しずかのうみで

村井なお

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第一章 五年生最後の日

06.明日からは

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「さて。もう夜も遅いし、詳しい説明はまた明日ね。明日からは神社のお勤めに、修行に、お勉強よ。早く寝ましょう」

 みちるさんはそう言って、ぱんっと手を打った。

「あ、やっぱり今日ってお泊まりなんだ。着替えとかないんだけど」

「今日はがまんして。義兄さん、明日になったら二人の荷物を持ってきてもらえますか?」

「……うん」

 と、それまで黙っていたお父さんが、低く小さな声で返事をした。

「僕の車だと限界があるし、当面必要なものだけになっちゃうけど」

「ええ。少しずつでもお願いします」

「あの、僕たちいつまでここにいればいいの?」

 と、のどかが聞く。

「ずっとよ。二人とも、ここで暮らすの」

 みちるさんはあっさり答えた。

「え! それじゃ学校はどうするの!」

 思わず立ち上がりながら聞く。

「こっちに転校ね」

 みちるさんは平然とそう答えた。

「無理だよ! わたし、児童会の会長で、図書委員長で、美化と保健の副委員長で、風紀委員で学級委員で女子フットサル部の副部長なんだから! いっぱい仕事して、学校のみんなをハッピーにしないといけないの!」

「誰かが代わりにやるわよ」

 みちるさんは顔色ひとつ変えない。

「そんな、」

 わたしの言葉をさえぎるように、肩に手が置かれた。

 振り返ると、お父さんは悲しそうに笑っている。

 そうだ。お父さんならきっとわかってくれるはず。
 だって、わたしが児童会長に当選したっていったら『最後までがんばるんだよ』って応援してくれたんだから!

「しずか、ごめんよ」

 でも、お父さんはそう言ってわたしに謝った。

 ……そんな言葉は聞きたくなかった。

 わたしにだってわかる。これはお父さんが謝ることじゃないって。

 だからもう、これ以上は何も言えない。

「転校の手続きはしておくよ。しすか、のどか。二人とも四月からはこっちの小学校だ」

「お父さんはどうするの? 仕事があるよね」

 お父さんは、高校で歴史の先生をしている。

「僕は名古屋にそのままいるよ。だいじょうぶ。会いに来るから」

 そう言って、お父さんはさみしげに笑みを浮かべた。

「……神業は危険をともなうものよ」

 みちるさんが、ゆっくり、重々しく言う。

「人も自分も傷つけてしまうかもしれない。しずか、あんたは身をもって知ったでしょう。わけもわからないまま魂鎮めをしたら、今日のしずかみたいになる。いえ、もっとひどいことになることもある。力はコントロールできないといけない」

 みちるさんはわたしとのどかを交互に見た。

「しずか、のどか。これはとても大事な御役目なの。わかってほしい」

 そして、頭をさげた。

 お父さんがわたしのどのかの頭に手をおく。

「困ってる人を助けて、みんなをハッピーにする。きみたちにしかできないことだよ」

 みんなをハッピーに。

 そっか。たしかに、児童会長なら学校のみんなのためにいろいろできるけど、神仕えとして力をつけたらそれ以上のことができるかも?

「しずか、やるしかないんじゃない?」

 隣で座っているのどかが、いつもと変わらない口調で言ってきた。

 ……そうね。へこんでばかりいてもしかたない。

「こうなったらやってやるわ!」

 立ちあがり、天に向かってこぶしをつきあげる。

「待ってろ神気! 悪の手から世界をすくってみせる!」

「あんた、わたしの説明聞いてた?」

 みちるさんは、あきれ顔でそうぼやいた。
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