規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる!

アメノヒセカイ

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9章 驕り少女が我儘すぎる!123~

その13 ヒウタと拷問裁判

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 ヒウタ、トアオ、運ちゃんが向かったのは、車で三十分ほどの広さのわりには遊具がほとんどない公園だった。

「やっほー、キヌイさん!」

 運ちゃんが薄赤色の髪の女性キヌイに話かける。
 一瞬目を見開いて驚いたキヌイだったが、ヒウタとトアオの姿を捉えると笑った。
 そして、ゆっくりと口を開ける。
 ヒウタがその後の発言に注目していたときだった。

「最強人工知能『ふぉーている』、キヌイさんの意識を刈り取って」

 トアオは元気よく言う。
 人の頭程度の大きさの球体を抱えていた。
 空間上にアニメ調の少女が現れる。

「ご主人様、承知しました。それ!」

 瞬間、キヌイはふらついて顔から地面目掛けて倒れる。
 ヒウタが急いで胸で受け止めた。
 トアオが不機嫌そうにヒウタを見る。
 もやもやしていた。

 一方で、運ちゃんはニコニコしながらキヌイを抱えて車に乗せる。
 腕と足をテープで縛り付ける。
 ヒウタが呆然としていると、運ちゃんがヒウタを投げて車へ。
 トアオはしたり顔で、運ちゃんは誇らしそうだった。
 プロの技である。

「まじかよ」
「まじだよ。トアオちゃん、私はまだまだ現役だったでしょ」
「うん。流石は運ちゃん。頼りになる!」
「おいおい、無慈悲かよ」
「そりゃあもちろんさ。恐喝らしいよ、お金を出させたり、ヒウタ君たちを襲わせたりするために公園に呼び出して。とっくに警察沙汰だし、シュイロさんは見ないふりをしている。こればかりはトアオちゃんよりもシュイロさんが悪いよね」
「運ちゃん? それっていつもは私の方が悪いってこと? ふん、そんなわけないのに」

 トアオがスマホから音楽を流し始める。
 現在は既に解散してしまった三人組のアイドルグループの歌だった。

「トアオちゃん帰ったら拷問だねええ」
「はあ? いいのかよ」
「もちろん。あの手、この手で反省させる。こんな問題児、さっさと退会処分にしてしまえばいい。さっさと逮捕すべき。あ、ヒウタさん、私や運ちゃんの口から逮捕って言葉を使うなよって顔をしている?」
「し、してないけど」

 ヒウタは普段人の感情に鈍感なトアオに指摘されて驚いていた。
 実際、夏休みの『オーパーツ探し』では無法地帯というように敵組織と戦っていたし、誰も殺していないような状況でもなかったような気がしているのだ。
 ということは。
 キヌイがトアオを警戒していたのは単純な人工知能『ふぉーている』を含めた戦闘力だけでなく、法の外での場数の多さが他の『七つの大罪』少女よりも多いからではないだろうか?

 家に着く。

 運ちゃんが気絶しているキヌイを連れて建物の地下室へ運ぶ。
 トアオがいろんな開発品を持ってうきうきしていた。
 
うん、怖い。
トアオは普段は講義に寝坊したり、家事が全くできなかったりする怠惰で情けない人間であるが、開発が関わると一番危険な気もするのだ。

「トアオさん、何をするつもりですか?」
「それはもう。甘ちゃんが来る前にけりをつけますよ。私たちに喧嘩を売った罰です。きっとシュイロさんが甘いから急な行動はしてこないと考えていたのでしょう。楽に捕獲できて良かったです」
「そうだね。本当は二度と逆らえないように痛い目を見せておこうとか考えていたけど、シュイロさんを待った方が良さそうだから」
「それくらいは許してあげましょうか。さて、本当は目の前の人が大好きで堪らなくなる光線みたいなものを開発して実験するとかしたかった」

 トアオはがっかりしたように言う。
 話し合いのために、キヌイが目を覚ますのを待った。
 石のベッドの上にキヌイを置いて、手足を紐で縛る。

「はあ、私は捕まったのか。だがシュイロがいない」
「だから何? キヌイさんには聞きたいことがたくさんある」
「答えなければ出さないってことか。いいのかい、ヒウタ」
「ヒウタさんがどうしたの? 助けてもらいたいということね。無理だけど」
「無理って? 残酷なところを好きな人に見せるの? 引いちゃって嫌われる。ただでさえカワクロちゃんに差を、」

 ヒウタは俯きながら、

「カワクロさんはもう、関係ないです」
「あは、振られたってことね。しかもなかなか傷ついていて、全く酷い振られ方をしたわけだ。私がカワクロを脅して壊してヒウタの恋人にしてあげようか?」

 ヒウタは狂気じみて微笑むキヌイを見て一歩下がった。
 運ちゃんもトアオもそのヒウタの怯えた様子に気づく。

「私ならキヌイさんをどうすることもできる」
「まさか殺せるってこと? やはり人殺しの系譜、異端な化け物。アウトローに生きているくせに、」

 キヌイは言いかけて顔をしかめる。
 手を必死に動かすが束縛から逃れられない。

「激痛だったでしょ? 背中部分に板のようなものを仕込んで電気を流せるようにしている。これは拷問裁判。他人への脅迫も、シュイロさんへの逆恨みもここで終わり。あとでシュイロさんも来る。許可は既にもらっている」
「ふうん。やはり私たち『七つの大罪』少女は規約違反で、無法な者の集まりだ。脅迫をやめて、シュイロさんへの接触をやめる。そうしたら許してもらえるのかい?」
「反省しなければそれ相応の処分をするだけ。いろんな罪はまた後で聞く。私はシュイロさんを追い詰める意味を知りたい。幼馴染ともいえる関係で、シュイロさんが元夫と離婚し、それでも関係を続けていることについて苛立っていることは知っている」
「その通り。あの女は、」
「私はキヌイさんが、未練を残しているのは元夫の方だと気づいているの?」
「……そうかもね。でも、そうだとしても誑かしたのは、痛いっ」

 悪いのはシュイロだ、そういう前に激痛が走る。
 キヌイはぐったりとして、また口を開く。

「本音を黙らせるための拷問なんて非合理かな」
「そうそう。シュイロさんが本当に誑かしたと思っている? それを知りたい。本当は、キヌイさんはお兄さんに変わってほしい、そうではない?」
「どうして? 悪くない、兄さんは悪くない。あの女が、」
「言って。本当は?」
「本当は、本当はって? 何を答えても、」

 ヒウタは、キヌイという人間が痛みによって大きく表情を乱すとは思えなかった。
 実際、いつも余裕な表情だ。
 だがトアオの兄が変わってほしいのではないかという言葉で狂ったように叫び始めた。
 それはつまり。
 キヌイは少なからず思っていて、でも大好きな兄には言えなくて、シュイロに当たったのだ。

「合っている?」
「知らない、知らない、知らない!」
「そう。ならシュイロさんが来るまで寝ていて」

 激痛でキヌイは再び気絶した。
 トアオは疲れたのかハンカチで額の汗を拭う。
 ヒウタはぼうっと立つことしかできなかった。

「運ちゃんの言う通りみたい」
「そっか。お兄さんに変わってほしかったのか。とんだ我が儘だ。他人をいくらでも傷つけることができるのに、兄には何も言えなかったなんてどんなブラコン妹なのか。ねえ、トアオちゃんは許すの?」
「許さないよ、キヌイさんもシュイロさんも。だからまだ悩んでいる」
「そう。でも私はトアオちゃんの親友だからシュイロさんと対立しても味方だから」
「ありがと、信じている」
「親友からの信じている、いただきました」

 運ちゃんはトアオの髪をわしゃわしゃと乱すように座った。
 トアオが驚くように上目遣いをする。
 運ちゃんは笑った。




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