8 / 59
第二章 神社の一日は早起きから
08.お勤め
しおりを挟む
「んー、気持ちいい!」
境内の真ん中に立って、背筋を伸ばす。
「早起きってやっぱりいいね」
隣にいるのどかから返事がない。
顔をのぞきこむと、わが弟は立ったまま目を閉じていた。
竹ぼうきでお尻を叩くと、のどかはびくっとふるえた。
「寝へないよ」
親指を立てて見せるのどか。
「寝てたから! ほら、早く掃除しよう」
今は朝六時。
まだ日ものぼりきっていないのに、境内にはけっこうな数の人がいる。
紫の和服を着たおばあさんや、スーツのおじさん、セーラー服のお姉さん。
多分氏子のみなさんだ。氏子さんというのは、神社がおまつりしている神さまの子孫にあたる人たちのことらしい。
本当に子孫なのかはわからないけど、とにかく神さまの近くに住んでいる信者の人たちだ。
姫神神社では巫女さんのアルバイトもやとっているけれど、それだけじゃとても仕事がまわらない。
だから、氏子さんたちの手を借りているそうだ。氏子さんたちは、参道の落ち葉を掃いたり、賽銭箱を拭いたりしてくれている。
わたしたちもちゃんとお勤めしないと!
神社がきれいだと参拝する人はハッピーだもんね。
わたしとのどかの仕事は、手水舎の用具整備と拝殿の拭き掃除。
手水舎というのは参拝前に手を洗う吹きぬけの建物のことだ。
手水舎には大きな石が置かれていて、石のくぼみには水が張ってある。
参拝する人は、くぼみのふちに置かれた柄杓で手を浄めてから拝殿に向かうのが神社のマナーだ。
拝殿は神社の中央、参道の終点にある。神さまを拝むための神殿だ。
「うーん?」
かたくしぼった雑巾で拝殿前の階段を拭いているとき、ふと違和感をおぼえた。
他の神社と同じように、姫神神社でも、拝殿前の階段には賽銭箱が置かれ、鈴がつるされ、そして神社の由緒や神さまのご利益が書かれた板が壁にかかげられている。
その神さまのご利益の文字が、みょうにぼやけている。今日も引き続き目の調子がよくない。
片目ずつつぶってみると、左目がちゃんと見えていないのも昨日と同じだ。
「おはようです」
「わわっ!」
後ろからの声に振りかえると、セーラー服を着たお姉さんがすぐそばに立っていた。
「えっと、おはようございます!」
「元気あふれてるですね。感心感心」
と、満足げにうなずくそのお姉さん。
身長はそんなに高くない。わたしとあんまり変わらないくらいだ。
顔はこんがり日やけしていて、髪は明るい金髪で……不良中学生だ!
でも、セーラー服からのぞく手足とお腹も茶色いから地黒なのかも?
「目こすってるけど、だいじょうぶですか?」
お姉さんは自分も寝ぼけた目で聞いてきた。
「さっきから左目がよく見えなくて」
「早くみちるちゃんに言ったほうがいいですよ」
みちるちゃん!?
「超年上に対してその呼び方はまずいです。聞かれたら頭を握りつぶされますよ!」
こっそり耳打ちしたが、お姉さんは「はあ」と気の抜けた返事をするばかり。命の危険がすぐそこにあるというのに、まるで危機感が感じられない。
「ではでは、ぼくはこれで。しずかちゃん、目に気をつけるですよ」
「あ、ちょっと、」
お姉さんはそれだけ言い残すと、さっさと歩いていってしまった。まだ名前も聞いていないのに。
それにしても、こんな朝早くから神社に来るなんて、あのお姉さん、親が氏子さんなのかな?
もしくは熱狂的な神社ファン?
そういえば、わたしの名前知ってたよね。もしかしてわたしのファン?
というか『ぼく』って。
「しずか、何してたの?」
と、のどかが声をかけてくる。
「中学生くらいのお姉さんと話してた。色黒で金髪の」
「へえ。神社っていろんな人が来るね」
「さっきまでそこにいたよ。気づかなかった?」
「僕は見てないな。そうそう、朝ごはんだって。戻ろう」
のどかはお姉さんに気づいてなかったみたい。あのお姉さん目立つのに。のどかったらぼんやりしすぎだよ。
境内の真ん中に立って、背筋を伸ばす。
「早起きってやっぱりいいね」
隣にいるのどかから返事がない。
顔をのぞきこむと、わが弟は立ったまま目を閉じていた。
竹ぼうきでお尻を叩くと、のどかはびくっとふるえた。
「寝へないよ」
親指を立てて見せるのどか。
「寝てたから! ほら、早く掃除しよう」
今は朝六時。
まだ日ものぼりきっていないのに、境内にはけっこうな数の人がいる。
紫の和服を着たおばあさんや、スーツのおじさん、セーラー服のお姉さん。
多分氏子のみなさんだ。氏子さんというのは、神社がおまつりしている神さまの子孫にあたる人たちのことらしい。
本当に子孫なのかはわからないけど、とにかく神さまの近くに住んでいる信者の人たちだ。
姫神神社では巫女さんのアルバイトもやとっているけれど、それだけじゃとても仕事がまわらない。
だから、氏子さんたちの手を借りているそうだ。氏子さんたちは、参道の落ち葉を掃いたり、賽銭箱を拭いたりしてくれている。
わたしたちもちゃんとお勤めしないと!
神社がきれいだと参拝する人はハッピーだもんね。
わたしとのどかの仕事は、手水舎の用具整備と拝殿の拭き掃除。
手水舎というのは参拝前に手を洗う吹きぬけの建物のことだ。
手水舎には大きな石が置かれていて、石のくぼみには水が張ってある。
参拝する人は、くぼみのふちに置かれた柄杓で手を浄めてから拝殿に向かうのが神社のマナーだ。
拝殿は神社の中央、参道の終点にある。神さまを拝むための神殿だ。
「うーん?」
かたくしぼった雑巾で拝殿前の階段を拭いているとき、ふと違和感をおぼえた。
他の神社と同じように、姫神神社でも、拝殿前の階段には賽銭箱が置かれ、鈴がつるされ、そして神社の由緒や神さまのご利益が書かれた板が壁にかかげられている。
その神さまのご利益の文字が、みょうにぼやけている。今日も引き続き目の調子がよくない。
片目ずつつぶってみると、左目がちゃんと見えていないのも昨日と同じだ。
「おはようです」
「わわっ!」
後ろからの声に振りかえると、セーラー服を着たお姉さんがすぐそばに立っていた。
「えっと、おはようございます!」
「元気あふれてるですね。感心感心」
と、満足げにうなずくそのお姉さん。
身長はそんなに高くない。わたしとあんまり変わらないくらいだ。
顔はこんがり日やけしていて、髪は明るい金髪で……不良中学生だ!
でも、セーラー服からのぞく手足とお腹も茶色いから地黒なのかも?
「目こすってるけど、だいじょうぶですか?」
お姉さんは自分も寝ぼけた目で聞いてきた。
「さっきから左目がよく見えなくて」
「早くみちるちゃんに言ったほうがいいですよ」
みちるちゃん!?
「超年上に対してその呼び方はまずいです。聞かれたら頭を握りつぶされますよ!」
こっそり耳打ちしたが、お姉さんは「はあ」と気の抜けた返事をするばかり。命の危険がすぐそこにあるというのに、まるで危機感が感じられない。
「ではでは、ぼくはこれで。しずかちゃん、目に気をつけるですよ」
「あ、ちょっと、」
お姉さんはそれだけ言い残すと、さっさと歩いていってしまった。まだ名前も聞いていないのに。
それにしても、こんな朝早くから神社に来るなんて、あのお姉さん、親が氏子さんなのかな?
もしくは熱狂的な神社ファン?
そういえば、わたしの名前知ってたよね。もしかしてわたしのファン?
というか『ぼく』って。
「しずか、何してたの?」
と、のどかが声をかけてくる。
「中学生くらいのお姉さんと話してた。色黒で金髪の」
「へえ。神社っていろんな人が来るね」
「さっきまでそこにいたよ。気づかなかった?」
「僕は見てないな。そうそう、朝ごはんだって。戻ろう」
のどかはお姉さんに気づいてなかったみたい。あのお姉さん目立つのに。のどかったらぼんやりしすぎだよ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
オオカミ少女と呼ばないで
柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。
空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように――
表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

アルダブラ君、逃げ出す
んが
児童書・童話
動物たちがのびのびとおさんぽできる小さな動物園。
あるひ、誰かが動物園の入り口の扉を閉め忘れて、アルダブラゾウガメのアルダブラ君が逃げ出してしまいます。
逃げ出したゾウガメのあとをそっとついていくライオンのオライオンと豚のぶた太の三頭組が繰りひろげる珍道中を描いています。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
魔界カフェへようこそ
☆王子☆
児童書・童話
小さな踏切の前で電車を待つ一人の少年。遮断機がおり警報機が鳴りだすと、その少年はいじめという日々から逃れるため、ためらいなく電車に飛び込んだ。これですべて終わるはずだった――。ところが少年は地獄でも天国でもない魔物が暮らす世界に迷い込んでしまう。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる