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第八章 私はずっと幸せだから

03.

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 『君は前に復讐を受けているのだ』

 君は今、苦しくもがいていることだろう。

 僕の知る君ならば、きっとそうしているはずだ。

 生憎と、僕は君が何に意味を見出すか知ることはできなかった。

 しかしきっと君は見つけるだろう。

 見つけた者は、皆苦しみもがく。

 だがその苦難こそが、君を意味へと導き、君の道程を彩るものと、僕は信じている。

 現に僕は報われた。

 これから僕は期末テストを受ける。

 今し方、僕は教室へと去る君を見送った。

 そして今、筆を執っている。

 願わくば期末テストが終わった後に君がこの手紙を見つけんことを!

 テストが終わるまでは、ライバルのままでいたいから。

 夏に病臥し、僕は死を待つだけのレイム・ダックとなっていた。

 そこに君が現れ、僕に挑発を投げつけた。

 一番になれなかったら死ぬ? と。

 それが余命幾許もない友人に掛ける言葉か!

 最初は憤慨したが、その怒りが僕を前へと向かせた。

 そしてすぐ気がついた。

 君の言葉は、君の衷心より生まれた命懸けの優しさであるということに。

 その日から期末テストまでの一ヶ月半は、何と充実した日々だったろう!

 対等に刃を交える相手がいるというのは、これほどまでの緊張と充実とをもたらすのだと、初めて知った。

 この一ヶ月半、僕は君のことばかりを考えていた。

 以前、我々共通の友より聞いたことがある。

 何でも厳父を既に亡くされているとか。

 報われない努力があることを知りながら、猶その意味を模索しようと艱難辛苦を自ら受け持つ君に、僕は出来得る限りの尊敬を払おう。


 そして願う。

 いつか君が報われんことを。

 『いつか山の上で君達と握手する時があるかも知れない』

 『しかしそれまでは君よ、二人は別々の道を歩こう』



 最後までを読んだ私は、慌てて便箋から顔をそらした。

 そうしないと、濡らしてしまうところだったから。

 ねえ、鹿島くん。

 私たちは確かに別々の道を歩く。

 でも、私の中には確かに君がいるよ。

 テスト中だって、君ならどう考えるかとばかり考えていた。

 離れていても大丈夫。

 頑張る君が、私の中にいる。

 私はずっと幸せだから。


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