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『番外編』新年、悪夢で目覚めたんだが?二年前
ヒウタの悪夢
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「はあっ……、はあ……」
寝巻きに身を包んだ青年は息を切らしながら、しかし少しでも前に進もうと走る。
足がだんだん固まって一歩が小さくなっていく。
駄目だ、このままじゃ。
青年は恐怖で気が狂いそうでつい振り返った。
にやり。
気味悪い笑み。
「あは」
顔を赤色のペンキで塗りたくったソレが笑い声を上げる。
青年が一歩ずつ退ける。十分距離を取ると、反対方向を見て前に倒れそうになりながらも、姿勢を直して再び走る。
「あは、あはは。あははははははっ!」
ソレの甲高い声が青年を獲物たらしめる。
風は冷たい。
満月が異様に赤く外灯は道化師のおしろいのように白い。周辺の建物は日を失って陰に落ちた漆黒で、青年は足元もはっきりしないような異常な暗い街を逃げ回っていた。
「くそ、死にたくない」
いつから追いかけられているかは覚えていない。
赤いペンキのソレに捕まれば無事で済まないことだけは分かっている。
「隠れられる場所」
青年がソレを巻くと、黄ばんだ蔦が生い茂る団地のようなものが見えた。
足の痛み胸の苦しさ。頭はずきずきと痛む。ここで休むしかない。
青年は建物の外にある公園でベンチを見つける。
ようやく休める、と腰を下ろした。
「あはっ!」
ソレの声が響く。
見渡すがどこからか分からない。
「マジか」
青年はベンチからゆっくりと立つ。
街路樹、蔦。生垣、遊具、闇の中ではすべてが怪しい。
「あはっ」
狂った高い声。
青年は苛立って頭を掻く。
「くそ、どこだ」
「あはっ、あははははは」
青年はさらに頭を掻く。
ずきりと痛む。
手を見ると爪の先が赤くなっていた。
「ここを抜ける。けど一体どこから」
ガサ。
生垣の向こうから音。
ガサ、ガサガサ。
青年は生垣を警戒しながらゆっくりと足を下げる。
ガサ。
音が小さくなった。
青年は振り返って走り出す。
「あははははは、あははっ、あははっ」
目の前にソレが現れた。
「どうして?」
その瞬間、青年は勘違いしていたことに気づく。
「あ、……あ」
ガサ。
ガサ、ガサ。
ガサガサガサガサガサガサ。
生垣から無数のソレが現れた。
「う、うわああ」
青年は急いで公園を抜け出す。
急いで建物へ。
階段を駆ける。ソレは大群で押し寄せる。
青年は二階まで上がると、階段から迫るソレを足で蹴る。
「あは、あはははは」
ソレは階段で転がるときも笑っていた。
青年は耐えられなくなって再び階段を上ろうとする。
「痛いっ」
おかしい。
右足が重い。
走り過ぎた?
違う、このおかしさは。
青年は右足を見る。血のようにも見える赤いペンキが付着していて、ニスを塗ったような光沢が見えた。
呪い?
気づくとより必死に階段を進める。
右足を庇うために跳ぶように上がる。
ソレが来ると右足で蹴る。
「ああ、ああ」
青年は悟った。
もう駄目だ。
青年は三階に辿り着いたとき、四階に挑む余力は残っていなかった。
「あははっ」
無数のソレが近づく。
青年は逃げるためか、はたまた最もましな結末を選んだのか、柵を強く握る。
そして身を乗り出した。
「あはは、あはは」
ソレが笑う。
青年が飛び降りたとき、甲高い笑い声と共に手を叩くような音が聞こえた。
一体それはなにを表していたのだろう?
「ここはどこだ?」
青年が覚ますと赤い満月に冷たい風、黒い建物の暗い世界だった。
「まだ走らなきゃ」
青年は走る。疲労を感じない。
そこには髪の長い女性がいた。
ようやくソレ以外と出会えたらしい。
「あの」
「きゃあ」
その女性は走り出す。
この機会を逃すわけにはいかない。
……この機会?
なんだ、機会って。
女性に巻かれてしまった。
青年が来たのはあの団地の公園だった。
そこで再び女性を見つける。
「なぜ逃げる?」
「こ、来ないで」
女性は恐怖で会話がままならないらしい。
「や、やだ」
機会を逃すわけにもいかず青年は走る。
「これでも食らえ」
女性は大きな金属製のスコップを持っていた。
それを青年に振る。
青年は頭への衝撃で倒れた。
「これって」
この団地にこの赤く広がった液体があるとすれば、それはあのときの。
そして、その液体で気づく。
「あははははっ、あはははっ」
青年は顔に付いているものがおかしくて、甲高い声を上げてしまった。
寝巻きに身を包んだ青年は息を切らしながら、しかし少しでも前に進もうと走る。
足がだんだん固まって一歩が小さくなっていく。
駄目だ、このままじゃ。
青年は恐怖で気が狂いそうでつい振り返った。
にやり。
気味悪い笑み。
「あは」
顔を赤色のペンキで塗りたくったソレが笑い声を上げる。
青年が一歩ずつ退ける。十分距離を取ると、反対方向を見て前に倒れそうになりながらも、姿勢を直して再び走る。
「あは、あはは。あははははははっ!」
ソレの甲高い声が青年を獲物たらしめる。
風は冷たい。
満月が異様に赤く外灯は道化師のおしろいのように白い。周辺の建物は日を失って陰に落ちた漆黒で、青年は足元もはっきりしないような異常な暗い街を逃げ回っていた。
「くそ、死にたくない」
いつから追いかけられているかは覚えていない。
赤いペンキのソレに捕まれば無事で済まないことだけは分かっている。
「隠れられる場所」
青年がソレを巻くと、黄ばんだ蔦が生い茂る団地のようなものが見えた。
足の痛み胸の苦しさ。頭はずきずきと痛む。ここで休むしかない。
青年は建物の外にある公園でベンチを見つける。
ようやく休める、と腰を下ろした。
「あはっ!」
ソレの声が響く。
見渡すがどこからか分からない。
「マジか」
青年はベンチからゆっくりと立つ。
街路樹、蔦。生垣、遊具、闇の中ではすべてが怪しい。
「あはっ」
狂った高い声。
青年は苛立って頭を掻く。
「くそ、どこだ」
「あはっ、あははははは」
青年はさらに頭を掻く。
ずきりと痛む。
手を見ると爪の先が赤くなっていた。
「ここを抜ける。けど一体どこから」
ガサ。
生垣の向こうから音。
ガサ、ガサガサ。
青年は生垣を警戒しながらゆっくりと足を下げる。
ガサ。
音が小さくなった。
青年は振り返って走り出す。
「あははははは、あははっ、あははっ」
目の前にソレが現れた。
「どうして?」
その瞬間、青年は勘違いしていたことに気づく。
「あ、……あ」
ガサ。
ガサ、ガサ。
ガサガサガサガサガサガサ。
生垣から無数のソレが現れた。
「う、うわああ」
青年は急いで公園を抜け出す。
急いで建物へ。
階段を駆ける。ソレは大群で押し寄せる。
青年は二階まで上がると、階段から迫るソレを足で蹴る。
「あは、あはははは」
ソレは階段で転がるときも笑っていた。
青年は耐えられなくなって再び階段を上ろうとする。
「痛いっ」
おかしい。
右足が重い。
走り過ぎた?
違う、このおかしさは。
青年は右足を見る。血のようにも見える赤いペンキが付着していて、ニスを塗ったような光沢が見えた。
呪い?
気づくとより必死に階段を進める。
右足を庇うために跳ぶように上がる。
ソレが来ると右足で蹴る。
「ああ、ああ」
青年は悟った。
もう駄目だ。
青年は三階に辿り着いたとき、四階に挑む余力は残っていなかった。
「あははっ」
無数のソレが近づく。
青年は逃げるためか、はたまた最もましな結末を選んだのか、柵を強く握る。
そして身を乗り出した。
「あはは、あはは」
ソレが笑う。
青年が飛び降りたとき、甲高い笑い声と共に手を叩くような音が聞こえた。
一体それはなにを表していたのだろう?
「ここはどこだ?」
青年が覚ますと赤い満月に冷たい風、黒い建物の暗い世界だった。
「まだ走らなきゃ」
青年は走る。疲労を感じない。
そこには髪の長い女性がいた。
ようやくソレ以外と出会えたらしい。
「あの」
「きゃあ」
その女性は走り出す。
この機会を逃すわけにはいかない。
……この機会?
なんだ、機会って。
女性に巻かれてしまった。
青年が来たのはあの団地の公園だった。
そこで再び女性を見つける。
「なぜ逃げる?」
「こ、来ないで」
女性は恐怖で会話がままならないらしい。
「や、やだ」
機会を逃すわけにもいかず青年は走る。
「これでも食らえ」
女性は大きな金属製のスコップを持っていた。
それを青年に振る。
青年は頭への衝撃で倒れた。
「これって」
この団地にこの赤く広がった液体があるとすれば、それはあのときの。
そして、その液体で気づく。
「あははははっ、あはははっ」
青年は顔に付いているものがおかしくて、甲高い声を上げてしまった。
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