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第三章 うみの町の幼なじみ
19.みずうみ
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「景色すごいね。ほら、向こう岸の山まで見える」
「左が比叡山、右が比良山系かな」
本当は掃除をしないといけないんだけど、ついつい琵琶湖を眺めてしまう。
昔、滋賀県は近江国と呼ばれていたらしい。京都から遠いほうのうみが浜名湖、近いほうのうみが琵琶湖。
みちるさんが教えてくれた。淡海町のあたりでは、琵琶湖のことをただ単にみずうみと呼んだり、うみと呼んだりするって。
「ねえ、あれが沖島だっけ?」
向かって右手に、ひょうたん島みたいな形をした島が見えている。
「うん。日本でここだけの、人が住んでるみずうみの島だね」
「たしか昔行ったことあったよね」
お母さんが、まだ生きているころに。
「行ったね。島の神社にお参りした記憶があるよ」
わたしものどかも、決して言わない。
でも、思ってることは同じだ。
「……」
口を閉じると、かすかに波の音が聞こえてくる。
乱れないリズム。
しずかな音楽。
このみずうみ。
ここでお母さんはかえらぬ人となった。
このうみのどこかに、今もお母さんはいる。
そんな気がしている。
今朝の魂鎮めが終わった後、みちるさんは言っていた。
『わたしたち息長の一族は魂鎮めという神業をなす。それは神さまからお借りしている力。うちの場合は姫神さま、市寸島比売命さまね』
そのご利益は拝殿前の板に書いてあったから覚えている。
うみの平穏、航海の無事、そして音曲だ。
『息長の一族はその力を借りてるの。うみをしずかにする力、魂鎮めの力ね。親戚に伊吹家っているのは覚えてる? 伊吹家ではね、多多美比古命さまという神さまをお祭りしているの。神気を荒ぶらせる神業を使うわ』
神さまの力。それを借りる神仕えの力。神業にはいろいろある、ということだ。
「ねえ、のどか」
「うん?」
それは、言わなくていいことだとわかっている。
言われたのどかが困ることもわかっているし、どう答えるかもわかっている。
目を合わせなくてもわかる。
でも。それでも。
それでも言ってしまう。
「よみがえりの神業なんかも、あったりするのかな」
みずうみからの風がのどかの髪を揺らす。
「……あったとしても、僕らには関係ないよ」
しかし、その横顔はわずかたりとも表情を浮かべない。
わたしにもわかっている。
「自分にできることをすればいい、だもんね」
「左が比叡山、右が比良山系かな」
本当は掃除をしないといけないんだけど、ついつい琵琶湖を眺めてしまう。
昔、滋賀県は近江国と呼ばれていたらしい。京都から遠いほうのうみが浜名湖、近いほうのうみが琵琶湖。
みちるさんが教えてくれた。淡海町のあたりでは、琵琶湖のことをただ単にみずうみと呼んだり、うみと呼んだりするって。
「ねえ、あれが沖島だっけ?」
向かって右手に、ひょうたん島みたいな形をした島が見えている。
「うん。日本でここだけの、人が住んでるみずうみの島だね」
「たしか昔行ったことあったよね」
お母さんが、まだ生きているころに。
「行ったね。島の神社にお参りした記憶があるよ」
わたしものどかも、決して言わない。
でも、思ってることは同じだ。
「……」
口を閉じると、かすかに波の音が聞こえてくる。
乱れないリズム。
しずかな音楽。
このみずうみ。
ここでお母さんはかえらぬ人となった。
このうみのどこかに、今もお母さんはいる。
そんな気がしている。
今朝の魂鎮めが終わった後、みちるさんは言っていた。
『わたしたち息長の一族は魂鎮めという神業をなす。それは神さまからお借りしている力。うちの場合は姫神さま、市寸島比売命さまね』
そのご利益は拝殿前の板に書いてあったから覚えている。
うみの平穏、航海の無事、そして音曲だ。
『息長の一族はその力を借りてるの。うみをしずかにする力、魂鎮めの力ね。親戚に伊吹家っているのは覚えてる? 伊吹家ではね、多多美比古命さまという神さまをお祭りしているの。神気を荒ぶらせる神業を使うわ』
神さまの力。それを借りる神仕えの力。神業にはいろいろある、ということだ。
「ねえ、のどか」
「うん?」
それは、言わなくていいことだとわかっている。
言われたのどかが困ることもわかっているし、どう答えるかもわかっている。
目を合わせなくてもわかる。
でも。それでも。
それでも言ってしまう。
「よみがえりの神業なんかも、あったりするのかな」
みずうみからの風がのどかの髪を揺らす。
「……あったとしても、僕らには関係ないよ」
しかし、その横顔はわずかたりとも表情を浮かべない。
わたしにもわかっている。
「自分にできることをすればいい、だもんね」
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