しずかのうみで

村井なお

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第三章 うみの町の幼なじみ

21.四人でお買い物

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 夕方、お父さんが神社にやってきた。

 着替えや勉強道具を持ってきてくれたのはいいんだけど。

「あ、辞書がない」

「長袖持ってきてほしかったな。まだちょっと寒くて」

 お父さんにまかせっきりだとやっぱり足りないものがいろいろとでてきてしまう。
 本や服はもちろんマンガもゲームもないし。

「やっぱり一回帰りたいよ。友だちにも何も言ってないし、学校どうなってるか気になるし」

 みちるさんが首を横に振る。

「ダメよ」

「あー、一度気になりだすと止まんない! 春休みはいろいろリセットされて気が抜けるから当番とか部活とかみんなサボりがちになるし、四月にはすぐ一年生を迎える会があって、準備もまだやりきってないし、ていうか誰が児童会長やるんだろう。わたしも、副会長ののどかもいなくなってだいじょうぶなのかな」

「誰か代わりにやるわよ」

 と、みちるさんは相変わらずそっけない。

「一日戻るのでもダメ?」

 のどかが聞いても、みちるさんは首を横に振る。

「まだ修行が全然足りてない。のどかだって他人ごとじゃないのよ。いつ神通力に目覚めるかわからないもの。目覚めてすぐが一番不安定だし、勝手がわからないから事故も多い。しずかを見ててわかったでしょう?」

「ということだから、二人ともごめんな」

 お父さんが困ったように笑うと、もうそれ以上は何も言えなくなる。

「ぶーぶー」

 何も言えないから鳴き声で意思表明をしてみた。

「今日は街に出るし、二人の食べたいものにしようか。何がいい?」

「「すき焼き!」」

 ぶーぶー鳴けばごちそうが食べられる。
 こうしてわたしはまた一つ賢くなってしまった。

 その後は、白衣から洋服に着替えて、お父さんの車で街まで出かけた。
 このあたりでは一番大きい近江八幡の駅前だ。

 お父さん、みちるさん、わたしにのどか。
 四人で並んで歩くと、ふと思う。
 やっぱりみちるさんはお母さんによく似ている。

 ごはんを食べた後はメガネを買いに行った。度が入ってないものを頼むと、店員さんは不思議そうな顔をしていた。

「これがいいね」

 お父さんが選んだのは色ちがいのセルフレームメガネ。
 わたしのがオレンジで、のどかのが水色。
 のどかとおそろいなのはどうかと思ったけど、色が可愛かったので許してあげた。

「あとはカラコンを買いましょう」

 みちるさんが言うと、お父さんは「うーん……」とうなり声をあげた。

「カラーコンタクトはなあ。衛生面が心配だし、どうしてもよくないイメージがあってね」

「わたしも今つけてますよ。左右で目の色がちがうと、けっこう気づかれるものなんです。人って、話すとき相手の目を見ますから」

 みちるさんは苦笑いを浮かべて、自分の目もとを指さした。

「そうか。たしかに、つけてないとかえって悪目立ちするかもしれないな」

 それでお父さんは納得した。

「やっぱり僕だけじゃダメだな。みちるさんがいてくれてよかったよ」

「そんな」

 と、みちるさんは照れかくしのように手を振った。

 のどかと顔を見合わせる。
 めずらしいものを見たね。
 明日は嵐よ。

 そうしてわたしたちは、口に出せない会話を交わした。
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