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最終章 規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる! 149~
その5 ヒウタと恋人
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炬燵、湯気が四つ。
一つ目は、食べかけのシーフード味のカップ麺から。二つ目は、同じくカップ麺で麺と具を食べて残ったスープから。
三つ目と四つ目は、勇気を出したヒウタと、そのままストレートな好意を吐き出したトアオであるのだが。
「な、なな。何があったの!」
と風呂掃除でシャツとズボンを濡らした運ちゃんが飛んできた。
髪からぽつぽつと水滴が落ちる。
「運ちゃん、今日のお風呂掃除は派手ですね」
「誰のせい。あたし、今の状況が読めないけど」
「ヒウタさんが恥ずかしいことを言って、私も恥ずかしいことを言ってフリーズしました」
「うん、全然分からないわ。けど、信用できるの?」
「何がです?」
ヒウタはまだ固まっている。
そのため、運ちゃんはトアオに寄って話す。
「シュイロさんはそういうのじゃないとしても、カワクロさんは?」
「カワクロさんって誰ですか? カワクロさんとヒウタさんの面識はない、いいですね?」
「現実逃避してない?」
「こちらが現実だと思いますよ」
トアオは立ち上がって背を伸ばし胸を張る。
手を胸に当てて得意げだ。
「つまり、ついに私たちは晴れて恋人に!」
ヒウタから想いを伝えられた。
トアオも想いを伝えたのだ。
……待て。
「……恋人になってない。なってないじゃないですか!」
「知らないよ。想いを伝え合ったってことだよね」
「ですが恋人とは言ってません。このまま押しきるべきじゃないですか」
「トアオちゃんっ!?」
トアオはヒウタの肩を揺らす。
「ヒウタさん、ヒウタさん。重大なミスに気づいたんですよ」
「ハッ」
ようやくヒウタは魂が身体に戻ったようだ。
「トアオさん?」
「想いを伝え合ったにも関わらず恋人になってません!」
ヒウタは一瞬首を傾げた後、固まって、それから勢いよく立ち上がった。
「ということで恋人になりましょう! まだ取り敢えず恋人がほしくて私の想いに応えてくれたのかもしれませんが、私は頑張ります!」
「違います」
「何がですか?」
「トアオさんと生きたいから、想いを伝えに来ました」
「信じています」
「僕の、恋人になってください」
トアオは深呼吸をして。
「当然ですよ、トアオはヒウタさんが大好きなので!」
と告白して恋人になるところを見ていた運ちゃんは。
驚きを隠せずにぼうっと立っている。
が、それが現実であることが分かると。
運ちゃんはトアオの頭を撫でて嬉しそうに涙を流す。
「良かった。報われて良かったよ、私の親友」
「うん。運ちゃんもきっといい出会いがあるから」
「トアオちゃんのくせによく言うよ。下手なことして飽きられないでね」
「分かってるよ、私のお母さんなの?」
「違う。だからあたしは家に帰るね」
「……え? そしたら明日から誰が家事をすれば。……ヒウタさんお願いできますか?」
運ちゃんはトアオの怠惰な考えに呆れて感情の死んだ目を向ける。
「家事については、そういうロボットでも作れば」
「開発者としては、お金と時間というコストの面で利益が必要です。つまりですね、私がロボットを作るくらいなら他の人に家事を任せた方が楽なんです。開発者として、そう思います。なので運ちゃん、これからもどうぞ……」
トアオは運ちゃんに背負い投げをされた。
真っ青な表情で震えてしまっている。
「ギブ、ギブアップです。運ちゃん」
「家事、一時期やってたよね?」
「やってましたよ。って、痛いです」
運ちゃんはトアオを解放して。
荷物を手際よくまとめてしまって出ていった。
トアオは家事をしてくれる人がいなくなって、顔と膝を床に着けて、尻を突き出したまま動かなくなった。
「トアオさん?」
「まあいいです。運ちゃんにはいろいろ迷惑をかけてしまったので、これ以上は頼れませんね」
「うん」
「私の彼氏のヒウタさん、おうちデートしましょう」
「何をするんですか?」
「二人で共同作業です。今日は二人きりの初夜ですよ!」
トアオが言うと、ヒウタは熱っぽくなる。期待していないわけではないが、恥ずかしさや緊張のあまり積極的になれない。
トアオはヒウタを連れて階段を下りた。
……そこは開発室だった。
パソコンやトアオが作った小型の万能な複合加工機、あらゆる成形を可能にする万能金型とそれに使う装置もある。
「家事なんてやってられません! 手伝ってください」
「ロボット作るんですか? それってどれくらい……」
「一週間で全部自動化にしてやります!」
結局、付き合って一週間も泊まって二人きりの生活をしていたが。
ヒウタは作製した部品の検査、各ロボットおよびその駆動部の動作確認に明け暮れ、開発とはこういうものかと思いながら長期休暇にも関わらず勉強・実験の日々に着かれてしまっていた。
「できました! これで家事は自動化ですね。ヒウタさん疲れましたか?」
「もちろん。トアオさんって怠惰って言われているけど、やるときは本当にすごいですね」
「そういう家系なので。ではご褒美です、ほしいもの買ってあげます。なんでもです」
「恋人になったので、せっかくなら」
「えっちなやつはまだ駄目ですが」
トアオはヒウタの身体を横に倒して、膝の上に乗せる。
二人の温もりが混ざり合う。
トアオは小柄であるが、膝枕をしていると、まるで全身を包まれているような気分になる。
「こういうのならいいですよ」
「疲れたけど、楽しかった」
「膝枕、痛いところありませんか?」
「癒されます。トアオさんこそ痛いところありませんか?」
「強いていうなら、長く膝枕していたら痺れるかもです」
「なら今のうちに堪能しておきます」
「ふふ、何ですかその言い方。もう、ヒウタさんかわいいですね!」
この一週間は恋人らしいところもなく、家事のためのロボットを作っていた。
でも今は。
この温もりが心地良いのだ。
一つ目は、食べかけのシーフード味のカップ麺から。二つ目は、同じくカップ麺で麺と具を食べて残ったスープから。
三つ目と四つ目は、勇気を出したヒウタと、そのままストレートな好意を吐き出したトアオであるのだが。
「な、なな。何があったの!」
と風呂掃除でシャツとズボンを濡らした運ちゃんが飛んできた。
髪からぽつぽつと水滴が落ちる。
「運ちゃん、今日のお風呂掃除は派手ですね」
「誰のせい。あたし、今の状況が読めないけど」
「ヒウタさんが恥ずかしいことを言って、私も恥ずかしいことを言ってフリーズしました」
「うん、全然分からないわ。けど、信用できるの?」
「何がです?」
ヒウタはまだ固まっている。
そのため、運ちゃんはトアオに寄って話す。
「シュイロさんはそういうのじゃないとしても、カワクロさんは?」
「カワクロさんって誰ですか? カワクロさんとヒウタさんの面識はない、いいですね?」
「現実逃避してない?」
「こちらが現実だと思いますよ」
トアオは立ち上がって背を伸ばし胸を張る。
手を胸に当てて得意げだ。
「つまり、ついに私たちは晴れて恋人に!」
ヒウタから想いを伝えられた。
トアオも想いを伝えたのだ。
……待て。
「……恋人になってない。なってないじゃないですか!」
「知らないよ。想いを伝え合ったってことだよね」
「ですが恋人とは言ってません。このまま押しきるべきじゃないですか」
「トアオちゃんっ!?」
トアオはヒウタの肩を揺らす。
「ヒウタさん、ヒウタさん。重大なミスに気づいたんですよ」
「ハッ」
ようやくヒウタは魂が身体に戻ったようだ。
「トアオさん?」
「想いを伝え合ったにも関わらず恋人になってません!」
ヒウタは一瞬首を傾げた後、固まって、それから勢いよく立ち上がった。
「ということで恋人になりましょう! まだ取り敢えず恋人がほしくて私の想いに応えてくれたのかもしれませんが、私は頑張ります!」
「違います」
「何がですか?」
「トアオさんと生きたいから、想いを伝えに来ました」
「信じています」
「僕の、恋人になってください」
トアオは深呼吸をして。
「当然ですよ、トアオはヒウタさんが大好きなので!」
と告白して恋人になるところを見ていた運ちゃんは。
驚きを隠せずにぼうっと立っている。
が、それが現実であることが分かると。
運ちゃんはトアオの頭を撫でて嬉しそうに涙を流す。
「良かった。報われて良かったよ、私の親友」
「うん。運ちゃんもきっといい出会いがあるから」
「トアオちゃんのくせによく言うよ。下手なことして飽きられないでね」
「分かってるよ、私のお母さんなの?」
「違う。だからあたしは家に帰るね」
「……え? そしたら明日から誰が家事をすれば。……ヒウタさんお願いできますか?」
運ちゃんはトアオの怠惰な考えに呆れて感情の死んだ目を向ける。
「家事については、そういうロボットでも作れば」
「開発者としては、お金と時間というコストの面で利益が必要です。つまりですね、私がロボットを作るくらいなら他の人に家事を任せた方が楽なんです。開発者として、そう思います。なので運ちゃん、これからもどうぞ……」
トアオは運ちゃんに背負い投げをされた。
真っ青な表情で震えてしまっている。
「ギブ、ギブアップです。運ちゃん」
「家事、一時期やってたよね?」
「やってましたよ。って、痛いです」
運ちゃんはトアオを解放して。
荷物を手際よくまとめてしまって出ていった。
トアオは家事をしてくれる人がいなくなって、顔と膝を床に着けて、尻を突き出したまま動かなくなった。
「トアオさん?」
「まあいいです。運ちゃんにはいろいろ迷惑をかけてしまったので、これ以上は頼れませんね」
「うん」
「私の彼氏のヒウタさん、おうちデートしましょう」
「何をするんですか?」
「二人で共同作業です。今日は二人きりの初夜ですよ!」
トアオが言うと、ヒウタは熱っぽくなる。期待していないわけではないが、恥ずかしさや緊張のあまり積極的になれない。
トアオはヒウタを連れて階段を下りた。
……そこは開発室だった。
パソコンやトアオが作った小型の万能な複合加工機、あらゆる成形を可能にする万能金型とそれに使う装置もある。
「家事なんてやってられません! 手伝ってください」
「ロボット作るんですか? それってどれくらい……」
「一週間で全部自動化にしてやります!」
結局、付き合って一週間も泊まって二人きりの生活をしていたが。
ヒウタは作製した部品の検査、各ロボットおよびその駆動部の動作確認に明け暮れ、開発とはこういうものかと思いながら長期休暇にも関わらず勉強・実験の日々に着かれてしまっていた。
「できました! これで家事は自動化ですね。ヒウタさん疲れましたか?」
「もちろん。トアオさんって怠惰って言われているけど、やるときは本当にすごいですね」
「そういう家系なので。ではご褒美です、ほしいもの買ってあげます。なんでもです」
「恋人になったので、せっかくなら」
「えっちなやつはまだ駄目ですが」
トアオはヒウタの身体を横に倒して、膝の上に乗せる。
二人の温もりが混ざり合う。
トアオは小柄であるが、膝枕をしていると、まるで全身を包まれているような気分になる。
「こういうのならいいですよ」
「疲れたけど、楽しかった」
「膝枕、痛いところありませんか?」
「癒されます。トアオさんこそ痛いところありませんか?」
「強いていうなら、長く膝枕していたら痺れるかもです」
「なら今のうちに堪能しておきます」
「ふふ、何ですかその言い方。もう、ヒウタさんかわいいですね!」
この一週間は恋人らしいところもなく、家事のためのロボットを作っていた。
でも今は。
この温もりが心地良いのだ。
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