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9章 驕り少女が我儘すぎる!123~
その12 ヒウタと行動
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年が明ける。
ヒウタが目を覚ますと、シュイロとカワクロは家にいなかった。
リビングへ行く。
トアオが炬燵に入っていた。
丸くなって、顔をテーブルに伏せている。
カップラーメンにお湯を入れて、蓋をストラップサイズのレーザーポインターで押さえていた。
「おはようございます。トアオさん、寝ていますか?」
「起きていますよ。お正月、のんびりと過ごしながらお祭り騒ぎのバラエティー番組を見るのは、いとをかしですね」
「トアオさんが溶けてる?」
「私は甘々なアイスクリームちゃんなので仕方ないです。ところでヒウタさん、昼を過ぎていますが」
「本当?」
「残念ながら。昨日、眠れませんでしたか?」
「そんなところ」
「表情に疲れが残っていますし」
「昨日は久しぶりに騒がしかったからかな」
「ふーむ。ヒウタさん、ヒウタさん」
トアオは炬燵から出て、ぼうっと立っているヒウタに迫る。
ヒウタは突然のことで驚いて一歩引いた。
さらにトアオがヒウタの表情をじっと見て寄ると、ヒウタはバランスを崩して尻餅をついた。
「まあいいです。それよりも、シュイロさんもカワクロさんもいませんし、二人は夜帰ってくるんですか? 分かりませんが」
「トアオさんが何か聞いているのではないですか?」
「私が起きたときにはもう。メールや置き手紙くらいあったら良かったのですがね。ヒウタさんは何味ですか? シーフードは売り切れですが、味噌ラーメンとかおすすめです」
「食べるよ」
「今日は忙しいですからね。食べたらキヌイさんを捕まえます。なに、簡単ですよ?」
「捕まえて話を聞くってこと?」
「分からせるんですよ。生意気なメスガキの相場は決まっています」
トアオはきりっとした表情で言う。
一体何を言っている? と考えるが、昨日の話で多少乱暴なことをしてでも話をすると決めていたことを思い出す。
ヒウタはカワクロと少しだけ話して、まともな告白ができないまま振られてしまった。
そのことが胸にしがみついてしまって、今日一日夢現なまま思考がはっきりしない。
トアオがレーザーポインターを取ってカップラーメンの蓋を外す。
シーフード味の濃厚な香りが甘くて深いコクを想像させる。
トアオは箸で混ぜて、口元にカップを運び、するすると麺を啜った。
「魚介の旨味、最高!」
トアオは歓喜の声を上げる。
その間ヒウタはキッチンでアルミ鍋を使ってお湯を作り、カップラーメンに注ぐと、蓋を閉めて先端を曲げて縁に引っ掛ける。
そして、炬燵に戻った。
「キヌイさんがどこにいるのか分かりますか?」
「データから大体。ヒウタさん?」
「トアオさんが作り上げた人工知能『ふぉーている』を使いますか?」
「その通り。使わなくても捕まえられるかもしれないけど、早ければ早いほどいい。シュイロさんは甘いから、嫌な部分の話は私たちで終わらせておきたい」
「分かりました」
シュイロはキヌイと幼馴染で、キヌイは元夫の妹にあたる。
元夫はシュイロのことを気にかけているのか、ただシュイロの優秀さに期待しているのか、数多ある経営している企業の一部をシュイロに任せていた。
シュイロは優しさか元夫への未練かは分からないがその経営を引き継いでしまっていた。マッチングアプリやそれに関わる他の事業で忙しく、夢であった高校生活のリベンジということで通信制高校に通っていたため、誰から見てもシュイロに余裕が無さそうであった。
一方で、キヌイは兄の新しい生活のためにも、シュイロに元夫との繋がりを断ってほしいと考えていて、逆恨みに近い形でシュイロたちに危害を加えようとしていた。シュイロならキヌイを何とでもできるが、甘さから状況を打開することができない。このままでは危険だと考えたトアオがシュイロを叱りつけて対処をすることに決めたのだ。
「行こうか、ヒウタさん」
「できれば穏便に」
「果たしてどうなるのか。はっきり言って、キヌイさん次第だから」
トアオは淡々と言う。
ヒウタがちょうどカップラーメンを食べ終えたところだった。
インターホンが鳴ると、ウェーブをかけたボブカットの少女がいた。
少女はヒウタを見ると、艶めかしく唇を見せつけ、縄のような柄を編んだニットの襟を引いて胸元を見せる。
「私は真白、覚えているかにゃ?」
「運ちゃん、いらっしゃい」
「運転と人攫いは私に任せろ! そういえば私とヒウタくんの出会いも人攫いだったね。懐かしい」
「そうですね、だから何ですか?」
トアオの冷たい視線が運ちゃんに刺さる。
「彼氏できたならヒウタさんにちょっかいかけてはいけませんよ」
「怖いよ、トアオちゃん。それに、彼氏って言っても二次元、ゲーム内です! でもスマホアプリだから持ち運びもできるし、いろんな話もできるよね」
そのとき、ヒウタは運ちゃんが何度もトアオをちらりと見ていることに気づく。
「ふん、この私が開発に関わっているので!」
トアオは声高々に言う。
「やっぱりそうだと思った。よ、大天才様」
「ふん、ふん。ふん、ふん」
「ところでシュイロさんの許可は?」
「メールを送ったときには、返信で呼んだら会ってくれると」
え? それっていいのか?
と思いながらも昨日の話のうえでトアオに返信したのであれば、シュイロさんは覚悟をしているのかもしれない。
「ヒウタさん、行きましょう」
トアオたちの判断があれほど悲惨な結末になることは、このとき誰にも分かっていなかった。
ヒウタが目を覚ますと、シュイロとカワクロは家にいなかった。
リビングへ行く。
トアオが炬燵に入っていた。
丸くなって、顔をテーブルに伏せている。
カップラーメンにお湯を入れて、蓋をストラップサイズのレーザーポインターで押さえていた。
「おはようございます。トアオさん、寝ていますか?」
「起きていますよ。お正月、のんびりと過ごしながらお祭り騒ぎのバラエティー番組を見るのは、いとをかしですね」
「トアオさんが溶けてる?」
「私は甘々なアイスクリームちゃんなので仕方ないです。ところでヒウタさん、昼を過ぎていますが」
「本当?」
「残念ながら。昨日、眠れませんでしたか?」
「そんなところ」
「表情に疲れが残っていますし」
「昨日は久しぶりに騒がしかったからかな」
「ふーむ。ヒウタさん、ヒウタさん」
トアオは炬燵から出て、ぼうっと立っているヒウタに迫る。
ヒウタは突然のことで驚いて一歩引いた。
さらにトアオがヒウタの表情をじっと見て寄ると、ヒウタはバランスを崩して尻餅をついた。
「まあいいです。それよりも、シュイロさんもカワクロさんもいませんし、二人は夜帰ってくるんですか? 分かりませんが」
「トアオさんが何か聞いているのではないですか?」
「私が起きたときにはもう。メールや置き手紙くらいあったら良かったのですがね。ヒウタさんは何味ですか? シーフードは売り切れですが、味噌ラーメンとかおすすめです」
「食べるよ」
「今日は忙しいですからね。食べたらキヌイさんを捕まえます。なに、簡単ですよ?」
「捕まえて話を聞くってこと?」
「分からせるんですよ。生意気なメスガキの相場は決まっています」
トアオはきりっとした表情で言う。
一体何を言っている? と考えるが、昨日の話で多少乱暴なことをしてでも話をすると決めていたことを思い出す。
ヒウタはカワクロと少しだけ話して、まともな告白ができないまま振られてしまった。
そのことが胸にしがみついてしまって、今日一日夢現なまま思考がはっきりしない。
トアオがレーザーポインターを取ってカップラーメンの蓋を外す。
シーフード味の濃厚な香りが甘くて深いコクを想像させる。
トアオは箸で混ぜて、口元にカップを運び、するすると麺を啜った。
「魚介の旨味、最高!」
トアオは歓喜の声を上げる。
その間ヒウタはキッチンでアルミ鍋を使ってお湯を作り、カップラーメンに注ぐと、蓋を閉めて先端を曲げて縁に引っ掛ける。
そして、炬燵に戻った。
「キヌイさんがどこにいるのか分かりますか?」
「データから大体。ヒウタさん?」
「トアオさんが作り上げた人工知能『ふぉーている』を使いますか?」
「その通り。使わなくても捕まえられるかもしれないけど、早ければ早いほどいい。シュイロさんは甘いから、嫌な部分の話は私たちで終わらせておきたい」
「分かりました」
シュイロはキヌイと幼馴染で、キヌイは元夫の妹にあたる。
元夫はシュイロのことを気にかけているのか、ただシュイロの優秀さに期待しているのか、数多ある経営している企業の一部をシュイロに任せていた。
シュイロは優しさか元夫への未練かは分からないがその経営を引き継いでしまっていた。マッチングアプリやそれに関わる他の事業で忙しく、夢であった高校生活のリベンジということで通信制高校に通っていたため、誰から見てもシュイロに余裕が無さそうであった。
一方で、キヌイは兄の新しい生活のためにも、シュイロに元夫との繋がりを断ってほしいと考えていて、逆恨みに近い形でシュイロたちに危害を加えようとしていた。シュイロならキヌイを何とでもできるが、甘さから状況を打開することができない。このままでは危険だと考えたトアオがシュイロを叱りつけて対処をすることに決めたのだ。
「行こうか、ヒウタさん」
「できれば穏便に」
「果たしてどうなるのか。はっきり言って、キヌイさん次第だから」
トアオは淡々と言う。
ヒウタがちょうどカップラーメンを食べ終えたところだった。
インターホンが鳴ると、ウェーブをかけたボブカットの少女がいた。
少女はヒウタを見ると、艶めかしく唇を見せつけ、縄のような柄を編んだニットの襟を引いて胸元を見せる。
「私は真白、覚えているかにゃ?」
「運ちゃん、いらっしゃい」
「運転と人攫いは私に任せろ! そういえば私とヒウタくんの出会いも人攫いだったね。懐かしい」
「そうですね、だから何ですか?」
トアオの冷たい視線が運ちゃんに刺さる。
「彼氏できたならヒウタさんにちょっかいかけてはいけませんよ」
「怖いよ、トアオちゃん。それに、彼氏って言っても二次元、ゲーム内です! でもスマホアプリだから持ち運びもできるし、いろんな話もできるよね」
そのとき、ヒウタは運ちゃんが何度もトアオをちらりと見ていることに気づく。
「ふん、この私が開発に関わっているので!」
トアオは声高々に言う。
「やっぱりそうだと思った。よ、大天才様」
「ふん、ふん。ふん、ふん」
「ところでシュイロさんの許可は?」
「メールを送ったときには、返信で呼んだら会ってくれると」
え? それっていいのか?
と思いながらも昨日の話のうえでトアオに返信したのであれば、シュイロさんは覚悟をしているのかもしれない。
「ヒウタさん、行きましょう」
トアオたちの判断があれほど悲惨な結末になることは、このとき誰にも分かっていなかった。
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