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9章 驕り少女が我儘すぎる!123~
その2 ヒウタと勤勉少女?Ⅱ
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トアオが来た翌朝。
ヒウタが布団から出ると、あまりの寒さに凍ったように動けなくなる。
って。
「トアオさん? また作った鍵ですか?」
「違います」
「どうやって入ったんですか?」
「友達の合鍵です」
「合鍵?」
「なのでセーフです」
「そうかな。合鍵か。友達って」
トアオの後ろに闇があった。
黒いオーラを放つそれは灰色のフードで顔を隠している。
ヒウタはじっと見た。
見る者のすべてを闇で包んで、果てしなく遠い場所へ引きずり込むように思われる。
「って」
ヒウタはその人物を見て驚く。
その人物はゆっくりと手を挙げた。
「や、やあ」
「シュイロさん?」
「そうです。シュイロさんが闇堕ちしてました」
「へえー、え?」
納得しそうになったが、ヒウタは一旦止まった。
待て。
これがシュイロ?
シュイロはトアオの後ろで小さくなっている。
相変わらず闇を放って。
「初恋の人、元恋人、元旦那に愛人契約を持ち掛けられたんです。シュイロさんが美人だとしてもひどすぎると思います」
「まあ」
「私も愛人は嫌ですから。キープがぎりぎりです」
「トアオさん、……僕?」
トアオは膝を付いて布団の上のヒウタに迫る。
「昨日堂々とキープ宣言してたので」
「そうなのか、ヒウタ」
「そうなのか、僕は」
「そうです」
「だそうです」
シュイロはようやくフードを取った。
頬が赤い。
瞳に涙が湛えている。
「ヒウタ。女の敵」
「あ、えっと、その」
「でもそういうのも含めて恋か。うう」
「というわけで、ヒウタさんは私の友達を元気にしてほしいです」
「何でも屋ではないけど。シュイロさんを元気づけるって」
「その通りですよ、ヒウタさん」
「何にも言ってないが?」
「最強人工知能『ふぉーている』に頼んで、元夫はもう二度と立ち上がれないように社会的に抹殺します。それか完全犯罪でこの世から消えてもらいます」
「物騒すぎる!」
「私はシュイロさんを元気にしたい。それ以上に、シュイロさんを傷つける人は大嫌いです。許せません」
「それは僕もだけど、物騒なわりにはできるよね?」
「私はできます」
恐ろしいことにトアオはシュイロのマッチングアプリの管理システムを作った本人で、開発力が高い。
そして、現在の技術を凌ぐオーパーツを分解することで人工知能『ふぉーている』を作り上げた。その性能は計り知れない。
「トアオさんってシュイロさんと仲良いですね。今まで二人でいるのあまり見てなかったので」
「友達って言ってます。ヒウタさんがシュイロさんとデートしたとき、猫カフェ行ったりしたと思いますが、元々私が行く予定だったので。シュイロさんは友達少ないですよ」
「シュイロさんが?」
「通信制高校で友達ができたこともあって私よりも多いですが世間的には少ない。シュイロさんは元旦那と幼稚園から高校までずっと一緒でした。今のシュイロさんが学校の友達と仲良くやっていけると思いますか?」
「トアオちゃん、話しすぎだ。私は怒るぞ」
「分かりました。でも、ヒウタさんにはその辺の話もすべてするべきです」
「それは私だって分かってる。ヒウタ、でも今ではないんだ。それに私は受け止め切れていない。少しずつだ」
「大丈夫です。無理しなくていいですし、全部言わなくて大丈夫です。それよりも、今日は出掛けますか?」
「それもそうだな。映画でも見よう」
シュイロさんはスマホを取り出した。
映画館に着く。
ポップコーンとコーラで組み合わせる。
アクションが迫力あると話題の洋画を見た。
それから映画館近くのレストランで昼食を食べる。
「ヒウタさん、おんぶしてください」
「頑張ってくれ」
「ゲームセンターです。座りましょう」
「ゲームセンターで休むイメージはないが?」
「いや、ヒウタ。せっかくのゲームセンターだ。座るぞ」
シュイロは人差し指を立てて揺らす。
固くなっていた表情は緩んで、少しずつ笑顔が増える。
ヒウタはトアオがたまにシュイロを見ていることに気づいた。
「『怠惰』っていうわりには、よく見てるよな」
「さあ、勝負の時間だ」
「かかってきなさい、シュイロさん」
「座るってカーレースのことか」
ヒウタたちはハンドルのついたゲームに硬貨を投入した。
ヒウタが真ん中で、左にトアオ、右にシュイロである。
「ヒウタさん、勝負に乗りましたね!」
「うん。ん?」
「負けた人は?」
トアオが笑った。
「勝った人に?」
シュイロも楽しそうにヒウタを見ている。
「好きなところ三つ言う」
するとトアオとシュイロは車を選んでカスタマイズしていく。
ヒウタは慌てて始めた。
結局。
「私とトアオちゃんが一位で、ヒウタが最下位か。情けないな」
「本当ですよ」
「同率一位って。ゴール前で二人息を合わせて。罰ゲーム二人分やるってことですよね?」
「ヒウタさんの察しが良いところも素敵ですね!」
「トアオさん、からかってますよね」
「楽しみだな。私のどこが魅力的なんだろう? わくわくする。わくわくだ」
「シュイロさんまで」
ヒウタは溜め息を一つ。
「トアオさんは開発力と友達想いなところ。シュイロさんは優しいところとイベント赤字人間なのにちゃんと経営できるところ」
「ヒウタさん、私もシュイロさんも一つ足りないです」
「それに、イベント赤字人間はひどくないか?」
ヒウタは頭を掻く。
「トアオさんはかわいいところ、シュイロさんは美人なところ。これでいいですか?」
「ヒウタさん、目を見て言ってほしいです。どうしててきとーなこと言うんですか?」
「違うな、トアオちゃん」
シュイロは先へ行ってしまうヒウタを見て得意な顔をする。
「恥ずかしかっただけだ」
「流石シュイロさん。私だけでは先ほどの仕返しだと思ってしまいます」
「まだまだだな。精進しろ」
「そうですね」
トアオとシュイロはヒウタに追い付いた。
ヒウタはすぐに目を背けてしまう。
それを見て、トアオとシュイロは向かい合って微笑むのだった。
ヒウタが布団から出ると、あまりの寒さに凍ったように動けなくなる。
って。
「トアオさん? また作った鍵ですか?」
「違います」
「どうやって入ったんですか?」
「友達の合鍵です」
「合鍵?」
「なのでセーフです」
「そうかな。合鍵か。友達って」
トアオの後ろに闇があった。
黒いオーラを放つそれは灰色のフードで顔を隠している。
ヒウタはじっと見た。
見る者のすべてを闇で包んで、果てしなく遠い場所へ引きずり込むように思われる。
「って」
ヒウタはその人物を見て驚く。
その人物はゆっくりと手を挙げた。
「や、やあ」
「シュイロさん?」
「そうです。シュイロさんが闇堕ちしてました」
「へえー、え?」
納得しそうになったが、ヒウタは一旦止まった。
待て。
これがシュイロ?
シュイロはトアオの後ろで小さくなっている。
相変わらず闇を放って。
「初恋の人、元恋人、元旦那に愛人契約を持ち掛けられたんです。シュイロさんが美人だとしてもひどすぎると思います」
「まあ」
「私も愛人は嫌ですから。キープがぎりぎりです」
「トアオさん、……僕?」
トアオは膝を付いて布団の上のヒウタに迫る。
「昨日堂々とキープ宣言してたので」
「そうなのか、ヒウタ」
「そうなのか、僕は」
「そうです」
「だそうです」
シュイロはようやくフードを取った。
頬が赤い。
瞳に涙が湛えている。
「ヒウタ。女の敵」
「あ、えっと、その」
「でもそういうのも含めて恋か。うう」
「というわけで、ヒウタさんは私の友達を元気にしてほしいです」
「何でも屋ではないけど。シュイロさんを元気づけるって」
「その通りですよ、ヒウタさん」
「何にも言ってないが?」
「最強人工知能『ふぉーている』に頼んで、元夫はもう二度と立ち上がれないように社会的に抹殺します。それか完全犯罪でこの世から消えてもらいます」
「物騒すぎる!」
「私はシュイロさんを元気にしたい。それ以上に、シュイロさんを傷つける人は大嫌いです。許せません」
「それは僕もだけど、物騒なわりにはできるよね?」
「私はできます」
恐ろしいことにトアオはシュイロのマッチングアプリの管理システムを作った本人で、開発力が高い。
そして、現在の技術を凌ぐオーパーツを分解することで人工知能『ふぉーている』を作り上げた。その性能は計り知れない。
「トアオさんってシュイロさんと仲良いですね。今まで二人でいるのあまり見てなかったので」
「友達って言ってます。ヒウタさんがシュイロさんとデートしたとき、猫カフェ行ったりしたと思いますが、元々私が行く予定だったので。シュイロさんは友達少ないですよ」
「シュイロさんが?」
「通信制高校で友達ができたこともあって私よりも多いですが世間的には少ない。シュイロさんは元旦那と幼稚園から高校までずっと一緒でした。今のシュイロさんが学校の友達と仲良くやっていけると思いますか?」
「トアオちゃん、話しすぎだ。私は怒るぞ」
「分かりました。でも、ヒウタさんにはその辺の話もすべてするべきです」
「それは私だって分かってる。ヒウタ、でも今ではないんだ。それに私は受け止め切れていない。少しずつだ」
「大丈夫です。無理しなくていいですし、全部言わなくて大丈夫です。それよりも、今日は出掛けますか?」
「それもそうだな。映画でも見よう」
シュイロさんはスマホを取り出した。
映画館に着く。
ポップコーンとコーラで組み合わせる。
アクションが迫力あると話題の洋画を見た。
それから映画館近くのレストランで昼食を食べる。
「ヒウタさん、おんぶしてください」
「頑張ってくれ」
「ゲームセンターです。座りましょう」
「ゲームセンターで休むイメージはないが?」
「いや、ヒウタ。せっかくのゲームセンターだ。座るぞ」
シュイロは人差し指を立てて揺らす。
固くなっていた表情は緩んで、少しずつ笑顔が増える。
ヒウタはトアオがたまにシュイロを見ていることに気づいた。
「『怠惰』っていうわりには、よく見てるよな」
「さあ、勝負の時間だ」
「かかってきなさい、シュイロさん」
「座るってカーレースのことか」
ヒウタたちはハンドルのついたゲームに硬貨を投入した。
ヒウタが真ん中で、左にトアオ、右にシュイロである。
「ヒウタさん、勝負に乗りましたね!」
「うん。ん?」
「負けた人は?」
トアオが笑った。
「勝った人に?」
シュイロも楽しそうにヒウタを見ている。
「好きなところ三つ言う」
するとトアオとシュイロは車を選んでカスタマイズしていく。
ヒウタは慌てて始めた。
結局。
「私とトアオちゃんが一位で、ヒウタが最下位か。情けないな」
「本当ですよ」
「同率一位って。ゴール前で二人息を合わせて。罰ゲーム二人分やるってことですよね?」
「ヒウタさんの察しが良いところも素敵ですね!」
「トアオさん、からかってますよね」
「楽しみだな。私のどこが魅力的なんだろう? わくわくする。わくわくだ」
「シュイロさんまで」
ヒウタは溜め息を一つ。
「トアオさんは開発力と友達想いなところ。シュイロさんは優しいところとイベント赤字人間なのにちゃんと経営できるところ」
「ヒウタさん、私もシュイロさんも一つ足りないです」
「それに、イベント赤字人間はひどくないか?」
ヒウタは頭を掻く。
「トアオさんはかわいいところ、シュイロさんは美人なところ。これでいいですか?」
「ヒウタさん、目を見て言ってほしいです。どうしててきとーなこと言うんですか?」
「違うな、トアオちゃん」
シュイロは先へ行ってしまうヒウタを見て得意な顔をする。
「恥ずかしかっただけだ」
「流石シュイロさん。私だけでは先ほどの仕返しだと思ってしまいます」
「まだまだだな。精進しろ」
「そうですね」
トアオとシュイロはヒウタに追い付いた。
ヒウタはすぐに目を背けてしまう。
それを見て、トアオとシュイロは向かい合って微笑むのだった。
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