのオライオンと豚のぶた太の三頭組が繰りひろげる珍道中を描いています。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

魔界カフェへようこそ

☆王子☆
児童書・童話
小さな踏切の前で電車を待つ一人の少年。遮断機がおり警報機が鳴りだすと、その少年はいじめという日々から逃れるため、ためらいなく電車に飛び込んだ。これですべて終わるはずだった――。ところが少年は地獄でも天国でもない魔物が暮らす世界に迷い込んでしまう。

処理中です...