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8章 魅了少女が不安すぎる!『前期』90~108話
その14 ヒウタとダンス
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ダンスにて。
音楽が変わると、今度は魔女の格好をした女性が来た。
「じゃあ今度は私と」
「はい」
その女性のステップはヒウタに合わせているらしい。
スムーズに合わせることができてヒウタも楽だ。
この一緒にいる雰囲気。
この落ち着いていてはきはきとした心地良い声。
「もしかして」
「どうした?」
「シュイロさんですよね!」
「ん? ヒウタか。どうしてバレたんだ」
シュイロはダンスの相手がヒウタと気づいたらしい。
「けどどうしているんですか」
「お忍びだよ。ついさっきまでは声は変えてたんだよ、ヘビースモーカーだから。けど効果切れちゃって、てへ」
舌をぺろっと出しているが仮面でヒウタからは見えない。
「またヘリウムガスを吸ってたんですね」
ヒウタは諦めたように言う。
「ぎくっ」
シュイロは咄嗟に肩を震わした。
「ぎくってなんですか。って本当に?」
「おかげで何人かにバレてしまって。みんなが楽しんでくれてるか気になってしまったからな」
「ばれたんだ」
「よく見てるよな」
シュイロは感心しながらもステップは乱れない。
丁寧さと正確さが目の前の女性がシュイロだと確認させる。
「一人だけ雰囲気が変というか。ヘリウムガスも目立つでしょ」
「そうだな。スタッフに取り上げて説教された」
シュイロの声は楽しそうだ。
この子供っぽいところが企画に生かされているのだろうか?
「雇い主なのに?」
「そんなあ。って感じだよな、ヒウタ」
「反応に困りますよ」
「そっか。で会えたか?」
「まだだと思います」
「トアオちゃんだな」
「どうして」
「遅刻するのも今ヒウタが見渡したときに一人一人をはっきり見ている様子がなかった。小柄でヒウタと仲良くなっているのはトアオちゃんとカワクロちゃんで、お菓子大好きなカワクロちゃんが遅刻するのはあり得ない。だからな」
「その通りです」
「なら私も見ていないな。ダンスに間に合ってほしいが、もう終わってしまうし」
「そうですよね」
「ふ、ヒウタ。トアオちゃんと踊れないことを安心してないか? それとももう満足はしたというような」
ヒウタは瞬きをする。
「そうですかね?」
「恋は難しいから真正面から悩んだ方がいいぞ。なんてバツイチの二十七才高校生でイベントの主催で社長の私が言うことではないが」
「属性が多すぎません?」
「全部本当だろ?」
「ですね」
恋は難しい、ヒウタは分かっている。
この感情の正体に輪郭を持たせてもいいのだろうかヒウタは怖気づく。
それからダンスが終わって。
後夜祭の前にヒウタは相談口に戻った。
トアオに会うことはできなかった、って。
「ヒウタさん、いな、いなくて、だから。どんな仮面を、付けて、ていたか教えて、ください。検索します!」
トアオが相談口にいた。
女性スタッフが後ろを指差す。
「?」
「後ろ見てください」
女性スタッフに言われてトアオはゆっくり振り返る。
そして固まった。
「ヒウタさん? 仮面で踊るの忘れてて。間に合ったと思ったのに分からなくて、よく分からない人が手を取ろうとしてきて怖くてトイレに籠って、そしたら相談口の存在に気づいて。怖かった、本当怖かった。人間怖い!」
「ごめんなさい」
「ヒウタさんとダンスできなかったの。もう一人寂しく帰る」
「トアオさん、片付け終わったら夜ご飯食べに行きませんか?」
「あー、帰り遅いけど?」
女性スタッフが言う。
どうやら夜遅くまでやっている店しか行けないらしい。
調べてみると豚骨ラーメンの店がやっていた。
「またラーメン」
「カップラーメン生活ですか?」
「ぎくっ」
先ほども見た肩揺らし驚きである。
シュイロと同じ師から教えてもらった技だろうか?
いやそんな大そうなものではないか。
「やってる店がそれくらいで」
「なら行きます! ってまだシュイロさんいるかな。お友達、話してくるね!」
そういえばシュイロとトアオが話しているところを見てないよな、とヒウタ。
しかしスタッフからの圧が強く持ち場を離れるわけにはいかなかった。
「後夜祭終わるまで待機してそれから片付け。帰りは遅めだよ、残念」
「遅くなるね。トアオちゃんを手懐けるなんてどんな手を使ったの?」
「九月頃に旅に出てそれで仲良くなって」
「旅行なら既に仲良くなってるでしょ?」
ヒウタはオーパーツを集めた話をしていいのか分からず。結局上手く説明できずに鬼畜男呼ばわりされた。よく分からないから放っておこう。
後夜祭が終わった後はゴミなどの片づけと客の誘導、トラブルの有無の確認である。椅子や机の移動など時間が掛かる作業は後日である。女性スタッフはイベント用のスタッフであったため、ヒウタを含めた何人かで椅子と机は元の位置に戻すことになるだろう。
「ヒウタさん、シュイロさんと話してきました。間に合わなかったけど入場料は出したのでクッキーはもらいました」
「片付けがもう少しで」
「行きなよ、ヒウタ」
女性スタッフに言われてヒウタはラーメン屋に行くことにした。
トアオは寝癖を必死に手で押さえている。
「トアオさん?」
「せっかくの機会なのに寝坊して。シュイロさん重労働」
会場を出て夜風に当たりながらラーメン屋まで歩く。
外灯がトアオの表情を見せる。
笑顔だった。そんなに楽しいのだろうか?
「トアオさん、着きました」
「やった」
「トアオさんって大学祭来ますか?」
「もちろん」
ラーメン屋に入って席に着く。
ヒウタは反省する、聞き方が良くなかった。
「二人きりではなくて。シフユさんと僕とあと誰かと」
「あ」
トアオが一瞬固まる。
人見知りのトアオにとって先に来るか聞くのは悪手だっただろう。
「けど行く。私頑張ろうかな、みたいなね」
「ありがとうございます」
ヒウタは思う、この笑顔のために何ができるのだろう?
今ある手札で何が守れるだろうか?
「ヒウタさん? どれ頼むの?」
「ああ」
ヒウタの意識は一瞬遠くにあったようだ。
ヒウタはメニュー表に書かれたラーメンの文字と餃子の文字を指差す。
「私も」
「僕が奢るよ」
「どうして?」
トアオは困ったように言う。
ヒウタは頭を掻いた。
「トアオさんを見つけられなかった僕が悪かった」
トアオはテーブルに頭を付ける。そして少し顔を出してヒウタを見た。
「いつも見つけてくれてるよ。マッチングのときだって、廃校の屋上だって。感謝してるから」
ヒウタは黙った。
「なら個別支払いにしよう」
「うん!」
トアオは笑顔を見せる。しかしすぐに真顔になってヒウタを見た。
首を傾げる。
「ねえ『ふぉーている』、これで合ってるの? あのときダンスに参加せずに夜食に辿り着くのは分かったけど」
トアオはヒウタに聞こえない小さな声で最強人工知能に呼びかける。
そのときトアオのスマホが点滅する。
トアオは眉に力を込めてスマホ画面を見ていた。
音楽が変わると、今度は魔女の格好をした女性が来た。
「じゃあ今度は私と」
「はい」
その女性のステップはヒウタに合わせているらしい。
スムーズに合わせることができてヒウタも楽だ。
この一緒にいる雰囲気。
この落ち着いていてはきはきとした心地良い声。
「もしかして」
「どうした?」
「シュイロさんですよね!」
「ん? ヒウタか。どうしてバレたんだ」
シュイロはダンスの相手がヒウタと気づいたらしい。
「けどどうしているんですか」
「お忍びだよ。ついさっきまでは声は変えてたんだよ、ヘビースモーカーだから。けど効果切れちゃって、てへ」
舌をぺろっと出しているが仮面でヒウタからは見えない。
「またヘリウムガスを吸ってたんですね」
ヒウタは諦めたように言う。
「ぎくっ」
シュイロは咄嗟に肩を震わした。
「ぎくってなんですか。って本当に?」
「おかげで何人かにバレてしまって。みんなが楽しんでくれてるか気になってしまったからな」
「ばれたんだ」
「よく見てるよな」
シュイロは感心しながらもステップは乱れない。
丁寧さと正確さが目の前の女性がシュイロだと確認させる。
「一人だけ雰囲気が変というか。ヘリウムガスも目立つでしょ」
「そうだな。スタッフに取り上げて説教された」
シュイロの声は楽しそうだ。
この子供っぽいところが企画に生かされているのだろうか?
「雇い主なのに?」
「そんなあ。って感じだよな、ヒウタ」
「反応に困りますよ」
「そっか。で会えたか?」
「まだだと思います」
「トアオちゃんだな」
「どうして」
「遅刻するのも今ヒウタが見渡したときに一人一人をはっきり見ている様子がなかった。小柄でヒウタと仲良くなっているのはトアオちゃんとカワクロちゃんで、お菓子大好きなカワクロちゃんが遅刻するのはあり得ない。だからな」
「その通りです」
「なら私も見ていないな。ダンスに間に合ってほしいが、もう終わってしまうし」
「そうですよね」
「ふ、ヒウタ。トアオちゃんと踊れないことを安心してないか? それとももう満足はしたというような」
ヒウタは瞬きをする。
「そうですかね?」
「恋は難しいから真正面から悩んだ方がいいぞ。なんてバツイチの二十七才高校生でイベントの主催で社長の私が言うことではないが」
「属性が多すぎません?」
「全部本当だろ?」
「ですね」
恋は難しい、ヒウタは分かっている。
この感情の正体に輪郭を持たせてもいいのだろうかヒウタは怖気づく。
それからダンスが終わって。
後夜祭の前にヒウタは相談口に戻った。
トアオに会うことはできなかった、って。
「ヒウタさん、いな、いなくて、だから。どんな仮面を、付けて、ていたか教えて、ください。検索します!」
トアオが相談口にいた。
女性スタッフが後ろを指差す。
「?」
「後ろ見てください」
女性スタッフに言われてトアオはゆっくり振り返る。
そして固まった。
「ヒウタさん? 仮面で踊るの忘れてて。間に合ったと思ったのに分からなくて、よく分からない人が手を取ろうとしてきて怖くてトイレに籠って、そしたら相談口の存在に気づいて。怖かった、本当怖かった。人間怖い!」
「ごめんなさい」
「ヒウタさんとダンスできなかったの。もう一人寂しく帰る」
「トアオさん、片付け終わったら夜ご飯食べに行きませんか?」
「あー、帰り遅いけど?」
女性スタッフが言う。
どうやら夜遅くまでやっている店しか行けないらしい。
調べてみると豚骨ラーメンの店がやっていた。
「またラーメン」
「カップラーメン生活ですか?」
「ぎくっ」
先ほども見た肩揺らし驚きである。
シュイロと同じ師から教えてもらった技だろうか?
いやそんな大そうなものではないか。
「やってる店がそれくらいで」
「なら行きます! ってまだシュイロさんいるかな。お友達、話してくるね!」
そういえばシュイロとトアオが話しているところを見てないよな、とヒウタ。
しかしスタッフからの圧が強く持ち場を離れるわけにはいかなかった。
「後夜祭終わるまで待機してそれから片付け。帰りは遅めだよ、残念」
「遅くなるね。トアオちゃんを手懐けるなんてどんな手を使ったの?」
「九月頃に旅に出てそれで仲良くなって」
「旅行なら既に仲良くなってるでしょ?」
ヒウタはオーパーツを集めた話をしていいのか分からず。結局上手く説明できずに鬼畜男呼ばわりされた。よく分からないから放っておこう。
後夜祭が終わった後はゴミなどの片づけと客の誘導、トラブルの有無の確認である。椅子や机の移動など時間が掛かる作業は後日である。女性スタッフはイベント用のスタッフであったため、ヒウタを含めた何人かで椅子と机は元の位置に戻すことになるだろう。
「ヒウタさん、シュイロさんと話してきました。間に合わなかったけど入場料は出したのでクッキーはもらいました」
「片付けがもう少しで」
「行きなよ、ヒウタ」
女性スタッフに言われてヒウタはラーメン屋に行くことにした。
トアオは寝癖を必死に手で押さえている。
「トアオさん?」
「せっかくの機会なのに寝坊して。シュイロさん重労働」
会場を出て夜風に当たりながらラーメン屋まで歩く。
外灯がトアオの表情を見せる。
笑顔だった。そんなに楽しいのだろうか?
「トアオさん、着きました」
「やった」
「トアオさんって大学祭来ますか?」
「もちろん」
ラーメン屋に入って席に着く。
ヒウタは反省する、聞き方が良くなかった。
「二人きりではなくて。シフユさんと僕とあと誰かと」
「あ」
トアオが一瞬固まる。
人見知りのトアオにとって先に来るか聞くのは悪手だっただろう。
「けど行く。私頑張ろうかな、みたいなね」
「ありがとうございます」
ヒウタは思う、この笑顔のために何ができるのだろう?
今ある手札で何が守れるだろうか?
「ヒウタさん? どれ頼むの?」
「ああ」
ヒウタの意識は一瞬遠くにあったようだ。
ヒウタはメニュー表に書かれたラーメンの文字と餃子の文字を指差す。
「私も」
「僕が奢るよ」
「どうして?」
トアオは困ったように言う。
ヒウタは頭を掻いた。
「トアオさんを見つけられなかった僕が悪かった」
トアオはテーブルに頭を付ける。そして少し顔を出してヒウタを見た。
「いつも見つけてくれてるよ。マッチングのときだって、廃校の屋上だって。感謝してるから」
ヒウタは黙った。
「なら個別支払いにしよう」
「うん!」
トアオは笑顔を見せる。しかしすぐに真顔になってヒウタを見た。
首を傾げる。
「ねえ『ふぉーている』、これで合ってるの? あのときダンスに参加せずに夜食に辿り着くのは分かったけど」
トアオはヒウタに聞こえない小さな声で最強人工知能に呼びかける。
そのときトアオのスマホが点滅する。
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