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9章 驕り少女が我儘すぎる!123~
その5 ヒウタと期末対策
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『コウミさんへ。過去問ください』
『ねえねえに直接言えばいいと思うけど』
『そこをなんとか』
講義終わり、ヒウタとコウミはスマホ画面を見ながら話していた。
社会系科目においてヒウタとコウミは同じ科目である。
これは、前期と後期で内容を二分割して進めるためだ。
ヒウタは後期に向けてカワクロから過去問をもらおうとするものの、振られたのもあって気まずかった。
そこでカワクロの妹であるコウミを介そうとしたのだが。
「ヒウタ、このメッセージはなに?」
「いやあ、過去問をほしいと思いまして」
「うん。ねえねえに直接言えばもらえると思うけど」
コウミは疑問を浮かべてヒウタを見る。
ヒウタは両手を合わせるばかりだった。
ということは。
「振られて気まずいと」
「その通りで」
「一回振られただけでどうしてそこまで?」
「彼氏がいるからって。そんな素振りなかったのに」
「そうなんだ。ねえねえ彼氏いないけどね。あの人接し方が雑なときがあるのかな」
「……。え?」
「ねえねえは彼氏いないよ」
「コウミさんが知らないわけじゃなくて」
「うん。ねえねえは恋を歪だと思っているし、思い続けたいからマッチングアプリを続けている。とはいえ、ねえねえがマッチングしてるところ見たことないけど」
コウミは席を立った。
コウミはこれから彼氏と大学デートらしい。
邪魔になるのは良くない。
ヒウタは教室を出て、構内のキッチンカーで昼食を買うことにした。
からあげ丼らしい。
「はわはわ」
唐揚げ丼の容器を抱え込んでいる少女がいた。
全部で五つほどあり、視界が完全に塞がっている。
「コウミたん、デートだって!」
声、雰囲気、大量の唐揚げ丼。
話し掛けない方がいいのだろうか? ヒウタが迷っていると。
「お、ヒウタ。コウミたんがあー!」
「カワクロさん?」
「大量の唐揚げを見ればデートをやめて彼氏を振って恋愛をやめてくれると思ったのに」
「そろそろ嫌われますよ?」
「私はコウミたんに嫌われてでも、コウミたんの平和を守るべきなの。……うわーん」
カワクロはついに泣き出してしまった。
とりあえず唐揚げ丼を受け取って、カワクロにハンカチを渡す。
いつもなら断って自分のタオルやティッシュを使おうとするが、今日はしおらしくハンカチを受け取った。
「ヒウタ、唐揚げ丼一つならあげるなの。少し話したい」
「……僕とですか?」
「そうなの。私は彼氏がいるからヒウタの気持ちには答えられない部分があるなの。でも仲良しとしてご飯を食べながら話すくらいなら。シフユを助けてくれた恩もある」
カワクロは早口で言う。
それから、外にある木製ベンチに座る。
冬。葉を散らした木々の枝は大きく隙間を作っている。頼りない日光が届く。
「コウミたんに本格的に避けられ始めた」
「そりゃ、彼氏さんに対していろいろやってるからじゃ」
「私は赤の他人を信用することはできない。どこかで騙そうとしてるって思う。恋なんてしない方が安全なの」
「家でじっとしてる方が傷つかないのはそうかもしれませんが。外に出て傷ついて、強くなって楽しいことが増えていく。今のコウミさんを見ていると楽しそうだって思います」
「私じゃ駄目だった。コウミたんを救えなかった、そう思ってたなの。でもヒウタにそうじゃないって、私がいたからコウミたんは楽しそうにしているって言ってくれて、私は本当に救われたなの。でも、寂しくて怖い。私はコウミたんにいつまでも幸せでいてほしいの」
「そんな弱くないですよ、コウミさん」
「知ってるの。弱いのは私。どうにかしなきゃいけないのも私。寂しいのも私。結構人間関係広いはずなのに、こういうときはどうして一人なんだろ」
ヒウタは容器の蓋を開けた。
唐揚げを一つ頬張る。
無理して丸々入れたからか、必死に噛んで鼻呼吸しながら飲み込んだ。
カワクロはそれを見ると得意げに唐揚げ一つ飲み込む。
口も喉もヒウタよりカワクロの方が小さい。不思議である。慣れだろうか?
「カワクロさん、彼氏は」
「も、もちろんいるなの。でも特にいるから一人だなって。就職したら近くに住みたいって思ってるの」
カワクロは箸を置いてペットボトルのお茶を飲む。
俯いたままじっと。
風が吹くと、塵埃のようになった葉っぱの欠片が飛んでいく。
枝同士が擦れてカサカサと音がした。
「ごめん。私に彼氏はいない」
「分かりました」
「恋はできない。ヒウタはいい人だって知ってるけど、たぶんそういう問題じゃない。私ね、いっぱい食べなきゃいけない体質なの」
「そうなんですね」
「ちびで少し痩せ気味なのに。昔それで不気味がられて、私は拒食症になった。何度も栄養失調で大変なことになって、心も死んでいって自殺未遂もした。人って食べないと死んじゃうの。だから、私は周りの目が嫌い。みんな信じてない、みんないい人だって知ってる。だから恋もできない、なの」
ヒウタはカワクロの言葉を一つ一つ決して聞き漏らさないように大事に受け止める。
カワクロは震えていた。
涙を堪えていた。
小さな手が震えていて。
気づけばその手を包むように握っていた。
乾燥した手と、手の甲。少し滑ってしまう。
「ふ。馬鹿、なの」
カワクロの優しい瞳と表情。照れて耳が薄赤色に染まる。
ヒウタが咄嗟に手を放そうとすると、カワクロは手を返して握り返す。
「みんな恋の魔物。どうしたらいいの? 分からない。助けて、ヒウタ」
ヒウタは唾を飲み込んだ。
「僕は、大好きな君に楽しく幸せになってもらいたいです」
「よくそんな台詞言えるなの。そっか」
「はい」
「コウミたんから聞いた。私に振られたから過去問をもらいにくいって。ちゃんと渡すの。私、ヒウタのこと尊敬してる。嫌いじゃないの」
「ありがとうございます。その、もう少しいていいですか?」
「私講義があるの」
「そうですか。その後は」
「しつこい男はモテない、はず。また会おう、ヒウタ」
「はい」
カワクロは気づけばすべての唐揚げ丼を平らげていた。
ヒウタは浮かれた気持ちだった。
カワクロはヒウタと分かれると、一瞬振り返る。
「馬鹿なの」
カワクロはスマホを開いて、ヒウタへ過去問を送るのだった。
すぐに送れたということは事前に準備を済ませていたということだ。
『ねえねえに直接言えばいいと思うけど』
『そこをなんとか』
講義終わり、ヒウタとコウミはスマホ画面を見ながら話していた。
社会系科目においてヒウタとコウミは同じ科目である。
これは、前期と後期で内容を二分割して進めるためだ。
ヒウタは後期に向けてカワクロから過去問をもらおうとするものの、振られたのもあって気まずかった。
そこでカワクロの妹であるコウミを介そうとしたのだが。
「ヒウタ、このメッセージはなに?」
「いやあ、過去問をほしいと思いまして」
「うん。ねえねえに直接言えばもらえると思うけど」
コウミは疑問を浮かべてヒウタを見る。
ヒウタは両手を合わせるばかりだった。
ということは。
「振られて気まずいと」
「その通りで」
「一回振られただけでどうしてそこまで?」
「彼氏がいるからって。そんな素振りなかったのに」
「そうなんだ。ねえねえ彼氏いないけどね。あの人接し方が雑なときがあるのかな」
「……。え?」
「ねえねえは彼氏いないよ」
「コウミさんが知らないわけじゃなくて」
「うん。ねえねえは恋を歪だと思っているし、思い続けたいからマッチングアプリを続けている。とはいえ、ねえねえがマッチングしてるところ見たことないけど」
コウミは席を立った。
コウミはこれから彼氏と大学デートらしい。
邪魔になるのは良くない。
ヒウタは教室を出て、構内のキッチンカーで昼食を買うことにした。
からあげ丼らしい。
「はわはわ」
唐揚げ丼の容器を抱え込んでいる少女がいた。
全部で五つほどあり、視界が完全に塞がっている。
「コウミたん、デートだって!」
声、雰囲気、大量の唐揚げ丼。
話し掛けない方がいいのだろうか? ヒウタが迷っていると。
「お、ヒウタ。コウミたんがあー!」
「カワクロさん?」
「大量の唐揚げを見ればデートをやめて彼氏を振って恋愛をやめてくれると思ったのに」
「そろそろ嫌われますよ?」
「私はコウミたんに嫌われてでも、コウミたんの平和を守るべきなの。……うわーん」
カワクロはついに泣き出してしまった。
とりあえず唐揚げ丼を受け取って、カワクロにハンカチを渡す。
いつもなら断って自分のタオルやティッシュを使おうとするが、今日はしおらしくハンカチを受け取った。
「ヒウタ、唐揚げ丼一つならあげるなの。少し話したい」
「……僕とですか?」
「そうなの。私は彼氏がいるからヒウタの気持ちには答えられない部分があるなの。でも仲良しとしてご飯を食べながら話すくらいなら。シフユを助けてくれた恩もある」
カワクロは早口で言う。
それから、外にある木製ベンチに座る。
冬。葉を散らした木々の枝は大きく隙間を作っている。頼りない日光が届く。
「コウミたんに本格的に避けられ始めた」
「そりゃ、彼氏さんに対していろいろやってるからじゃ」
「私は赤の他人を信用することはできない。どこかで騙そうとしてるって思う。恋なんてしない方が安全なの」
「家でじっとしてる方が傷つかないのはそうかもしれませんが。外に出て傷ついて、強くなって楽しいことが増えていく。今のコウミさんを見ていると楽しそうだって思います」
「私じゃ駄目だった。コウミたんを救えなかった、そう思ってたなの。でもヒウタにそうじゃないって、私がいたからコウミたんは楽しそうにしているって言ってくれて、私は本当に救われたなの。でも、寂しくて怖い。私はコウミたんにいつまでも幸せでいてほしいの」
「そんな弱くないですよ、コウミさん」
「知ってるの。弱いのは私。どうにかしなきゃいけないのも私。寂しいのも私。結構人間関係広いはずなのに、こういうときはどうして一人なんだろ」
ヒウタは容器の蓋を開けた。
唐揚げを一つ頬張る。
無理して丸々入れたからか、必死に噛んで鼻呼吸しながら飲み込んだ。
カワクロはそれを見ると得意げに唐揚げ一つ飲み込む。
口も喉もヒウタよりカワクロの方が小さい。不思議である。慣れだろうか?
「カワクロさん、彼氏は」
「も、もちろんいるなの。でも特にいるから一人だなって。就職したら近くに住みたいって思ってるの」
カワクロは箸を置いてペットボトルのお茶を飲む。
俯いたままじっと。
風が吹くと、塵埃のようになった葉っぱの欠片が飛んでいく。
枝同士が擦れてカサカサと音がした。
「ごめん。私に彼氏はいない」
「分かりました」
「恋はできない。ヒウタはいい人だって知ってるけど、たぶんそういう問題じゃない。私ね、いっぱい食べなきゃいけない体質なの」
「そうなんですね」
「ちびで少し痩せ気味なのに。昔それで不気味がられて、私は拒食症になった。何度も栄養失調で大変なことになって、心も死んでいって自殺未遂もした。人って食べないと死んじゃうの。だから、私は周りの目が嫌い。みんな信じてない、みんないい人だって知ってる。だから恋もできない、なの」
ヒウタはカワクロの言葉を一つ一つ決して聞き漏らさないように大事に受け止める。
カワクロは震えていた。
涙を堪えていた。
小さな手が震えていて。
気づけばその手を包むように握っていた。
乾燥した手と、手の甲。少し滑ってしまう。
「ふ。馬鹿、なの」
カワクロの優しい瞳と表情。照れて耳が薄赤色に染まる。
ヒウタが咄嗟に手を放そうとすると、カワクロは手を返して握り返す。
「みんな恋の魔物。どうしたらいいの? 分からない。助けて、ヒウタ」
ヒウタは唾を飲み込んだ。
「僕は、大好きな君に楽しく幸せになってもらいたいです」
「よくそんな台詞言えるなの。そっか」
「はい」
「コウミたんから聞いた。私に振られたから過去問をもらいにくいって。ちゃんと渡すの。私、ヒウタのこと尊敬してる。嫌いじゃないの」
「ありがとうございます。その、もう少しいていいですか?」
「私講義があるの」
「そうですか。その後は」
「しつこい男はモテない、はず。また会おう、ヒウタ」
「はい」
カワクロは気づけばすべての唐揚げ丼を平らげていた。
ヒウタは浮かれた気持ちだった。
カワクロはヒウタと分かれると、一瞬振り返る。
「馬鹿なの」
カワクロはスマホを開いて、ヒウタへ過去問を送るのだった。
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