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四章 もう一つの組織
18話:底力
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オシュテンはディーレの腕を強く掴んで連れていこうとしていた。
クレーエンもラメッタもオシュテンの加護による赤い光が帯のように絡まって魂を拘束し、連動して身体も動かせない。
「やめろ」
クレーエンは唾を吐いて言う。オシュテンは気に入らない行動を見て、頭を怒りで掻きながらクレーエンに近づく。
オシュテンのピアスから閃光が走った。
光に触れたところから煙が出て皮膚が焼ける。クレーエンは一切表情を変えない。
「もう一度言う、やめろ」
そのとき、オシュテンは無意識に一歩下がった。未知の何かを感じ取って安全を確保するために行動へ移したらしい。何よりもオシュテンが驚いていた。
一体なぜ?
目の前の男は拘束されているはず。
奥の手が?
オシュテンは分からない。
だが徹底的に未知な要素を排除することに決めた。
「ディーレ姫、約束は守れないや。この男だけは何かを隠し持っている」
「隠すって何を?」
クレーエンは赤い光を引き摺りながらオシュテンに近づく。
魂の拘束によって肉体はついでに動けなくなっているだけだ。
でもこの男は抵抗できている。
「この程度で勝ったとは、諦めが早い戦況もろくに読めずすぐに折れる者としか戦ったことがないのか? 対人戦に慣れたからか。魔獣は仕留めないと抵抗してくるぞ?」
クレーエンは魔剣を大きく上げて振った。オシュテンは傘の上にある翼を使って高速で避けた。
汗が散る。
「むしろ近づく方が危険。ディーレ姫、早く……」
オシュテンはディーレの腕を掴もうとする。
ディーレは咄嗟にクレーエンの元へ走った。オシュテンは舌打ちをする。
「僕の準備不足だ。退散させてもらう」
傘から浮力が生じてオシュテンは遠くへ消える。拘束を抵抗しながらでは宙に浮く相手まではどうにもできずに諦める。
それから、拘束が解けた。オシュテンから一定以上の距離ができると自然と解除されるのだろう。
クレーエンは地面に仰向けになった。ひどく疲れたようで覇気がない。
「助かったのじゃ」
「なんとかな、予想外の力だ」
「あれがトゥーゲント連合の人がいっていた不思議な力か。呪いじゃったな」
「加護って言ってなかったか?」
「詳しいことは分からない。ディーレ姫、腕はどうなったのじゃ?」
「少し赤くなってますがなんとか大丈夫です。ラメッタ様、どうされますか?」
フルーツの回収をやめることも考えたが今日はオシュテンの襲撃がないだろう。今のうち収穫しておきたい気持ちと、面倒事で疲れたがゆえに甘いものを食べて回復したいという気持ちがあった。
「行くぞ」
「はい!」
「思ったより元気があるな」
「クレーエン様、フルーツですから」
次の建物でもラメッタは人気者だった。どんな成果が得られたか、問題が発生しているかを話して、ラメッタが褒めたり教えたりしている。
「これで回収は終わった。城に戻ったらパーティじゃな」
「クレーエン様はどうしますか?」
「おい、ディーレ姫、食べる分が減ってしまうし女子トークができなくなってしまうぞ!」
「俺がいるとそんなにも不都合か?」
「女の子同士の話がしたいんじゃから。おぬしが女の子になりたいならいいが。前まで研究した途中までのものがあるし、それを応用すれば女子トークに参加できる」
「ラメッタ、俺に何をするつもりだ?」
「女の子計画」
「計画って付ければなんでも格好いいと思ってるだろ?」
ラメッタは図星だった。クレーエンの言い方からしてガキだと言っているようなものなので気に食わない。
城に戻る。ラメッタは厨房に行ってタルトやクッキーを作ることにした。クレーエンやディーレも付いてくる。
「珍しいの」
「あれだけ力を入れていたら気になるものだ」
「私もです! なんなら作れるようになりたいので」
「ほう。もっと近くで見るか?」
タルト、クッキーを作る。余った分は水洗いしてそのまま食べることにした。皿に盛り付けて、ジュースも準備する。
「じゃあ、お疲れ様会?」
「そうですね!」
ガラス製のコップを持って、コツンと当てた。
「「乾杯!」」
甘くて美味しいスイーツと果物。ただ今日は楽しいだけでは終われない。
「オシュテンってやつ強いな。傘があまりにも強力だ。あの魔道具、ラメッタよりもすごいだろ」
「クレーエン様、そんな言い方しないでください。ラメッタ様がかわいそうです」
「もっと言ってやれなのじゃ。あれは職人の能力は低いとは言わないが、それによる性能の高さではない。素材がいいんじゃろうな。おそらく、呪いもあの傘の素材だろう」
疑問点は少なくない、ラメッタは考える。あれだけ性能が高い魔道具を職人なしで管理することはできるのか?
仲間にしていたなら、他にも道具を作らせたりするはずだ。
そうでないのなら、傘は調整がほとんど必要ないことになる。ますます素材が気になる。
「どうせオシュテンは攻略しなければならないからの」
ラメッタはクレーエンを見た。
「呪いさえなければ勝てるか?」
「あっても負けはしない。だがそうだな」
「呪いを抑えれば勝てるなら可能じゃな。勝てる」
「呪いを抑えるか。まさか老いる薬か?」
「老いるってなんじゃ! 老いるって」
ラメッタは叫んだ。
クレーエンは両耳を塞ぐ。
「何とかなりそうですか?」
ディーレが心配そうに言う。もう少しで連れていかれそうになったのもあるだろう。
「もちろん、わしは天才じゃからの!」
ラメッタの強気な発言を聞くとディーレは笑った。
三人でフルーツとお菓子を食べ、ジュースを飲む。
オシュテンに関する作戦はまた今度考えることにした。
今日は疲れたのだ。
クレーエンもラメッタもオシュテンの加護による赤い光が帯のように絡まって魂を拘束し、連動して身体も動かせない。
「やめろ」
クレーエンは唾を吐いて言う。オシュテンは気に入らない行動を見て、頭を怒りで掻きながらクレーエンに近づく。
オシュテンのピアスから閃光が走った。
光に触れたところから煙が出て皮膚が焼ける。クレーエンは一切表情を変えない。
「もう一度言う、やめろ」
そのとき、オシュテンは無意識に一歩下がった。未知の何かを感じ取って安全を確保するために行動へ移したらしい。何よりもオシュテンが驚いていた。
一体なぜ?
目の前の男は拘束されているはず。
奥の手が?
オシュテンは分からない。
だが徹底的に未知な要素を排除することに決めた。
「ディーレ姫、約束は守れないや。この男だけは何かを隠し持っている」
「隠すって何を?」
クレーエンは赤い光を引き摺りながらオシュテンに近づく。
魂の拘束によって肉体はついでに動けなくなっているだけだ。
でもこの男は抵抗できている。
「この程度で勝ったとは、諦めが早い戦況もろくに読めずすぐに折れる者としか戦ったことがないのか? 対人戦に慣れたからか。魔獣は仕留めないと抵抗してくるぞ?」
クレーエンは魔剣を大きく上げて振った。オシュテンは傘の上にある翼を使って高速で避けた。
汗が散る。
「むしろ近づく方が危険。ディーレ姫、早く……」
オシュテンはディーレの腕を掴もうとする。
ディーレは咄嗟にクレーエンの元へ走った。オシュテンは舌打ちをする。
「僕の準備不足だ。退散させてもらう」
傘から浮力が生じてオシュテンは遠くへ消える。拘束を抵抗しながらでは宙に浮く相手まではどうにもできずに諦める。
それから、拘束が解けた。オシュテンから一定以上の距離ができると自然と解除されるのだろう。
クレーエンは地面に仰向けになった。ひどく疲れたようで覇気がない。
「助かったのじゃ」
「なんとかな、予想外の力だ」
「あれがトゥーゲント連合の人がいっていた不思議な力か。呪いじゃったな」
「加護って言ってなかったか?」
「詳しいことは分からない。ディーレ姫、腕はどうなったのじゃ?」
「少し赤くなってますがなんとか大丈夫です。ラメッタ様、どうされますか?」
フルーツの回収をやめることも考えたが今日はオシュテンの襲撃がないだろう。今のうち収穫しておきたい気持ちと、面倒事で疲れたがゆえに甘いものを食べて回復したいという気持ちがあった。
「行くぞ」
「はい!」
「思ったより元気があるな」
「クレーエン様、フルーツですから」
次の建物でもラメッタは人気者だった。どんな成果が得られたか、問題が発生しているかを話して、ラメッタが褒めたり教えたりしている。
「これで回収は終わった。城に戻ったらパーティじゃな」
「クレーエン様はどうしますか?」
「おい、ディーレ姫、食べる分が減ってしまうし女子トークができなくなってしまうぞ!」
「俺がいるとそんなにも不都合か?」
「女の子同士の話がしたいんじゃから。おぬしが女の子になりたいならいいが。前まで研究した途中までのものがあるし、それを応用すれば女子トークに参加できる」
「ラメッタ、俺に何をするつもりだ?」
「女の子計画」
「計画って付ければなんでも格好いいと思ってるだろ?」
ラメッタは図星だった。クレーエンの言い方からしてガキだと言っているようなものなので気に食わない。
城に戻る。ラメッタは厨房に行ってタルトやクッキーを作ることにした。クレーエンやディーレも付いてくる。
「珍しいの」
「あれだけ力を入れていたら気になるものだ」
「私もです! なんなら作れるようになりたいので」
「ほう。もっと近くで見るか?」
タルト、クッキーを作る。余った分は水洗いしてそのまま食べることにした。皿に盛り付けて、ジュースも準備する。
「じゃあ、お疲れ様会?」
「そうですね!」
ガラス製のコップを持って、コツンと当てた。
「「乾杯!」」
甘くて美味しいスイーツと果物。ただ今日は楽しいだけでは終われない。
「オシュテンってやつ強いな。傘があまりにも強力だ。あの魔道具、ラメッタよりもすごいだろ」
「クレーエン様、そんな言い方しないでください。ラメッタ様がかわいそうです」
「もっと言ってやれなのじゃ。あれは職人の能力は低いとは言わないが、それによる性能の高さではない。素材がいいんじゃろうな。おそらく、呪いもあの傘の素材だろう」
疑問点は少なくない、ラメッタは考える。あれだけ性能が高い魔道具を職人なしで管理することはできるのか?
仲間にしていたなら、他にも道具を作らせたりするはずだ。
そうでないのなら、傘は調整がほとんど必要ないことになる。ますます素材が気になる。
「どうせオシュテンは攻略しなければならないからの」
ラメッタはクレーエンを見た。
「呪いさえなければ勝てるか?」
「あっても負けはしない。だがそうだな」
「呪いを抑えれば勝てるなら可能じゃな。勝てる」
「呪いを抑えるか。まさか老いる薬か?」
「老いるってなんじゃ! 老いるって」
ラメッタは叫んだ。
クレーエンは両耳を塞ぐ。
「何とかなりそうですか?」
ディーレが心配そうに言う。もう少しで連れていかれそうになったのもあるだろう。
「もちろん、わしは天才じゃからの!」
ラメッタの強気な発言を聞くとディーレは笑った。
三人でフルーツとお菓子を食べ、ジュースを飲む。
オシュテンに関する作戦はまた今度考えることにした。
今日は疲れたのだ。
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