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8章 魅了少女が不安すぎる!『後期』109~122話
その28 ヒウタと恋の決意
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十二月に入って。
ヒウタは講義が終わって、あまり講義で使われない建物の学生ラウンジにやって来た。
カワクロと向かい合うように座る。
テーブルにはコンビニスイーツの山があった。
「ヒウタ、シフユの件を解決してくれたみたいなの。スイーツ、一つ取っていいわ。私のおすすめは表面を焦がしたチーズケーキ。ふんわりしてて舌の上で良くて幸せってなるの」
カワクロは包装からシュークリームを出す。
両手で持つシュークリームは、手の平から大きく出るような大きさだった。
カワクロはそれを二口で食べる。
頬に付いたホイップクリームを人差し指に付けてぺろりと舐める。
小さい舌が幼さを感じさせるがヒウタの先輩である。
「じゃあもらいます」
「あと小テスト、期末テストの過去問とデータ。大学ってすごいなの、人間関係の強さで有利さが全く異なるなの。あ、このプリンの新作は恐ろしく美味なの!」
「いいですね」
「ついでにシフユの後日談。結局、シフユとミドリは離れることになったなの。そりゃそうなの。でも私は驚いたの。まさかマッチングアプリを再開するなんて。シュイシュイへの忠誠心が高いやつなの」
カワクロが言うシュイシュイとはマッチングアプリ代表のシュイロのことだ。
「始めたんですね! 良かったです。作戦通りですね」
カワクロは顎に手を添える。
目を細めてヒウタを見た。
「また男用アカウントを作って滅茶苦茶なの。これもまさかヒウタの術?」
「ええ? え? ミドリさんの件があったのに。意外と図太い人なんですね、まる」
「既にシュイシュイに説教済み。すごく呆れてたけど、シュイシュイは楽しそうに私に愚痴ったなの。それも含めてシフユの恋の形だろって」
「利用者に失礼では? 規約違反ですし」
「無法状態なの、私たち『七つの大罪』少女にとってはね」
カワクロは続けて杏仁豆腐を頬張る。
口に入れる度に緩む頬を手で支えるように。
「シュイロさんが甘えさせてるのもあるでしょうけど」
「その通り。ヒウタがここまでの成果を上げてくれるなんてね」
「期待してなかったとかですか?」
「期待するしかなかったなの。私はどうすることもできないの。嬉しかった。助かった」
嬉しそうにカップケーキを口に含む。
リスのように頬を膨らませていた。
この人は優しい人だ。
「美味しい。ヒウタ、あげるなの」
カワクロはカップケーキの最後の一口をヒウタに差し出す。
いわゆるあーんで、しかも。
「んぐ!」
「むせそう? 変なの」
「その」
間接キスとは言えなかった。
カワクロは山盛りスイーツを食べ終えて。
「任務完了。じゃあね、助かったの」
カワクロが立ち上がる。
ヒウタは咄嗟に椅子を下げて。
「カワクロさん!」
「ん? 過去問は電子ファイルで帰ったら送るけど? もうすぐなの」
「そうですけど、そうじゃなくて」
ヒウタはめまいがした。
何を言おうとしている?
カワクロは不思議がって一瞬首を傾げる。
それでもヒウタは固まったままだった。
カワクロはヒウタに手を振ると背中を見せる。
小さな背中が言ってしまう。
次はいつ会える?
シフユの、カワクロの高校からの友人の件があったから会えた。
でも次は?
料理屋でも紹介すればまた会える?
違う、きっと無理だ。
カワクロが知らない料理屋を教えられる自信がない。
どうしたら、いや。
どうしようもないからこそ。
ヒウタは一歩足を出して。
カワクロは驚いたように振り返る。
ヒウタがもう一歩進むと、カワクロは咄嗟に一歩下がる。
「その。いいですか?」
「ええ、なにが? もしかして急いでるなの? いいよ、退くから行ってなの」
「そうじゃなくて、僕は」
「ああ、もしかして」
カワクロが握りこぶしで手の平を叩く。
思い出したように口を開いた。
カワクロが言葉を音にする寸前だった。
「僕はカワクロさんが大好きです、付き合ってください」
床までも熱い気がした。
カワクロは暗い表情を見せる。
ヒウタは呼吸を忘れた。
そうか、それはそうか。ヒウタの体から温もりが消える。
カワクロは申し訳なさそうに俯いた。
「ごめんね、私彼氏できたから」
淡々とした口調。
こういうことに慣れているのだろうか?
カワクロは歩き出した。
「その、今回のは助かったなの」
カワクロの姿が見えなくなる。
ヒウタは床の下から足を掴まれたように重い足を必死に進める。
冷たい足取り。
瞳だけが熱を帯びる。
ヒウタは汚くなった顔のまま電車には乗れなかった。
駅の個室トイレに座る。
外から幸せそうな子供連れ夫婦、友達同士の集団、カップルの声が溢れてくる。
冬の寒さもあって体が小刻みに震える。
トイレに籠って震える状況、その哀れさに溢れた涙がなかなか止まらない。
これからどうしようか?
ヒウタは頭を抱えた。
思ったよりも本気だったらしい。
恋が一つ終わったのか?
それとも好きを続けていいのか?
ヒウタは悩んだ。
ヒウタのスマホが鳴る。
「頑張りました、ご褒美くださいか。そっか。俺なんてやめとけよ」
ヒウタはスマホを閉じた。
涙が枯れてトイレから出た。
頭が上手く回らない。
「会うべきとは思うけど、これで終わるべきとは思う。これ以上、俺は」
電車に乗って。
最寄り駅の自動販売機でクリームソーダを買う。
プシュっと音を立てて、身体全体を甘さで埋める。
ヒウタは顔を下に向けたまま歩く。
部屋に着いた。
そして、布団に倒れ込む。
頭の重さ、ヒウタは眠れないまま天井を見上げる。
「やってしまった。彼氏いるのか、そうだよな」
納得できないが納得するしかない。
相手は、なんて気にしても仕方がないのだ。
ヒウタは講義が終わって、あまり講義で使われない建物の学生ラウンジにやって来た。
カワクロと向かい合うように座る。
テーブルにはコンビニスイーツの山があった。
「ヒウタ、シフユの件を解決してくれたみたいなの。スイーツ、一つ取っていいわ。私のおすすめは表面を焦がしたチーズケーキ。ふんわりしてて舌の上で良くて幸せってなるの」
カワクロは包装からシュークリームを出す。
両手で持つシュークリームは、手の平から大きく出るような大きさだった。
カワクロはそれを二口で食べる。
頬に付いたホイップクリームを人差し指に付けてぺろりと舐める。
小さい舌が幼さを感じさせるがヒウタの先輩である。
「じゃあもらいます」
「あと小テスト、期末テストの過去問とデータ。大学ってすごいなの、人間関係の強さで有利さが全く異なるなの。あ、このプリンの新作は恐ろしく美味なの!」
「いいですね」
「ついでにシフユの後日談。結局、シフユとミドリは離れることになったなの。そりゃそうなの。でも私は驚いたの。まさかマッチングアプリを再開するなんて。シュイシュイへの忠誠心が高いやつなの」
カワクロが言うシュイシュイとはマッチングアプリ代表のシュイロのことだ。
「始めたんですね! 良かったです。作戦通りですね」
カワクロは顎に手を添える。
目を細めてヒウタを見た。
「また男用アカウントを作って滅茶苦茶なの。これもまさかヒウタの術?」
「ええ? え? ミドリさんの件があったのに。意外と図太い人なんですね、まる」
「既にシュイシュイに説教済み。すごく呆れてたけど、シュイシュイは楽しそうに私に愚痴ったなの。それも含めてシフユの恋の形だろって」
「利用者に失礼では? 規約違反ですし」
「無法状態なの、私たち『七つの大罪』少女にとってはね」
カワクロは続けて杏仁豆腐を頬張る。
口に入れる度に緩む頬を手で支えるように。
「シュイロさんが甘えさせてるのもあるでしょうけど」
「その通り。ヒウタがここまでの成果を上げてくれるなんてね」
「期待してなかったとかですか?」
「期待するしかなかったなの。私はどうすることもできないの。嬉しかった。助かった」
嬉しそうにカップケーキを口に含む。
リスのように頬を膨らませていた。
この人は優しい人だ。
「美味しい。ヒウタ、あげるなの」
カワクロはカップケーキの最後の一口をヒウタに差し出す。
いわゆるあーんで、しかも。
「んぐ!」
「むせそう? 変なの」
「その」
間接キスとは言えなかった。
カワクロは山盛りスイーツを食べ終えて。
「任務完了。じゃあね、助かったの」
カワクロが立ち上がる。
ヒウタは咄嗟に椅子を下げて。
「カワクロさん!」
「ん? 過去問は電子ファイルで帰ったら送るけど? もうすぐなの」
「そうですけど、そうじゃなくて」
ヒウタはめまいがした。
何を言おうとしている?
カワクロは不思議がって一瞬首を傾げる。
それでもヒウタは固まったままだった。
カワクロはヒウタに手を振ると背中を見せる。
小さな背中が言ってしまう。
次はいつ会える?
シフユの、カワクロの高校からの友人の件があったから会えた。
でも次は?
料理屋でも紹介すればまた会える?
違う、きっと無理だ。
カワクロが知らない料理屋を教えられる自信がない。
どうしたら、いや。
どうしようもないからこそ。
ヒウタは一歩足を出して。
カワクロは驚いたように振り返る。
ヒウタがもう一歩進むと、カワクロは咄嗟に一歩下がる。
「その。いいですか?」
「ええ、なにが? もしかして急いでるなの? いいよ、退くから行ってなの」
「そうじゃなくて、僕は」
「ああ、もしかして」
カワクロが握りこぶしで手の平を叩く。
思い出したように口を開いた。
カワクロが言葉を音にする寸前だった。
「僕はカワクロさんが大好きです、付き合ってください」
床までも熱い気がした。
カワクロは暗い表情を見せる。
ヒウタは呼吸を忘れた。
そうか、それはそうか。ヒウタの体から温もりが消える。
カワクロは申し訳なさそうに俯いた。
「ごめんね、私彼氏できたから」
淡々とした口調。
こういうことに慣れているのだろうか?
カワクロは歩き出した。
「その、今回のは助かったなの」
カワクロの姿が見えなくなる。
ヒウタは床の下から足を掴まれたように重い足を必死に進める。
冷たい足取り。
瞳だけが熱を帯びる。
ヒウタは汚くなった顔のまま電車には乗れなかった。
駅の個室トイレに座る。
外から幸せそうな子供連れ夫婦、友達同士の集団、カップルの声が溢れてくる。
冬の寒さもあって体が小刻みに震える。
トイレに籠って震える状況、その哀れさに溢れた涙がなかなか止まらない。
これからどうしようか?
ヒウタは頭を抱えた。
思ったよりも本気だったらしい。
恋が一つ終わったのか?
それとも好きを続けていいのか?
ヒウタは悩んだ。
ヒウタのスマホが鳴る。
「頑張りました、ご褒美くださいか。そっか。俺なんてやめとけよ」
ヒウタはスマホを閉じた。
涙が枯れてトイレから出た。
頭が上手く回らない。
「会うべきとは思うけど、これで終わるべきとは思う。これ以上、俺は」
電車に乗って。
最寄り駅の自動販売機でクリームソーダを買う。
プシュっと音を立てて、身体全体を甘さで埋める。
ヒウタは顔を下に向けたまま歩く。
部屋に着いた。
そして、布団に倒れ込む。
頭の重さ、ヒウタは眠れないまま天井を見上げる。
「やってしまった。彼氏いるのか、そうだよな」
納得できないが納得するしかない。
相手は、なんて気にしても仕方がないのだ。
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