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8章 魅了少女が不安すぎる!『前期』90~108話
エピソード3 シフユの生き方
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シフユは自分のことを女性だと自認している一方で、一人称で『私』を使うことに違和感を抱いていた。幼少期では気づかなかったものの、実際には『私』の方が性別関係なく使うようである。しかし、小学校高学年から中学生の段階では男性が『俺』を使って、女性が『私』を使うという感覚があった。
シフユは一人称を『ボク』にして大学生の今も使っている。
ではどうして『私』に違和感を覚えたか?
一番は女性も好きになるからだろう。『ボク』が最も中性的で区別のない曖昧なものだと思っていたのだ。
シフユが初めて好きになったのは小学校高学年で同じクラスになった男の子だったが、気になる程度で隣の席になると飛び上がるように嬉しい一方、好意を伝えたいとは思わなかった。しかし、中学で好きになった女性に関しては自ら告白した。そのとき戸惑わせたことは忘れられない。その後、勉強や部活を必死にこなして生徒会長を行った。すると周りの女性から男性を凌ぐ視線を浴びるようになって格好いいと騒がれるようになった。そこでようやく想い人に認められて付き合う。最終的には好きな人ができたとして振られてしまった。落ち込むことはあったが幸せだった時間を認めて再び恋をする。シフユは恋多き女性だった。
振っても振られてもまた恋をする。恋をすればするほどいろんな経験を得て人生が豊かになっていく。恋をして傷つくことはあるが、それでも好きという気持ちは価値あるものだ。
高校生になるとシフユは人気者で、男女問わず友人が多く、男女問わず告白をされる毎日だった。
ただ一人の友人だけは恋多きシフユに警鐘を鳴らす。
生徒会室にて。
「だらしがないなの」
背の低い女性、髪がすらっと伸びていてシュシュでポニーテールに纏めている。
名前はカワクロ。大学に入るとシフユがカワクロをマッチングアプリに誘っていた。恋はいいものだから、というシフユに対して、呆れて尖らせた目を向けるのはカワクロだけだった。
「恋は人を豊かにしてくれるからね。ボクは青春こそたくさんの恋をすべき。男女問わず恋をしてきたボクはきっと選ばれた人間だろうね」
シフユが話していると、カワクロはサンドイッチを頬張る。唇に付いた卵の欠片を舌で回すように取る。眠そうに目を擦った。
「君はガキだ。恋の良さを理解できていない、哀れだ」
「何に酔ってるか分からないけど。一週間前に彼女がいて、今は彼氏がいる。気持ちがわるい、だらしない、くそ頭花畑」
「震えているの? あ」
シフユはテーブルの書類を置いてカワクロを見る。
過ちに気づく。
「あ、ガキに反応したのか。悪かったよ。身長のことじゃなくて恋愛をしないその価値観が子供っぽいって思って」
「はあ?」
暴れるカワクロ、逃げるシフユ。シフユは書記、副会長、会長と高校三年間とも生徒会の一員であったが、カワクロは料理部の一員として費用とその他イベントの参加申請をするために何度も生徒会室を訪れているだけだ。
これ以上費用を増やせない生徒会としてはカワクロと揉めていて、いつもシフユが対応する。カワクロは一円でも費用が増えないかと探りを入れるために生徒会室を訪れる。シフユは追い返すために話をする。それだけの関係だった。その延長でだんだん仲良くなって友人となったのだ。それでも普段は喧嘩している。
大学に入って二人とも多少は丸くなった。このときは喧嘩しているときの方が多い。
「デートしたら最高って言ってくれるし付き合ってる最中も評判良いから。ボクは恋によって多くの幸せを作っている。別れた後もあの恋のおかげで幸せだって言ってもらえて」
シフユは楽しそうに話すが、カワクロは表情を動かさない。
「お花畑なの」
「そうかな。ボクは愛を分け合ってるだけで。もしかしてボクのこと好きだった?」
「私は興味ない、けど。シフユに振られて辛そうにしている人だっていると思うなの」
「振られて傷ついてもいつか頑張れるだろうから大丈夫かな」
「付き合った経験人数はそれだけ上手く行かなかった数だと思うなの」
「いいや、それだけ運命の人の手掛かりが増えただけかな、相手もそうだから。恋は人を充実させる!」
「私は」
「恋をしたことがないからって。大丈夫、恋をすれば分かるよ。すごい素敵なものだって」
シフユはそれからも恋を続けた。
見切りをつけるのが早いのか、相手に嫌なところを知られたからか、恋人が変わる頻度が早かった。
大学に入ってシフユはカワクロにマッチングアプリを紹介する。
カワクロは興味がなかったが美味しいスイーツを食べるイベントが定期的に開催されると知ると会員登録を行った。
本来は複数のアカウントを作ることができない。しかしどんな手を使ったのかは分からないが、シフユは男性としてのアカウントを作成して女性とマッチングをすることもあった。
そして今回の事件が起きた。
ミドリはシフユに振られても離れようとはしなかった。女性を好きになって人生が狂ってしまった、許さないと。置いていって一人だけ幸せになるなんて許さないと。
シフユは諦めてミドリとの既に壊れた関係を続けることにした。
恋に夢を見続けた魅了少女は、自分の恋活が脅かされる事態が生じたとき、否定される事態に陥ったとき、自分が持つ価値観が歪んでいると思った。間違った生き方を続けてしまったと思った。
だから最後に狂った生き方を振り返って、すべて終わるつもりだったのだ。
シフユは一人称を『ボク』にして大学生の今も使っている。
ではどうして『私』に違和感を覚えたか?
一番は女性も好きになるからだろう。『ボク』が最も中性的で区別のない曖昧なものだと思っていたのだ。
シフユが初めて好きになったのは小学校高学年で同じクラスになった男の子だったが、気になる程度で隣の席になると飛び上がるように嬉しい一方、好意を伝えたいとは思わなかった。しかし、中学で好きになった女性に関しては自ら告白した。そのとき戸惑わせたことは忘れられない。その後、勉強や部活を必死にこなして生徒会長を行った。すると周りの女性から男性を凌ぐ視線を浴びるようになって格好いいと騒がれるようになった。そこでようやく想い人に認められて付き合う。最終的には好きな人ができたとして振られてしまった。落ち込むことはあったが幸せだった時間を認めて再び恋をする。シフユは恋多き女性だった。
振っても振られてもまた恋をする。恋をすればするほどいろんな経験を得て人生が豊かになっていく。恋をして傷つくことはあるが、それでも好きという気持ちは価値あるものだ。
高校生になるとシフユは人気者で、男女問わず友人が多く、男女問わず告白をされる毎日だった。
ただ一人の友人だけは恋多きシフユに警鐘を鳴らす。
生徒会室にて。
「だらしがないなの」
背の低い女性、髪がすらっと伸びていてシュシュでポニーテールに纏めている。
名前はカワクロ。大学に入るとシフユがカワクロをマッチングアプリに誘っていた。恋はいいものだから、というシフユに対して、呆れて尖らせた目を向けるのはカワクロだけだった。
「恋は人を豊かにしてくれるからね。ボクは青春こそたくさんの恋をすべき。男女問わず恋をしてきたボクはきっと選ばれた人間だろうね」
シフユが話していると、カワクロはサンドイッチを頬張る。唇に付いた卵の欠片を舌で回すように取る。眠そうに目を擦った。
「君はガキだ。恋の良さを理解できていない、哀れだ」
「何に酔ってるか分からないけど。一週間前に彼女がいて、今は彼氏がいる。気持ちがわるい、だらしない、くそ頭花畑」
「震えているの? あ」
シフユはテーブルの書類を置いてカワクロを見る。
過ちに気づく。
「あ、ガキに反応したのか。悪かったよ。身長のことじゃなくて恋愛をしないその価値観が子供っぽいって思って」
「はあ?」
暴れるカワクロ、逃げるシフユ。シフユは書記、副会長、会長と高校三年間とも生徒会の一員であったが、カワクロは料理部の一員として費用とその他イベントの参加申請をするために何度も生徒会室を訪れているだけだ。
これ以上費用を増やせない生徒会としてはカワクロと揉めていて、いつもシフユが対応する。カワクロは一円でも費用が増えないかと探りを入れるために生徒会室を訪れる。シフユは追い返すために話をする。それだけの関係だった。その延長でだんだん仲良くなって友人となったのだ。それでも普段は喧嘩している。
大学に入って二人とも多少は丸くなった。このときは喧嘩しているときの方が多い。
「デートしたら最高って言ってくれるし付き合ってる最中も評判良いから。ボクは恋によって多くの幸せを作っている。別れた後もあの恋のおかげで幸せだって言ってもらえて」
シフユは楽しそうに話すが、カワクロは表情を動かさない。
「お花畑なの」
「そうかな。ボクは愛を分け合ってるだけで。もしかしてボクのこと好きだった?」
「私は興味ない、けど。シフユに振られて辛そうにしている人だっていると思うなの」
「振られて傷ついてもいつか頑張れるだろうから大丈夫かな」
「付き合った経験人数はそれだけ上手く行かなかった数だと思うなの」
「いいや、それだけ運命の人の手掛かりが増えただけかな、相手もそうだから。恋は人を充実させる!」
「私は」
「恋をしたことがないからって。大丈夫、恋をすれば分かるよ。すごい素敵なものだって」
シフユはそれからも恋を続けた。
見切りをつけるのが早いのか、相手に嫌なところを知られたからか、恋人が変わる頻度が早かった。
大学に入ってシフユはカワクロにマッチングアプリを紹介する。
カワクロは興味がなかったが美味しいスイーツを食べるイベントが定期的に開催されると知ると会員登録を行った。
本来は複数のアカウントを作ることができない。しかしどんな手を使ったのかは分からないが、シフユは男性としてのアカウントを作成して女性とマッチングをすることもあった。
そして今回の事件が起きた。
ミドリはシフユに振られても離れようとはしなかった。女性を好きになって人生が狂ってしまった、許さないと。置いていって一人だけ幸せになるなんて許さないと。
シフユは諦めてミドリとの既に壊れた関係を続けることにした。
恋に夢を見続けた魅了少女は、自分の恋活が脅かされる事態が生じたとき、否定される事態に陥ったとき、自分が持つ価値観が歪んでいると思った。間違った生き方を続けてしまったと思った。
だから最後に狂った生き方を振り返って、すべて終わるつもりだったのだ。
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