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8章 魅了少女が不安すぎる!『後期』109~122話
その22 ヒウタと有名人
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ヒウタとアメユキはステージ前の階段に戻った。
喧騒とその中にある緊張感。
サインが当たる企画がそろそろ始まるらしい。
「お茶と、ホットドッグ、フライドポテト、チョコレートソースの白玉だんごかな。これがハク、こっちがシュイロさんの分です」
食べ物を無事に調達した。
それも大きめの紙コップのような容器に入っている。
「ああ悪い。お金はいくらだ?」
シュイロはどうしてもお金を出したいらしい。
結局、端数を繰り上げて百円単位でお金をもらってしまった。
ヒウタは奢りでもいいし自分の分までシュイロに払わせたくないと思っていたが。
年上でも上司でもあるシュイロからお金の受け取りを拒否するのも失礼だろう。
「って俺もいいんですか?」
「ハクはヒウタの友人だ。もちろん奢ろう」
シュイロは晴れた表情で言う。
アメユキは少しだけ元気がなかった。
ヒウタが俯くアメユキの肩を優しく触れる。
アメユキは気づいてヒウタを見た。
「どうした?」
「まさか本当にシュイロさんがすべて奢るとは思ってなくて。いろいろ頼みすぎてしまったって」
アメユキらしい言葉だった。
「シュイロさんはこういう人だよ。アメユキが美味しそうに食べて楽しそうにステージを見ればそれで満足する人だ。すごく良い人なんだよ」
ヒウタの言葉を聞いて、アメユキはシュイロの楽しそうな横顔を眺める。
シュイロはわくわくした様子でステージを。手に持った爪楊枝には白玉だんごが刺さっていた。
「にいが言ってることは正しかった。でも変だよ、マッチングアプリを経営して、高校生で、バツイチで。それでこの優しさは変だよ」
「実際良い人だからな。騙して何かするなら労力を掛けすぎだ。まだ信じてないか? シュイロさんのこと」
「にいに、そうじゃなくて。私はシュイロさんに幸せになってほしいです。だってシュイロさんて」
アメユキが言い掛けて止めた。
一瞬シュイロがアメユキを見た。
それはアメユキたちが楽しんでいるかを確かめていただけであった。
しかしアメユキが振り向いたときに言葉にしてしまったらシュイロは聞いてしまう。
アメユキはステージを見た。
話しが終わった、ヒウタもステージを。
大学祭実行委員会のメンバーが出てくる。
進行役は交代制らしい。
今度はショートカットの女性だった。
「ではいよいよサインが当たる企画です! まずはステージでアカペラを歌う人を募集します! 歌ってくれた人がサインゲット」
……。
ヒウタは頭を叩かれたような驚きを感じる。
企画にしては派手というか、思ったよりも参加型というか。
「歌う曲は今流行のあのアーティストの曲です! みんな大好きな曲を四つほど用意しました。これをなんと、前にいる三組の方と歌っていただきます。そして、サインは三組すべてゲットできます!」
漫才師と大道芸人、配信者と歌う企画とは?
困惑しかないが、ステージでは三組ともやる気に満ち溢れていた。
「では歌ってくれる方! アピールしてください、当たりますよ!」
女性は明るく言う。
元気な人らしい。
「はいはい!」「俺だあ!」「はいっ!」
お調子者が次々と手を上げる。
「私!」
女性も何名か手を上げていた。
合計十人ほど。
ステージ上でアカペラというのは並の緊張感ではないだろう。
締め切って歌う人を決めるそのときだった。
「私も」
ヒウタの隣で声がした。
ヒウタは知らない人が当てられてそれをぼうっと眺める気でいたが。
どうやらそうはいかないらしい。
「大学祭というものが楽しくてつい」
シュイロはヒウタたちに向けて手を合わせる。
制服姿から目立っていた。
そしてシュイロは選ばれた。
男性が三人いるなか、女性はシュイロだけだった。
「自己紹介お願いします!」
進行役が言う。
眼鏡をつけたマッシュヘアの男性、背の高いスポーツ刈りの男性、短めの髪にパーマをかけた男性、そこに制服姿の美少女が一人いた。
……目立つ。実に目立つ。
少し足を露出しているのもあって目立つ。そもそも制服が目立つ。
それぞれ何学部か何年かを話す。
「私はシュイロ。通信制に行っている高校生で、なんと二十七才です!」
進行役の人が一瞬固まる。
あまりにも盛りすぎたプロフィールに困惑の空気が流れる。
シュイロは思ったような反応が得られなかったようで、顔を手で覆ってしゃがんだ。
がすぐに立ち上がる。
ヒウタからは遠くて見えなかったがシュイロは赤面していただろう。なかなかな挑戦者だ。
企画が終わった。
シュイロはサインを受け取って嬉しそうだ。
階段まで戻ってきて。
「シュイロさん歌上手いですね。それとあの自己紹介の後、周りの空気が死んでましたけど?」
「うーん、大勢の前だと奇をてらったようなことは難しいからな。嘘はついてないんだが」
「目立ってますし?」
「そっか。ヒウタ、大学祭楽しいな」
シュイロは微笑む。
その笑顔にヒウタの胸の奥が温まっていく。
「なあヒウタ。最後まで付き合ってくれるか?」
「もちろん」
ヒウタは頷く。
シュイロは大学祭が気に入ったらしい。
大学を見てみたいと言っていた。
楽しんでくれたならヒウタも満足だった。
「そういえばヒウタ。カワクロちゃんたちはどこだ?」
「ステージ見てるって言ってました」
「そっか。同じものを見てたのか」
ヒウタたちの様子を確認したりシフユやカワクロを気にしたりするのは、世話焼きのシュイロらしい。
同じものを見てる、か。
ヒウタは嬉しさを覚えるが、身体を覆うような重みをずっしりと感じていた。
嬉しくなってしまう自分が憎たらしいのだ。
喧騒とその中にある緊張感。
サインが当たる企画がそろそろ始まるらしい。
「お茶と、ホットドッグ、フライドポテト、チョコレートソースの白玉だんごかな。これがハク、こっちがシュイロさんの分です」
食べ物を無事に調達した。
それも大きめの紙コップのような容器に入っている。
「ああ悪い。お金はいくらだ?」
シュイロはどうしてもお金を出したいらしい。
結局、端数を繰り上げて百円単位でお金をもらってしまった。
ヒウタは奢りでもいいし自分の分までシュイロに払わせたくないと思っていたが。
年上でも上司でもあるシュイロからお金の受け取りを拒否するのも失礼だろう。
「って俺もいいんですか?」
「ハクはヒウタの友人だ。もちろん奢ろう」
シュイロは晴れた表情で言う。
アメユキは少しだけ元気がなかった。
ヒウタが俯くアメユキの肩を優しく触れる。
アメユキは気づいてヒウタを見た。
「どうした?」
「まさか本当にシュイロさんがすべて奢るとは思ってなくて。いろいろ頼みすぎてしまったって」
アメユキらしい言葉だった。
「シュイロさんはこういう人だよ。アメユキが美味しそうに食べて楽しそうにステージを見ればそれで満足する人だ。すごく良い人なんだよ」
ヒウタの言葉を聞いて、アメユキはシュイロの楽しそうな横顔を眺める。
シュイロはわくわくした様子でステージを。手に持った爪楊枝には白玉だんごが刺さっていた。
「にいが言ってることは正しかった。でも変だよ、マッチングアプリを経営して、高校生で、バツイチで。それでこの優しさは変だよ」
「実際良い人だからな。騙して何かするなら労力を掛けすぎだ。まだ信じてないか? シュイロさんのこと」
「にいに、そうじゃなくて。私はシュイロさんに幸せになってほしいです。だってシュイロさんて」
アメユキが言い掛けて止めた。
一瞬シュイロがアメユキを見た。
それはアメユキたちが楽しんでいるかを確かめていただけであった。
しかしアメユキが振り向いたときに言葉にしてしまったらシュイロは聞いてしまう。
アメユキはステージを見た。
話しが終わった、ヒウタもステージを。
大学祭実行委員会のメンバーが出てくる。
進行役は交代制らしい。
今度はショートカットの女性だった。
「ではいよいよサインが当たる企画です! まずはステージでアカペラを歌う人を募集します! 歌ってくれた人がサインゲット」
……。
ヒウタは頭を叩かれたような驚きを感じる。
企画にしては派手というか、思ったよりも参加型というか。
「歌う曲は今流行のあのアーティストの曲です! みんな大好きな曲を四つほど用意しました。これをなんと、前にいる三組の方と歌っていただきます。そして、サインは三組すべてゲットできます!」
漫才師と大道芸人、配信者と歌う企画とは?
困惑しかないが、ステージでは三組ともやる気に満ち溢れていた。
「では歌ってくれる方! アピールしてください、当たりますよ!」
女性は明るく言う。
元気な人らしい。
「はいはい!」「俺だあ!」「はいっ!」
お調子者が次々と手を上げる。
「私!」
女性も何名か手を上げていた。
合計十人ほど。
ステージ上でアカペラというのは並の緊張感ではないだろう。
締め切って歌う人を決めるそのときだった。
「私も」
ヒウタの隣で声がした。
ヒウタは知らない人が当てられてそれをぼうっと眺める気でいたが。
どうやらそうはいかないらしい。
「大学祭というものが楽しくてつい」
シュイロはヒウタたちに向けて手を合わせる。
制服姿から目立っていた。
そしてシュイロは選ばれた。
男性が三人いるなか、女性はシュイロだけだった。
「自己紹介お願いします!」
進行役が言う。
眼鏡をつけたマッシュヘアの男性、背の高いスポーツ刈りの男性、短めの髪にパーマをかけた男性、そこに制服姿の美少女が一人いた。
……目立つ。実に目立つ。
少し足を露出しているのもあって目立つ。そもそも制服が目立つ。
それぞれ何学部か何年かを話す。
「私はシュイロ。通信制に行っている高校生で、なんと二十七才です!」
進行役の人が一瞬固まる。
あまりにも盛りすぎたプロフィールに困惑の空気が流れる。
シュイロは思ったような反応が得られなかったようで、顔を手で覆ってしゃがんだ。
がすぐに立ち上がる。
ヒウタからは遠くて見えなかったがシュイロは赤面していただろう。なかなかな挑戦者だ。
企画が終わった。
シュイロはサインを受け取って嬉しそうだ。
階段まで戻ってきて。
「シュイロさん歌上手いですね。それとあの自己紹介の後、周りの空気が死んでましたけど?」
「うーん、大勢の前だと奇をてらったようなことは難しいからな。嘘はついてないんだが」
「目立ってますし?」
「そっか。ヒウタ、大学祭楽しいな」
シュイロは微笑む。
その笑顔にヒウタの胸の奥が温まっていく。
「なあヒウタ。最後まで付き合ってくれるか?」
「もちろん」
ヒウタは頷く。
シュイロは大学祭が気に入ったらしい。
大学を見てみたいと言っていた。
楽しんでくれたならヒウタも満足だった。
「そういえばヒウタ。カワクロちゃんたちはどこだ?」
「ステージ見てるって言ってました」
「そっか。同じものを見てたのか」
ヒウタたちの様子を確認したりシフユやカワクロを気にしたりするのは、世話焼きのシュイロらしい。
同じものを見てる、か。
ヒウタは嬉しさを覚えるが、身体を覆うような重みをずっしりと感じていた。
嬉しくなってしまう自分が憎たらしいのだ。
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