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8章 魅了少女が不安すぎる!『前期』90~108話
その15 ヒウタと学祭会議
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講義後、大学近くの定食屋にて。
ヒウタ、カワクロ、ハクの三人で夕食を食べに来ていた。
注文を終えて料理が出てくるのを待つ。
ハクは気味悪い笑顔で天井を眺めている。表情筋のすべてが緩んでいて、このままだと肉が落ちて骨だけになるのでは。
夕食前に慌てて社会研究会の部室を訪れると言っていた辺り、部長のキクラから公には見せられないような、しかし青年にとって多少は興味がある物を入手していたのだろう。
それについてヒウタは言及しない。
「シフユと私は同じ高校出身ってこと。腐れ縁かもしれない、結局料理部の部費はほとんど増えなかったなの。とはいえ、たまに試食会や料理には参加しに来てた。私は絶対あの馬鹿を分からせてやりたいなの!」
カワクロの握る拳には血が滲むような力強さがあった。
「だからコウミさんが」
ヒウタが呟くとカワクロは睨む。
ヒウタは肩を震わせた。
「いえ、なんでもないです」
同じ高校で友人のシフユを助けたい、それがカワクロの願いだろう。
だが、今のヒウタにはまだ手札が足りない。
「カワクロさん、シフユさんの恋愛観って知ってますか?」
カワクロは頷く。
溜め息をつくと、口を開いた。
「恋が人生を豊かにする、人々を幸せにする、そう本気で思ってるだけ」
ヒウタは温かいおしぼりで両手を拭く。それから、手を包むようにして温める。
「不幸になった、ミドリさんがそんな感じのことを言って自分がしてきたことが否定されたみたいな、間違えてきたと思ってしまった。その罪を背負って死ぬ気でいるってことですか?」
ヒウタの声には焦りがあった。
ハクは先ほどまでの表情とは異なって真面目そうにヒウタを見ている。
「たぶん、なの。でもどうして大学祭に行きたがっているかは分からないなの」
料理が来た。
とんかつ定食である。香ばしい衣の上には濃厚なソースが掛かっている。大皿には他にもキュウリの漬物や和風ドレッシングが掛かったキャベツ、くし切りレモンや味を変えるためのタルタルソースが乗っている。
「それに、シフユは恋に幻想を抱きすぎている、だから間違えたのに。恋なんて本来、馬鹿がすることだと思ってるから」
カワクロは淡々と言う。
……、なんで?
なんでそんなことを言うんだろう?
この人はどうしてこんなに悲しいことを。
「ヒウタ?」
ハクの声がヒウタに届く。
ヒウタはハッとしてようやく目の前の食事を見た。
「あ、ああ。そうだ、ハク」
「そろそろこの会が何か教えてくれ」
「そのつもりだ。これは、学祭会議だ」
「もうすぐ大学祭があるのか」
「そう。だからハクには参加してほしい」
ヒウタの目には気迫があった。
ハクは驚いて少しだけ退いてしまう。
「もちろん、そのつもりだけど。重い空気だから、シフユ? って人の話と関係があるんだよな。死ぬって聞こえたから」
ハクは味噌汁を啜る。
カワクロはとんかつをそのまま齧ると、すぐにタルタルソースを付けてもう一口食べる。
「そう。うちの大学を含めた大学祭四か所にシフユを連れていくというゲームをすることになったなの。負けたらシフユは死ぬらしい」
「滅茶苦茶なっ」
ハクは急いで飲み込んで言う。
「その反応が普通だ。他にも狙いがあるから大学祭だと思うが分からなかった。ルールもある」
「ルール?」
「一つ目、毎回四人で回ること。シフユさんを含めずに三人集める必要がある。二つ目、俺以外は二つ以上の大学祭に参加してはならない。つまり、最低八人集める必要がある。三つ目、途中で誰かが帰って四人未満になってはならない。用事がある人はその日の大学祭には参加させられないってことだ。四つ目、シフユさんが勝ったら俺たちとは絶縁して後は勝手にする、負けたら俺たちの言うことを一つ聞く。以上だ」
「そういうことだったのか。もちろん俺はいいが、残り七人もどうするんだ? カワクロさんが来るとしてもあと六人か」
「察しがいいな。俺にあと六人も集める力はたぶんない」
「……え?」
「だが考えてみてほしい。友達の友達は友達作戦。カワクロさん! ハク! 仲間集め頼む」
ヒウタが両手を合わせるがハクは目を反らした。
「俺は力になれない。今の大学生活でさえヒウタのおかげでなんとかなっている」
「……確かに」
「それは酷くない?」
ハクは涙目に。
ヒウタは腕を組む。
「私はうちの大学祭に関しては大丈夫なの。そもそも、シフユ、ヒウタ、私、コウミで間に合うから。あと五人は厳しいかもなの」
カワクロは茶碗に箸を指してご飯を掴むように閉じたり開いたりしていた。
その様子を見てヒウタは自身の耳たぶを引っ張る。
どうする?
と言っても当てがないわけじゃない。
人を集めるだけならどんな手も使える。
シフユはこの大学祭で見たいものがあるはずだ。
単純に、ゲームに勝ったら良いわけではない。
「どうにかする。だからもう一つは大学祭で何をするか? だな」
ヒウタの言葉を待っていたのか、カワクロが小冊子を取り出した。
「実は四種類とも抑えた。複数キャンパス分。シフユが決めた四か所すべて」
ヒウタは冊子を受け取る。
どうやらスタンプラリーがある大学祭もあるらしい。よく見るとヒウタたちの大学だった。
「分かりました。では何をするか考えましょう」
「分かってるなの。でももう一食目は食べたからもう一回頼むの」
「いつの間に?」
ヒウタもハクも驚く。
ただカワクロにとっては普通のようで淡々と店員を呼んで注文をしていた。
学祭会議はカワクロが三食分食べ終えるまで続いた。
ヒウタ、カワクロ、ハクの三人で夕食を食べに来ていた。
注文を終えて料理が出てくるのを待つ。
ハクは気味悪い笑顔で天井を眺めている。表情筋のすべてが緩んでいて、このままだと肉が落ちて骨だけになるのでは。
夕食前に慌てて社会研究会の部室を訪れると言っていた辺り、部長のキクラから公には見せられないような、しかし青年にとって多少は興味がある物を入手していたのだろう。
それについてヒウタは言及しない。
「シフユと私は同じ高校出身ってこと。腐れ縁かもしれない、結局料理部の部費はほとんど増えなかったなの。とはいえ、たまに試食会や料理には参加しに来てた。私は絶対あの馬鹿を分からせてやりたいなの!」
カワクロの握る拳には血が滲むような力強さがあった。
「だからコウミさんが」
ヒウタが呟くとカワクロは睨む。
ヒウタは肩を震わせた。
「いえ、なんでもないです」
同じ高校で友人のシフユを助けたい、それがカワクロの願いだろう。
だが、今のヒウタにはまだ手札が足りない。
「カワクロさん、シフユさんの恋愛観って知ってますか?」
カワクロは頷く。
溜め息をつくと、口を開いた。
「恋が人生を豊かにする、人々を幸せにする、そう本気で思ってるだけ」
ヒウタは温かいおしぼりで両手を拭く。それから、手を包むようにして温める。
「不幸になった、ミドリさんがそんな感じのことを言って自分がしてきたことが否定されたみたいな、間違えてきたと思ってしまった。その罪を背負って死ぬ気でいるってことですか?」
ヒウタの声には焦りがあった。
ハクは先ほどまでの表情とは異なって真面目そうにヒウタを見ている。
「たぶん、なの。でもどうして大学祭に行きたがっているかは分からないなの」
料理が来た。
とんかつ定食である。香ばしい衣の上には濃厚なソースが掛かっている。大皿には他にもキュウリの漬物や和風ドレッシングが掛かったキャベツ、くし切りレモンや味を変えるためのタルタルソースが乗っている。
「それに、シフユは恋に幻想を抱きすぎている、だから間違えたのに。恋なんて本来、馬鹿がすることだと思ってるから」
カワクロは淡々と言う。
……、なんで?
なんでそんなことを言うんだろう?
この人はどうしてこんなに悲しいことを。
「ヒウタ?」
ハクの声がヒウタに届く。
ヒウタはハッとしてようやく目の前の食事を見た。
「あ、ああ。そうだ、ハク」
「そろそろこの会が何か教えてくれ」
「そのつもりだ。これは、学祭会議だ」
「もうすぐ大学祭があるのか」
「そう。だからハクには参加してほしい」
ヒウタの目には気迫があった。
ハクは驚いて少しだけ退いてしまう。
「もちろん、そのつもりだけど。重い空気だから、シフユ? って人の話と関係があるんだよな。死ぬって聞こえたから」
ハクは味噌汁を啜る。
カワクロはとんかつをそのまま齧ると、すぐにタルタルソースを付けてもう一口食べる。
「そう。うちの大学を含めた大学祭四か所にシフユを連れていくというゲームをすることになったなの。負けたらシフユは死ぬらしい」
「滅茶苦茶なっ」
ハクは急いで飲み込んで言う。
「その反応が普通だ。他にも狙いがあるから大学祭だと思うが分からなかった。ルールもある」
「ルール?」
「一つ目、毎回四人で回ること。シフユさんを含めずに三人集める必要がある。二つ目、俺以外は二つ以上の大学祭に参加してはならない。つまり、最低八人集める必要がある。三つ目、途中で誰かが帰って四人未満になってはならない。用事がある人はその日の大学祭には参加させられないってことだ。四つ目、シフユさんが勝ったら俺たちとは絶縁して後は勝手にする、負けたら俺たちの言うことを一つ聞く。以上だ」
「そういうことだったのか。もちろん俺はいいが、残り七人もどうするんだ? カワクロさんが来るとしてもあと六人か」
「察しがいいな。俺にあと六人も集める力はたぶんない」
「……え?」
「だが考えてみてほしい。友達の友達は友達作戦。カワクロさん! ハク! 仲間集め頼む」
ヒウタが両手を合わせるがハクは目を反らした。
「俺は力になれない。今の大学生活でさえヒウタのおかげでなんとかなっている」
「……確かに」
「それは酷くない?」
ハクは涙目に。
ヒウタは腕を組む。
「私はうちの大学祭に関しては大丈夫なの。そもそも、シフユ、ヒウタ、私、コウミで間に合うから。あと五人は厳しいかもなの」
カワクロは茶碗に箸を指してご飯を掴むように閉じたり開いたりしていた。
その様子を見てヒウタは自身の耳たぶを引っ張る。
どうする?
と言っても当てがないわけじゃない。
人を集めるだけならどんな手も使える。
シフユはこの大学祭で見たいものがあるはずだ。
単純に、ゲームに勝ったら良いわけではない。
「どうにかする。だからもう一つは大学祭で何をするか? だな」
ヒウタの言葉を待っていたのか、カワクロが小冊子を取り出した。
「実は四種類とも抑えた。複数キャンパス分。シフユが決めた四か所すべて」
ヒウタは冊子を受け取る。
どうやらスタンプラリーがある大学祭もあるらしい。よく見るとヒウタたちの大学だった。
「分かりました。では何をするか考えましょう」
「分かってるなの。でももう一食目は食べたからもう一回頼むの」
「いつの間に?」
ヒウタもハクも驚く。
ただカワクロにとっては普通のようで淡々と店員を呼んで注文をしていた。
学祭会議はカワクロが三食分食べ終えるまで続いた。
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