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最終章 規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる! 149~
エピソード1 良き友としてのチョコ祭り
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小柄な少女カワクロはバレンタイン二日前に高校のときからの友人であるシフユの家に転がり込んでいた。
カワクロとシフユはそれぞれシュイロのいう『七つの大罪』少女のうちの一人で、カワクロはその食欲と食が絡んだときの能力の高さ、問題を引き起こす程度から『暴食』と言われ、シフユはおしゃれと男女問わず惚れやすく、マッチングアプリで男性になりすましたアカウントを作る異常性から『色欲』と言われている。シフユはマッチングした女の子を惚れさせるほどの魅惑を放っている。
「で、私にバレンタインチョコの作り方を教えろと?」
「いいじゃん、いいじゃん。どうせシュイロさんやヒウタに会うのは気まずいし、家にいると大好きな妹様とその彼氏の話が入ってきて嫌でしょう? 居場所がなさそうだから友達のボクのところに来たのかな」
「チョコを溶かして好きな型に流せばいいと思うの」
「冷たいね。流石は負けヒロインの風格」
「負けヒロインって?」
「ヒウタがトアオちゃんと付き合ってラブラブしているそう。本当は付き合ってもいいかなって思っていたのに好きって言う言葉を跳ね除けて、意外と辛そうだねって」
カワクロはパソコンで検索をかけて、頑張らなくてもシフユだけで作れそうなチョコ菓子のレシピを探している。
「トアオちゃんとヒウタはお似合いだし、そもそも」
「たぶん、付き合っても振られたと思うかな。ボクの長年の経験によるものだけどね」
「そう思うの」
「だから負けヒロインだって。ね?」
カワクロはパソコンを閉じて炬燵布団を被った。
「負けていない。私は好きとは違っていて、良き後輩だった」
「なら会いに行けると思うけどね。彼女であるトアオちゃんに怒られるかもって、考えすぎの類だと思うかな」
「私は会いたいわけじゃ」
「大好きなヒウタに会いたいですと。向こうはもう最愛の彼女がいるのかな」
「シフユ、どうしてそんな言い方するの?」
「恋ってさ、みんな必死なんだよ。気づいてほしいし、愛したいし、愛されたいし。恋を知ったカワクロは今までの中で一番魅力的だと思うかな」
「こう見えても人望はある。シュイロさんほどではないけどモテる。私は初めから魅力的」
「ボクと付き合う?」
シフユは正座してカワクロを炬燵の中から引っ張り出すと、腰を浮かせてカワクロの頭をシフユの膝に置く。
「はあ? 変なこと言うな、なの。そもそも私みたいなのタイプじゃなかった」
「だから恋を知って魅力的になったと言っているのかな。高校からの友人でも付き合っていたことはある。上手くいかなかったけど」
「その恋すらも意味があると思っているわけ?」
「もちろん。今回はたくさんチョコを作るつもりだからね、覚悟しろ」
「覚悟をさせるな。料理は多少できたよね?」
「高校のとき生徒会に所属してきた模範生だ。だけど、せっかくカワクロがいるなら教えてもらいたい」
カワクロはシフユをじっと見る。
かわかうような台詞も、冗談交じりの告白も、一体何を考えているのやら。
こんなにもシフユが分からないのに、カワクロはシフユとずっと友人でいる。
生徒会に所属して恋人を途切れさせず常に男女問わずモテていたシフユは、誰もがシフユの言葉を聞こうとした点では統率のある学校を作ったといえるだろうが、誰もが恋に狂っていたという点では風紀を乱した張本人である。
カワクロは料理部に所属していたため、予算増額のために何度も生徒会を訪れてシフユと言い合っていた。
恋をしてはしゃぐのも落ち込むのも馬鹿らしいと思った。
その根底では大食いの女の子として学校で避けられた経験がある。
ただ大食いというだけで化け物扱いされたことで、他人を信用できなくなった。
拒食症になり死にかけたこともあり、開き直って大食いを続けることになった。
食べることが好きになった。
でも。
どこかで普通じゃない自分が嫌だったのだ。
シュイロの周りには『七つの大罪』少女という残り六人の変わった人間がいる。
そこにシフユもいる。
「シフユ」
「どうしたんだい?」
「今日はチョコパーティをしよう。たくさん食べる」
「ボクがカワクロほど食べられると思う?」
「傑作を作るためには、試行錯誤が大事だよ。食べてフィードバックする。できるでしょ?」
「ボクは今年はフリーだから、義理か友チョコしか必要ないよ。気合入っているみたいだけど」
カワクロは身体を起こして捻るとシフユと向かい合う形になった。
「私は『暴食』、妥協はしないの!」
「お姫様はわがままみたいだ」
「教えろって言ったのはシフユでしょ?」
「分かった。カワクロ、元気になったみたいで良かった」
「家から避難してきただけで私自身は元気だから」
市販のチョコを溶かしながら。クッキー、パンケーキ、ガトーショコラ、プリン、ブラウニー、生チョコを作っていく。そのすべてを胃袋に関しては凡人のシフユが食べ切れるわけがなく。
シフユは腹を膨らませて床に転がった。
胃が大きくなったために炬燵に入っていると圧迫されて苦しかったのだ。
カワクロはずっと幸せそうに食べ進める。
「これが一番だ! シフユ、バレンタインはこれが良いと思う。シフユ、一番良くできている。ガトーショコラ!」
「あ、うん」
「てきとーに返事しないで。聞いている?」
「こっちは胃が破裂しそう、カワクロ落ち着いて」
「美味しいの!」
シフユは気を失った。
その寸前に、
「それは良かった」
シフユは友人の笑みに少しだけ満足したのだった。
カワクロとシフユはそれぞれシュイロのいう『七つの大罪』少女のうちの一人で、カワクロはその食欲と食が絡んだときの能力の高さ、問題を引き起こす程度から『暴食』と言われ、シフユはおしゃれと男女問わず惚れやすく、マッチングアプリで男性になりすましたアカウントを作る異常性から『色欲』と言われている。シフユはマッチングした女の子を惚れさせるほどの魅惑を放っている。
「で、私にバレンタインチョコの作り方を教えろと?」
「いいじゃん、いいじゃん。どうせシュイロさんやヒウタに会うのは気まずいし、家にいると大好きな妹様とその彼氏の話が入ってきて嫌でしょう? 居場所がなさそうだから友達のボクのところに来たのかな」
「チョコを溶かして好きな型に流せばいいと思うの」
「冷たいね。流石は負けヒロインの風格」
「負けヒロインって?」
「ヒウタがトアオちゃんと付き合ってラブラブしているそう。本当は付き合ってもいいかなって思っていたのに好きって言う言葉を跳ね除けて、意外と辛そうだねって」
カワクロはパソコンで検索をかけて、頑張らなくてもシフユだけで作れそうなチョコ菓子のレシピを探している。
「トアオちゃんとヒウタはお似合いだし、そもそも」
「たぶん、付き合っても振られたと思うかな。ボクの長年の経験によるものだけどね」
「そう思うの」
「だから負けヒロインだって。ね?」
カワクロはパソコンを閉じて炬燵布団を被った。
「負けていない。私は好きとは違っていて、良き後輩だった」
「なら会いに行けると思うけどね。彼女であるトアオちゃんに怒られるかもって、考えすぎの類だと思うかな」
「私は会いたいわけじゃ」
「大好きなヒウタに会いたいですと。向こうはもう最愛の彼女がいるのかな」
「シフユ、どうしてそんな言い方するの?」
「恋ってさ、みんな必死なんだよ。気づいてほしいし、愛したいし、愛されたいし。恋を知ったカワクロは今までの中で一番魅力的だと思うかな」
「こう見えても人望はある。シュイロさんほどではないけどモテる。私は初めから魅力的」
「ボクと付き合う?」
シフユは正座してカワクロを炬燵の中から引っ張り出すと、腰を浮かせてカワクロの頭をシフユの膝に置く。
「はあ? 変なこと言うな、なの。そもそも私みたいなのタイプじゃなかった」
「だから恋を知って魅力的になったと言っているのかな。高校からの友人でも付き合っていたことはある。上手くいかなかったけど」
「その恋すらも意味があると思っているわけ?」
「もちろん。今回はたくさんチョコを作るつもりだからね、覚悟しろ」
「覚悟をさせるな。料理は多少できたよね?」
「高校のとき生徒会に所属してきた模範生だ。だけど、せっかくカワクロがいるなら教えてもらいたい」
カワクロはシフユをじっと見る。
かわかうような台詞も、冗談交じりの告白も、一体何を考えているのやら。
こんなにもシフユが分からないのに、カワクロはシフユとずっと友人でいる。
生徒会に所属して恋人を途切れさせず常に男女問わずモテていたシフユは、誰もがシフユの言葉を聞こうとした点では統率のある学校を作ったといえるだろうが、誰もが恋に狂っていたという点では風紀を乱した張本人である。
カワクロは料理部に所属していたため、予算増額のために何度も生徒会を訪れてシフユと言い合っていた。
恋をしてはしゃぐのも落ち込むのも馬鹿らしいと思った。
その根底では大食いの女の子として学校で避けられた経験がある。
ただ大食いというだけで化け物扱いされたことで、他人を信用できなくなった。
拒食症になり死にかけたこともあり、開き直って大食いを続けることになった。
食べることが好きになった。
でも。
どこかで普通じゃない自分が嫌だったのだ。
シュイロの周りには『七つの大罪』少女という残り六人の変わった人間がいる。
そこにシフユもいる。
「シフユ」
「どうしたんだい?」
「今日はチョコパーティをしよう。たくさん食べる」
「ボクがカワクロほど食べられると思う?」
「傑作を作るためには、試行錯誤が大事だよ。食べてフィードバックする。できるでしょ?」
「ボクは今年はフリーだから、義理か友チョコしか必要ないよ。気合入っているみたいだけど」
カワクロは身体を起こして捻るとシフユと向かい合う形になった。
「私は『暴食』、妥協はしないの!」
「お姫様はわがままみたいだ」
「教えろって言ったのはシフユでしょ?」
「分かった。カワクロ、元気になったみたいで良かった」
「家から避難してきただけで私自身は元気だから」
市販のチョコを溶かしながら。クッキー、パンケーキ、ガトーショコラ、プリン、ブラウニー、生チョコを作っていく。そのすべてを胃袋に関しては凡人のシフユが食べ切れるわけがなく。
シフユは腹を膨らませて床に転がった。
胃が大きくなったために炬燵に入っていると圧迫されて苦しかったのだ。
カワクロはずっと幸せそうに食べ進める。
「これが一番だ! シフユ、バレンタインはこれが良いと思う。シフユ、一番良くできている。ガトーショコラ!」
「あ、うん」
「てきとーに返事しないで。聞いている?」
「こっちは胃が破裂しそう、カワクロ落ち着いて」
「美味しいの!」
シフユは気を失った。
その寸前に、
「それは良かった」
シフユは友人の笑みに少しだけ満足したのだった。
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