しずかのうみで

村井なお

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第二章 神社の一日は早起きから

14.祝詞

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「じゃあ、この神気を御寧めするわね」

 と、ようやくみちるさんが祭壇へと一歩踏みだした。

 みちるさんは両手の指を組み合わせ、人さし指だけを立てた。

 その手をお祈りするようにお腹の前にそっとすえる。

 そしてみちるさんは大きく息を吸い、止めた。

 神気が動きを変える。

 わたしのそばに広がっていた神気が、みちるさんのほうへと集まっていく。

 みちるさんが組んだ手に、ふわふわゆらゆらと吸いよせられていく。

 みちるさんはすうっと息を吐き、そして唱えた。

一二三ひふみ 一二三ひふみ

 奥津鏡おくつかがみ 辺津鏡へつかがみ 十握剣とつかのつるぎ

 布留部ふるべ 由良由良止ゆらゆらと 布留部ふるべ

 すると神気は見る見るうちに色を失い、うすまり、すっと消えていった。

 最後の最後、神気が消える直前、どこからともなく声が聞こえた気がした。

「遊んでくれて、ありがとう」

 あたりを見まわす。のどかでもないし、みちるさんでもない。聞いたことのない声だ。

「しずか、どうしたの?」

「今、声がしたでしょ。のどかには聞こえなかった?」

 のどかが首をかしげる。

「今のはこの子の声よ」

 そう言ってみちるさんは人形をそっとなでた。

 わたしも祭壇に近づいて人形を見る。もう動いてないし、何となく見ていても不安にならないというか、さっきまでと印象がちがう。

「神気はね、どんな魂にでも見さかいなくつくわけじゃないの。神気は強い思いに引きよせられる。人が思いを残したものなんかの魂にはつきやすいの」

「みちるさん。この人形にも魂があるの?」

 のどかが人形を手にとった。

「ええ。現世のあらゆるものに魂は宿っているわ」

「人形も、強い思いを持つんだね」

「そうよ。この子の場合、元の持ち主の思いを受け止めたのね」

 みちるさんは、丁寧な手つきで人形を受けとった。

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