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8章 魅了少女が不安すぎる!『後期』109~122話
エピソード4 高校の友人について
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シフユ、カワクロ、コウミとその友人はステージを見るために用意された椅子に座っていた。
シフユが後ろを見渡すと、立っている人や階段に座っている人がいた。
ホッと胸を撫で下ろす。先に待っていなかったら椅子に座ることは叶わなかっただろう。
ステージ企画が始まって。
有名人たちのサインが当たる企画まで終わった。
ここからは後夜祭らしい。
コウミは友人とお喋りしているため、自然とシフユはカワクロと話すことになる。
「シュイシュイがステージで歌うなんて思っていなかったなの。あまり表に顔を出すタイプとは思っていなかったから」
カワクロが言うシュイシュイとはシュイロのことである。
「大学祭の空気で楽しくなって参加したくなっただけかな。でもやっぱり歌も上手い辺り超人ではある。自己紹介ですべって赤面してたけども」
「そうなの。……ねえ、シフユ」
カワクロは視線を改めてシフユに向く。
「どうしたのかな?」
「恋なんてそんなものだと思うなの。恋自体がそんなに魅力のあるものではないから、恋をした時点で両成敗。生き直さないの?」
「さて。ここまでカワクロが突っ込んでくるとは思わなかったよ。もしかしたら君の勝ちかもね。恋なんてしない方が良かったって。でも間違った恋をしただけだと思うよ。今はそれを背負うだけかな。相手を傷つけたことは変わりないから」
「けど私だって傷ついたなの! シフユがそんなだから。でも、それでも人と人が関わったら傷つくなんて当然。間違いだって仕方ないことばかり。シフユは私の友達なの」
カワクロは強い眼差しでシフユを見る。
訴えかける視線を見て、シフユは余裕の笑みを見せた。
「そうだね。ボクたちは結構仲良しになっていたね。カワクロ、いつだって恋を否定してる。だから妹のコウミが恋をしてるのが嫌だ。誰かに妹を取られるのも嫌だ。独占欲、それが根底にあるのかな」
「何を言って?」
カワクロの声に怒気が混じる。
「妹のことも自分自身のこともできるだけ独占したい。だから恋を否定している。けどね、人は他人からの愛を認めたいし受け取りたいし信じていたい。ボクはカワクロの価値観じゃ考えを改めないよ。ほら、後夜祭が始まる」
シフユがステージを見る。
カワクロは頭を掻いた。その手は震えていた。極度のストレスと焦りからだ。
「シフユ」
カワクロは誰にも聞こえない声で零す。
大学祭実行委員会のメンバーが五人ほど出てくる。
実行委員会幹部のカワクロからすれば知り合いばかりである。
「それでは後夜祭に入ります! ダンス部の皆さんとともに踊りましょう! ステージ前の椅子を撤去します!」
メンバーの一人が言う。
カワクロは不貞腐れた顔でステージを見る。手を頬に添えて。
「休憩時間に椅子を退かすはずだったのに忘れてたなの」
こうしてシフユたちは移動した。
後ろに下がるようにして椅子ゾーンから離れる。
「あ、カワクロさん」
真後ろにヒウタたちがいた。
カワクロはシュイロを見ると嬉しそうに微笑む。
「シュイシュイ、歌ってたの」
「カワクロちゃん、サインもらったぞ! みんな後夜祭終わるまでいるのか。帰りに夕食でも奢ろうか?」
シュイロが言うと、シフユが首を振る。
「ボクは自宅で夕食を食べるよ」
「コウミたんと私もなの」
カワクロ、コウミ、コウミの友人も自宅で食べるらしい。
「そっか」
シュイロは寂しいのか弱々しい声で言う。
「にいと私はシュイロさんと食べたいです! あ、ハクさんはどうしますか?」
アメユキの目はキラキラしていた。
「俺も行きたい。流石にシュイロさんに奢らせるわけにはいきませんけど」
「そっか。分かった」
シュイロは納得したらしい。
椅子を仕舞って。
ステージにダンス部の人たちがやって来る。
それから椅子があったスペースに大学祭実行委員会のメンバーが集まってきて観客にケミカルペンライトや腕に巻き付ける蛍光ブレスレットを配り始めた。
受け取ってパキッと心地良い音を立てて折ると、黄色や薄赤色、緑色に光る。
空は薄暗くなっていて、視線を下げると濃淡ばかりの白黒の世界であった。
そこにペンライトの光が加わって鮮やかに彩られる。
「ヒウタ、踊るか?」
シュイロがヒウタに手を伸ばす。
「ダンス苦手ですけど?」
「そっか」
シュイロが悲しそうな表情をすると、カワクロがシュイロの腕を掴む。
そもそもステージ前は実行委員会のメンバーばかりでヒウタたちは入りにくい。
カワクロが気を遣ってシュイロを連れ出したのだろう。
それを見たアメユキも駆けていく。
コウミとその友人も走った。
音楽が流れる。
ダンス部の振り付けを真似て楽しそうに踊る。
月と星の世界。
取り残されたのは、シフユ、ヒウタ、ハクだった。
「モブ男は行かないのか?」
シフユが挑発的に言う。
「シフユさんも来てくれるなら。もちろんハクも」
「ええ、俺も? 場違い感半端ないんだが?」
「そうだね。モブ、たぶんボクたちは馴染めないかも。もしかしたら楽しいかもしれない。混ざるべきだと思うかい?」
ステージとステージ前は激しい動きの中、笑顔で溢れていた。
一方、階段付近ではスマホを触ったり談笑したり変える支度をしたりしている。疎外感を受けてしまったのだろう。
中にはペンライトを微妙なリズムで振る人たちもいた。
ヒウタたちは置いて帰るわけにはいかないが、後夜祭が終わるのを階段に座ってじっと待っていても良かった。
シフユの瞳に映るペンライトの光。それはヒウタの手にあるペンライトのものだ。
「前に出て踊るのも後ろで談笑するのも。大学を出て飲みに行ったりカラオケ行ったり夕食を食べに行ったりするのも。全部含めて楽しい者勝ちだって思うよ。だから」
ヒウタはステージ前へ走る。
ハクは笑って付いていく。
「それが答えか。汚い手を使うやつだな、全く」
シフユもステージ前に飛び込む。
ステージを照らす光がやけに眩しかった。
シフユが後ろを見渡すと、立っている人や階段に座っている人がいた。
ホッと胸を撫で下ろす。先に待っていなかったら椅子に座ることは叶わなかっただろう。
ステージ企画が始まって。
有名人たちのサインが当たる企画まで終わった。
ここからは後夜祭らしい。
コウミは友人とお喋りしているため、自然とシフユはカワクロと話すことになる。
「シュイシュイがステージで歌うなんて思っていなかったなの。あまり表に顔を出すタイプとは思っていなかったから」
カワクロが言うシュイシュイとはシュイロのことである。
「大学祭の空気で楽しくなって参加したくなっただけかな。でもやっぱり歌も上手い辺り超人ではある。自己紹介ですべって赤面してたけども」
「そうなの。……ねえ、シフユ」
カワクロは視線を改めてシフユに向く。
「どうしたのかな?」
「恋なんてそんなものだと思うなの。恋自体がそんなに魅力のあるものではないから、恋をした時点で両成敗。生き直さないの?」
「さて。ここまでカワクロが突っ込んでくるとは思わなかったよ。もしかしたら君の勝ちかもね。恋なんてしない方が良かったって。でも間違った恋をしただけだと思うよ。今はそれを背負うだけかな。相手を傷つけたことは変わりないから」
「けど私だって傷ついたなの! シフユがそんなだから。でも、それでも人と人が関わったら傷つくなんて当然。間違いだって仕方ないことばかり。シフユは私の友達なの」
カワクロは強い眼差しでシフユを見る。
訴えかける視線を見て、シフユは余裕の笑みを見せた。
「そうだね。ボクたちは結構仲良しになっていたね。カワクロ、いつだって恋を否定してる。だから妹のコウミが恋をしてるのが嫌だ。誰かに妹を取られるのも嫌だ。独占欲、それが根底にあるのかな」
「何を言って?」
カワクロの声に怒気が混じる。
「妹のことも自分自身のこともできるだけ独占したい。だから恋を否定している。けどね、人は他人からの愛を認めたいし受け取りたいし信じていたい。ボクはカワクロの価値観じゃ考えを改めないよ。ほら、後夜祭が始まる」
シフユがステージを見る。
カワクロは頭を掻いた。その手は震えていた。極度のストレスと焦りからだ。
「シフユ」
カワクロは誰にも聞こえない声で零す。
大学祭実行委員会のメンバーが五人ほど出てくる。
実行委員会幹部のカワクロからすれば知り合いばかりである。
「それでは後夜祭に入ります! ダンス部の皆さんとともに踊りましょう! ステージ前の椅子を撤去します!」
メンバーの一人が言う。
カワクロは不貞腐れた顔でステージを見る。手を頬に添えて。
「休憩時間に椅子を退かすはずだったのに忘れてたなの」
こうしてシフユたちは移動した。
後ろに下がるようにして椅子ゾーンから離れる。
「あ、カワクロさん」
真後ろにヒウタたちがいた。
カワクロはシュイロを見ると嬉しそうに微笑む。
「シュイシュイ、歌ってたの」
「カワクロちゃん、サインもらったぞ! みんな後夜祭終わるまでいるのか。帰りに夕食でも奢ろうか?」
シュイロが言うと、シフユが首を振る。
「ボクは自宅で夕食を食べるよ」
「コウミたんと私もなの」
カワクロ、コウミ、コウミの友人も自宅で食べるらしい。
「そっか」
シュイロは寂しいのか弱々しい声で言う。
「にいと私はシュイロさんと食べたいです! あ、ハクさんはどうしますか?」
アメユキの目はキラキラしていた。
「俺も行きたい。流石にシュイロさんに奢らせるわけにはいきませんけど」
「そっか。分かった」
シュイロは納得したらしい。
椅子を仕舞って。
ステージにダンス部の人たちがやって来る。
それから椅子があったスペースに大学祭実行委員会のメンバーが集まってきて観客にケミカルペンライトや腕に巻き付ける蛍光ブレスレットを配り始めた。
受け取ってパキッと心地良い音を立てて折ると、黄色や薄赤色、緑色に光る。
空は薄暗くなっていて、視線を下げると濃淡ばかりの白黒の世界であった。
そこにペンライトの光が加わって鮮やかに彩られる。
「ヒウタ、踊るか?」
シュイロがヒウタに手を伸ばす。
「ダンス苦手ですけど?」
「そっか」
シュイロが悲しそうな表情をすると、カワクロがシュイロの腕を掴む。
そもそもステージ前は実行委員会のメンバーばかりでヒウタたちは入りにくい。
カワクロが気を遣ってシュイロを連れ出したのだろう。
それを見たアメユキも駆けていく。
コウミとその友人も走った。
音楽が流れる。
ダンス部の振り付けを真似て楽しそうに踊る。
月と星の世界。
取り残されたのは、シフユ、ヒウタ、ハクだった。
「モブ男は行かないのか?」
シフユが挑発的に言う。
「シフユさんも来てくれるなら。もちろんハクも」
「ええ、俺も? 場違い感半端ないんだが?」
「そうだね。モブ、たぶんボクたちは馴染めないかも。もしかしたら楽しいかもしれない。混ざるべきだと思うかい?」
ステージとステージ前は激しい動きの中、笑顔で溢れていた。
一方、階段付近ではスマホを触ったり談笑したり変える支度をしたりしている。疎外感を受けてしまったのだろう。
中にはペンライトを微妙なリズムで振る人たちもいた。
ヒウタたちは置いて帰るわけにはいかないが、後夜祭が終わるのを階段に座ってじっと待っていても良かった。
シフユの瞳に映るペンライトの光。それはヒウタの手にあるペンライトのものだ。
「前に出て踊るのも後ろで談笑するのも。大学を出て飲みに行ったりカラオケ行ったり夕食を食べに行ったりするのも。全部含めて楽しい者勝ちだって思うよ。だから」
ヒウタはステージ前へ走る。
ハクは笑って付いていく。
「それが答えか。汚い手を使うやつだな、全く」
シフユもステージ前に飛び込む。
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