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七章 四天王幹部
37話:失敗
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オシュテンは拷問室で青い花の蜜を優雅に啜っていた。
魔族がうつ伏せで寝ているテーブルの上に座っている。
「そんなに慌ててどうしたんだい? まさかラメッタちゃんが興奮している? おいで、よしよししてあげる」
「違うわい! わしが開発したその花を配っていたら魔族を見つけた」
「良い成果だ」
「それも強いやつだ」
「で、逃がしたわけか。僕が見つけたら処理しておく」
「そんな簡単なっ」
「僕が負けるということ? なら僕が戦って危険だったら助けに来てよ、ラメッタちゃん」
「オシュテンよ、そういうことじゃないわ。そもそもな、わしは戦えない。おぬしほど強くない」
「ラメッタちゃんに応援されるだけでも違うんだけどな。クレーエン兄さんが戦ったと思うんだけど、そんなにも強いやつ?」
オシュテンがクレーエンを兄さん呼びするのは、オシュテンがラメッタと結ばれた場合(オシュテン的には)お兄さんになるかららしい。
とは言うものの、クレーエンは当然ラメッタの兄ではない。
クレーエンは十七才の青年で、ラメッタは実年齢七十八才、身体は十三才で止まっている外見幼女なのだ。
「空間消去という技らしい。話すと長いが、不意打ちされたら負ける可能性がある」
「そうか、実に面白くないね」
オシュテンは吸っていた花を口から離すと寝ている魔族の口に押し込んだ。
「この花の蜜、香りが良くて美味しい。白と青でも味が違うね。食用の花から応用して発明した?」
「観賞用の花じゃが?」
「ラメッタちゃんが好きなものを聞けてしまったね。話は変わるけども、クレーエン兄さんが強いと思った魔族に逃げられたのは痛いかも」
「申し訳ない。人混みを利用して逃げられた」
クレーエンが謝ると、オシュテンは頬杖を突いて頬を乗せる。
柔らかい頬は餅のようにぷっくらとしていて、拳に潰されて目元に押し上げられ片目が細くなる。
「汚い作戦を使うんだね。統一祭で魔族を見つけても同じように人混みを利用するだろうね。どうするつもりだ?」
「魔族と判断したら眠らせる魔法薬をかける、みたいな作戦を考えておったが。魔族がどこまで暴れてくるかじゃな。統一祭でバオムを侵略してくる可能性も少なくない」
「そうだね。僕的には人が集まっていない方がいいだろうと思うよ。ただ祭りで魔族を集めるというのに不利だね。それと、統一祭に来ない魔族に関してはどうするつもり?」
「トゥーゲント連合とオシュテン派の人間を総動員してできるだけ正確な戸籍のようなものを作成してもらった。祭りに来ない人間をなんとかリストアップする。各グループに分けて来なかった家庭を挙げてもらうつもりじゃが」
「無理やり参加させるのかい?」
「そこは大丈夫じゃ。統一祭は国が一体になったことを祝う祭り、そのためこれから統一された国の運営のために戸籍を中心とした書類を作成するのはおかしな話ではないからの。そのために集まれということにする」
「国民には戦ってもらうのが良いだろうけど、どこまで情報を流せるか?」
「わしとクレーエン、トゥーゲント連合はシュヴァルツ、オシュテン派はオシュテン、そしてディーレ姫。作戦は五人の秘密じゃ」
「僕を信じるってこと?」
「わしはオシュテンが自分の国を荒らされるのを嫌っているのは分かっておるから」
「全く。僕は愛の力だと言われた方が頑張れるというのにね」
オシュテンはテーブルから降りる。
軽やかな所作、優美に日傘を広げる。
「待て、オシュテン」
「ラメッタちゃん愛の告白かい?」
「違うが?」
「それはがっかりだね」
「おぬしの意見を聞きたい。統一祭は上手くいくと思うか? 国が滅ぶかもしれない」
「弱気だね。もし滅びるなら僕はどうすると思う?」
「オシュテンが従っておるからもう少し聞きたいんじゃが。わしが傾国の美女として、わしのためにどんな作戦でも実行する! ってタイプじゃないじゃろ。むしろ失敗しそうなら止めるはずだと思う」
「僕は魔族を殺しているよ。魔道具を作っていた魔族だ。僕はね、この国から魔族を根絶やしにしたいんだよ。ラメッタちゃんが言っているのは国として戸籍を作る、だからそのときに一人残らず魔族かどうか審査をするってことだ。全員確かめられる数少ない機会だから期待している。止める必要はないだろ? これで満足?」
「ああ。ありがと」
ラメッタが言うとオシュテンは微笑んで日傘で表情を隠す。
拷問部屋から出ていった。
ところで、テーブルの上で仰向けの魔族はどうすればいいのか?
ラメッタはじっと魔族を見る。
口には先ほどオシュテンが吸っていた花が突っ込まれている。
「生きてはいるよな? まだまだ実験しなきゃだが。それにオシュテンのやつ詳しい話をする前に姿を消しよって!」
ラメッタは眉に力を入れて怒っていた。
「自由人だよな」
「そうじゃろ、あいつ。苦手じゃ、嫌いじゃ」
「それにしては楽しそうじゃないか?」
「クレーエン、まさかおぬし節穴か?」
「なあ、ラメッタ。ディーレ姫のことも、ベリッヒ姫のことも、チルカ姫のことも好きか?」
「なんじゃ、姫に愛の告白でもするのか?」
「違うぞ。俺はさ、ラメッタが本当はもっと騒ぎたいって思っている気がして」
「何を言っておる。既にはしゃいだわ」
「ならいい」
「クレーエン、どうした?」
「ラメッタの功績を考えれば魔王軍なんて戦わなくてもバオム国に来なくても処刑されない気がしたんだ。本当はエアデ王国もバオム国もラメッタがいなければ水不足で人が住めるようなところじゃなかったんだろ?」
「それで大人になったつもりか? おぬしはガキじゃ」
「十七才だが?」
ラメッタはクレーエンから視線を外す。
真剣な表情で続ける。
「わしはエアデ王国の民も王も説得できると思っていない。世界樹を暴走させたことを考えれば、水不足を対処してたのはわしだって納得させることはできぬ」
「そういうものか」
「ああ。じゃから魔王軍をなんとかする。死刑なんて嫌じゃ。処刑上でのわしのごねっぷりを見てたじゃろ?」
ラメッタは笑っていた。
クレーエンは踏み込めない。
たぶんまだ、この子供らしくない笑顔の向こう側には行けないのだ。
せめて。
「世界樹のこと、俺はもう許してしまっている」
クレーエンは伝えておこうと思ったのだ。
ラメッタは察していただろうが、とクレーエンがラメッタを見ると。
ラメッタは上目遣いでじっとクレーエンを見ていた。
丸々とした瞳がいつの間にクレーエンを向いていたのだろうか?
ラメッタはクレーエンの言葉に驚いているようだった。
「クレーエンのくせに、何様のつもりじゃ」
「ゼロ票か一票かって違うと思うが?」
「誤差じゃろ」
ラメッタはぴょんっと跳ねて部屋を出ようとする。
クレーエンはやれやれと付いていく。
この統一祭でバオム国の運命は決定づけられてしまうのだ。
気を引き締めなくてはならない、クレーエンは決意を固める。
魔族がうつ伏せで寝ているテーブルの上に座っている。
「そんなに慌ててどうしたんだい? まさかラメッタちゃんが興奮している? おいで、よしよししてあげる」
「違うわい! わしが開発したその花を配っていたら魔族を見つけた」
「良い成果だ」
「それも強いやつだ」
「で、逃がしたわけか。僕が見つけたら処理しておく」
「そんな簡単なっ」
「僕が負けるということ? なら僕が戦って危険だったら助けに来てよ、ラメッタちゃん」
「オシュテンよ、そういうことじゃないわ。そもそもな、わしは戦えない。おぬしほど強くない」
「ラメッタちゃんに応援されるだけでも違うんだけどな。クレーエン兄さんが戦ったと思うんだけど、そんなにも強いやつ?」
オシュテンがクレーエンを兄さん呼びするのは、オシュテンがラメッタと結ばれた場合(オシュテン的には)お兄さんになるかららしい。
とは言うものの、クレーエンは当然ラメッタの兄ではない。
クレーエンは十七才の青年で、ラメッタは実年齢七十八才、身体は十三才で止まっている外見幼女なのだ。
「空間消去という技らしい。話すと長いが、不意打ちされたら負ける可能性がある」
「そうか、実に面白くないね」
オシュテンは吸っていた花を口から離すと寝ている魔族の口に押し込んだ。
「この花の蜜、香りが良くて美味しい。白と青でも味が違うね。食用の花から応用して発明した?」
「観賞用の花じゃが?」
「ラメッタちゃんが好きなものを聞けてしまったね。話は変わるけども、クレーエン兄さんが強いと思った魔族に逃げられたのは痛いかも」
「申し訳ない。人混みを利用して逃げられた」
クレーエンが謝ると、オシュテンは頬杖を突いて頬を乗せる。
柔らかい頬は餅のようにぷっくらとしていて、拳に潰されて目元に押し上げられ片目が細くなる。
「汚い作戦を使うんだね。統一祭で魔族を見つけても同じように人混みを利用するだろうね。どうするつもりだ?」
「魔族と判断したら眠らせる魔法薬をかける、みたいな作戦を考えておったが。魔族がどこまで暴れてくるかじゃな。統一祭でバオムを侵略してくる可能性も少なくない」
「そうだね。僕的には人が集まっていない方がいいだろうと思うよ。ただ祭りで魔族を集めるというのに不利だね。それと、統一祭に来ない魔族に関してはどうするつもり?」
「トゥーゲント連合とオシュテン派の人間を総動員してできるだけ正確な戸籍のようなものを作成してもらった。祭りに来ない人間をなんとかリストアップする。各グループに分けて来なかった家庭を挙げてもらうつもりじゃが」
「無理やり参加させるのかい?」
「そこは大丈夫じゃ。統一祭は国が一体になったことを祝う祭り、そのためこれから統一された国の運営のために戸籍を中心とした書類を作成するのはおかしな話ではないからの。そのために集まれということにする」
「国民には戦ってもらうのが良いだろうけど、どこまで情報を流せるか?」
「わしとクレーエン、トゥーゲント連合はシュヴァルツ、オシュテン派はオシュテン、そしてディーレ姫。作戦は五人の秘密じゃ」
「僕を信じるってこと?」
「わしはオシュテンが自分の国を荒らされるのを嫌っているのは分かっておるから」
「全く。僕は愛の力だと言われた方が頑張れるというのにね」
オシュテンはテーブルから降りる。
軽やかな所作、優美に日傘を広げる。
「待て、オシュテン」
「ラメッタちゃん愛の告白かい?」
「違うが?」
「それはがっかりだね」
「おぬしの意見を聞きたい。統一祭は上手くいくと思うか? 国が滅ぶかもしれない」
「弱気だね。もし滅びるなら僕はどうすると思う?」
「オシュテンが従っておるからもう少し聞きたいんじゃが。わしが傾国の美女として、わしのためにどんな作戦でも実行する! ってタイプじゃないじゃろ。むしろ失敗しそうなら止めるはずだと思う」
「僕は魔族を殺しているよ。魔道具を作っていた魔族だ。僕はね、この国から魔族を根絶やしにしたいんだよ。ラメッタちゃんが言っているのは国として戸籍を作る、だからそのときに一人残らず魔族かどうか審査をするってことだ。全員確かめられる数少ない機会だから期待している。止める必要はないだろ? これで満足?」
「ああ。ありがと」
ラメッタが言うとオシュテンは微笑んで日傘で表情を隠す。
拷問部屋から出ていった。
ところで、テーブルの上で仰向けの魔族はどうすればいいのか?
ラメッタはじっと魔族を見る。
口には先ほどオシュテンが吸っていた花が突っ込まれている。
「生きてはいるよな? まだまだ実験しなきゃだが。それにオシュテンのやつ詳しい話をする前に姿を消しよって!」
ラメッタは眉に力を入れて怒っていた。
「自由人だよな」
「そうじゃろ、あいつ。苦手じゃ、嫌いじゃ」
「それにしては楽しそうじゃないか?」
「クレーエン、まさかおぬし節穴か?」
「なあ、ラメッタ。ディーレ姫のことも、ベリッヒ姫のことも、チルカ姫のことも好きか?」
「なんじゃ、姫に愛の告白でもするのか?」
「違うぞ。俺はさ、ラメッタが本当はもっと騒ぎたいって思っている気がして」
「何を言っておる。既にはしゃいだわ」
「ならいい」
「クレーエン、どうした?」
「ラメッタの功績を考えれば魔王軍なんて戦わなくてもバオム国に来なくても処刑されない気がしたんだ。本当はエアデ王国もバオム国もラメッタがいなければ水不足で人が住めるようなところじゃなかったんだろ?」
「それで大人になったつもりか? おぬしはガキじゃ」
「十七才だが?」
ラメッタはクレーエンから視線を外す。
真剣な表情で続ける。
「わしはエアデ王国の民も王も説得できると思っていない。世界樹を暴走させたことを考えれば、水不足を対処してたのはわしだって納得させることはできぬ」
「そういうものか」
「ああ。じゃから魔王軍をなんとかする。死刑なんて嫌じゃ。処刑上でのわしのごねっぷりを見てたじゃろ?」
ラメッタは笑っていた。
クレーエンは踏み込めない。
たぶんまだ、この子供らしくない笑顔の向こう側には行けないのだ。
せめて。
「世界樹のこと、俺はもう許してしまっている」
クレーエンは伝えておこうと思ったのだ。
ラメッタは察していただろうが、とクレーエンがラメッタを見ると。
ラメッタは上目遣いでじっとクレーエンを見ていた。
丸々とした瞳がいつの間にクレーエンを向いていたのだろうか?
ラメッタはクレーエンの言葉に驚いているようだった。
「クレーエンのくせに、何様のつもりじゃ」
「ゼロ票か一票かって違うと思うが?」
「誤差じゃろ」
ラメッタはぴょんっと跳ねて部屋を出ようとする。
クレーエンはやれやれと付いていく。
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