規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる!

アメノヒセカイ

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8章 魅了少女が不安すぎる!『後期』109~122話

その20 ヒウタとバンド

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「私はアメユキです。ヒウタの妹です、よろしくお願いします」
 講義用の建物内木製ベンチにて。
 ヒウタが集合場所に着くとアメユキは既にベンチで座っていた。
 そこにハクがやって来た。
 シュイロはもう少し後に来るらしい。
「て、天使すぎる。……けど妹って感じだな。幼いというか」
 ハクはアメユキを見て微笑む。
「実際妹だし中学二年生だぞ、年下すぎるだろ」
 ヒウタが応える。
 アメユキは不思議そうに首を傾げていた。
 そしてハクは気づけば姿を消していて、再び戻ったと思ったら紙コップを持っていた。
「はい、アメユキちゃん。……俺は何をしていたんだ?」
 紙コップの中身はココアだ。
 自動販売機で温かい飲み物を購入できるらしい。
 ハクは無意識にアメユキへ飲み物を奢っていて戸惑う。
 ……どういう状況だ?
「ヒウタ、遅れてしまったな。私は愛蓮あいれん朱色しゅいろ。ヒウタの上司、じぇーけー、バツイチ、アラサーだ」
 シュイロは制服で現れた。
 目立つ。
 白く赤みのある肌、光沢のある長髪、優しい印象を湛える二重の瞳、ぷくりとした膨らむ唇、襟から覗くはっきりした鎖骨、すらりと伸びた足、肌理細かい手の甲、そこに綺麗に添えられた爪。
 かわいらしい印象が未成年のように見せるが、そのスタイルが艶やかな女性として魅せる。
「驚いて言葉も出ないか。そう、今日の私はポニーテールだ! ツインテールのつもりだったが少しばかり恥ずかしくてな、年齢も考えてポニーテール。大学に相応しい身なりと言うわけだ」
 シュイロは恥ずかしそうに手を組んで人差し指をくるくると回す。
 制服も相俟って高校生にしか見えない。
「ふーむ。シュイロさん、例の、あの伝説の!」
 アメユキは踵を上げて背伸びしながら顔をシュイロに近づける。
 睨むような鋭い眼光がシュイロと突き刺す。
 シュイロはアメユキの行動に驚いて目が開いていた。両手を胸の前に出して手のひらをアメユキに見せる。
「え? あー、アメユキちゃん?」
「ぐぬぬぬぬ!」
 アメユキがさらに近づく。
 すると。
「きゃっ」
 シュイロは後ろに倒れてアメユキも前から倒れる。
 アメユキがシュイロを床に押し倒す形になった。
「マシュマロ? これが誘惑の果実」
 アメユキは倒れたときにシュイロの胸を鷲掴みにしていた。
 事故、……だろうか?
「ふぁっ」
 胸を触られたことに気づいたシュイロは顔を赤くして動かなくなった。
 アメユキはそれを掴んだ手を動かすと、溜め息を吐いて立ち上がる。
「ふわふわ。子供いる?」
「うわ」
 アメユキの言葉を聞いて、ヒウタは咄嗟に言う。
「いないが? アメユキちゃんどうしたんだ?」
「有罪。にいにを誘惑して働かせてる悪いやつ、です」
 アメユキはしゃがむとシュイロに手を差し伸べた。
 シュイロが手を取るとシュイロを引き上げる。
 ヒウタはアメユキがシュイロに何か酷いことをするのではないかと、内心身体中を冷やしていた。
「そうだな。私が雇い主だ」
 シュイロは頭を掻いた。
「にいにから聞いています。怪しいです」
「兄を借りてしまって申し訳ない。優しくて頼れる人を探していたんだ」
「悪いことしてませんか?」
「してないつもりだが」
「本当ですか、私のにいには一人なので!」
 ついキュンとしてしまったヒウタだがそれどころではない。
 シュイロは申し訳なさそうに下を向く。
「アメユキ、シュイロさんを困らせるな」
 ヒウタがアメユキの頭を撫でて事を収拾しようとした。
 そのとき、シュイロが頭を下げた。
「何度か無理をさせてしまっている。頼りすぎている。私が不甲斐ないばかりに」
 ヒウタはシュイロの目が僅かにかくなっていることに気づく。
 同時にアメユキにそれ以上シュイロを責める様子がないことも確認した。
「次からは気を付けてほしいです。にいには優しいのでやめた方がいいと思っていることでも頑張りすぎるので。誰かが止めなきゃです。にいはちょっぴりチョロいから」
「そっか」
 アメユキはそれからシュイロに笑顔を見せた。
 シュイロは安心して表情を綻ばせる。
「ヒウタ?」
 ハクは事態を説明してほしいそうだ。
「俺がシュイロの元で働くってことになったときアメユキは心配してくれていたんだ。怪しいって大丈夫だろうかって。アメユキが普段見ない表情でシュイロさんに言うものだから驚いた。無理してたつもりは」
 ないと言いかけてヒウタは止まる。
 九月にトアオたちとオーパーツを探す旅をしたときはトアオに固執する組織に襲撃されて死にかけた。無理をしていたし危険なことも少なくなかった。
「アメユキちゃん、すごいな」
「良い妹だよ、全く。もちろんシュイロさんも良い人だけどな」
「綺麗な人だし」
「だな」
 有名人が集まるステージへ行く。
 用意されていた椅子は既に埋まっていたが、階段のスペースは空いていてその段差に腰を下ろした。
 アメユキとシュイロはキラキラした目でステージを見る。
 ステージに上がった学生はギターやベース、キーボードを持って配置へ。
 リーダーがマイクを持った。
「そろそろプロの人がステージに上がるということでたくさんの人が集まっていますが、僕たち目当てではないことは分かっていますが、一生懸命やるので楽しんでもらいたいです」
 リーダーは配置についたメンバーを見渡した。
 メンバーは楽しそうに笑う。緊張を解す目的もあるのだろう。
「話すのは得意ではないので歌って楽しませます」
 リーダーが言うと、メンバーが茶々を入れる。
 青春だな、ヒウタがそう思うと。
 隣のシュイロは音が出ないように拍手をしていた。
「曲は『騒がしい青春を越えてきた』で『サビイロセカイ』さんです!」
 声が空気を飲み込んで場を静かにする。
 世界が音を失った気がした。

「僕らは、ここにいたよ。きっとこの世界の、ドン真ん中だ!」

 リーダーの声が響く。
 ギターとベースが歌声に追い付いてキーボードが支える。
 震えた空気が場に音を与える。
 騒がしい歌。
 だからこそ青春に相応しいのだろう。
 この騒がしさがヒウタの心の重みを置き去りにした。
 この瞬間だけは辛いと思わずに楽しかった。
 曲が終わる。
 誰もが疲れていた。
 バンドもそれを見ていたヒウタたちも。
 有名人目当てだった観客のこころを一瞬にして取り込んだ。
 青春の魔力だろうか?
 大学祭という特別感だろうか?
 相当の努力が垣間見えた。
 音を掴む一つ一つの所作が自然になるほどの練習量、誰もがその歌に心を寄せたのだ。
「にいに、すごかったね」
 アメユキは放心に近い状態だった。
 シュイロは目を輝かせて拍手をする。
 ハクは顔を赤くして笑っていた。
 ヒウタはうなじ辺りを掻く。
「俺にはここまで積み上げたものがあるだろうか? ない、からだろうな」
 ヒウタは誰にも聞こえない声で呟いた。










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