22 / 59
第四章 春の嵐
22.守り刀
しおりを挟む
長かった一日がようやく終わって、次の朝。
朝はもちろん五時から掃除だ。
今日も寝ぼけるのどかをたたき起こして、着替えて、気持ちのいい一日の始まり!
朝日がのぼりきる前の境内には、今日も氏子さんとスズメがいっぱいだ。
と、その中に昨日会った金髪色黒セーラー服のお姉さんを見つけた。
お姉さんは、鳥居にもたれかかって、ぽろろろんと木製の楽器を弾いている。
その楽器は教科書で見たことがあるような気する。
音楽の教科書ではなくて、社会の教科書で。
そうだ。思い出した。琵琶だ!
どうしてまたお姉さんはそんな古風な楽器を弾いているのか。
というか持っているのか。
お姉さんの謎は深まるばかりだ。
「おや、しずかちゃん。おはようです」
「おはようございます。えっと……」
「オレンジのメガネかわいいです。ちゃんと買ってもらったですね。感心感心」
「アドバイスありがとうございました。いや、そんなことよりですね」
ぽろろろん。
「……何でもないです」
こっちに来てから、学ぶことが本当に多い。
本日最初の学習。不良中学生は朝早くから神社に座りこんで琵琶を弾く。
朝ごはんをいただき、授与所の前を竹ぼうきで掃いているときだった。
社務所から出てきたみちるさんがわたしたちを呼んだ。
「さっきニオちゃんから電話があったわよ。今日午後になったらうちに来ないかって。せっかくだから行ってらっしゃい。出かけるときはこれを持っていくように」
みちるさんが小さな木の棒を取り出した。長さは定規くらい。
「何これ?」
「守り刀よ」
みちるさんがさやを外すと、鈍い銀色の刀身がぎらりと光った。
「おおー!」
みちるさんから守り刀を受けとる。小さくて軽いけど、不思議と心強い。
「これで不審者を刺すのね!」
「刺さない!」
さっそく取りあげられた。
「のどか、あんたが持ってて」
のどかは守り刀を受けとり、刀身を空にかかげた。
「銃刀法違反で捕まらない?」
「刃はついてないからだいじょうぶ。あくまでも祭具だから」
「それで何を切るの?」
「神気よ」
「神気って切っちゃっていいの!?」
みちるさんがうなずく。
「神気のむすび目はね、きれいなものばかりと限らないの。ときにはぐちゃぐちゃにからまっていて、切って御解ししないといけないこともあるわけ」
「刃がなくても切れるの?」
と、のどかが刃先を見て首をかしげる。
「ええ。道具としての機能は重要じゃないの。御解しも御寧めも、あくまで人がおこなうものよ。祭具はその手助けをするだけ。大事なのは道具としての意味。刀や剣は古来より切るもの、鎮めるものだった。それが大事なの」
「なるほど」
のどかがうなずく。
「ということで、しずか」
みちるさんがわたしの両肩に手を置く。
「守り刀はのどかに預けるけど、魂鎮めのときにはあんたが使うの。まちがっても振りまわしたり、のどかを刺したり、木の枝を切ったり、のどかを切ったり、みずうみに投げたり、のどかを削ったりしちゃダメよ」
「……はい。よくわかりました」
みちるさんがわたしをどう思ってるかがね。
この言われよう。さすがにちょっと自分のおこないをかえりみるよ。
朝はもちろん五時から掃除だ。
今日も寝ぼけるのどかをたたき起こして、着替えて、気持ちのいい一日の始まり!
朝日がのぼりきる前の境内には、今日も氏子さんとスズメがいっぱいだ。
と、その中に昨日会った金髪色黒セーラー服のお姉さんを見つけた。
お姉さんは、鳥居にもたれかかって、ぽろろろんと木製の楽器を弾いている。
その楽器は教科書で見たことがあるような気する。
音楽の教科書ではなくて、社会の教科書で。
そうだ。思い出した。琵琶だ!
どうしてまたお姉さんはそんな古風な楽器を弾いているのか。
というか持っているのか。
お姉さんの謎は深まるばかりだ。
「おや、しずかちゃん。おはようです」
「おはようございます。えっと……」
「オレンジのメガネかわいいです。ちゃんと買ってもらったですね。感心感心」
「アドバイスありがとうございました。いや、そんなことよりですね」
ぽろろろん。
「……何でもないです」
こっちに来てから、学ぶことが本当に多い。
本日最初の学習。不良中学生は朝早くから神社に座りこんで琵琶を弾く。
朝ごはんをいただき、授与所の前を竹ぼうきで掃いているときだった。
社務所から出てきたみちるさんがわたしたちを呼んだ。
「さっきニオちゃんから電話があったわよ。今日午後になったらうちに来ないかって。せっかくだから行ってらっしゃい。出かけるときはこれを持っていくように」
みちるさんが小さな木の棒を取り出した。長さは定規くらい。
「何これ?」
「守り刀よ」
みちるさんがさやを外すと、鈍い銀色の刀身がぎらりと光った。
「おおー!」
みちるさんから守り刀を受けとる。小さくて軽いけど、不思議と心強い。
「これで不審者を刺すのね!」
「刺さない!」
さっそく取りあげられた。
「のどか、あんたが持ってて」
のどかは守り刀を受けとり、刀身を空にかかげた。
「銃刀法違反で捕まらない?」
「刃はついてないからだいじょうぶ。あくまでも祭具だから」
「それで何を切るの?」
「神気よ」
「神気って切っちゃっていいの!?」
みちるさんがうなずく。
「神気のむすび目はね、きれいなものばかりと限らないの。ときにはぐちゃぐちゃにからまっていて、切って御解ししないといけないこともあるわけ」
「刃がなくても切れるの?」
と、のどかが刃先を見て首をかしげる。
「ええ。道具としての機能は重要じゃないの。御解しも御寧めも、あくまで人がおこなうものよ。祭具はその手助けをするだけ。大事なのは道具としての意味。刀や剣は古来より切るもの、鎮めるものだった。それが大事なの」
「なるほど」
のどかがうなずく。
「ということで、しずか」
みちるさんがわたしの両肩に手を置く。
「守り刀はのどかに預けるけど、魂鎮めのときにはあんたが使うの。まちがっても振りまわしたり、のどかを刺したり、木の枝を切ったり、のどかを切ったり、みずうみに投げたり、のどかを削ったりしちゃダメよ」
「……はい。よくわかりました」
みちるさんがわたしをどう思ってるかがね。
この言われよう。さすがにちょっと自分のおこないをかえりみるよ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
オオカミ少女と呼ばないで
柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。
空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように――
表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

アルダブラ君、逃げ出す
んが
児童書・童話
動物たちがのびのびとおさんぽできる小さな動物園。
あるひ、誰かが動物園の入り口の扉を閉め忘れて、アルダブラゾウガメのアルダブラ君が逃げ出してしまいます。
逃げ出したゾウガメのあとをそっとついていくライオンのオライオンと豚のぶた太の三頭組が繰りひろげる珍道中を描いています。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
魔界カフェへようこそ
☆王子☆
児童書・童話
小さな踏切の前で電車を待つ一人の少年。遮断機がおり警報機が鳴りだすと、その少年はいじめという日々から逃れるため、ためらいなく電車に飛び込んだ。これですべて終わるはずだった――。ところが少年は地獄でも天国でもない魔物が暮らす世界に迷い込んでしまう。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる