上 下
12 / 54
三章 バオムの姫

11話:これからの話(1)

しおりを挟む
ラメッタはゆっくりとディーレに近づく。
 間に入ってきた執事がじっとラメッタを睨んだ。

「いくらラメッタ様とはいえ、これ以上の無礼は許しません」

 執事は短刀を構えて言う。
 その様子を見ていたクレーエンは特に気にすることもなく焼き菓子を口にする。

「無礼ではない。のう、ディーレ姫。わしの案に乗らないか? 国をもう一度治め、権力を王族貴族に戻す最後のチャンスじゃ。今や、テロ組織は二個までまとまった。一方はわしを崇拝しておる。わしと組まないか?」
「でも私はテロ組織と組むなんて」
「元は一般国民。おぬしがすべきことをせよ」
「これ以上悪化したら本当に」
「既に国として破綻しておる。どうする? 案に乗る条件はわしと握手することじゃ。その物騒な執事が邪魔じゃな」
「私は、この国のためなら何でもできます。誰かの嫁として差し出されることにも耐えられます。約束してください。ラメッタ様の案はこの国と国民のためであると」
「もちろん」
「なら」

 ディーレは執事を制して前に出る。
 そしてラメッタと握手をした。
 ラメッタは跳んでラメッタの懐へ。

「え? あ、温かい」

 ディーレの背中を優しく撫でる、小さな手。

「頑張ったな、姫よ。おぬしを尊敬しよう。わしが参上した、この国はきっと良くなる」
「どうしてここまで」
「努力は報われるものじゃから。わしは七十八、もっと早く気づいておればバオムは崩壊寸前までいくことはなかった。長生きした者としての責任もある。じゃあ焼き菓子食べるぞ」
「はい、ラメッタ様」

 二人は席に戻った。
 一時間ほど焼き菓子を食べると先にラメッタがテーブルに伏せる。
 ディーレは嬉しそうに食べ続けた。

「私の勝ちです」
「そ、そうじゃな」

 ラメッタはお腹を押さえて震えていた。
 クレーエンは呆れたままだ。だが、一瞬子供っぽく笑う。

「本当に馬鹿だな」

 その声を聞いていたのは、意識が朧げな末っ子チルカだけだった。

「今日は城に泊まればいいのか?」
「他にどこに泊まるんだよ」
「テロ組織」
「バオムとしてもエアデ王国の人間を外で一泊させるのはまずいだろうが」
「それもそうじゃな。わくわくするな、クレーエン」
「どうして?」
「この国がどんどん良くなるぞ」
「魔法を使えなくした大罪人とは思えないな」
「あれは実験が失敗に限りなく近い成功だったからじゃ」
「変な奴だ」
「変じゃないもん。美少女で優秀な魔道具職人じゃもん!」
「『世界樹』荒らしてどこが優秀(笑)なんだか?」

 クレーエンは鼻に曲げた人差し指を当てて微笑む。
 ラメッタは眉に力を入れてクレーエンを睨むが、クレーエンは気にする様子もない。
 
 解散して。

「ラメッタ様、寝室はこっちです」
「おお」

 ラメッタはディーレに引かれて部屋まで。
 四人ほど寝られるようなベッドに一人分の枕が置いてある。
 ラメッタはディーレを見る。
 花畑にいるような穏やかな表情だった。

「ふわふわの服に着替えましょう!」
「お、おう」
「ラメッタ様、実年齢は七十八でしたっけ?」
「そうじゃが?」

 ディーレの豊満なそれが姿を現す。
 それが果実であれば相当甘そうである。
 が、それは波を打つようにして揺れる。

「ひいいいい」
「ラメッタ様、どうしましたか? 一体何に怯えて」
「ガキ」
「?」

 ディーレは寝る用の服を持ったまま固まる。
 ラメッタの小言が聞こえなかったらしい。

「ラメッタ様?」
「このガキ、わしの前でぽよぽよと、ぽよぽよと。ふわふわしよって。こうしてやる!」

 ラメッタはディーレのたわわなそれに襲い掛かると両手を広げて跳んだ。
 しかし躓いて。
 それに目掛けて倒れた。
 一大事にならなかったのは柔らかいそれのおかげであるため、ラメッタは大人しくなった。

 着替えを終える。

「昔は窓のある部屋を寝室にしていたんですけどね」
「そうじゃったか」
「夜空が気持ちよくて。私、バオム国を愛しているんです。魔王軍が侵攻を止めて、ちゃんと経済力を付けて、国民のみんなが幸せだって思える国にしたい」
「いつまで弱音を吐いておるんじゃ。最強のわしが手伝うと言っておろ。強い指導者を目指すべきじゃからの、おぬしは」
「精進します」
「ふ。久しぶりのふかふかベッドじゃ」
「そうなんですね。貴族や王族がこんなにも良質なベッドで眠っていると知ったら、今の貧しいバオムでは不満が募って当然ですよね」
「知るか。じゃがの」
「はい」
「今悩んでいるすべては国の王としては重要じゃな。王の資質がある」
「そうですね!」

 ディーレは子供らしくベッドに飛び込む。
 ラメッタも勢いよく飛ぶと、ディーレの身体が少しだけ浮いた。

「私、友達初めてです」
「わし友達?」
「はい!」
「友達じゃな」

 ラメッタとディーレは向かい合うように向きを変えた。

「「えへへ」」

 二人は手を握り合って。
 ディーレの不安な夜はのんびりと過ぎていくのだった。
 朝。

「おい、クソガキ」
「なんじゃ。幼気な乙女の園に! わし、美少女やぞ。それに、ディーレちゃんも美少女やもん」
「ふわあ……。ラメッタ様、朝ですか」

 ディーレは手を口に添えて大きく欠伸をした。
 起き上がると髪がボサボサなクレーエンの姿が。

「ふぁっ。どうして殿方が秘密の園に」
「ディーレ様もラメッタも起きろ。昼だぞ」
「嘘つけ。わしはこれでも早起きの達人じゃ」
「そうですわ。私は一国の姫、睡魔に負けるわけが」
「なら来いよ。高い高いしてるお天道様を見せてやるよ」
「何を言っておるんじゃ。わしの方が年上、朝と言えば朝じゃ」

 クレーエンは背中に準備していた大剣を抜く。

「ショートカットヘアのつもりだったがさらに短くするか」
「わー、わー。わしのお団子ツインテール切ったくせに、さらにわしの髪を切ろうなんて流石魔剣じゃ」

 ラメッタは慌てて距離を取る。
 立ち上がって自身の鼻を摘まむと、

「まあ? わしが調整した剣じゃし切れ味は最高じゃろうな。じゃが、そう易々と切らせるわけにはいかないのじゃ」
「じゃあどうするんだ?」
「ご、ごめんなさいします。隣の美少女が温かくていい匂いで寝すぎたのじゃ」
「はあ?」
「私も連日の疲れがあって、ラメッタ様の話を聞いていたら安心してしまって」
「じゃあディーレ様は無罪だな。おい死刑囚(笑)、お前は罰だ」
「痛いの嫌じゃが」
「簡単な話、これからする会談の準備をする。テロ組織と話をつけに行くぞ。日程決める。姫様は留守番な」
「そんなあ」

 ディーレはその場でぺたんと膝を着けてしまった。

「分かった。もし危険だったらクレーエンが助ける?」
「そういうことになっている」
「そういうことになっている? ……怖いのじゃけど。知っておるか、あの組織私を誘拐してるんじゃぞ?」
「ああ」

 クレーエンはラメッタをお姫様だっこして部屋を出る。
 つまりラメッタは逃げられない。

「この鬼ガキッ!」

 ラメッタの叫びが天高く響く。
 しかしクレーエンはお構いなしだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました

春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。 大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。 ――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!? 「その男のどこがいいんですか」 「どこって……おちんちん、かしら」 (だって貴方のモノだもの) そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!? 拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。 ※他サイト様でも公開しております。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

処理中です...