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最終章 規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる! 149~
その1 ヒウタとアメユキⅡ
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後期の期末テストが無事に終わった。
結果はまだ分かっていないが、感触としては問題ないだろう。
長期休暇最初の土曜日までヒウタは家でテレビゲームやスマホゲームをして、ぼうっと過ごしていた。それもそのはず、ヒウタは妹のアメユキを説得し、引き続きシュイロたちと関わっていきたいのだ。一方で、ヒウタには妹の意見を無視するという選択はなかった。
「にい、今日は私のお出掛けに付き合ってもらいます」
アメユキはちょこんとしたベレー帽を被って、毛糸の手袋を付けている。
ロングスカートとシャツに襟の広いジャケットを合わせて、大人っぽいからかむしろ幼さが強調されている。ロングヘアーを手で僅かに反らして遊ばせているのは、真面目なアメユキには一時的とはいえ校則を無視した髪型にしたくはなかったからだ。
「どこ行くんだ?」
「私とデートだよ、にい。いっぱい遊んでくれるって言っていたのに他の女の子ばかりだったから。我が儘と思うかもしれないけど、にい想いの妹ちゃんを構ってあげずに風船みたいにふらふらして病院送りになったのは、にいにだから!」
「心配かけた、ごめん」
「私を満足させないとシュイロさんのことは認めません。危険であっても女の子のために妹を放置してでも飛び込むなんて、全然駄目駄目なにいにだから」
……アメユキの機嫌が悪い。
ヒウタはアメユキが寂しいと言ったときにもっと実家に帰るように遊ぼうと発言していたが、キヌイの件やシュイロの見舞い、テスト期間によって全く約束を果たせていなかった。
ヒウタ自身も罪悪感はある。
それに、アメユキと話してシュイロたちと関わる許可を得たかった。
アメユキから許可を得られなかったらどうするべきか、考えずに済むならそれがいい。
「シュイロさんから結構もらっていると聞きました。デート代はにいの奢りでいいですか?」
「流石にアメユキには払わせられないよ」
「私がいなければすぐ死のうとする突進一択な猪さんですね。哀れな豚さんよりも突進する分評価下げているから」
「悪かった。お兄ちゃんに優しくして!」
「言うこと聞いてくれたら甘やかしてあげる。じゃあ、行くよ」
自転車で駅に行って、そこから電車で目的地まで。
改札を出て、地下街を歩き、さらに地上に出て、そこから二十分ほど歩いてショッピングモールへ。
買い物コーナーで麦茶を選んでいると、アメユキは温かいカフェオレを選ぶ。
購入して、ペットボトルをアメユキに渡すと、アメユキはすぐにキャップを取って飲む。
ヒウタもついでにお茶を飲んだ。
「どこに行くんだ?」
「昼食、ハンバーガー食べる。パティは三枚食べる」
「ハンバーガー二個の方がいいんじゃないか?」
「そうする。にいは?」
「チーズバーガーかな。フライドポテトサイズアップしたりするか?」
「必要ない。ハンバーガー二個食べるから」
「はいはい」
フードコートへ。
騒がしくて席はほとんど埋まっていた。
アメユキは分かりやすく肩を落とす。
「もう少し遅らせるか?」
「うん。にい、口調が優しくなった。やっぱり女の子に慣れてきている。いい子いる?」
「それはまだ傷が塞がっていないというか。勘弁してくれないか?」
「にいが失恋?」
「ストレートだな」
「ふうむ。マッチングアプリで出会った人?」
「そうなるのかな」
ヒウタがシュイロと出会い、マッチングアプリの会員対応の仕事を任された。
そこで、好きな人に振られてまだ未練があるがマッチングアプリを使っていいのかとの相談を受けて、カズサという女性のためにシュイロが所有する会場を使って、スイーツパーティというイベントを開いた。
そこで、ろくに異性と話をせず、店のスイーツを買い占めて食い尽くそうとするカワクロに会った。
それから大学の図書館で再会し、一緒の大学に通っていることを知った。
カワクロの友人であるシフユの問題を解決するべく共に奮闘し、カワクロの優しさと本気になれるところにヒウタは惚れてしまった。
始まりはマッチングアプリではあるから、アプリで出会った人には間違いないだろう。
「私が良い人探すから、危ないのは良くないから、シュイロさんとは縁を切ってほしい」
「妹の力を借りて恋活はできない。幸せの形とか、恋愛の方法とか、自分らしさの押し付け方や受け入れ方を必死に考えて、自分に誇れる恋活をしたかったんだ」
「死んででも?」
「それはたまたまかな。目の前に困っている人がいたら断れなくて。気を付ける」
「恋で一緒にいる人は、縁を切ろうとすればいつでも離れることができる。そのくせに、家族よりも後で出会って、家族よりも長い時間を過ごして、ついに家族になって兄妹よりも大切になっていく。我が儘な関係だと思う」
「そうかも」
「にい、本屋行きたい」
「ああ。ほしいのがあったら買うよ」
アメユキは手を伸ばした。
空振りになる。
手を引こうとしてヒウタが気づき、ぎゅっと握る。
「もう全部勝手にして。私に、にいにを縛る権利はない。危ないことはしないでって言うだけ。届かないなら私は知らない」
「アメユキ、こんな兄を愛してくれて、大切に想ってくれて、心配してくれてありがとう。俺は俺のこれからの人生のために恋活をして、俺が期待する者のために尽くしたい。それが幸せに繋がると思っている。でも、アメユキが傷つくならすぐに駆け付けるつもりだ。大事な妹だからな」
「私を助ける前にとっくに死んでそうだから怒っている。けど分かった。にい、死ぬなら華やかに散れ、って思うの。そして生きているうちは、」
アメユキは一周回って前屈みになる。
ヒウタを覗くように上目遣いになる。
「にい、妹ちゃんを構うこと」
えへへ、とアメユキは笑う。
もしかしたら元々シュイロの仕事を手伝うことについては許すつもりだったのだろうか?
それとも、ヒウタを説得しても意味ないと思っていたのか。
だがヒウタはアメユキを愛おしいと思っている。
頭を優しく撫でる。
アメユキはムッと頬を膨らませた。
「にい、セットした女の子の髪をくしゃくしゃに乱して。次やったら失格だから」
油断できないな、と気を引き締めるヒウタであった。
結果はまだ分かっていないが、感触としては問題ないだろう。
長期休暇最初の土曜日までヒウタは家でテレビゲームやスマホゲームをして、ぼうっと過ごしていた。それもそのはず、ヒウタは妹のアメユキを説得し、引き続きシュイロたちと関わっていきたいのだ。一方で、ヒウタには妹の意見を無視するという選択はなかった。
「にい、今日は私のお出掛けに付き合ってもらいます」
アメユキはちょこんとしたベレー帽を被って、毛糸の手袋を付けている。
ロングスカートとシャツに襟の広いジャケットを合わせて、大人っぽいからかむしろ幼さが強調されている。ロングヘアーを手で僅かに反らして遊ばせているのは、真面目なアメユキには一時的とはいえ校則を無視した髪型にしたくはなかったからだ。
「どこ行くんだ?」
「私とデートだよ、にい。いっぱい遊んでくれるって言っていたのに他の女の子ばかりだったから。我が儘と思うかもしれないけど、にい想いの妹ちゃんを構ってあげずに風船みたいにふらふらして病院送りになったのは、にいにだから!」
「心配かけた、ごめん」
「私を満足させないとシュイロさんのことは認めません。危険であっても女の子のために妹を放置してでも飛び込むなんて、全然駄目駄目なにいにだから」
……アメユキの機嫌が悪い。
ヒウタはアメユキが寂しいと言ったときにもっと実家に帰るように遊ぼうと発言していたが、キヌイの件やシュイロの見舞い、テスト期間によって全く約束を果たせていなかった。
ヒウタ自身も罪悪感はある。
それに、アメユキと話してシュイロたちと関わる許可を得たかった。
アメユキから許可を得られなかったらどうするべきか、考えずに済むならそれがいい。
「シュイロさんから結構もらっていると聞きました。デート代はにいの奢りでいいですか?」
「流石にアメユキには払わせられないよ」
「私がいなければすぐ死のうとする突進一択な猪さんですね。哀れな豚さんよりも突進する分評価下げているから」
「悪かった。お兄ちゃんに優しくして!」
「言うこと聞いてくれたら甘やかしてあげる。じゃあ、行くよ」
自転車で駅に行って、そこから電車で目的地まで。
改札を出て、地下街を歩き、さらに地上に出て、そこから二十分ほど歩いてショッピングモールへ。
買い物コーナーで麦茶を選んでいると、アメユキは温かいカフェオレを選ぶ。
購入して、ペットボトルをアメユキに渡すと、アメユキはすぐにキャップを取って飲む。
ヒウタもついでにお茶を飲んだ。
「どこに行くんだ?」
「昼食、ハンバーガー食べる。パティは三枚食べる」
「ハンバーガー二個の方がいいんじゃないか?」
「そうする。にいは?」
「チーズバーガーかな。フライドポテトサイズアップしたりするか?」
「必要ない。ハンバーガー二個食べるから」
「はいはい」
フードコートへ。
騒がしくて席はほとんど埋まっていた。
アメユキは分かりやすく肩を落とす。
「もう少し遅らせるか?」
「うん。にい、口調が優しくなった。やっぱり女の子に慣れてきている。いい子いる?」
「それはまだ傷が塞がっていないというか。勘弁してくれないか?」
「にいが失恋?」
「ストレートだな」
「ふうむ。マッチングアプリで出会った人?」
「そうなるのかな」
ヒウタがシュイロと出会い、マッチングアプリの会員対応の仕事を任された。
そこで、好きな人に振られてまだ未練があるがマッチングアプリを使っていいのかとの相談を受けて、カズサという女性のためにシュイロが所有する会場を使って、スイーツパーティというイベントを開いた。
そこで、ろくに異性と話をせず、店のスイーツを買い占めて食い尽くそうとするカワクロに会った。
それから大学の図書館で再会し、一緒の大学に通っていることを知った。
カワクロの友人であるシフユの問題を解決するべく共に奮闘し、カワクロの優しさと本気になれるところにヒウタは惚れてしまった。
始まりはマッチングアプリではあるから、アプリで出会った人には間違いないだろう。
「私が良い人探すから、危ないのは良くないから、シュイロさんとは縁を切ってほしい」
「妹の力を借りて恋活はできない。幸せの形とか、恋愛の方法とか、自分らしさの押し付け方や受け入れ方を必死に考えて、自分に誇れる恋活をしたかったんだ」
「死んででも?」
「それはたまたまかな。目の前に困っている人がいたら断れなくて。気を付ける」
「恋で一緒にいる人は、縁を切ろうとすればいつでも離れることができる。そのくせに、家族よりも後で出会って、家族よりも長い時間を過ごして、ついに家族になって兄妹よりも大切になっていく。我が儘な関係だと思う」
「そうかも」
「にい、本屋行きたい」
「ああ。ほしいのがあったら買うよ」
アメユキは手を伸ばした。
空振りになる。
手を引こうとしてヒウタが気づき、ぎゅっと握る。
「もう全部勝手にして。私に、にいにを縛る権利はない。危ないことはしないでって言うだけ。届かないなら私は知らない」
「アメユキ、こんな兄を愛してくれて、大切に想ってくれて、心配してくれてありがとう。俺は俺のこれからの人生のために恋活をして、俺が期待する者のために尽くしたい。それが幸せに繋がると思っている。でも、アメユキが傷つくならすぐに駆け付けるつもりだ。大事な妹だからな」
「私を助ける前にとっくに死んでそうだから怒っている。けど分かった。にい、死ぬなら華やかに散れ、って思うの。そして生きているうちは、」
アメユキは一周回って前屈みになる。
ヒウタを覗くように上目遣いになる。
「にい、妹ちゃんを構うこと」
えへへ、とアメユキは笑う。
もしかしたら元々シュイロの仕事を手伝うことについては許すつもりだったのだろうか?
それとも、ヒウタを説得しても意味ないと思っていたのか。
だがヒウタはアメユキを愛おしいと思っている。
頭を優しく撫でる。
アメユキはムッと頬を膨らませた。
「にい、セットした女の子の髪をくしゃくしゃに乱して。次やったら失格だから」
油断できないな、と気を引き締めるヒウタであった。
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