しずかのうみで

村井なお

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第一章 五年生最後の日

05.神仕え

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 参道の奥には、立派な神社がたっていた。
 反った大きな屋根の下から、前向きに小さな屋根が張りだしていて、その下には木戸とお賽銭箱が置いてある。

 懐かしいな。相変わらず立派できれい。
 何だか少し嬉しくなる。わたし、この神社の子なんだから。

 と、みちるさんは途中で参道から外れ、右手にある社務所に向かっていった。
 社務所には、参道に向かって窓口がつくられている。
 今は夜だから閉まっているけれど、昼間にはそこでおみくじやお守りを売っている。

 みちるさんは、窓口のわきにある引き戸を開けて中に入り、草履を脱いだ。

「上がってください」

 みちるさんは社務所の一室にわたしたちを連れていった。

 畳に置かれていた座布団に座る。
 正座は苦手だけど、神社の畳に座っていると、やっぱりピッとしていなくちゃいけない気持ちになる。

「しずか。何があったか詳しく聞かせてくれるかしら」

 と、みちるさんがさっそく質問をしてきたので、わたしは、学校で起きたことをもう一度説明した。
 突然つむじ風が起きたこと、ひもが浮いていたこと、ひものむすび目を解いたらつむじ風が止まったこと。

「……なるほどね」

 わたしが話し終えると、みちるさんはスッと目をそらした。

「みちるさん。これはやっぱり、そうなのかな」
 お父さんが緊張した声できいた。

「ええ。間違いありません」

 うなずいたみちるさんは、一度深呼吸をしてから、わたしを正面から見た。

「しずか。あなたが見たのは神気かむきよ」

「神気? 何それ?」

「神気というのはね、神世かむよに満ちた霊気みたいなものよ。神世というのは、神さまの世界のこと。わたしたちが今いるこの人の世界が現世うつしよね。神気は、神世から現世に流れこんできているわ。神気は魂にまとわりつき、その魂を奮いたたせ、荒ぶらせる。魂というのは人や動物だけじゃなく、大気や水、岩なんかにもあって、」

「ちょ、ちょっと待って!」
 そんな一度に言われてもついていけないって。

「えっと、神気っていうのは不思議ですごいエネルギーってことでオーケー?」

「ええ。言いかたは、ちょっとあれだけど」

「さっき校庭で起きたつむじ風は、神気のせい?」

「そうよ。大気にも魂がある。しずか、ひもを見たんでしょう?」

「うん。見た」

「神気は濃度が高くなると、ひもの形をとるの。そして魂にむすびつく。すると、現世では本来ありえないようなことがおこる。その一例が、しずかが魂鎮たましずめしたそのつむじ風ね」

「魂鎮め?」

「わたしたち息長の一族があつかう神業みわざよ。神気が多すぎて荒ぶった魂、すなわち荒御魂あらみたまを鎮め、しずかな和御魂にぎみたまとすること、それがわたしたち息長の御役目みやくめ。わたしたちは神通力じんつうりきという力を持って生まれてくる。神に通じることで、神さまから力を借りるの。そうして起こす奇跡を神業というわ」

「魔法? 超能力?」

 みちるさんが苦笑いを浮かべる。

「まあ、だいたいあってるわ。呼びかたはともかく、理解はそれでいい」

「でも、何でわたしがそんな力を?」

 勇者の子孫だからとか?

「神さまの直接の子孫だからよ」

「マジですか」

 みちるさんの答えは予想をこえてきた。

「人はみな神の子孫よ。その中でも、特に直接の子孫とされているのがわたしたち神仕かむつかえ。息長の一族は、この神社でおまつりしている姫神さまの子孫にあたる。神仕えは、神さまの直接の子孫であり、神さまにお仕えし、神通力を持ち、神業をもちいる御役目を持つわ」

「一族の全員が神通力を持ってるの?」と、のどかが手を挙げて質問した。

「ええ。力の強い弱いはいろいろだけどね。のどかもそのうち目覚めるわ」

 みちるさんは、のどかに向かってうなずいた。
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