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8章 魅了少女が不安すぎる!『後期』109~122話
その21 ヒウタとステージ
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「いやあ、いい物見たな。トークの代わりに歌で見せますだってさ」
ステージにスーツ姿の男女が現れた。
二人は漫才師らしい。
名前は『雨霧マロン』でコンビを組んでいるのだとか。
周りの学生から盗み聞きをすると、どうやら動画投稿を積極的に行っている芸人らしい。年齢は二十代、エネルギッシュさを感じる。
「期待されちゃってるね。緊張しちゃうな、ボクは」
女性芸人がはっきりした声で言う。
耳に残る心地良い声だ。
「では始めさせてもらいます。『ひさ』と『れりり』で『雨霧マロン』です。よろしくお願いします!」
ヒサという芸人はマイクスタンドに手を添えた瞬間、目力が変わった。
表情は自然な笑顔で変わらない。
それでも力強さが見える。
「大学祭、皆さん楽しめているでしょうか? ステージに上がると想像以上に人が集まっていて驚いてしまったんですけど。ウケるためには場の温かさが大事でして」
「それはそうだね。先ほどのバンドも大いに盛り上げてくれて、すごく漫才しやすいよね?」
「さらにここで一回笑ってもらって、布団が吹っ飛んだって言うだけでウケるようにしたい!」
「ヒサにはプライドがないのかな?」
「ということで変顔します!」
ヒサは顔に力を入れて頬を吊り上げる。
「うん、悪手っ!」
「ええ、どうして」
「見えないでしょ?」
笑い声がちらほら聞こえてくる。
一瞬、漫才をする二人の表情が明るく見えた。
それから何度もウケて。
次は大道芸人が皿回しを披露した。
……、一体どんな組み合わせだろうか?
「で、次は歌い手だっけ?」
ヒウタはアメユキに聞く。
どうやらアメユキが好きな動画配信者が来たらしい。
名前は『甘々クリームソーダ』で、二人で曲を作って歌うそうだ。
一人は元人気アイドル『らぶらぶ・ホイップ』の最年少メンバーだ。
「私たちのこと知ってるよって人、どれだけいますか?」
背の高い女性が言う。
「うわあ、意外と多い。俺っち、嬉しい!」
背の低い女性が言う。
「私たち、『甘々クリームソーダ』という名前で活動しています。私が緋色でダンスの振り付けたり決めたり動画編集したりします。こちらが曲を作っている真由香さんです。本名使っているんですけど」
背の高い女性、緋色は言う。
真由香は恥ずかしそうにぺこぺこと頭を下げる。
「音源は後ろで流しますね! じゃあ、歌おっか」
「仕方ないですね、緋色ちゃんはもっとトークしたいって思わないんですか!」
「早く真由香さんと歌いたいでしょ?」
「えっち。積極的すぎます!」
音楽が流れる。
二人の歌声が揃うとき、空が透き通っていく気がした。
甘美な歌声、耳の中から全身を巡って満たしていく。
声に対して歌詞は暗くて過激だった。
誰にも邪魔されない空間を探すために、男女二人が連絡手段を断って旅に出る。
そして行く先々で歌を歌ってお金を稼ぐ。批判されると次の街へ行く。それを繰り返す話だった。積み重なる批判。居場所を追われる二人。だんだん女性の心が壊れていく。男性は焦って早いペースで街を転々と。
もう行ける街がない二人は旅をやめて故郷に帰ることにした。それから二人は別の人と結婚して別の人生を進む。しかし旅で稼いだ歌を口ずさんでしまう。その度に二人はこの世界で生きる痛みと好きなことを否定される苦しみを味わうのだ。
「マジか」
ヒウタは知らない曲だった。
歌う前の楽しそうな雰囲気とは一変した曲だ。
アメユキは楽しそうに聴いている。
歌が終わったとき、拍手がステージ全体を沸き立たせた。
「にいに、すごいでしょ?」
「ああ」
アメユキは手を祈るように合わせている。
大好きな人を目の前にして興奮しているのだろう。
ふとシュイロを見るとハンカチで目を覆っていた。
ハンカチにはシミが見える。泣いているのだろう、しかも結構な量の。
ちなみにハクは目をハートにしていた。
ハクらしい反応である。
「ありがとうございました! 俺っち聞きましたよ。全ステージが終わったら企画があって、そこで皆さんに私たちのサインが当たるかもらしいです! 俺っちも緋色ちゃんのサイン欲しい!」
「要らないでしょ? でもサインってもらえるの嬉しい。私たちは動画でコラボしたときはサインもらうことがあるけどすごく嬉しいから。では引き続きステージをお楽しみください」
二人はステージを去った。
一度休憩時間らしく大学祭実行委員会のメンバーが休憩時間とスケジュールの話をしていた。時間の管理を臨機応変に対応するのは難しそうである。
「ヒウタ、何か食べよう。みんなの分も私が奢るよ。場所って取っておいた方がよさそうだな」
シュイロは財布を出してヒウタに渡す。
……。
ヒウタは固まった。
それもそのはず、この高校生様は長財布を丸々ヒウタに預けるつもりらしい。
「ヒウタたちで好きな物買うといいぞ。私はお茶と摘まめるもの!」
ヒウタは財布を指差す。
「シュイロさん、マジですか?」
「足りないか?」
シュイロは身体をそわそわさせてステージを見ていた。
ヒウタは気づいた。
シュイロは大学祭の空気でおかしくなっているらしい。
ヒウタは財布を返した。
「いやいや奢らせるなんて。ちゃんとシュイロさんの分も買ってきますから、そこで待っていてください」
「あ、……ああ。分かった」
シュイロは一応納得してくれたらしい。
「あとハクも待っててくれ。アメユキはどうする?」
「にいにセンスない哀れな男だから、私も一緒に選ぶ。下手なものをシュイロさんに渡せないから」
「それもそうだな」
次のステージが始まるまでに食べ物を探すことになった。
ステージにスーツ姿の男女が現れた。
二人は漫才師らしい。
名前は『雨霧マロン』でコンビを組んでいるのだとか。
周りの学生から盗み聞きをすると、どうやら動画投稿を積極的に行っている芸人らしい。年齢は二十代、エネルギッシュさを感じる。
「期待されちゃってるね。緊張しちゃうな、ボクは」
女性芸人がはっきりした声で言う。
耳に残る心地良い声だ。
「では始めさせてもらいます。『ひさ』と『れりり』で『雨霧マロン』です。よろしくお願いします!」
ヒサという芸人はマイクスタンドに手を添えた瞬間、目力が変わった。
表情は自然な笑顔で変わらない。
それでも力強さが見える。
「大学祭、皆さん楽しめているでしょうか? ステージに上がると想像以上に人が集まっていて驚いてしまったんですけど。ウケるためには場の温かさが大事でして」
「それはそうだね。先ほどのバンドも大いに盛り上げてくれて、すごく漫才しやすいよね?」
「さらにここで一回笑ってもらって、布団が吹っ飛んだって言うだけでウケるようにしたい!」
「ヒサにはプライドがないのかな?」
「ということで変顔します!」
ヒサは顔に力を入れて頬を吊り上げる。
「うん、悪手っ!」
「ええ、どうして」
「見えないでしょ?」
笑い声がちらほら聞こえてくる。
一瞬、漫才をする二人の表情が明るく見えた。
それから何度もウケて。
次は大道芸人が皿回しを披露した。
……、一体どんな組み合わせだろうか?
「で、次は歌い手だっけ?」
ヒウタはアメユキに聞く。
どうやらアメユキが好きな動画配信者が来たらしい。
名前は『甘々クリームソーダ』で、二人で曲を作って歌うそうだ。
一人は元人気アイドル『らぶらぶ・ホイップ』の最年少メンバーだ。
「私たちのこと知ってるよって人、どれだけいますか?」
背の高い女性が言う。
「うわあ、意外と多い。俺っち、嬉しい!」
背の低い女性が言う。
「私たち、『甘々クリームソーダ』という名前で活動しています。私が緋色でダンスの振り付けたり決めたり動画編集したりします。こちらが曲を作っている真由香さんです。本名使っているんですけど」
背の高い女性、緋色は言う。
真由香は恥ずかしそうにぺこぺこと頭を下げる。
「音源は後ろで流しますね! じゃあ、歌おっか」
「仕方ないですね、緋色ちゃんはもっとトークしたいって思わないんですか!」
「早く真由香さんと歌いたいでしょ?」
「えっち。積極的すぎます!」
音楽が流れる。
二人の歌声が揃うとき、空が透き通っていく気がした。
甘美な歌声、耳の中から全身を巡って満たしていく。
声に対して歌詞は暗くて過激だった。
誰にも邪魔されない空間を探すために、男女二人が連絡手段を断って旅に出る。
そして行く先々で歌を歌ってお金を稼ぐ。批判されると次の街へ行く。それを繰り返す話だった。積み重なる批判。居場所を追われる二人。だんだん女性の心が壊れていく。男性は焦って早いペースで街を転々と。
もう行ける街がない二人は旅をやめて故郷に帰ることにした。それから二人は別の人と結婚して別の人生を進む。しかし旅で稼いだ歌を口ずさんでしまう。その度に二人はこの世界で生きる痛みと好きなことを否定される苦しみを味わうのだ。
「マジか」
ヒウタは知らない曲だった。
歌う前の楽しそうな雰囲気とは一変した曲だ。
アメユキは楽しそうに聴いている。
歌が終わったとき、拍手がステージ全体を沸き立たせた。
「にいに、すごいでしょ?」
「ああ」
アメユキは手を祈るように合わせている。
大好きな人を目の前にして興奮しているのだろう。
ふとシュイロを見るとハンカチで目を覆っていた。
ハンカチにはシミが見える。泣いているのだろう、しかも結構な量の。
ちなみにハクは目をハートにしていた。
ハクらしい反応である。
「ありがとうございました! 俺っち聞きましたよ。全ステージが終わったら企画があって、そこで皆さんに私たちのサインが当たるかもらしいです! 俺っちも緋色ちゃんのサイン欲しい!」
「要らないでしょ? でもサインってもらえるの嬉しい。私たちは動画でコラボしたときはサインもらうことがあるけどすごく嬉しいから。では引き続きステージをお楽しみください」
二人はステージを去った。
一度休憩時間らしく大学祭実行委員会のメンバーが休憩時間とスケジュールの話をしていた。時間の管理を臨機応変に対応するのは難しそうである。
「ヒウタ、何か食べよう。みんなの分も私が奢るよ。場所って取っておいた方がよさそうだな」
シュイロは財布を出してヒウタに渡す。
……。
ヒウタは固まった。
それもそのはず、この高校生様は長財布を丸々ヒウタに預けるつもりらしい。
「ヒウタたちで好きな物買うといいぞ。私はお茶と摘まめるもの!」
ヒウタは財布を指差す。
「シュイロさん、マジですか?」
「足りないか?」
シュイロは身体をそわそわさせてステージを見ていた。
ヒウタは気づいた。
シュイロは大学祭の空気でおかしくなっているらしい。
ヒウタは財布を返した。
「いやいや奢らせるなんて。ちゃんとシュイロさんの分も買ってきますから、そこで待っていてください」
「あ、……ああ。分かった」
シュイロは一応納得してくれたらしい。
「あとハクも待っててくれ。アメユキはどうする?」
「にいにセンスない哀れな男だから、私も一緒に選ぶ。下手なものをシュイロさんに渡せないから」
「それもそうだな」
次のステージが始まるまでに食べ物を探すことになった。
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