しずかのうみで

村井なお

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第二章 神社の一日は早起きから

15.神仕えの御役目

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「その人形は何で神社に納められたの?」

 のどかの質問に、みちるさんは小さくうなり、それから答えた。

「……もう昔の話なんだけど、この人形の持ち主はね、都会の女の子だったの。病気でみずうみに静養に来ていてね、この人形をお友だちにしていたの。ある日、ひどい発作でね……。その子のご両親がうちに奉納したの。この人形が夜中にさわぐからって」

「……そっか」

 一人になっちゃって、遊んでほしかったんだね。

「その人形、どうするの? もうこれで魂鎮めは終わったんだよね?」

「今はしまっておいて、時が来たらまた御寧めするの」

「これで解決したわけじゃないんだ」

「ええ。今は鎮まっているけれど、またそのうち神気が集まるからね」

 そう言って、みちるさんは人形を手にとった。

「わたしたちは今たしかにこの子の荒御魂を鎮めた。それは神業であって、神さまの奇跡よ」

 みちるさんの手が、そっと人形の髪をすく。

「でも、それだけ。あくまでも鎮めただけ。思いは何も変わっていない。またそのうち神気はたまるし、この子はまた荒ぶりだす。そうしたらわたしたちはまた御役目を果たす」

 その手の動きは、何だかちょっと悲しそうだ。

「それって解決になってなくない? 神仕えの御役目って意味あるの?」

 思わず聞いてしまってから口をふさぐ。言っちゃいけないことだったかも。

「しずか。意味はあるわよ」

 でも、みちるさんは怒らなかった。

 それどころか、ほのかに笑みをうかべてさえいた。

「魂を鎮める。それが息長の神業の意味、わたしたちの御役目。わたしたち神仕えはね、何でもはできない。神通力は万能の超能力じゃない。できることは限られてる。でもね、できることには意味がある」

 そしてみちるさんは、そっと人形を木箱にしまった。

「わたしたちは、自分にできることを、しっかりやればいいの」

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