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9章 驕り少女が我儘すぎる!123~
その11 ヒウタと年明け
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シュイロの話が終わると、トアオはカップ麺を食べ始めた。
カワクロがドン引きしている。
「食べてるの?」
「カワクロさんにはあげませんよ。どうせグルメなカワクロさんには、カップラーメンの崇高さが分かりませんよ。でもこのカップ麺が私のスーパー賢い頭脳を作ったんです。偉大なんですよ」
「何も言ってないけど」
「頭を使うとお腹が減りますし。というわけで、私はヒウタさんとカワクロさんのために、『ふぉーている』を使ってキヌイさんを捕まえてきます。それでシュイロさんが話をしてください」
カワクロとシュイロはトアオの発言に驚いている。
「トアオちゃん、そんな横暴な」
「いいですか、シュイロさん。また喧嘩しますか? 甘いんです、危険なことに対して。カワクロさんはどうでもいいですが、ヒウタさんに何かあったらどうするんですか?」
「私はそうならないために集まってだな、」
「引き籠もっていればいいんですか? 『ふぉーている』を完成させた今、キヌイさんを捕まえるのは簡単です。だから私のことを警戒しているんですから。ヒウタさんは異論がありますか?」
「僕は、キヌイさんを救いたいです」
「それは分かってます。キヌイさんを捕まえるので、あとは任せます。で、シュイロさんも分かりましたか」
「分かった。でも怪我はさせないでほしい」
「意識を削いで連れてきますね。そのとき転倒して怪我したり、意識を失ったときに後遺症が残ったりする可能性は限りなく低いですがゼロではないので」
トアオはカップ麺を食べ終えると、「寝てきます」と寝室に行ってしまった。
残された三人の間に微妙な空気が流れる。
「私はお風呂でも入ろうかな。カワクロちゃんはどうする?」
「入るなの。でもその前に、シュイロさんに聞きたい。キヌイは心を入れ替えると思うなの? 捕まえたところで」
「私は、本当はどうするべきなんだろうな。私は元夫に未練があるのか、たぶんない。ないから、本当はキヌイちゃんのことを思えばさっさと元夫とは離れるべきだ。全く、私はどうしたらいいのか」
「シュイロさん、僕は」
ヒウタとシュイロが出会って、初めてシュイロのフルネームを聞いたときに似ている。
消えてしまいそうな、崩れてしまいそうな。
自分のことは諦めていて、悲しそうに落ち込んで、なかなか声を上げられない。
「トアオさんは怒っていた」
「だろうな。私がうじうじしてるからだ。キヌイちゃんのことは私が悪い。トアオちゃんの言うように無理やり連れてきてでも、私は話し合うしかないと思う」
「私はトアオちゃんの言い方はきつかったと思うの。でもたぶん、トアオちゃんはシュイロさんを分かっているなの。私よりもシュイロさんと仲良し期間が長いから。意地悪だけじゃなくて、シュイロさんのために言ってると思うの」
シュイロは俯いて悩んでいた。
カワクロはシュイロの表情を見ている。
ヒウタがスマホを見ようとすると、カワクロが睨んだ。
「キヌイちゃんは絶縁するつもりでいなきゃだな。私ではトアオちゃんの作った発明品を理解できない。マッチングアプリの存続にはトアオちゃんの技術が必要だ。私が折れることにする」
「私は分かったなの。でもトアオちゃんもやり過ぎ。ヒウタ、注意しておいて。あまり強くは言えないだろうけど、好きな人にお願いされたら断れないだろうから」
……え?
それってどっち?
ヒウタは惑わされる。
トアオはヒウタのことが好きだからお願いすれば聞いてくれるという意味だろうが、ヒウタはカワクロが好きだ。
もちろん、カワクロの言うことも聞くよね? という意味も含めているのだろうか?
いや、カワクロのことだからたまたまだろう。
「分かった」
それから。
順にお風呂に入る。
布団に入る頃、ちょうど除夜の鐘が鳴った。
別々の寝室で眠る。
……誰だ?
ヒウタの部屋に誰か来た。
トアオが目を覚ましたのだろうか?
「トアオさん、どうかしましたか?」
「私だけど?」
「カワクロさん!」
「うるさいな、もう。私の声でいちいち興奮するな、なの」
「驚いて」
「ヒウタはあまりすごい人じゃない」
「自分でも分かってるけど」
「でもうまく立ち回って。人を変えたり、救ったりしている。シュイロさんの方が遥かに能力が高いのに、シュイロさんでは解決できなかったことばかりなの。トアオさんは頑張り始めた、シュイロさんは元夫のことでちゃんと悩むようになった、シフユは救われた、メリアちゃんは改心した、私の妹を助けてくれた、アキトヨちゃんはシュイロさん以外に目を向けるようになった。私は、ヒウタと恋人になっても幸せだと思う」
小さな背中が近づく。
カワクロはうずくまるように座った。
「私が恋をしないのは、私が臆病だから。ヒウタ、私はいつ告白されても振るつもりでいるなの。だから別の人と恋をして、幸せになって。ほら、トアオちゃんとか開発しててお金もいっぱい、一生遊んで暮らせるだろうなの。過去問も全部あげる、それでも私が好きなら二番目にした方がいい。恋するやつはみんな馬鹿なの。いいえ、私は誰よりも馬鹿で、どこか信じてない。ヒウタのことも信じていない。おかしいのは私、ごめんなさい」
「そんなわけないですよ。本当におかしいなら涙を流しながら話しに来ません」
「うん。ねえ、ヒウタ」
「はい」
「私はヒウタを結構気に入ってる。でも戦力にならないから。私たち、会うのやめるなの」
「トアオさんが嫉妬するからですか?」
「ううん。私はいつまでもヒウタを傷つけるからなの。変なの、私」
「トアオさんは妹のコウミさんが恋をしてて、恋人に取られちゃうから恋を憎んでいる。そうしたら、カワクロさんは一人に、」
「ならない。私の周りには人がいるなの、男女ともに人気者なの。でも、一人ぼっちなのはそうかもなの。ヒウタじゃ、私を救えない」
言い切られてしまえば、ヒウタは返す言葉が見つからない。
「ごめん、ヒウタ」
カワクロは部屋から出る。
ヒウタは溢れる涙を隠した。
カワクロは自室に戻る。
「私は罪を重ねないなの。トアオちゃんはすごい人、報われるべきなの。だから、バイバイ、私のヒーロー」
おかしいな、本当に。
いつでも掴めた手を突き放しただけ、あるべきところに導いただけ、なのに胸が痛くて。
涙が熱くて火傷しそうだ。
カワクロがドン引きしている。
「食べてるの?」
「カワクロさんにはあげませんよ。どうせグルメなカワクロさんには、カップラーメンの崇高さが分かりませんよ。でもこのカップ麺が私のスーパー賢い頭脳を作ったんです。偉大なんですよ」
「何も言ってないけど」
「頭を使うとお腹が減りますし。というわけで、私はヒウタさんとカワクロさんのために、『ふぉーている』を使ってキヌイさんを捕まえてきます。それでシュイロさんが話をしてください」
カワクロとシュイロはトアオの発言に驚いている。
「トアオちゃん、そんな横暴な」
「いいですか、シュイロさん。また喧嘩しますか? 甘いんです、危険なことに対して。カワクロさんはどうでもいいですが、ヒウタさんに何かあったらどうするんですか?」
「私はそうならないために集まってだな、」
「引き籠もっていればいいんですか? 『ふぉーている』を完成させた今、キヌイさんを捕まえるのは簡単です。だから私のことを警戒しているんですから。ヒウタさんは異論がありますか?」
「僕は、キヌイさんを救いたいです」
「それは分かってます。キヌイさんを捕まえるので、あとは任せます。で、シュイロさんも分かりましたか」
「分かった。でも怪我はさせないでほしい」
「意識を削いで連れてきますね。そのとき転倒して怪我したり、意識を失ったときに後遺症が残ったりする可能性は限りなく低いですがゼロではないので」
トアオはカップ麺を食べ終えると、「寝てきます」と寝室に行ってしまった。
残された三人の間に微妙な空気が流れる。
「私はお風呂でも入ろうかな。カワクロちゃんはどうする?」
「入るなの。でもその前に、シュイロさんに聞きたい。キヌイは心を入れ替えると思うなの? 捕まえたところで」
「私は、本当はどうするべきなんだろうな。私は元夫に未練があるのか、たぶんない。ないから、本当はキヌイちゃんのことを思えばさっさと元夫とは離れるべきだ。全く、私はどうしたらいいのか」
「シュイロさん、僕は」
ヒウタとシュイロが出会って、初めてシュイロのフルネームを聞いたときに似ている。
消えてしまいそうな、崩れてしまいそうな。
自分のことは諦めていて、悲しそうに落ち込んで、なかなか声を上げられない。
「トアオさんは怒っていた」
「だろうな。私がうじうじしてるからだ。キヌイちゃんのことは私が悪い。トアオちゃんの言うように無理やり連れてきてでも、私は話し合うしかないと思う」
「私はトアオちゃんの言い方はきつかったと思うの。でもたぶん、トアオちゃんはシュイロさんを分かっているなの。私よりもシュイロさんと仲良し期間が長いから。意地悪だけじゃなくて、シュイロさんのために言ってると思うの」
シュイロは俯いて悩んでいた。
カワクロはシュイロの表情を見ている。
ヒウタがスマホを見ようとすると、カワクロが睨んだ。
「キヌイちゃんは絶縁するつもりでいなきゃだな。私ではトアオちゃんの作った発明品を理解できない。マッチングアプリの存続にはトアオちゃんの技術が必要だ。私が折れることにする」
「私は分かったなの。でもトアオちゃんもやり過ぎ。ヒウタ、注意しておいて。あまり強くは言えないだろうけど、好きな人にお願いされたら断れないだろうから」
……え?
それってどっち?
ヒウタは惑わされる。
トアオはヒウタのことが好きだからお願いすれば聞いてくれるという意味だろうが、ヒウタはカワクロが好きだ。
もちろん、カワクロの言うことも聞くよね? という意味も含めているのだろうか?
いや、カワクロのことだからたまたまだろう。
「分かった」
それから。
順にお風呂に入る。
布団に入る頃、ちょうど除夜の鐘が鳴った。
別々の寝室で眠る。
……誰だ?
ヒウタの部屋に誰か来た。
トアオが目を覚ましたのだろうか?
「トアオさん、どうかしましたか?」
「私だけど?」
「カワクロさん!」
「うるさいな、もう。私の声でいちいち興奮するな、なの」
「驚いて」
「ヒウタはあまりすごい人じゃない」
「自分でも分かってるけど」
「でもうまく立ち回って。人を変えたり、救ったりしている。シュイロさんの方が遥かに能力が高いのに、シュイロさんでは解決できなかったことばかりなの。トアオさんは頑張り始めた、シュイロさんは元夫のことでちゃんと悩むようになった、シフユは救われた、メリアちゃんは改心した、私の妹を助けてくれた、アキトヨちゃんはシュイロさん以外に目を向けるようになった。私は、ヒウタと恋人になっても幸せだと思う」
小さな背中が近づく。
カワクロはうずくまるように座った。
「私が恋をしないのは、私が臆病だから。ヒウタ、私はいつ告白されても振るつもりでいるなの。だから別の人と恋をして、幸せになって。ほら、トアオちゃんとか開発しててお金もいっぱい、一生遊んで暮らせるだろうなの。過去問も全部あげる、それでも私が好きなら二番目にした方がいい。恋するやつはみんな馬鹿なの。いいえ、私は誰よりも馬鹿で、どこか信じてない。ヒウタのことも信じていない。おかしいのは私、ごめんなさい」
「そんなわけないですよ。本当におかしいなら涙を流しながら話しに来ません」
「うん。ねえ、ヒウタ」
「はい」
「私はヒウタを結構気に入ってる。でも戦力にならないから。私たち、会うのやめるなの」
「トアオさんが嫉妬するからですか?」
「ううん。私はいつまでもヒウタを傷つけるからなの。変なの、私」
「トアオさんは妹のコウミさんが恋をしてて、恋人に取られちゃうから恋を憎んでいる。そうしたら、カワクロさんは一人に、」
「ならない。私の周りには人がいるなの、男女ともに人気者なの。でも、一人ぼっちなのはそうかもなの。ヒウタじゃ、私を救えない」
言い切られてしまえば、ヒウタは返す言葉が見つからない。
「ごめん、ヒウタ」
カワクロは部屋から出る。
ヒウタは溢れる涙を隠した。
カワクロは自室に戻る。
「私は罪を重ねないなの。トアオちゃんはすごい人、報われるべきなの。だから、バイバイ、私のヒーロー」
おかしいな、本当に。
いつでも掴めた手を突き放しただけ、あるべきところに導いただけ、なのに胸が痛くて。
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