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8章 魅了少女が不安すぎる!『後期』109~122話
その27 ヒウタとミドリ
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夜。
ヒウタは公園のベンチに座る。
隣にはミドリがいた。
目頭を赤くしてビール缶を片手に。
「ねえ」
「どうしました?」
「私、最悪だったわ」
「あのタイミングでミドリさんを呼んで。それでシフユさんに話しをさせた僕の方が最悪ですけどね」
「それはそうね」
「始めは勝負に負けてミドリさん呼んで意地悪するつもりでした。けど、大学祭を回るなかで人をよく見ていて、そういう人だと思ったので」
「私の前でシフユの話しないでほしいけど。まだ未練みたいなものはあるから。だからアルコールで忘れるわ」
「僕は飲めないので」
「それは残念」
「大丈夫ですよ、お酒飲める人呼んだので」
「お酒飲める人?」
ミドリは首を傾げる。
ビニール袋を両手に持った女性がやって来た。
汗をかいた姿は艶めかしい。
すらりと伸びた髪が月明かりに照らされる。
「ヒウタお疲れ様。って、私が買い出しか。しかもさ、私がこんなに重いのを持って。言ったぞ、私は確かに言ったぞ! シフユの件に関してできる範囲で力を貸すと」
「酒の力ってすごいですよね? でも僕は未成年なので。お酒は買えませんが運んでいるのも良くないと思いまして」
「夜中に女の子一人にしていいのだろうか?」
「ミドリさんもですが?」
「居酒屋でいいだろ」
「ミドリさんがこの公園がいいって」
「分かった。これは私の奢りだ」
ミドリに重いビニール袋を渡す。
「シュイロさん、ありがとうございます」
「ヒウタ変わったな。頼もしくなったが図々しいし恐ろしいことをするようになった。上司として良いことか悪いことか分からないが」
「シフユさんの件は?」
「そうだな、ヒウタが恐ろしいのは良いことだ。そうだな」
シュイロはビニール袋からビール缶を取り出す。
指を挟むようにしてタブから開ける。
炭酸で溢れそうになるそれをぐいぐいと飲む。
喉を大きく鳴らした。
「なあヒウタ。私も今日は酔うぞ。いいか?」
「いいかってどういうことですか?」
「覚悟しろってことだ。まあ、どう覚悟するかは想像通りだ」
「運びませんよ?」
「は、はあーん? 私のような綺麗な女性を置いていくのか。何かあったらどうするんだ。ああ、あのとき運んでおきさえすれば、今頃あんなことやこんなことができたのに! って可能性もあるだろ。ヒウタの男が暴発したら私なしでどう取り押さえるんだ? 大丈夫なのか!」
「シュイロさんがハクみたいな意味の分からない口調に! って」
シュイロから酸っぱくて鼻を痛ませる匂いがする。
「既に飲んでる? ええ、シュイロさん」
「未成年とは残念で。でも容赦はしないわ。お酒の世界では酔っていない人がすべての酔っぱらいを解放するの。なかなか厳しい世界だけど、ルールはルール、観念すれば」
ミドリもお酒を進める。
つまみの焼き鳥もどんどん減っていく。
「二人して滅茶苦茶だな」
けども。
こうして見るとミドリはまともに見える。
一体ミドリとシフユの恋愛はどこで狂ってしまったのだろうか?
どれだけ考えても邪推と曲解にしかならないはずだ。
ヒウタはあまり考えないことにした。
「私だってね、死んで償えって思っていないわ。離れたくはなかった。けど好きな人、この世界からいなくなれってそこまで恨めないから。やっぱりね、嫌いでも大嫌いでも好きが圧倒的存在感で邪魔してくるから。さて、これからどうしようかな。」
「これからか。私も好きだった人がこの世界からいなくなれなんて思わないな。お酒飲むか。まさか愛人に誘われるなんて断るに決まっているだろ。妻子いる身で。子供さえいなかったら私は、……。そんなはずはないけど、なんかな」
シュイロはビール缶をもう一本開ける。
ヒウタとミドリは固まっていた。
「「え?」」
ようやく発した一言目が被る。
「あー、……あ。ああ、あ? ああ。よし、ミドリさんのこれからの話をするか! な? あー、駄目か? ここで深堀してしまえば私の話で終わってしまうぞ? ってか寒いな。やっぱり居酒屋だな。な?」
シュイロは察したらしい。
顔が真っ赤だった。
居酒屋チェーンに移動して。
お通しや席料が全くないらしい。
また、二件目様お断りもない。
「ええ、シュイロさんの好きな人妻子持ち? しかも愛人契約持ち込んできて。うわあ、シフユさん真面目な人だったな。次の恋も頑張ろうかな、私シュイロさんのアプリこれからも使いたいな、あははは」
「断ったよ、もちろん。それでクズになっててショックだから飲みたいなって。ヒウタ、なんだ、その憐れむ目は?」
「シュイロさんってすごい人ですけどなんていうか不幸な人ですね。不幸とは言ってませんよ、なんか不幸です。お酒飲んだ方が体に良いと思いますよ、むしろ」
「むしろ身体にいいってなんだ。私、……まあいいか。飲む。覚悟しろ、介抱しろ」
「そこまでのことがあったらもちろんいいですけど」
「ヒウタ! でも確かに哀れだよな。やっぱり慰めてくれ、……ぐすん」
「シュイロさん? これからの人生私も頑張らなきゃだから、一緒に頑張ろう。ね?」
「ああ、うん。そう、その通りだな。はあ、私は時が止まったままが良いな」
ビールを啜るシュイロ。
幼馴染が愛人契約を持ち掛けてきた。
どんな経緯かは分からない。
ただ少なくともシュイロにとっては気分の良いものではないだろう。
……って。
「いつからコンタクトしてるんですか。その人と」
「仕事でちょっとな」
「シュイロさん。僕はいつだってシュイロさんの味方です」
「そっか。味方か。なら私のためにどこまでならできる?」
「どこまでも」
即答に対してシュイロは嬉しそうに笑む。
「ならこれからは無給で働かせるか」
「ええ?」
「冗談だ。でもよく即答するような。それが良いところであり悪いところだ。家族と友達と好きな人と私。どれだけ思っても優先順位ができてしまう。仕方のないことだ」
「どういうことですか?」
「どうしようもないことは少なくない。すぐに飛び込もうとすると危険がある。それは最近分かり始めていると思う。ヒウタ、判断を怠るなよ」
「そうですね」
「愛人契約なのに?」
ミドリが言うとシュイロは頭から湯気を出す。
「あー、もちろん今日は私の奢りだ。いっぱい食べような、な?」
シュイロは注文用のモニタを手に取って次々と注文をする。
シュイロの目が回っている気がする。
あまり考えずに注文しているだろう。
結局大量の食べ物とアルコール類が来て。
ヒウタははち切れそうな腹を抱えながら、ミドリと協力してシュイロを介抱したのだった。
ヒウタは公園のベンチに座る。
隣にはミドリがいた。
目頭を赤くしてビール缶を片手に。
「ねえ」
「どうしました?」
「私、最悪だったわ」
「あのタイミングでミドリさんを呼んで。それでシフユさんに話しをさせた僕の方が最悪ですけどね」
「それはそうね」
「始めは勝負に負けてミドリさん呼んで意地悪するつもりでした。けど、大学祭を回るなかで人をよく見ていて、そういう人だと思ったので」
「私の前でシフユの話しないでほしいけど。まだ未練みたいなものはあるから。だからアルコールで忘れるわ」
「僕は飲めないので」
「それは残念」
「大丈夫ですよ、お酒飲める人呼んだので」
「お酒飲める人?」
ミドリは首を傾げる。
ビニール袋を両手に持った女性がやって来た。
汗をかいた姿は艶めかしい。
すらりと伸びた髪が月明かりに照らされる。
「ヒウタお疲れ様。って、私が買い出しか。しかもさ、私がこんなに重いのを持って。言ったぞ、私は確かに言ったぞ! シフユの件に関してできる範囲で力を貸すと」
「酒の力ってすごいですよね? でも僕は未成年なので。お酒は買えませんが運んでいるのも良くないと思いまして」
「夜中に女の子一人にしていいのだろうか?」
「ミドリさんもですが?」
「居酒屋でいいだろ」
「ミドリさんがこの公園がいいって」
「分かった。これは私の奢りだ」
ミドリに重いビニール袋を渡す。
「シュイロさん、ありがとうございます」
「ヒウタ変わったな。頼もしくなったが図々しいし恐ろしいことをするようになった。上司として良いことか悪いことか分からないが」
「シフユさんの件は?」
「そうだな、ヒウタが恐ろしいのは良いことだ。そうだな」
シュイロはビニール袋からビール缶を取り出す。
指を挟むようにしてタブから開ける。
炭酸で溢れそうになるそれをぐいぐいと飲む。
喉を大きく鳴らした。
「なあヒウタ。私も今日は酔うぞ。いいか?」
「いいかってどういうことですか?」
「覚悟しろってことだ。まあ、どう覚悟するかは想像通りだ」
「運びませんよ?」
「は、はあーん? 私のような綺麗な女性を置いていくのか。何かあったらどうするんだ。ああ、あのとき運んでおきさえすれば、今頃あんなことやこんなことができたのに! って可能性もあるだろ。ヒウタの男が暴発したら私なしでどう取り押さえるんだ? 大丈夫なのか!」
「シュイロさんがハクみたいな意味の分からない口調に! って」
シュイロから酸っぱくて鼻を痛ませる匂いがする。
「既に飲んでる? ええ、シュイロさん」
「未成年とは残念で。でも容赦はしないわ。お酒の世界では酔っていない人がすべての酔っぱらいを解放するの。なかなか厳しい世界だけど、ルールはルール、観念すれば」
ミドリもお酒を進める。
つまみの焼き鳥もどんどん減っていく。
「二人して滅茶苦茶だな」
けども。
こうして見るとミドリはまともに見える。
一体ミドリとシフユの恋愛はどこで狂ってしまったのだろうか?
どれだけ考えても邪推と曲解にしかならないはずだ。
ヒウタはあまり考えないことにした。
「私だってね、死んで償えって思っていないわ。離れたくはなかった。けど好きな人、この世界からいなくなれってそこまで恨めないから。やっぱりね、嫌いでも大嫌いでも好きが圧倒的存在感で邪魔してくるから。さて、これからどうしようかな。」
「これからか。私も好きだった人がこの世界からいなくなれなんて思わないな。お酒飲むか。まさか愛人に誘われるなんて断るに決まっているだろ。妻子いる身で。子供さえいなかったら私は、……。そんなはずはないけど、なんかな」
シュイロはビール缶をもう一本開ける。
ヒウタとミドリは固まっていた。
「「え?」」
ようやく発した一言目が被る。
「あー、……あ。ああ、あ? ああ。よし、ミドリさんのこれからの話をするか! な? あー、駄目か? ここで深堀してしまえば私の話で終わってしまうぞ? ってか寒いな。やっぱり居酒屋だな。な?」
シュイロは察したらしい。
顔が真っ赤だった。
居酒屋チェーンに移動して。
お通しや席料が全くないらしい。
また、二件目様お断りもない。
「ええ、シュイロさんの好きな人妻子持ち? しかも愛人契約持ち込んできて。うわあ、シフユさん真面目な人だったな。次の恋も頑張ろうかな、私シュイロさんのアプリこれからも使いたいな、あははは」
「断ったよ、もちろん。それでクズになっててショックだから飲みたいなって。ヒウタ、なんだ、その憐れむ目は?」
「シュイロさんってすごい人ですけどなんていうか不幸な人ですね。不幸とは言ってませんよ、なんか不幸です。お酒飲んだ方が体に良いと思いますよ、むしろ」
「むしろ身体にいいってなんだ。私、……まあいいか。飲む。覚悟しろ、介抱しろ」
「そこまでのことがあったらもちろんいいですけど」
「ヒウタ! でも確かに哀れだよな。やっぱり慰めてくれ、……ぐすん」
「シュイロさん? これからの人生私も頑張らなきゃだから、一緒に頑張ろう。ね?」
「ああ、うん。そう、その通りだな。はあ、私は時が止まったままが良いな」
ビールを啜るシュイロ。
幼馴染が愛人契約を持ち掛けてきた。
どんな経緯かは分からない。
ただ少なくともシュイロにとっては気分の良いものではないだろう。
……って。
「いつからコンタクトしてるんですか。その人と」
「仕事でちょっとな」
「シュイロさん。僕はいつだってシュイロさんの味方です」
「そっか。味方か。なら私のためにどこまでならできる?」
「どこまでも」
即答に対してシュイロは嬉しそうに笑む。
「ならこれからは無給で働かせるか」
「ええ?」
「冗談だ。でもよく即答するような。それが良いところであり悪いところだ。家族と友達と好きな人と私。どれだけ思っても優先順位ができてしまう。仕方のないことだ」
「どういうことですか?」
「どうしようもないことは少なくない。すぐに飛び込もうとすると危険がある。それは最近分かり始めていると思う。ヒウタ、判断を怠るなよ」
「そうですね」
「愛人契約なのに?」
ミドリが言うとシュイロは頭から湯気を出す。
「あー、もちろん今日は私の奢りだ。いっぱい食べような、な?」
シュイロは注文用のモニタを手に取って次々と注文をする。
シュイロの目が回っている気がする。
あまり考えずに注文しているだろう。
結局大量の食べ物とアルコール類が来て。
ヒウタははち切れそうな腹を抱えながら、ミドリと協力してシュイロを介抱したのだった。
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