規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる!

アメノヒセカイ

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9章 驕り少女が我儘すぎる!123~

エピソード1 等価交換の恋

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 改札で分かれる男女がいた。
 二人はカップルである。
 十二月、冷える季節がやって来た。
 だんだん日の入りが早くなり、夜の暗く冷え込む時間が増えていく。
「今日はありがと」
「こちらこそ」
 今日は男の誕生日だった。
 女は手持ちバッグから箱を取り出すと、男の手袋を着けた両手の上に乗せる。
「誕生日おめでとう」
 冷えて赤くなった表情のなかに穏やかな笑顔が垣間見える。
 女はフードを被ってホームへ駆けていった。
 一方で、男は重い息を吐く。
 白い息が消えると箱をしまった。
 それから混んでいる電車に乗って揺られる。
 つり革を握った手に力が入った。
 街はだんだん光を帯びてクリスマスムードへ変わっていく。
 次に会うのはクリスマスだ。
 プレゼントを用意するが、またプレゼントがもらえるに違いない。
 そう思うと気が重くなるのだ。
 彼女のことは大好きだ。
 笑顔がかわいらしく癒される。
 優しくて友達に恵まれている。
 賢くて男性よりも評価が高い大学に通っている。
 だけど。
 最近は少しだけ不満がある。
 大きなことではない。
 小さいかどうか、それは断定できないけど。
 電車を降りる。
 家まで自転車を漕いだ。
 家に着く。
 夕食は既に済ませている。
 家族は夕食を終えてリビングでバラエティー番組を見ていた。
 男は急いで二階に上がる。
 そして、自分の部屋で箱を取り出した。
 箱を開ける。
 そこにはほしいと言い続けたワイヤレスイヤホンが入っていた。
 前に彼女と見たものよりも良さそうな品だ。
 実際にスマホに登録して使う。
 音楽を聴くと、まるで全身から音を感じているようだった。
「でも」
 イヤホンをケースに入れる。
「次はこれか」
 ベッドに飛び込む。
 スマホに充電器を繋げた。
 天井を少しの間眺める。
 一度目を閉じて息を吸う。
 覚悟を決めた。
 男はスマホでワイヤレスイヤホンを検索する。
 それから『ショッピング』に表示されている商品を見比べる。
 これか。
「二万五千円か。高いな」
 男は勉強机の引き出しから銀行名が書かれた封筒を取り出す。
 札を数えると、机の上に投げた。
「あいつが言ったわけではないけど、これより安いのは渡せないよな。だんだんプレゼントの値段が上がっている。どうするんだよ。またバイトのシフト増やさなきゃ」
 デート代を割り勘にしているだけまし。
 それでも負担になっていた。
 安いプレゼントにするのは格好がつかない。
「けど、前言ってたもんな。友人が彼氏から記念日に手紙だけ渡されて号泣したって。毎回言われたものを買ってたのにたった一回の手紙で別れることを決めたんだって。恋って金がかかるな」
 男は背中を掻いた。
 スマホを取り出す。
『プレゼントありがとう。ほしかったやつだ。音も滅茶苦茶いいし』
 メッセージを送るとすぐに返信が来た。
『ずっとほしいって言ってたでしょ?』
 返信が早い。
 つまりメッセージを待ってくれていたのだろう。
 いい彼女だ。
 こんなことで不満を抱いている場合ではない。
『よく知ってたな。大好き』
『喜んでもらえて良かった。私も大好きだよ』
 幸せなのは間違いない。
 彼女のために尽くすのもお金を出すのも苦だと思わない。
 でもちょっとだけプレゼント分のお金を工面するのが苦しいんだ。
 友人と遊ぶお金もない。
 趣味のお金も減る。
 昼食もどんどん貧しくなっていく。
 アルバイトも増やすことになってしまう。
 電車通学用の定期券もまとめて買う余裕がなく、いつも月ごとで更新している。
「いつまで続ければいいのかな。それに、ここまで高くなると分からなくなる。何を渡せばいいんだ?」
 スマホで調べようとして、嫌になって枕元に置いた。
 別れるつもりはない。
 けど、このままだといつかプレゼントを十分に買えなくなって振られるのだろうか?
 それは彼女次第だ。
 一体どこへ向かっているのだろうか。
「風呂入るか。……また返信するの忘れてた」
 友人の誘いに乗れなくなっていた。
 お金がないのだ。
 いや、たぶんまだある。
 でもこれからお金が減っていくことを考えると。
 男は湯船に浸かった。
 身体の疲れは抜けていきそうだが、底に溜まった泥の塊のような気分までは濯がれない。
「どうしたらいい? なんて、あいつに相談するしかないのに。少なくとも次で清算できるくらいの金額でプレゼントをして話をするしかないか。そうだよな」
 風呂を出てバスタオルで拭く。
 服を着てドライヤーの温風を浴びた。
 次はクリスマスだ。
 問題は相手もプレゼントを用意していることだ。
 どうしたらいいのか。
 一大イベントで盛り上がる様子を想像すると億劫になる。
 今日はまだ冷え込むそうだ。






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