ジャンクフードと俺物語

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33.博多旅行・序(全4話中第1話)

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 筆者はジャンクフード好きである。だが、残念な事に現代の秘境とも言うべきド田舎に住んでるため心ゆくまでそれらを堪能することが出来ない悲しい境遇にある。当然、それらに対する欲求は旅行に行った際に満たすことになるのだが、「旅行といえばご当地グルメ」もまた真理。食事のペース配分が実に難しい。普通の旅行でもそうなので、旅行先が超絶グルメスポットだった際は・・・

 今回は令和5年11月末に博多へ二泊三日の旅に出かけた筆者の旅行記をお送りしよう。大長編ドラえもんに匹敵するほど大長編になってしまったので全4話で。それでは、田舎住まいのジャンクフード喰いの苦悩に満ちた旅路をご覧頂こう。
 

「12.ふわふわも好きだ」でも触れている江國香織先生のエッセイ「旅ドロップ」と「やわらかいレタス」の双方で紹介されていた博多区にある「かろのうろん」と言う、老舗のうどん屋さんがどうしても気になったのが今回の旅のきっかけだ。
 実はその前の年も博多へ行っている。老い先短いナイスミドルゆえ、どうせなら一度も行ったことない所へ行くのがベターな選択かもしれない。実際、当初の行き先候補は広島県広島市と福島県喜多方市。漫画「ワカコ酒」に出てた広島の名物料理「ウニクレソン」と「広島風お好み焼き」を鉄板焼き屋さんで食べ、ビールをガブガブ飲んでワカコさんみたいに「ぷしゅ~」っとやるか、もしくは喜多方ラーメン発祥の聖地・「源来軒」と関東に住んでた頃にお世話になった「坂内食堂」の本店を聖地巡礼するかの二択だった。
 しかし、前回の博多旅行はやり残しが多過ぎた。博多名物の「もつ鍋」「水炊き」「焼き鳥」「餃子」は「もつ鍋」しか食べてないし、豚骨ラーメンにいたっては有名店が多すぎて行ってみたいお店の10分の1も回れてない。
 悩みぬいた結果、行先は博多と決まった。申し訳ない、源来軒と坂内食堂、そしてウニクレソン。近いうち、必ず君らには会いに行こう。

 行先が決まったら食べたい物のリストアップだ。しかし、博多駅周辺のお店を軽くリストアップしただけでも、

〇博多名物・・・もつ鍋、水炊き、焼き鳥、餃子、天麩羅
〇豚骨ラーメン・・・一蘭・キャナルシティ店、名代ラーメン、博多一幸社、博多一双、魁龍、元祖長浜屋、博多らーめん Shin-Shin、大砲
〇うどんローカルチェーン・・・牧のうどん、うどんのウエスト
〇ジャンクフードチェーン・・・ケンタッキー・フライド・チキン、バーガーキング、サブウェイ、築地銀だこ、天下一品、磯丸水産、ベローチェ、ゴーゴーカレー、マイカリー食堂

これに「かろのうろん」だ。全て食べるには9泊10日はないと無理だが、しがないサラリーマンが何とか取得できた休暇では2泊3日が限界。初日のお昼に到着、最終日のお昼過ぎに帰る予定なので、

初日の昼、夜。
二日目の朝、昼、夜。
最終日の朝、昼。

合計7食だ。「おやつ」的な追加イベントを加えてもせいぜい10食。これで全てを網羅するのは不可能だ。これ以上長い日程で旅行をするには仕事を辞めるしかないが、その勇気はない。いっそ会社が倒産してくれれば私としても踏ん切りがつくのだが・・・
 こうなったら限られた条件で最大限の満足を得るしかない。向こう10年は博多に来なくてもいいと思えるような満足感を。でないと、毎年博多に行く羽目になる。

【一日目】
 考え抜いた滞在プラン、と言うか食事プランを引っ提げて博多に乗り込んだ。11月29日、午後12時50分。JR博多駅へ到着。私の旅は始まる。

○第一日目の予定・・・
 ・お昼「かろのうろん」
 ・間食「一蘭」
 ・夕食「寿久(博多駅前のもつ鍋屋さん)」

 しかし、さすがは日本有数のグルメスポット博多だ。地下鉄を降りたばかりで博多駅に着いて数分しか経っていない。なのにだ、すでに心と胃袋は千々に乱れる。「前門の博多ラーメン、後門の金沢カレー」の挟み撃ちにあって、いきなりの大ピンチだ。一食目は「かろのうろん」でおうどんを頂くと固く誓っていたのだが、腹具合は「腹零分目」の飢餓状態ゆえに誘惑に負けてしまいそうだ。あれだけ入念に食事の計画を立てて今回の旅行に臨んだのに・・・

 目の前には私が愛してやまない「名代ラーメン」がある。私もなかなかの豚骨喰いなので常に自分の中で「豚骨ラーメンランキング」を作成している。この旅行時点のランキングでは「博多一幸社・総本店」が1位。対して「名代ラーメン」のランキングはと言うと「チャンピオン」だ。これは私のランキングがボクシングと同じ順位付けを採用しているためである。つまり「名代ラーメン」は王様。特別、別格、神格化されたリカルド・マルチネスやホセ・メンドーサ、鷹村守様のような存在だ。 
 味の方はと言うと、いつ食べても落ち着く、昔ながらの豚骨ラーメンだ。20年以上前、学生の頃に初めて食べた時と変わらない美味しさだ。ラーメン業界全体が濃厚さをエスカレートさせている中、昔と変わらない味でいつも私を迎えてくれる。豚骨ラーメンにからし高菜を入れて味変させる喜びを教えてくれたのもこのお店だ。故に博多に来た時は必ず食べている。もし食べないのなら、生まれて初めて博多に来たのに名代ラーメンを食べないことになる。「これは名代ラーメンへの裏切り行為と言えないだろうか?」と、すでに言い訳を始めている自分がいる。

「名代ラーメン」だけでも悩ましいのに、後ろを振り返ったら「チャンピオンカレー」までいやがる。真っ黒なビジュアルでお馴染みの金沢カレーの老舗だ。
 ジャンクフードを愛する者が巡礼しなければならない聖地は無数にあるが、チキン南蛮発祥の店として有名な宮崎県の「おぐらチェーン」、げんこつハンバーグが県民のハートを鷲掴みしている静岡県の「さわやか」、そして、石川県の「カレーのチャンピオン」は別格だ。ゴーゴーカレーを通じてだが、私も金沢カレーのちょっとした虜になっている。諸説あるが、金沢カレーは「カレーのチャンピオン」の創業者が考案したレシピからその歴史が始まっているらしい。
 いつか石川県へ現地入りし、「金沢カレー食べ尽くしツアー」を敢行しようと長年思っていたのだが、先ほども述べたように老い先短いナイスミドルなので行く前に大往生するかもしれない不安もあった。そんなタイミングでファーストコンタクトしてしまうとは何という運命のいたずらだろう。

 この時点の満腹度メーターはゼロ。ゲームなら時間経過に伴いHPが減っていく状態だ。はっきり言って、そんなに飢えてる時はうどんよりラーメンやカレーの方が魅力的に思える。4BIT級の処理速度を誇る私の脳が4つの選択肢を提示する。

①旅の予定通り「かろのうろん」
②安定感抜群の「名代ラーメン」
③人生初の「チャンピオンカレー」
④「名代ラーメン」食べた後に急いで「チャンピオンカレー」。食べた後に歩きまくってお腹を空かせてからの「かろのうろん」

 私ももうナイスミドルなお年頃なので、どう考えても無謀に思える④の選択肢が「やれば出来るかも?」と思えるほどに飢えて錯乱していた。

 しかし、毎年のように「禁煙する」と言っては失敗する、意思の弱さに定評がある私にも拘わらず「名代ラーメン」と「チャンピオンカレー」の誘惑を振り切ることが出来た。その場で立ち止まらず、地上行きのエスカレーターに飛び乗ったのが功を奏した。もし、その場で立ちすくんでいたらどうなっていた事やら・・・

 そんないきなりの窮地を脱し、無事にかろのうろんへ到着。博多駅から徒歩10分程度だし、何度も来てるので知らない土地ではないが完全に土地勘があるわけでもない上、かなりの方向音痴なので辿り着けるか多少不安だったがグーグル先生のおかげですぐに着いた。先生、ありがとう。
 老舗オーラが溢れ出す佇まいに期待が高まる。私が店先の食品サンプルを撮影していたからだろう、入店するなり「うちは撮影禁止ですけど良いですか」と言われた。経験上、「店のルールに従え、でなきゃ帰れ」系のお店は期待出来る。撮影禁止?はい!喜んで!
 席に着くなり「とろろこんぶうどん」を注文だ。うどんを待つ間に店内を見まわしてみると、何故か小松政夫のサインやグッズがやたらと置かれている事に気付いた。小松政夫に関しては植木等の付き人をやってたという事しか知らない。何だろう、いわゆる「推し活」というやつなのだろうか?
 そんな事を考えているうちに「とろろこんぶうどん」の降臨だ。これの素晴らしさについては「12.ふわふわも好きだ」で熱く語ってる。どん兵衛の西日本バージョンが好みの方ならブッ刺さるはずだ。うどんでガンギマリになりたいと思ってるなら是非、食べてみて欲しい。

 このまま帰ったとしても大満足の博多旅行になるだろう。しかし、これはまだ一食目。更なる美食が私を待ち受けている。「かろのうろん」を食した後はそのまま徒歩で福岡の繁華街である天神へ向かう。歩いて15分は微妙な距離。しかし、今回の旅ではバスも地下鉄も禁止。とにかく歩きまくってお腹を空かせなければならない。

 地下鉄天神到着。一年ぶりにSuicaの残高を確認すると、9,000円もの大金がチャージされていた事実に気付く。旅行の度に気合を入れて3,000円とか5,000円をチャージするけど、意外と使わないのでこんなに貯まっていたのだろう。
 これは「疑似ボーナス効果」とでも呼べばよいのだろうか。実際は過去の自分がチャージしてただけなので一円も儲かっていないのだが、久しぶりに着た服のポケットにお札が入っていた時と同じで、何故か儲かったような気分になる。何にせよ9,000円もの自由に使える大金だ。旅行で浪費、といえばやはりブックオフだろう。旅先のブックオフでのレア物との一期一会ほど素晴らしい出会いはない。
 結局、1時間以上ブックオフに滞在し、プリンスのCDを購入。会心のショッピングだ。その間、立ちっぱなしの歩きっぱなし。足も疲れたし、少し喉も渇いて来た。次の予定は天神から徒歩15分のキャナルシティ博多という商業施設に入っている一蘭。何故この旅行のタイミングで一蘭を候補に挙げたのか、その理由は後ほど。
 テクテク歩きながら一杯引っかけられるお店を探していたら「磯丸水産」を発見。即突入だ。

 久しぶりの「磯丸水産」でちょい飲み開始。ここでは鉄板の「蟹味噌甲羅焼」を。「このために磯丸に通ってる」と言っても良い名作中の名作だ。蟹アレルギーでもないのにこれを頼まない人は酔っぱらいの素人、吞兵衛として下の下だ。私はそういう人とは仲良くなれない。さて、それだけでは寂しいので、マグロの赤身とびんちょうがセットになった「富士2種盛り」も注文。これで肴は準備万端だ。
 しかし、平日の昼飲みはいつだって最高だ。あくせくと働くサラリーマンをガラス越しに眺めながらの一杯は堪えられない。11月なのが残念だった。夏場だったらハンカチ片手に汗をかきながら歩くサラリーマンを冷房の効いた店内からキンキンに冷えたビール片手に眺められたのに。
 博多に住んでる後輩とコンタクトが取れたので、飲みに行く約束をする。現在の時刻は15時過ぎ。20時頃に博多駅に来るとの事なので、まだ時間はある。ゆったりとした時間が流れる。生きているだけでも素晴らしいのに、昼間っから「蟹味噌甲羅焼」をあてにおビールを頂けるなんて。
 5年以上ぶりの「蟹味噌甲羅焼」は相変わらずの美味しさだった。これがあればビール何杯でもいける。そして遅れて「富士2種盛り」が到着したのだが・・・やけにボリュームが多くないか?某コメダ的な珈琲屋さんの「逆見本詐欺」を彷彿とさせるインパクトだ。一切れがネタとしゃりを合わせた回転ずし一貫に近いサイズだ。それが6,7切れもある。「いやいや、こんなの食べたら一時間後に食べる予定の一蘭が入らないでしょ」。焦り、困惑、動揺。不安定な精神状態になってきた。

「すいません、僕頼んでません。別のお客さんと間違えてませんか」と、店員さんに嘘を付いて返品しようにも注文はタッチパネル方式。間違いなく私が頼んでると端末が証人になっている。

令和5年11月29日、午後15時30分。福岡市博多区にある磯丸水産の片隅で、筆者はマグロの山を前にして震えていた。

博多旅行はまだ始まったばかりだ・・・

To be continued...
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